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38 :おにいたん3(仮称) ◆dkVeUrgrhA [sage] :2007/04/19(木) 20:29:53 ID:iavPXILR
 その街は温泉が湧いていた。
 近くに大都会が存在したため、その街は都会の奥座敷として栄えた。
 ---それも過去の話。モータリゼーションは日本全国と都会の距離を縮めてしまった。
 都会の人々は増えた選択肢を有効に活用しだした。
 距離以外のアドバンテージがなかったその街は寂れるしかなかった。
 この街で旅館を経営していたある人物は、旅館に見切りをつけて故郷を出て行った。
 それから十数年。飲食店業に手を出した人物は数店舗を持つにいたり、故郷に凱旋した。
 彼は故郷にも店舗を構えた。自分の成功の証として。赤字でもかまわないつもりだった。

 ---その店は、『テュルパン』といった。『おにいたん、だいすき!3』開幕。

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 「おにいさん!相席、よろしいですか?」
 「へ、俺?」

 夏、麻枝耕治は新たに受けた辞令を持ってテュルパン4号店へと向かっていた。
 『麻枝耕治は2号店店長代理兼マネージャーの任を解き、4号店店長代理兼マネージャーを命ずる』
 横滑り人事であったが、勤務先が「あの」4号店と聞きかなり鬱になった。
 万年赤字。店員は曲者ぞろい。客も曲者ぞろい。そして・・・。 
 テュルパンは現在5店舗存在するが、1~3は街中にあり、5号店は郊外の海水浴場近くにある。
 4号店だけは、本部から車で高速道路を3時間ほど走ったところに存在していた。
 幹線道路沿いではあるが温泉街の中にあり、都会型店舗であるテュルパンとしてはかなり異質な店舗である。
 何でも創業者がこの温泉街の出身らしく、近くにはテュルパンの保養所も存在する。

 さて、耕治は4号店に向かう途中、他社のファミレスに食事に立ち寄った。
 他社店舗での食事も重要な仕事である・・・
 そう自分に言い聞かせて入ったのはテュルパンと客層がかぶるであろう洋食中心メニューの店。
 女性アテンダント(=ウエイトレス)に案内されて席に着き、メニューを眺めていたときである。
 「おにいさん!相席、よろしいですか?」
 「へ、俺?」
 メニューから声の主を上目遣いに見てみると、小柄な女の子が立っている。
 年齢は美衣菜ちゃんと同じぐらいか、もっと幼い感じがする。
 髪型はショートボブを無理に上でお下げをつくり、リボンでくくったような感じ。
・・・というか、ツーテール(ツインテール)のお下げを短く切ってしまったような?
 顔は小さく目は大きく、きれいというより可愛らしいという表現がぴったり。
 耕治は声をかけてきた女の子を数秒観察した後、店の中を見回した。
 店の中は込んではいたが決して空席がないわけではない。
 「だって・・・一人でさびしく食べるより、お兄さんみたいな人と一緒に食べたほうがおいしいから・・・」
 伏目がちにぼそぼそとそんなことを言われたら転ばないほうがどうかしている。
 「いいよ。前に座って」
 「いいですか?!おにいさん、ありがとうございます!」
 女の子はぴょこんとお辞儀をすると耕治の前のソファーに腰を落とした。


39 :おにいたん3(仮称) ◆dkVeUrgrhA [sage] :2007/04/19(木) 20:32:55 ID:iavPXILR
 「では・・・はじめまして!あたし、まなみっていいます!
好きな食べ物は太っちゃうのであんまり食べたれないけどショートケーキで・・・」
 「ちょ、ちょっと!」
 まなみと名乗った女の子は座るや否やいきなり自己紹介を始めた。
 早口で自分のことばかりしゃべりだす彼女にドン引きする耕治。
 「スリーサイズはぁ・・・恥ずかしいけどお兄さんにだけ教えちゃいますね。
77-57-79のBカップで・・・」
 「あ、あの・・・」

 「お客様、ご注文はなんにいたしましょうか?」
 先ほど席を案内してくれたアテンダントがやってきて注文を聞いてきた。ナイスタイミングである。
 「ビッグサイズハンバーグランチ、洋食ライスセットで。食後はアイスレモンティーシロップ抜き。
それと食後にジャンボストロベリーパフェを」
 まなみという女の子はメニューもアテンダントも見ずにすらすらと注文を言ってのけた。
 「かしこまりました。お連れ様は?」
 「同じものを。ドリンクはホットコーヒー、ブラックで。パフェはあたしだけね」
 「あ、あの・・・まなみちゃん?」
 「い・い・で・す・ね?」
 「は、はいぃぃぃ!!」
 睨み付けるがごとき視線付のまなみの異常な気迫に押され、
耕治は勝手に決められたオーダーを思わず承諾する。
 「御注文を繰り返します。ビッグハンバーグランチ洋食ライスセットをお二つ、食後にホットコーヒーと
アイスレモンティーシロップ抜き。あと食後にジャンボストロベリーパフェ。以上でよろしかったでしょうか?」
 「はい」
 彼女はやはりアテンダントに一瞥すらくれようとしない。彼女の視線は常に耕治のほうを向いていた。
 アテンダントは席を去り、まなみは再び話し始める。
 「しっかしあのウェイトレスさん失礼だと思いませんか?まなみはずっとお兄さんと
話をしている真っ最中だって言うのに、まるで話の腰を折るために現れたみたいに!」
 間違いなく話の腰を折るために現れたから。
 多分俺が困ったような顔をしたので気を利かせて来てくれたんだろうと耕治は思ったが、
なんとなくそのことを話すと命の危険が訪れるような気がしたので黙っておくことにした。
 もちろん耕治ではなくそのアテンダントさんに。
 耕治はとりあえずまなみの意見に頷くと彼女の話を聞き流そうと努力した。
 「まなみがウェイトレスの立場なら、絶対話しかけたりしません!・・・」
 自己紹介の続き。最近見たテレビ。読んだ小説、雑誌。好きなタレント。
 最近あった犬の話。ぬいぐるみの話。etc、etc。
 以後料理が届き食べ終わるまで、えんえん彼女は話し続けていた・・・。


