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102 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 10:51:01 ID:d5beOcdA
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第十話~忘れていたこと~

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 頭がくらくらする。
 たった今眠りから覚めたけれど目を開ける気にならない。
 今の俺にとっては目を開けるだけでもかなりの重労働だ。
 頭の中を酸性の液体で溶かされてしまったようにぼろぼろになった気分。
 二日酔いと似ているが、吐き気を催さないだけまだマシではある。

 ぐるぐると思考がまわっている。落ち着かない。
 そもそも、何でこんな状態になっているんだ?
 俺はただ華と一緒にパーティへやってきて、十本松となんの得にもなりそうにないやりとりをして、
かなこさんに自室に誘われて、それから――

『……忘れた振りをなさっているならば……許しませぬ………』
『あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
『わたくしのことを忘れるなど……許しては置けませぬ!』

 ――そうだった。
 激怒したかなこさんに襲われて、その後で何故か眠ってしまったんだ。
 あの時の彼女の様子は俺を食い殺さんばかりの勢いだった。
 無防備に眠ってしまった俺は格好の餌食だったはず。
 眠ったまま殺されていてもおかしくない。

 それなのに、何故俺は生きているんだ?

 もしかして既に死んでしまっていて、今いるところが死後の世界だとか?
 いや、それはないな。死後の世界なんてあるわけがない。
 心臓停止、もしくは脳死をおこせば人間はただの肉塊になるだけ。
 そうなったら、人生は終わりだ。
 コンティニューなんてものはありはしない。
 『その後、彼が再び立ち上がることはなかった……』みたいなテロップが表示されて、
エンドロールが流れておしまいだ。

 しかし、こうやって自分の意識を保っているということは、まだ死んではいないということだろう。
 死んでいないだけで、かろうじて生きているだけの状態かもしれないけど。
 
 ようやく思考も落ち着いてきた。
 まぶたを開けるくらいの余力もでてきた。

 ゆっくりまぶたを開く。そこには、間近で俺を見つめる女性が居た。



104 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 10:53:19 ID:d5beOcdA

 かなこさんの顔が、目と鼻の先の位置にある。
 ため息を吐けばその微風を感じ取れる距離。そこに思わず目を奪われてしまう美しい顔がある。
 
 その顔はしきりに俺の顔の前で左右に、上下に動いていた。
 潤んだ瞳には歓喜が宿っているように見える。
 どうしてそんな瞳をしているのか、という俺の疑問は、自分の唇に触れる柔らかな感触と、
口内を這いずり回るやわい感触の何かと、ぴちゃぴちゃという水音を感じるうちに解けた。

「んん……んふ、……ふん…ちゅ……」

 かなこさんが俺にキスをしていた。
 それも唇に触れるようなものではなく、口内の液体を絡ませ、吸い取るような激しいものだった。
 時折かなこさんの髪が俺の顔に垂れてくると、彼女はそれをうっとおしそうにはらう。
 彼女は目を瞑ると、唇を強く押し付けて深く舌を挿入してきた。

 蜂蜜が垂れていくようなゆったりとした動きで、かなこさんの舌が動き回る。
 衝撃的な光景にとらわれていた俺は、その舌に応えることなどできなかった。
 自分の目の前で起こっていることが、とても信じられるものではなかったからだ。

 俺が呆然としている間にも口内は蹂躙され続け、かなこさんは俺の首を強く抱きしめた。
 抱きしめる力が強くなる。肢体を激しく動かしだした。
 その動きが激しさを増し、より強く唇を押し付けられた瞬間、目を開いた彼女と目が合った。

「んんっ……ん! んんんんんっっ!!!」

 繋がった唇から、緩やかな振動が伝わってきた。
 舌と唇を使い唇をこじ開けられると、口内に液体が入ってきた。
 仰向けに寝そべっていた俺は、喉にまで達したその液体を空気と一緒に飲み込んだ。

