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163 :題名未定 [sage] :2007/03/30(金) 19:57:50 ID:VkcjW4hz


「誠一さん・・・」
そう呟くと愛しい男の写真に目を落とした。

神坂真奈美は新興住宅地に住む主婦である。
もう30の声が聞こえてくるが見た目はまだ20代前半といったところだ。
そんな主婦が一人で新築の一軒家に住んでいる。

‐かつて夫が買った家。‐

「誠一さん・・・まだ帰ってこないのかな・・・?」
もう一度そう呟くと一人静かに台所へと向かった。

第1章

それは2年前のことだった。

「あなた~!!」
周りの奇異の視線を気にすることなく大声で叫びながら
まるで10代の少女のような快活さで真奈美は走ってくる。

「やれやれ・・・」
誠一はその様子を見ながら苦笑いを浮かべ
「まるで主人に駆け寄ってくる子犬だな」
と真奈美に聞こえない程の小声で一人呟いていた。

ドンという軽い衝撃とともに抱きついてきた真奈美の体を受け止める。
すると真奈美は顔を上げ少し恨めしげな視線を誠一に送りつつ
「誠一さん・・・今、犬みたいだとか思ってなかった?」
と問いかけてきた。
「いゃ~?そんなことないよ?」
そ知らぬ表情で流すが内心は『もしや妻はニュー○イプか!?』
とかなり慌てていた。



164 :題名未定 [sage] :2007/03/30(金) 20:00:26 ID:VkcjW4hz
「まぁいいや!おなかすいた~ご飯食べにいこ!」
とやや頬を膨らませながらもタクシーを拾った。
車内に乗り込むとガイドブックを片手に片言の英語で
運転手に行き先を告げると真奈美はうれしそうに
「去年とは違うお店にしたんだ」
と言いつつ手を絡めてきた。

真奈美と誠一が結婚して1年経つ。
その間誠一は新規の事業を任され新婚だというのに
ろくに家を省みることが出来なかった。
だが妻はそんな夫をかいがいしく支え続けた。
なんとか仕事が一段落しやっと長期の休暇がとれ
今まで構ってやれなかった妻に対する罪滅ぼしよろしく2度目の新婚旅行にやってきていたのだ。
行き先は去年と同じタイ・バンコクだ。
『どこでもいいんだぞ?』
と誠一は言ったが真奈美は
『去年まわれなかった所も見たい』
と2度目のバンコク訪問となったのだ。

食事を終えホテルに戻り人心地ついていると突然真奈美は
「夜景を見に行こう!」
と言い出した。
「もう夜は出歩かないほうがいいよ。ここは日本とは違って治安が良いわけじゃないから」
と誠一がたしなめるが駄々っ子のように頬を膨らませ
「いや~いくの~せいいちさんとよるのおさんぽするの~」
と言って聞かない。こうなってしまったら誠一は真奈美に勝てない。
『まぁ元々真奈美の為の旅行だしな・・・俺がついてれば問題ないだろ』
と結局妻とともに夜の街を散歩することにした。

ホテルを出てしばらく二人で手をつなぎながらぶらぶらと散歩していると
いつの間にか見慣れない路地に入り込んでしまっていた。
誠一は
『まいったなぁ・・・迷ったか?』
と立ち止まり大通りに戻ろうと妻の手を引き踵を返すと
そこには先ほどは居なかった男たちが自分と妻を取り囲んでいた。
手にはナイフが握られている。
リーダー格らしい男が
「MONEY!MONEY!」
と言っているところをみるとどうやら追いはぎのようだ。
とりあえず財布の中にあった現金を差し出すべく男に近づこうとする
その時ぎゅっと手を握られた。見ると妻が震えている。
「大丈夫・・・俺が守る・・・あいつらも金さえ渡せば危害は加えないだろ」
といつもの口調で語り掛け男たちのほうへ向かっていった。



165 :題名未定 [sage] :2007/03/30(金) 20:02:17 ID:VkcjW4hz
リーダー格の男に金を渡しその場を離れようとするといきなり周りの男たちが
飛び掛ってきた。逃げようともがくが気づけば全員で誠一を押さえつけようとしていた。
真奈美は一瞬目の前で何が起こったか理解できずにいた。
『最初から逃がしてくれる気は無かったか!』
と誠一は一瞬後悔するがそんなことよりも先に妻を逃がさなければならないと
放心している真奈美に向かい
「何してる!!!早く逃げろ!!!」
と叫ぶ。
が真奈美は消え入りそうな声で
「ぇ・・・でも・・・」
と、まだ放心状態のままだ。
「はやくホテルに戻って警察を!!」
との叫びでようやく我に帰った真奈美は路地を抜け大通りを駆けぬけた
ホテルへ戻ると「警察を!!!はやく!!!はやく!!!」と
泣き叫ぶ。ボーイが慌てて駆け寄ってくるが
日本語が出来ないらしく困惑の表情を浮かべフロントのマネージャーを見る
マネージャーも慌ててフロントから真奈美に駆け寄り片言の日本語で
「どうしましたか?なにかあったのですか。」
と優しく問いかけた。
それを聞き少し落ち着いた真奈美は
「せいいちさんが・・・ろじで・・・しらないおとこたちにかこまれて・・・」
と訴えた。

そこから先のことは真奈美は夢の中の出来事のように感じていた。
その後警察が現場に到着し発見したものは冷たくなった一人の日本人旅行者だった。

大使館の職員が来た。現地の警察が事情を聞きに来た。帰国しマスコミが来た。
その全てが夢の中の出来事
テレビをつければ誠一が写っている。
<・・・死・・・た神坂誠一さんは・・・現地では警察が犯人の行方・・・未だ何の手・・・も・・・いない・・・です。>
『・・・このひとはなにをいっているのかな?』
ぼーっとテレビを見ていた真奈美はニュースキャスターの話している内容が理解できずにいた。
『せいいちさんはもうすぐかえってくるのに』
薄く笑いを浮かべつつ真奈美はそう呟いていた。


あの日から真奈美は全てが壊れてしまった。
自分があの夜夫を連れ出さなければという自責の念が心を蝕んでいき
ついに誠一が死んだことすら認められなくなっていた。

それから真奈美は2年間帰るはずの無い夫を待ち続けた。
なぜか預金通帳には多額の金が保険会社から振り込まれていて生活は苦労をしなかったが
その保険会社から
『このたびは御主人様大変ご愁傷様です。保険に関しましては今回の事案では全額支払われますので・・・』
と言ってきて訳が分からなかった。

第1章終