40 :おにいたん3(仮称) ◆dkVeUrgrhA [sage] :2007/04/19(木) 20:36:28 ID:iavPXILR
 「おにいさんすいません!ご飯代出してもらって・・・」
 「仕方ないよ・・・無銭飲食させるわけに行かなかったし」
 食事後、店の駐車場。耕治とまなみは連れ立って店を出た。
 まなみはなんと財布を忘れたとの事で、彼女の分まで耕治が支払っていた。
 「で、まなみちゃん?ここまでどうやってきたの?」
 「実はタクシーで、下りるとき財布を車の中に忘れてきたみたいなんです」
 「たくしー?どこからきたの?」
 彼女が告げた地名を聞いて耕治は驚愕した。
 なんと、耕治が出発した街=テュルパン2号店付近だったからだ。
 「そんな遠いところから来たの?相当お金かかっただろうに・・・」
 「こ、このお店にどうしても来たかったから・・・ここのストロベリーパフェ、同じチェーン店でもここしかないから・・・」
 耕治の質問に節目がちに答える彼女。
 自己紹介してたときは耕治のほうばかり見てしゃべっていたというのに、今は耕治の目を見ようとしない。
 耕治はその理由に思い当たるところがあったがレが事実であるという確証が持てなかったし、
たとえ正しくても今後が困るので突っ込むのをやめて彼女を救う方向で会話を進める。
 「そうなんだ・・・。で、どうするの?俺はこれからある街まで行くんだけど、そこから帰る?」
 「え、その街に行くんですか?!うれしい!実はぁ・・・まなみもぉ、そこに行く途中だったんですぅ・・・
だけど、おにいさんはかまわないんですか?」
 「かまわないよ。一人で行くよりも、女の子が横に乗ってたほうが楽しいし。さ、乗って」
 「はい!おにいさん、大好きです!」
 「ちょちょちょちょっ!」
 ばふっ。まなみは両手を挙げて喜びを表すと、耕治に抱きついてきた。
 ちょうど首の辺りにまなみの頭が来る。シャンプーのコロンの臭いが心地よい。
 耕治はとりあえずまなみを引き剥がすとここを出ることを告げる。
 「んじゃまなみちゃん、扉開けるから助手席に乗ってくれる?」
 「はーい!」 

 「お兄さん、ありがとうございました」
 本人の希望があり、温泉街の駅前で耕治はまなみをおろした。
 ぺこりとお辞儀するまなみに耕治は苦笑しながら会釈する。車に乗ってから到着するまで、
彼女は耕治に対しひたすら話し続けていた。
 そのテンションの高さに辟易しつつも、耕治は彼女の話に相槌を打ったりして聞いてやった。
 「いやいや。こっちも楽しかったよ。運転してる感覚がなくなるぐらいよくしゃべったし」
 片眉を引きつらせながら作り笑いをする耕治。
 「おにいさん・・・あのう・・・」
 得意技なのだろうか。伏目がちにまなみは耕治の瞳を見る。
 「ずっと・・・まなみ、自分のことばかり話してましたよね・・・つまらなかったですか?」
 瞳に涙をためて話すまなみ。その瞳にくらっときかけたが、耕治は正気をどうにか保ちつつ、
それでもくらっときたフリをすることにする。
 耕治は少し腰を落とし、まなみと同じ目線の高さへ自分の目線を持ってくる。
 「そんなことないよ。まなみちゃんが、すごく一途な女の子だって事は分かったから」
 「はい!」
 にっこりと笑うまなみ。これは年下属性の人間にはかなりクるものがあるな・・・そんなことを耕治は考えていた。

 「ではおにいさん、しばしのお別れです!」
 彼女は一歩下がると耕治に別れを告げた。
 「・・・しばし?」
 「また会おうねー!耕治お兄さん!」
 「お、おう!」
 駆け去ってく彼女を見送ると、耕治は再び車上の人に戻った。
 目的地のテュルパン4号店はここから車で5分ほどのはずだ。
 「しかし、すごい女の子だったな」
 車の中、耕治は独り言をつぶやいた。そして耕治は用心のため、次の言葉は心の中だけでつむぐ。

 (対象M、ねぇ・・・)