 荒い呼吸をつきながらかなこさんは上体を起こした。
 そのとき、俺は今度こそ自分の目を疑った。
 彼女のほっそりとした首から肩を通り腕へ伸びるラインを遮るものは一切なく、
さらけ出された肩の白さを邪魔する衣服さえ、目の前の女性は身に着けていなかった。

 そして、生まれたままの姿をしているのはかなこさんだけではなかった。
 腹筋の辺りに感じるぬめった感触と少しの重量感が肌を直接的に刺激している。
 さらに俺の四肢は縄で縛られていて、自由が利かないようにされている。
 俺はスーツを脱がされた状態でベッドに固定されていた。



107 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 11:01:25 ID:d5beOcdA

「ようやく目が覚めたのですね。
 何度くちづけても反応がなかったものですから、不安になってしまいましたが、
 雄志さまと目が合った瞬間にはわたくし、いってしまいましたわ。
 キスでこれだけ刺激的ならば……雄志さまと繋がった瞬間にはわたくし、死んでしまうかもしれません」

 そう言うと、かなこさんは唇の周囲についた唾液を舐め取った。
 
「雄志さまの唾液を、たっぷりいただきました。
 これだけなめらかなものを口に含んだことなど初めてです。
 ほんとうに、どんなものにも勝る甘露ですわ。おいしゅう、ございました」

 かなこさんの小さな舌と唇がぴちゃり、という音を立てた。
 また顔が近づいてくる。頬に柔らかいものが触れた。
 頬にまで垂れ下がった唾液を舐め取ると、舌が首へ向かって移動する。
 喉仏を唇で包み込まれ、強く吸われる。たちまちぞくり、としたものが駆け抜ける。
 
「んちゅ…ああ、首の脈がびくびく、動いて……かわいい……」

 舌が首筋を舐め始めた。
 顎の舌から、鎖骨へ向かい、また折り返してくる。

「ああ、もう……こんなことって……んん、ふ……」

 かなこさんが口付けてきた。
 両手で俺の頭を掴み、髪を撫で回しながら舌で攻められる。
 息苦しさに首を軽く反らす。
「っ! 雄志さま!」
 大声をあげられて、首を正面に固定された。

「もはや、逃げることなどできませぬぞ……。
 このまま、わたくしと愛し合い続けるのです。明日になっても、日付が変わっても、ずっと、ずっとずっと。
 引き裂かれてから今までの分の肉欲を、わたくしにぶつけたいのでしょう?
 欲望を子種に宿して、わたくしの中にそそぎたいのでしょう?
 言われなくとも、わかります。先ほどから、雄志さまの肉体が疼いているのがつたわってくるのです」

 言われたとおり、俺の体は止めようもないほどに熱くなっていた。
 これほどの興奮を味わったことは一度もない。
 女性の方から犯されているという異常な状況だというのに。
 頭を冷やす材料が、ひとつもなくなっていた。



108 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 11:02:52 ID:d5beOcdA

「さあ、存分に……」

 小さな手が、肉棒を掴んだ。
 ひやりとした感触が熱におかされたものを包み込む。
 目を合わせながら手淫をされる。
 絶妙な愛撫だった。射精欲が高まっている状態で施されるそれはたやすく俺の理性を揺さぶる。
 数本の指の動きだけで、まるで俺の体を知り尽くしているかのように弱点ばかりをついてくる。

「うふふ。……やはり、ここを触られるのがお好きなのですね。
 もちろん、覚えておりますよ。雄志さまのお体のことは。
 そして、こうされるよりも――」

 かなこさんは手淫をやめると腰の上に座った。
 秘裂をぴたりと陰茎に合わせて体を揺する。

「わたくしの膣の中で果てることが一番お好きだということも」

 その言葉の後でかなこさんの腰が離れて、陰茎が開放された。
 真上を向いたペニスの先端に肉が触れた。
 
「あ、ああ、あ……ひろがって、る……」

 かなこさんの体が俺の肉棒を飲み込み始めた。
 まだ半ばまでしか達していないというのに、膣壁が強く張り付いているように感じる。
 そのときになって、本当の意味で自分が犯されている、ということがわかった。
 俺の感覚が全て肉棒に集中して、そこから全て吸い取られている。

