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197 :ラック ◆duFEwmuQ16 [sage] :2007/03/06(火) 00:41:24 ID:DpdATVjZ
       『俺の人生は素手で砂を掴むようなもんだった。あとからあとから砂はこぼれ落ちていっちまうのさ』
                               ──チャールズ・スタークウェザー「Rebellion」
朧の背中に張られた写し絵を彫菊は丁寧に剥がした。男のモノとは思えぬ白磁の透明感漂う艶ましい肌──指先を這わせれば蜜蝋のように滑らかだ。
興奮と渇きに喉が灼けるように痛んだ。極上の素材だ。美しい。彫菊は陶酔の面持ちで瞳を濡れ輝かせた。
彫り師をはじめて七年近くになるが、これほど素晴らしい肌の持ち主はお目にかかったことがなかった。
皮膚に入れた下絵を彫菊はマジマジと見つめた。背中には、黒い蠍が鮮血のしたたる男女の生首を両方の鋏で持ち上げ、貪り食らう絵が描かれていた。
凄惨だが、同時に冥い色香が感じられる絵柄だった。アルコールを染み込ませた脱脂綿で背中と尻を拭いていく。
こんな気分を味わうのは久々だ。心が躍った。全身に鳥肌が立った。
数十本の絹針を束ねたノミ(彫針)を右手で握り、彫菊は針先がぶれないように正中線を見定めた。
緊張が走る。唾を呑み込んだ。
「ではいきます」
彫菊の言葉に朧は黙って頷いた。斜めに構えた針先を皮膚に突き刺した。正確に素早く針が下絵を辿っていく。苦痛に、朧が秀麗な相貌を歪ませた。
静まり返った室内に、皮膚を突き破る針の鋭い音だけが鳴り響いた。彫菊の毛穴から汗が噴き出す。針が上下するほどに、少年の裸体が震えた。
肌に浮かんだ血と墨を、彫菊がガーゼで拭っていく。声帯から発せられる苦悶の呻き──針が肉を深く抉る度にどんどん高まっていく。
「ああ……ッ」
朱唇から洩れる苦痛の呻きは、サディスト嗜好の女であればそれだけで達してしまうだろう。
激しい劣情に彫菊は襲われた。鮮烈な欲望の疼き。押さえつけたはずの女の性が揺らめいた。朧とのまぐわいの幻想に女芯が痺れる。
理性が蕩けそうだった。
彫菊は悟った。いま、己は朧と交合を行っているのだと。男女の立場は入れ替わり、肌を食い破る針が男根と化した。
朧の肌を伝う幾筋もの血の糸は、彫菊にとって破瓜の証だった。涜聖をこの手で汚すような錯覚に囚われる。
誰にも蹂躙されることのなかった処女地を犯す淫らな空想──彫菊はサディスティックな歓びに、女の割れ目が肉迫する。
彫菊の込められた情念を針が朧の背に刻み付ける。激痛が伴った。歯を食いしばって朧は耐えた。
                 *  *  *  *  *  *
部屋の壁に背を預け、巴は宙に空ろな視線を泳がせた。ここ数日間、何もやる気が起きない。原因はわかっていた。
二週間前の東郷神社、深夜に散歩していた所を五人グループの暴漢に襲われそうになった。ひたすら走った。走り続けた。
心臓が急激な運動に胸壁を乱打した。恐怖に心拍数が跳ね上がった。頭が空白になりながら、必死の思いで足の筋肉を動かした。
捕まった。泣き叫んだ。冷や汗まみれになりながら、助けを求めた。白馬の王子様を信じたことはなかった。助けてくれるなら誰でも良かった。
暴漢の内のひとりが手を伸ばし、巴の髪を引っつかんだ。渾身の力で地面に引き倒す。これでもうおしまいだと巴は思った。
助け──現れた。どんな形であれ、それは助けだった。巴を犯そうと暴漢が手をかけた瞬間、鈍い音とともに暴漢は前のめりに倒れていた。
煌々と光る麝香猫の瞳が、暗闇から六人を睨んでいた。彼は何かに怒っている様子だった。さながら、己の縄張りを荒らされた獣のように。
巴は自分を睨みつける異様な瞳に戦慄した。暗がりから見える佳麗な少年の横顔。白皙の美貌だった。
秀でた富士額に、鼻筋が細く真っ直ぐ通っていた。形良く切れ上がった瞳になだらかな弧を描く眉。まるで凛々しい天使のように美しかった。



198 :ラック ◆duFEwmuQ16 [sage] :2007/03/06(火) 00:42:31 ID:DpdATVjZ
巴は一瞬、我を忘れた。それから起こった出来事は覚えていない。
空気を切り裂く音が聞こえた刹那、首筋に鋭い痛みを感じ、そこで記憶が途絶えている。
気がつくと血みどろになった暴漢達が、玉砂利の上に転がっていた。
五人とも無残な状態だった。
指を食い千切られた者、耳を切り落とされた者、顔面の皮を剥がされた者、両腕の関節が折れて骨片が肉を突き破っている者。
皮肉にも、わりとまともだったのは自分を最初に犯そうとした暴漢だった。リラの花の香りにも似た血臭が巴の鼻腔をくすぐった。
血の匂いに性的な気分に陥り、巴はその場でオナニーをした。男達の血をすくい、唇に血をぬりたくった。舌先で味わうように舐める。
