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188 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/03/05(月) 23:07:11 ID:meHRPJLV

 聖祐人は椅子に座ってぐったりしていた。昨日と違うのは椅子に拘束されていない
ことと右手から手足に繋がれた手錠と首輪が彼を拘束していることだ。祐人は何気なく
首輪に触れながら今朝の情景を思い出していた。

 朝はいきなり姫野真弓に叩き起こされることで始まった。起こされたは良いが
頭が重く、霞みがかかっているどころか脳が泥になったような感じがした。
上手く回転しない思考でも疲れただとか体調不良だとかそういったレベルの
何かではないことはわかった。

 薬……でも盛られたか。

 ここまで考えたところで着替えるからこっち向かないでだとか遅刻するだとか
騒ぎながらバタバタと用意をしていた真弓に朝ご飯だからとリビングに連れて行かれた。
 さすがに2人同時に食べると真弓の遅刻が本格的に確定するので真弓だけが食べ
祐人の分は今彼の目の前にあった。


「じゃ、祐人行ってきまーす」

 祐人の首輪から伸びた鎖を繋ぎ変えた真弓が振り返る。部屋の隅に繋がれた鎖は
かなり長い。真弓曰わくリビングと「真弓と祐人の部屋」とトイレをギリギリ
行き来できる長さにしてあるらしい。

「ああ……いってらっしゃい」

 ぐったりと祐人が応じると真弓は少し頬を膨らませて不服げな顔をした。

「恋人にするいってらっしゃいなんだからもっとなんか甘いこと言ってよ」




189 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/03/05(月) 23:08:55 ID:meHRPJLV

 恋人。朝から何度この単語を聞いただろう。
 ことあるごとに真弓は祐人と自分の関係に名前を与えた。
 それは真弓から一方的に付けられた名前であるが。

「恋人恋人ってお前な……」
「恋人、でしょう?」
「そんな覚えは無い」
「……祐人、祐人私のこと嫌いなの?」

 真弓が瞳を潤ませて問い掛けてきた。祐人の目を真っ直ぐ見ながら彼女は続ける。

「私ね、祐人が私のこと好きだってちゃんと知ってるよ。でもやっぱりそんな態度
 取られると不安になるの。……お願い、学校行く前に一度でいいから好きって言って。
 気持ちを聞かせて」

 泣きそうな瞳で見つめながら真弓は繰り返す。
 お願い、好きって言って、気持ちを聞かせて……

 言うべきでは、無いのだろう。言えば何か自分の大切なモノを真弓に渡すことになる。
たとえ目の前の女の子を泣かせても渡すべきで無いものを。
 祐人にもそれは分かった。だが呪文のようにお願い、と繰り返すだけの意志の力を
今の祐人は持っていなかった。頭が泥のように重い。真弓の声がやけに響く。

「ああ……好きだよ」

 真弓の顔に光が差すように笑みが広がる。

「ありがとう祐人」

 祐人に向かって真弓は心からの笑顔を浮かべた。


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190 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/03/05(月) 23:09:49 ID:meHRPJLV
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 陽もだいぶ高く上ったころ、亜弓が起きてきた。

「あら……おはよう祐人くん」
「おはよう亜弓さん」
「朝ご飯食べたのね……」
「はい。何か混ぜられてるとは思ってますけど、空腹で動けなくなっても困りますから」
「本当に適応力あるのね……」

 朝に比べれば祐人の頭はだいぶ回復していた。それでも重くぼんやりと、
まるで良くない夢の中にいるような感覚は拭いきれなかったが。
 その内助けが来る。必ず来る。水城やクラスメイトの連中に話を聞けば
姫野が疑われるのは必至だろう。
 祐人は意識してそのことだけを考えるようにしていた。
 それ以外のことを考えても無駄だと思った。

「開き直れるのは……生きる上でとても大事なことね」
「食べたことがそんなに意外ですか」
「それとも衰弱死さえ免れればなんとかなると思ってるのかしら……?」

 亜弓は興味が無さそうに言葉を継いだ。

「まぁその内何もかも普通になるわ」


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191 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/03/05(月) 23:10:51 ID:meHRPJLV
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 結局その日はそのまま過ぎた。細かい思考を一切放棄した祐人は夕方帰宅した
真弓に再び手錠で繋がれると掃除や洗濯を手伝わされた。

「ちょっと下着を干したいのであちらを向いて下さい」
「はいはい」
「絶対こっち向かないでよ!?」
「向かないよ」
「向かないでよ!?絶対よ!?」
「そんな念押さなくても見ないから」

 普通に会話をして、普通に2人で家事をこなす。むしろ微笑ましくすらある
光景だった。ただ、祐人の行動を制限する手錠と2人を繋ぐ首輪と手錠を除けば。


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 昨日と同じように食べづらい夕食のあと
昨日と同じように一緒であることに意味の無い風呂に入る。昨日と違う点は祐人の
着替えまできちんと用意されていた点だ。

「この服どうしたんだ?」
「買ってきたの」
「姫野がか?」

 途端に祐人の首が絞まって壁に体を叩きつけられた。
 真弓は変わらず笑みを浮かべているが、違う。空気の色が変わっている。
相変わらず回転の鈍かった頭も危険を感じとった。

「ねぇ祐人」

 引かれた鎖が息が詰まるほどでは無いが恐怖を伴った圧迫を作り出す。

「どうしてお姉ちゃんは『亜弓さん』で私が苗字なの?私のことも名前で呼んでよ」

 真弓が体を密着させて顔を近づけて来る。パジャマしか着ていないため彼女の
体のラインが祐人にも良くわかった。睫が触れるほど、息がかかるほど近づいて
薄い肩の少女は囁いた。




192 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/03/05(月) 23:12:22 ID:meHRPJLV

「祐人、私のこと好きだよね?」

 祐人はのろのろと至近距離にある真弓の瞳を見る。そこには純粋な少女の目に
宿るような光しか無かった。次に紡がれる言葉が自分を傷つけるなどとは
夢にも思わない少女の。

 純粋だ。純粋に違いない。真弓は真弓の世界で生きている。それ以外など存在しない。
真弓の世界では祐人は「自分を愛する人」でそうでないことなど有り得無い。
世界が違う。生きる上での前提がそもそも違う。
 彼女は自分の世界に「自分を愛する人」である祐人を引き込みたかった。
否、引き込まなければならなかった。そうしなければ世界が不完全になってしまうから。
自分を愛さない祐人など有り得無くとも今は自分と違う世界に彼がいることを
真弓は本能的に知っていた。だから彼女は自分のフィールドに祐人を連れてきて
首輪で繋いで自分の望む言葉を引き出す。

「ああ……好きだよ。『真弓』」

 否定することは祐人には出来なかった。
 彼が真弓の世界のモノにならない為には否定しなければならなかったのに。
 必死で真弓の全てに抗わなければならなかったのに。
 ゆっくりと祐人の中に真弓の世界が染み込んで行く。

「……ありがとう祐人」

 真弓は少し照れたように言って鎖を離した。


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