「もう、すぐ…雄志さまがわたくしのものに、ぃ……あ、ぁはああああ……
 あ、あああ! イ……って、しまっ、……ふっ……ぁぁあああああああ!!!」

 彼女の膣が俺自身を全て飲み込んだ瞬間に締め付けられ、より強く絞り取られる。
 激しく痙攣する彼女の体は、耐えようとする力さえも奪い取ろうとする。
 理性を飲み込む快楽が俺の脳を支配したとき、肉棒から精液が飛び出した。

 腰がびくびくと動き欲望が吐き出される。
 脳から電流を断続的に流される。腰の動きが止まらない。
 快楽で呼吸するのを忘れ、息苦しさを感じるほどになってから、ようやく腰の痙攣が止まった。

「すご……、もぅ………どこにいる、か……。
 ……あ、あ、ぁぁ。 ゆ、しさまぁ……わたくしを、こわして………」

 彼女の言葉が耳に届くだけで下半身が力を取り戻した。
 それを待っていたかのように、かなこさんは腰を上下に動かしだした。



109 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 11:03:46 ID:d5beOcdA
・ ・ ・

 心臓が全力で血液を送り出している。
 腰の上にまたがり、剛直を飲み込んだまま離さず、締め付けてくる女性に応えるように。
 何度果てたか覚えていない。5回までは数えられたがそこから先は思考までも侵されてしまった。

「あああ! あ、はぁ、あ! はぁぁぁぁああああっ!」

 かなこさんが俺と体を重ねている、という信じられない光景は何度目をこらしても目の前にある。
 
「雄志さま。そろそろ思い出されましたか……?
 わたくしのことと、あの頃のことを……」

 情事の間を縫う問いかけは空虚なものしか俺にもたらさない。
 かなこさんの体以外のものが歪んで見えるのと同様、快感以外に閃くものが頭に無い。
 俺が忘れているらしい『なにか』を思い出す兆しなど、まったく見えてこない。
 
 俺が頭をベッドにつけたままにしていると、かなこさんはまたしても体を使い出す。
 唇を、胸を、へそを、ペニスを、肛門を、指の間を弄り、無理矢理に俺を勃たせる。
 そうして、再度を俺を飲み込み絞り取ろうとする。

 俺の体は動かなかった。
 筋肉が衰えて、機能が死んでしまったのではないかとさえ思える。
 情事の激しさが原因になったのではなく、気がついたときには既に体の自由がきかなかった。

「そうしてなすがままになっている姿は、本当にかわいいですわ。
 あれだけ凛々しい方が、こんなにあられもない姿になっているなんて」

 頬と頬を合わせて、胸と胸を合わせて体を摺り寄せる。
 隅々まで触り尽くされた体はその行動に対して拒否を示そうとはしない。
 むしろそうされることを待ち望んでいたかのように、下半身に血液を集めだす。

「まだ、わたくしが欲しいのですね。もちろん、そのようにいたします。
 わたくしの心と体は全て、あなたさまのもの。その代わり、あなたさまの全てもわたくしのものです。
 もっと、もっと雄志さまの子種を注いでくださいまし。
 そうすれば、必ず雄志さまとわたくしの二人の御子を授かりますわ。
 覚えておられますか? 子供は2人欲しいとおっしゃったことを。
 わたくしは、2人と言わず5人でも、10人でもよろしいのですよ。遠慮など、なさらなくともよいのです」

 肉棒を包み込まれて、締め付けられる。
 腰を打ち付けられる感触を肌に感じる。卑猥な水音が耳に届く。
 それが幾度も繰り返されるうちに、俺の意識は暗く沈んでいった。