鉄錆の味が口腔内に広がり、官能が昂ぶる。歪んだ自分の性癖に、何度も嫌気がさす事もしばしばだ。
(あの時は、頭がクラクラしてわけが分からなくなっちゃった……)
ベッドの横に置かれたティディベアのヌイグルミを抱き寄せる。わかっていた。
彼は別段、自分を助けてくれる為に暴漢者達を叩きのめしたわけではないことを。あるいは自分も暴漢者同様に──。
それでも、もう一度逢いたかった。自分と同じ匂いがしたあの少年に。これが恋というものなのだろうか。
心が切なかった。たまらなく切なかった。ため息をつく。
(あなたはいま、何をしているの……?もう一度……あなたに逢いたい……)
ヌイグルミに隠したアルコールが入ったのカプセルを取り出した。アルコール溶液に浮かぶ白い物体──人間の耳朶だった。
蓋を外して耳朶をくわえた。くわえながら指を自分のクリトリスに這わせる。自慰に耽るのは今日で何度目だろう。
彼を思い浮かべるたびに、したくなってしょうがない。摩擦を求めてクリトリスが勃つ。指腹で優しくいらった。
「ああぁ……」
微かな喘ぎが唇から洩れる。若い肢体が張り詰めた。耳朶を噛みながら快感の波に翻弄される。
快感の波が寄せては返し、愛液はとどまる事を知らずに分泌する。錯綜する感奮にまかせ、激しく指を使った。
「いい……もっと、もっと……ッ」
内奥が熱く火照る。アヌスにも指をいれて出し入れした。括約筋が中指の第二関節を強く噛んだ。
                 *  *  *  *  *  *
                   タイトル名『生き地獄じゃどいつもイカレてやがる』


199 :ラック ◆duFEwmuQ16 [sage] :2007/03/06(火) 00:43:46 ID:DpdATVjZ
雑司ヶ谷霊園の黒々とした木々に身を潜め、朧は少女を待ち続けた。冷たい空っ風が吹き荒む。夜のしじまに紛れ、雑草の掠れる足音が聞こえた。
「食べ物もってきたよ」
少女がアンパンとペッドボトルの紅茶を渡した。
「サンキュー」
朧は礼を言って少女──雪香から食料を受け取った。黙々とアンパンを咀嚼し、ペットボトルの紅茶で喉に流し込む。空になってボトルを放った。
雪香が朧のジーンズのボタンをはずし、チャックを下ろした。柔らかいままのペニスをしゃぶる。風呂には三日間ほどはいっていないから匂うだろう。
それがたまらなく愛しいと雪香は言う。無臭よりも匂いのあるほうが人間味があっていいそうだ。口ではどうこういっても、何のことはない。
不潔なことが好きなだけなのだろう。雪香が朧のペニスを根元まで咥え、喉を鳴らした。亀頭のくびれに付着した恥垢を舌でそぎ落とす。
頭をゆるやかに律動させた。鼻につく恥垢の臭気に雪香は恍惚の表情を浮かべた。
「ねえ、後ろ向いてお尻突き出して……」
ペニスをしゃぶりながら、雪香が上目遣いに朧の眼を見ながら静かな口調で言う。朧は何の感情の起伏も読み取れない瞳で雪香を一瞥した。
「そっちも汚れてるよ……いいの?」
「平気だよ。ううん、汚れてるほうが雪香は好きだよ」
身体を反転させ、膝の辺りまでジーンズを引きずりおろした。掌で己の臀肉をくつ拡げる。雪香がアヌスを嗅いだ。幽かに排泄物の匂いが感じられる。
「んん……っ」
鮮やかなピンク色のアヌスをちろりと舐めた。苦い。雪香はかまわずに舐め続けた。朧は身じろぎせずに雪香の好きにさせる。
拙い舌使いだった。それでも懸命さが窺えた。唾液で濡れた舌先がアヌスの内部にもぐりこんで来た。肛門をこじ開けながら舌が奥へ奥へと進む。
舌が引き抜かれ、代わりに二本の指先がアヌスを穿った。人差し指と中指が肛門粘膜を攪拌する。そこでストップさせた。
「今日はもうおしまいだよ」
「もうなの……もう少しいじれない?」
「駄目。早く指抜きなよ」
名残惜しそうに雪香が抜き出した。指にからみついた黄色い腸液が白い湯気をくゆらせた。雪香が指を舐め清める。
舐め清めながら雪香は薄い笑みを浮かべていた。
朧が最初に雪香と出会ったのは今から一ヶ月前だ。いま朧が立っているこの場所で、雪香は子猫を殺していた。
足元に縋り寄り、にゃおぉん、にゃおぉんと哀れっぽく鳴く二匹の黒い子猫。雪香は楽しそうに、本当に楽しそうに子猫を踏み殺していった。
                 *  *  *  *  *  *
『可哀想に。捨てられちゃったんだね。大丈夫だよ。お姉ちゃんが助けてあげるからね』
身を震わせる子猫に優しく語りかけながら、雪香は最初の一匹目に靴の踵を乗せた。頭に狙いを定めた。力を込める。
子猫の頭蓋骨を踏み砕けた。安物の陶器を壊すような感触が伝わった。真っ赤な液体と飛び散る。飛び出した眼球が靴底に張り付いた。
二匹目も同様に雪香は踏み潰した。わりと淡々とした作業だ。その行為にはある種の慈悲すら感じられた。
『これでもう、安心だね』