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480 :しまっちゃうメイドさん ◆HrLD.UhKwA [sage] :2007/03/18(日) 02:01:47 ID:Ld8wUyk/
題名 否命

 あるところに貧しい農夫がいました。彼の田圃はとても荒れていて、しまいには作物が
すっかりとれなくなってしまいました。そこで仕方の無く、農夫は森にいき薪をとって市
場で売り、それで一日を食いなぐようになりました。

 ある時、いつものように農夫は薪をとりに森の中に出かけました。すると、まだ一度も
会った事の無い老人が歩み寄ってきて、
「なんだって、そんな憂鬱そうな顔をしているんだい?」
と農夫に声を掛けました。
「おお老人よ!」
 農夫は思わず嘆息しました。
「どうして楽しい気持になれましょうか?私は一日も休むことなく先祖代々つづく田圃を
耕してまいりました。それなのに田圃は荒れ果てていくばかりで、とうとう私は田圃を耕
すことを諦めてこうして森で薪をとっているのです。別に貧しい事は苦ではありません。
ただ、先祖様が守り抜いてきた田圃を私が駄目にしてしまったことを考えると、憂鬱にな
らざるを得ないのです」
 この言葉を聞くと、老人は農夫の畏祖の義にすっかり感心してしまいました。老人は実
は妖精でしたので、この農夫を幸せにしてやりたいと思い、ある提案をしました。
「もし貴方が私の欲しいものをくれるのなら、貴方の田圃をすっかり良くしてあげよう」
 すると農夫は農民にしては珍しく儒学を心得ていたので、自分の持っているモノのなか
で土地ほど大切なものは無いと考え、
「私が差し出せるモノなら何でも…」
 と答え、妖精に証文を書きました。
 妖精はニッコリと笑って、
「帰ってごらん。もう、貴方の土地はすっかり良くなっていますよ」
 と、言いました。



481 :しまっちゃうメイドさん ◆HrLD.UhKwA [sage] :2007/03/18(日) 02:02:31 ID:Ld8wUyk/
 さて、農夫が家に帰ると妻が飛び出して、
「あんた、どうしてうちの田圃に水がしっかり引かれて、稲が植えてあるんだい?急に、
どこもかしこもうちの田圃はすっかり良くなっちまったよ。まったく、どうしてだか分か
らないよ」
 と、言いました。
「それは私が森で出会った妖精のおかげだよ。彼が私に田圃をすっかり良くしてくれると
約束したのさ。その代わり、妖精の欲しいものを何でもあげると証文を書いたけどね」
 すると妻は、
「まぁ、一体うちに妖精が欲しがるようなものなんて、あるのかしら?」
 と、首を傾げました。農夫の家は本当に貧しくて人様にあげるものなんて、なんにも無
かったからです。

 それから一年後、農夫に娘が出来ました。
農夫の娘はとても美しく、働きものに育ちました。この娘が年頃になる頃には様々な男
から結婚を申し込まれるようになりました。しかし、娘は申込を悉く断っていました。そ
れも、実際に男に会いもせずに娘は結婚の申込を断ってしまうのです。
「ねぇ、おまえさん一体、何が不満なんだい?」
 農夫はとうとう、娘のあまりに男を寄せ付けない態度に呆れ、娘を呼び出して問いただ
しました。すると娘は
「心に決めた方がいるのです」
 と、一言いいました。
「それは誰なんだい?」
 と、農夫が聞くと娘は
「父さんの田圃を、すっかり良くしてくれた妖精さんです」
と、答えました。農夫はそれを聞くとすっかり魂消てしまいましたが、心の奥底では、
いつもあの妖精に恩返しをしたいと思っていましたので、
「妖精がおまえを欲しがるのなら…」
 と、納得しました。それを聞くと娘はニッコリと微笑みました。娘は農夫から妖精の話
を聞くたびに、密かにその父さんを助けてくれた妖精に恋焦がれていたのです。



