803 :ヤンデレウィルスに感染してみた [sage] :2008/08/20(水) 23:20:23 ID:DVyEHqHf
「K」

暗い部屋に篭って『彼』を眺める、それが私の日課。
あの雨の日、校庭で『彼』を拾ってから。
雨に濡れて冷たく光る『彼』に魅了されてから。
『彼』を拾った次の日から、何日も学校を休み部屋にこもり、一日中眺めている。
朝日を反射し輝く『彼』も素敵。
月光で冷たく煌く『彼』も素敵。
『彼』に舌を這わせる。ひんやりと冷たい感触が気持ちいい。
このままずっとこの部屋で二人で……そんな生活も終わりを迎えることになる。
親に無理やり学校へ連れてこられたのだ。
車に乗せられて登校。『彼』は上着の内ポケットに忍ばせた。
上着にかかる『彼』の重みが妙に心地よかった。

昼休みまでが我慢の限界だった。
5時限目始業のチャイムが鳴ったとき、私はまだ廊下にいた。
どこか適当に使われていない教室に忍び込む。
授業のない空いた教室にこもって『彼』を眺めた。
そのほうが授業なんかよりもずっとずっと大切で有意義だ。
どれだけの時間『彼』を眺めただろう。
このまま放課後までこうしていられたら、そんな願いはもろくも崩れ去る。
教室のドアが開かれ、キツイ化粧でレンズの厚いメガネをかけた女教師が入ってきた。
ノックもなしにドアを開けたのは生徒指導の柳川だった。
なんてデリカシーのない人間だろう私と『彼』の二人きりの時間を邪魔するなんて……。
そんなだから40過ぎても嫁の貰い手がないんだ。
「ちょっと、授業中になにして――」
柳川が嘗め回すような視線を私に向け、その視線が『彼』で止まった。
「な、あなた!学校になんてものを……!」
『彼』を奪われる!
柳川の手が私の腕に伸び、私は掴まれまいとその腕を振り払った。


804 :ヤンデレウィルスに感染してみた [sage] :2008/08/20(水) 23:25:07 ID:DVyEHqHf
――すっ
「ぇ…………?」
鳩が豆鉄砲食らったような顔をする柳川、そんな面白い顔できたんだ。
次の瞬間、首から大量の血が噴出し二人に降りかかる。
とっさに喉を押さえたが、手の隙間から血があふれ出し床に広がっていく。
血の気が引いていくのがわかった。
なんてことをしてしまったんだ!
どうしよう、こんなこと、うそ、嫌、いや、イヤ……
『彼』を汚してしまうなんて!!!
よりによって、こんな、こんな女の血で!
早く、早く帰って『彼』を洗わなきゃ!
元凶の柳川は虚ろな瞳で喉を押さえ、血の海に横たわっている。
ただ汚い水溜りを広げる柳川。
無性に腹がたつ、こんな女の血が、『彼』を汚した……!
がら空きの腹に力の限り、蹴りを入れる、一回、二回、三回、これで勘弁してやろう。
去り際に唾を吐きかけ、私は大至急で家を目指した。
こんな場所、学校では安心して『彼』を洗えない、愛でられない。
はやく、二人の家へ。


それから数時間後彼女は死体となって発見された。
自宅の自分の部屋で全身を鋭利な刃物で滅多刺しにしてベッドの上で死んでいた。
自宅玄関は鍵が掛けられ、自室には内側から鍵が掛けられており、
抵抗した後や争った後がないことから、自殺と思われる。
百以上ある刺し傷のほとんどが股間、下腹部に集中していたという。
表情は満足げで幸せそうだったという話だ。

自殺に使われた刃物はいまだ見つかっていない。

end
最終更新:2008年08月21日 14:23