110 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 11:05:18 ID:d5beOcdA


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 意識がつながったとき、俺は教室の中に居た。
 そこが教室だとわかったのは、中学時代に飽きるほど目にした光景そのままだったからだ。
 窓の外に見える茶色のグラウンドと、色とりどりの花が植えられた花壇。
 教室の壁の一部を成す濃い緑色をした黒板。
 習字の授業で書かされた、個性的な『努力』の文字たち。
 全てが俺の知る中学時代の教室だった。

 ただひとつ違うところは、目の前で床にうずくまる少女がいるところだった。

『ひっ……く、ひっく』
 その少女のセミロングの髪は微かな茶色に染まっている。
 中学時代に茶色の髪をしていた少女は思いつくかぎり一人しかいない。
『香織ちゃん、大丈夫?!』
 別の女の子がやってきて嗚咽を繰り返す少女の肩に手を置いた。
 泣いている女の子は、中学で初めてできた友人の天野香織だった。
 
 俺――夢の中の――は立ち尽くしたまま動こうとはしなかった。
 こうやって傍観者の立場になると自己分析ができる。

 自分が泣かせてしまった少女に対してかけるべき言葉を、当時の俺の頭ではひねりだすことができなかった。
 
 なぜ泣かせてしまったのか、今の俺には咄嗟に思い出せなかった。
 だが、香織の足元に転がる銀色の硬貨を見ているうちに、自責の念と共にその理由を深いところから掘り出せた。
 それと同時にこれだけ重要なことを忘れていた自分を殴りたい衝動に駆られた。

 俺が投げた硬貨が香織の顔に当たってしまった。それが香織が泣いている理由だ。
 なぜそんなことをしたのかはわからない。多分、何かのゲームをしていたのではないだろうか。
 熱中しているうちに周りが見えなくなり、俺が投げた硬貨が香織の顔に当たってしまった、
というのが事態のあらすじだろう。

 女の子の顔に怪我を負わせてしまったということ。
 中学時代の無知な俺では深く理解できなかったが、今ならわかる。
 
 俺は、香織の人生にヒビを入れてしまったのだ。



111 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 11:07:31 ID:d5beOcdA

 事件の翌日、香織は額にガーゼをつけて登校した。
 普段は笑顔を張り付かせている顔は、そのガーゼのせいで酷く痛々しく見えた。 
 休み時間、俺は香織と二人きりになって土下座して謝った。
 香織は「そこまでしなくていいよ」と言ってくれたが、俺は顔を上げなかった。
 そうしているうちに香織が泣き出した。

「やめてよ……そんなことしないで。
 雄志くんは悪くないって、運が悪かったんだってボクは思っているから……だから、頭を上げて」

 それでも俺は顔を上げなかった。いや、上げられなかった。
 取り返しのつかないことをしてしまった恐怖にかられ、情けなくも泣いていたからだ。
 そんなことをしているうちに、泣き止んだ香織が俺に向かってこう言った。

「わかった。じゃあ、こうしよう。
 本当に悪いと思っているんだったら、責任をとって。
 もしかしたらお嫁さんにいけないかもしれないからさ、だから…その、えっと……。
 そ、その先は言わなくてもわかるよね。じゃあ、そういうことで!」

 と言い残すと、香織はきびすを返してその場から立ち去った。

 取り残された俺――中学時代の――は香織の言葉を変な方向に解釈していた。
 『責任』の部分に強く反応し、香織に対してより申し訳ない気分になっていた。
 そのせいで、教室に戻ってから香織と距離をとるという行動をし始めた。
 
 今だから言えるが、中学時代の俺は馬鹿だ。それもどうしようもないほどの。
 さっきの言葉はいわゆるプロポーズだろう。
 それを変な方向に解釈して、距離をとろうとするとは。今すぐ修正を施してやりたい。
 まあ、数時間前の俺も馬鹿だけどな。こんな重大な出来事を忘れていたんだから。

 今度香織に会ったらあの時の話をさりげなく振ってみよう。
 いや、結婚の申し込みをするわけじゃないぞ。香織の方も忘れているかもしれないしな。
 もし覚えているんだとしたらどうしようかとも思うが……それはそのときに考えよう。

 
 しかしこの夢は長いな。一体いつまで続くんだ――?