482 :しまっちゃうメイドさん ◆HrLD.UhKwA [sage] :2007/03/18(日) 02:03:05 ID:Ld8wUyk/
次の日、農夫は森に行きました。すると妖精がまた老人の姿を借りて歩み寄ってきて、
「なんだって、そんな楽しそうな顔をしているんだい?」
と、農夫に声をかけました。
「おお妖精よ!」
 農夫は思わず嘆息しました。
「どうして憂鬱な気持になれましょうか?私の田圃はすっかり良くなってしまい、ずっと
豊作が続いています。蓄財は確かに楽ではありますが、それよりもこの田圃を先祖がご覧
になったらどんなに喜ぶことでしょう。それを考えると楽しくならざるをえないのです」
それを聞くと、またしても妖精はニッコリと笑い、
「どうかその畏祖の義をこれからも忘れずに…」
 と、言って農夫のもとから去ろうとしました。
「待ってください。話しはまだ終わりではありません。貴方は、私の田圃をすっかり良く
してくれたのに貴方は何も私にお求めになりません。だから、私は貴方に娘を差し上げた
いのです。そして娘のほうもそれを望んでいます」
 それを聞くと、途端に妖精は真っ青になりました。
「おお農夫よ!お心遣いはありがたいが、どうして私が娘を貰うことが出来ようか?私
はその昔、天帝の属官として五穀豊穣を司っていたのです。ところがある日、否命(孔
子によると可憐な少女の姿で人間に劣情を植え付ける神獣。本居宣長に麒麟の一種では
ないかと指摘されている)の誘いに乗り天界に不浄を持ち込んでしまったので天帝より
実の姿を正視に耐えない姿に変えられてしまったのです。そんな私がどうして娘の前に
姿を現すことが出来ましょう?」
 それを聞くと農夫は家にトボトボと帰っていきました。

さて、農夫が家に帰ると娘は恋歌を歌うのを止めて農夫を迎えました。娘は農夫の
元気のない姿を見ると、
「なんで、父さんはそんなにおちこんでいらっしゃるの?」
 と、尋ねました。そこで農夫は娘に、妖精が天帝の罰を受けその姿を正視に耐えない姿
に変えられてしまったことを話しました。娘は話を聞くと、
「父さん、哀しむ事はありません。でしたら、妖精の姿を見なければいいのです」
 と、言いました。農夫が、
「馬鹿なことをいうな。どうして、嫁にいくお前が妖精の姿を見ないでいることが出来
よう…」
 っと、言うと娘は少し考えていいました。
「だったら、私の眼を抉り取ればいいのです。そうすれば、私はもう妖精の姿を見ること
が出来ないでしょう」
「それもそうだ」
っと、農夫は娘の眼窩に竹筒を当て拳で叩くと眼球がポンッと飛び出しました。



483 :しまっちゃうメイドさん ◆HrLD.UhKwA [sage] :2007/03/18(日) 02:03:57 ID:Ld8wUyk/
次の日、農夫は森に行きました。すると妖精がまた老人の姿を借りて歩み寄ってきて、
「なんだって、そんなに嬉しそうな顔をしているんだい?」
と農夫に声を掛けました。
「おお妖精よ!」
思わず農夫は嘆息しました。
「どうして憂鬱な気持になれましょう?私の娘は貴方の嫁になるために、その眼を抉りぬ
いたのです。その娘が「これで妖精の嫁になれる」と歌う姿を見ていると、嬉しくならざ
るを得ないのです」
っと、農夫の言葉を聞くと妖精は真っ青になって言いました。
「おお農夫よ!お心遣いはありがたいが、どうして私が娘を貰うことが出来ようか?私は
その昔、天帝の属官として五穀豊穣を司っていたのです。ところがある日、否命(孔子に
よると可憐な少女の姿で人間に劣情を植え付ける神獣。ヒンドゥーでは子宝の神として祭
られている)の誘いに乗り天界に不浄を持ち込んでしまったので天帝より実の体臭を嗅ぐ
に絶えない臭いに変えられてしまったのです。そんな私がどうして娘の前に姿を現すこと
が出来ましょう?」
それを聞くと農夫はトボトボと家に帰っていきました。

さて、農夫が家に帰ると娘は恋歌を歌うのを止めて農夫を出迎えました。娘は農夫の
元気のない臭いを嗅ぐと、
「なんで、父さんはそんなにおちこんでいらっしゃるの?」
 と、尋ねました。そこで農夫は娘に、妖精が天帝の罰を受け実の体臭を嗅ぐに耐えない
臭いに変えられてしまったことを話しました。娘は話を聞くと、
「父さん、哀しむ事はありません。でしたら、妖精の体臭を嗅がなければいいのです」
 と、言いました。農夫が、
「馬鹿なことをいうな。どうして嫁にいくお前が妖精の臭いを嗅がないでいることが出来
よう」
 っと、言うと娘は少し考えていいました。
「だったら、私の鼻を切ればいいのです。そうすれば、私はもう妖精の臭いを嗅ぐことが
出来なくなるでしょう」
「それもそうだ」
っと、農夫は鉈を取り出すと娘の鼻をきれいに切りとりました。



