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171 :しまっちゃうメイドさん [sage] :2007/03/04(日) 01:35:36 ID:ebyXowoD
「お前たちも自覚があると思うが、もうセンターまで500日も残されていない。部活に精を出し、三年の夏に引退…そっから勉強をやるという奴のほうが多いと思うが、
はっきり云ってそれは少し厳しいぞ。受験の波は既にお前らに迫っている。乗り遅れたら終わりと思え!特に受験なんか、まだまだ先だと思っている奴は!後になって、絶
対後悔するぞ」
そう云って、否命のクラスの担任は朝のHRを打ち切った。五月の半ばに入ったと云うのに、未だにゴールデンウィーク気分の覚めない輩に渇をいれたのである。
「ねぇ、沙紀さん…」
先ほどの担任の話を聞いてゴールデンウィーク気分が一気に覚めた否命が、何処か心配げな声で同じクラスである沙紀に耳打ちした。
「やっぱり、今から勉強しないとまずいのかな?私、成績悪いから推薦も貰えないし、受験勉強だって全然やってこなかったし…」
「お嬢様なら、大丈夫ですよ」
沙紀は胸を張って、自信満々に答えた。
「無理をせずに自分のペースで頑張って、才能を信じて、秘められた力を信じて、奇跡を信じて、楽観的に考えながら前に進む限り成果は無くても、希望だけは見えてきますよ」
「うん、私頑張る!」
「そうです、お嬢様!その意気です!」
「浪人する奴の常套句じゃん、それって」
隣で話を聞いていた否命の親友である、竹宮源之助は苦笑交じりに呟いた。源之助はその男のように厳つい名前で誤解を受けやすいが、れきっとした女である。
「浪人もいいじゃないですか、源之助さん。きっと毎日が日曜日ですよ」
「沙紀さん…それってむしろ、曜日の感覚が無くなるんじゃ…」
「とにかく、私は浪人なんてごめんね」
そう言って、源之助は溜息をつく。
「私も浪人はちょっと…」
「だけど、否命は成績も悪いし、受験勉強も苦手なんでしょ?」
「じっ、自分のペースで頑張って、楽観的に前に進んでいけば、きっ、きっと希望は見えるもん!」
「だから、それだと浪人するって」
「はぅぅ…」
「あらあら…そういえばお嬢様はAO入試なるものをご存知ですか?」
「AO入試?」
聞きなれない単語に否命は眼を丸くした。



172 :しまっちゃうメイドさん [sage] :2007/03/04(日) 01:36:38 ID:ebyXowoD
「否命は知らないの、AO?」
「うん…」
「自己推薦方式って言って、自分で自分を推薦するの。論文と面接で入学の是非を判断するんだけど、論文は先生が書いてくれるから、実際は面接だけね」
「面接って、どういう事を聞かれるのかな?」
「自分が頑張ったこと。とりあえず、部活の事については聞かれるんじゃないの?」
「私、部活入ってない…源之助ちゃんも知ってるでしょ?」
「では、君は熱心に勉学に励んだのかね?」
源之助は腕を組み、不遜な態度で無駄にプレッシャーをかける面接官になりきって否命に迫った。
「私、成績も悪い…」
否命はビビリながらも、それに対応する。
「では、君は一体、高校生活で一体何を頑張ってきたのかね?ボランティア活動や研究活動や習い事でもしていたのかい?」
「してません…」
「本当に君は高校で何を頑張ってきたんだい?」
「え…その、とっ、とにかく頑張ってきました」
(言えない…、私が毎日頑張っていることは…誰にも)
否命は心の中で呟いた。
「とにかく頑張ってきた…か?普通に考えれば、成績も悪い、部活にも入ってない、校外活動もやってないとくれば、高校生活で頑張った事がないと思われても仕方が無いと思わないかい?」
「はぅぅ…」
「お嬢様、そういう時はこう言うんですよ。僕を普通の目で見ないで下さい!」
「では、私は君のことをどういう目で見たらいいのかね?」
そう問われれば否命は、
「その、あの…やっぱり、普通の目で」
と、答えるしか無かった。
「じゃあ、君は高校生活で頑張ったことが無い…ということでいいのかな?」
「沙紀さぁん…」
助けて…と、否命は沙紀に潤んだ瞳で訴えかけた。
「お嬢様、そんな顔をなさらないで下さい。大丈夫ですよ、こういう時は、「貴方に僕の何が分かるっていうんですか!!?」と言えばいいのです」
「面接の意味ないじゃん!」
そこで思わず源之助は沙紀につっこんだ。



173 :しまっちゃうメイドさん [sage] :2007/03/04(日) 01:37:51 ID:ebyXowoD
「はぁー、否命、本当にあんたどうするの?このままだと…」
「むっ、無理をせずに自分のペースで頑張って…」
「だーかーら、それだと浪人よ」
「はぅぅ…」
そんな否命と源之助のやりとりを、沙紀は何処か遠い瞳で見つめていた。
高二は既に自分の将来を選択する時期だ。その選択の一環としてある大学受験は、人生のゴールではないけど、やはり人生の関門の一つだろう。
その来たるべき関門をどう乗り越えるかを、否命と源之助は悩んでいる。それが、沙紀に時間の流れというものもひしひしと感じさせた。
この楽しい時間…、沙紀が大好きな日常はいつまでも続くはずは無い。沙紀だって、それぐらい分かっている。そして、次にまたもっと楽しい時間が待っている事も沙紀は分かっていた。
それでも、この日常が終わるのは寂しかった。
ただ、無性に寂しかった。
沙紀は理解していた。もう、日常が終わりかけている事を。この楽しい一時は終わっていく日常の中の、文字通り「一時」でしかないことを、沙紀は実感として理解していた。
「この偏安いつまで続く…」
言葉にしてみると、それは沙紀の胸によく響いた。