112 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/28(土) 11:10:08 ID:d5beOcdA
 突然に、唇の感覚が復活した。口の中に舌が入れられる。

 もしかして夢の続きか?事件のことを忘れていた罰として俺をどうにかしようというのだろうか。
 そうだとしたら、今まで事件のことを忘れていた謝罪を兼ねて、夢の中の香織に応えてやらねばなるまい。
 夢の中だけだぞ。現実で香織がキスを迫ってきたらやらないはずだ。多分。

 突き出された舌裏を舐める。すると、合わされている唇が強く押し付けられた。
 夢の中だというのにこの感触。いつもどおり不気味にリアルだ。
 口の中に唾液が入ってきていることまで感じられる。
 続けて頬の裏側、唇の裏、歯茎の裏へと舌を這わせる。
 俺の舌が舐める場所を変えるたびに唇だけでなく、体の上にある香織の体も動く。
 視界が闇に包まれていて相手が香織だとは断言できないが、多分そうなんだろう。

「あふっ……はっ、うぅぅん………ゆうしさま、だめぇ……」
 おい。こんなことしてるからって雄志様はないだろう。
 だいたい雄志様って呼ぶ人の枠は既にかなこさんで――――え?
「ああ……ああぁあ…んんんんんっ! ぷぁ………もう、こわれてしまいます……雄志、さ、ま……」
 目を開けたとき、そこにはかなこさんがいた。
 彼女は目を閉じ体を横に傾けると、体をベッドに投げ出して寝息を立て始めた。
 
 なんだ、香織じゃなかったのか。ちょっと残念――って、そうじゃない!
 かなこさんの体を確認する。
 彼女は生まれたままの姿で全身に汗を掻いていて、ところどころに白い液体を付着させている。
 それらから導き出される答えは、ひとつしかない。
(俺がかなこさんとセックスしていたのは、夢じゃなかったのか)
 セックスというよりは逆レイプだったが、体を重ねたことに違いは無い。
 そして俺が両手足の首を縛られて固定されているのも変わりない。

 かなこさんがこんなことをした理由など、倦怠感に包まれている今の脳みそでも思いつく。
 かなこさんは俺のことを好きだからこんなことをしたのだ。
 考えてみれば、出会った日に料亭に連れ込んだり、自室に呼んだりという行動は
好きでもない男に対してするものではない。逆レイプは恋人に対してすらやるようなものではないが。
 自分の馬鹿さ加減にあきれ果てて、壁に頭を打ち付けたくなってきた。
 気づいていれば何らかの対処ができたのに。
 
 もう一つ、疑問があった。なぜかなこさんは俺に惚れたのだ?
 俺は名のある家の生まれではないし、親戚に大富豪がいたりもしない。
 容姿の良し悪しを自分では判断できないが、少なくとも一目ぼれされるほどいいようには思わない。
 考えられそうな要素と言えば、かなこさんが探していた本の場所を俺が教えた、ということだけだ。
 
 俺の疑問に答えてくれそうな人は左で寝息を立てていた。
 陽だまりの中で昼寝をする猫のような安らかな表情を浮かべるかなこさんを見ていると、
彼女を起こすという行動をとることができなかった。
 体を包み込む倦怠感から眠気を覚えた覚えた俺は、見慣れた顔を思い浮かべた後で目を閉じた。
 その時に思い浮かべた香織の顔は、何故か不機嫌真っ盛りだった。

 この現状を打破するための方法を考えながら、再び俺の意識は闇の中へと沈んでいった。
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