484 :しまっちゃうメイドさん ◆HrLD.UhKwA [sage] :2007/03/18(日) 02:04:31 ID:Ld8wUyk/
次の日、農夫は森に行きました。すると妖精がまた老人の姿を借りて歩み寄ってきて、
「なんだって、そんなに嬉しそうな顔をしているんだい?」
と農夫に声を掛けました。
「おお妖精よ!」
思わず農夫は嘆息しました。
「どうして憂鬱な気持になれましょう?私の娘は貴方の嫁になるために、その鼻を切り落としたのです。その娘が「これで妖精の嫁になれる」と歌う姿を見ていると、嬉しくならざるを得ないのです」
っと、農夫の言葉を聞くと妖精は真っ青になって言いました。
「おお農夫よ!お心遣いはありがたいが、どうして私が娘を貰うことが出来ようか?私
はその昔、天帝の属官として五穀豊穣を司っていたのです。ところがある日、否命(孔
子によると可憐な少女の姿で人間に劣情を植え付ける神獣。一時期、真言宗においては
マラと混同されていた)の誘いに乗り天界に不浄を持ち込んでしまったので天帝より、
実の声を聞くに耐えない感触に変えられてしまったのです。そんな私がどうして娘の前
に姿を現すことが出来ましょう?」
それを聞くと農夫はトボトボと家に帰っていきました。

さて、農夫が家に帰ると娘は恋歌を歌うのを止めて農夫を出迎えました。娘は農夫の
元気のない声を聞くと、
「なんで、父さんはそんなにおちこんでいらっしゃるの?」
 と、尋ねました。そこで農夫は娘に、妖精が天帝の罰を受け実の声を聞くに耐えない
声に変えられてしまったことを話しました。娘は話を聞くと、
「父さん、哀しむ事はありません。でしたら、妖精の声を聞かなければいいのです」
 と、言いました。農夫が、
「馬鹿なことをいうな。どうして、嫁にいくお前が妖精の声を聞かないでいることが出来
よう」
 っと、言うと娘は少し考えていいました。
「だったら、私の耳を削げばいいのです。そうすれば、私はもう妖精の声を聞くことが
出来なくなるでしょう」
「それもそうだ」
っと、農夫は鋸を取り出すと、娘の耳を削ぎ落としました。




485 :しまっちゃうメイドさん ◆HrLD.UhKwA [sage] :2007/03/18(日) 02:05:26 ID:Ld8wUyk/
次の日、農夫は森に行きました。すると妖精がまた老人の姿を借りて歩み寄ってきて、
「なんだって、そんなに嬉しそうな顔をしているんだい?」
と農夫に声を掛けました。
「おお妖精よ!」
思わず農夫は嘆息しました。
「どうして憂鬱な気持になれましょう?私の娘は貴方の嫁になるために、その耳を削ぎ落
としたのです。その娘が「これで妖精の嫁になれる」と歌う姿を見ていると、嬉しくなら
ざるを得ないのです」
 っと、農夫の言葉を聞くと妖精は真っ赤になって言いました。
「おお農夫よ!お心遣いは有難く、貴方の娘を頂戴しよう!!」
 それを聞くと農夫は嬉々として、家に帰りました。

 さて、農夫は家に帰りました。しかし、娘の出迎える姿はありません。
 娘はただ、農夫の吉報を信じて窓辺でずっと恋歌を口ずさんでいました。しかし、どう
やって娘は吉報を知ることが出来ましょう?農夫の帰還を示す臭いは嗅げず、農夫の嬉々
とした表情は見えず、農夫の吉報を告げる声を聞くことも出来ないからです。
 娘はただ農夫の吉報を信じて、ただひたすら恋歌を口ずさんでいました。

 次の日、農夫は妖精に娘を渡しました。

その後、この娘がどうなったかは誰にも分かりません。ただ気になるのは、娘は妖精と
式を挙げているときも、ずっと歌を口ずさんでいたことです。期待に満ち満ちた声で、式
が終わった後もずっと歌を口ずさんでいました。妖精が娘の手をとって、森に消えた時も
娘はずっと歌い続けていました。

 恐らく、娘は今も農夫の吉報を待ち続けていることでしょう。妖精に抱かれ、恋歌を
ただ口ずさみながら…。