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114 :ほトトギす ◆UHh3YBA8aM [sage] :2007/04/28(土) 11:18:52 ID:mQwZBQ83
鳴かぬなら 殺してしまおう ホトトギス

鳴かぬなら 鳴かせて見せよう ホトトギス

鳴かぬなら 鳴くまでまとう ホトトギス


有名な詩(うた)みたいです。

ちょっとした事件がありました。
学園生活にありがちな、恋愛感情のもつれと綻び。
あるいは歪な感情の発露による暴発と必滅。
外罰的な三角形が形成され、雲散霧消するまでの過程。
そして、終わりと始まり。

なんのことはない、少し異形だっただけの、日常。
その登場人物達――真面目に過ぎて滑稽な、道化達の物語。

三傑の評のうちの二つ。
即ち、第六天魔王と豊国大明神の寸評が、二人の女性に当てはまるのではないかと思いました。
尤も私の中では、


鳴かぬなら 死んでしまおう ホトトギス

鳴かぬなら 哭(な)かせてしまおう ホトトギス


こう評するほうが正しいのではないかとも考えましたが。
ともあれ、そんな話を聞いて貰おうと思います。

最後に自己紹介を。
私の名前は一ツ橋朝歌(ひとつばし ともか)。
茶番の傍にいた――唯の傍観者です。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「イトコ?」
先輩は可愛い瞳をパチクリさせた。
昼休みの茶道部部室でのことである。
いつも通り先輩の作った美味しい弁当をご馳走になっていると、
「日ノ本(ひのもと)くん、晩御飯食べに来ない?」
親切な部長さんは、そう云ってくれたのだ。
僕の両親は家を不在にすることが多かった。そうなると自然、自炊をしなければいけない訳で。
ところが僕には家事の才能が微塵も無く、掃除をすればゴミをつくり、料理をすればゴミをつくる、
という有様でそれを見かねた先輩が昔から僕を助けてくれていたのだ。
織倉由良(おりくら ゆら)。
中学からの知り合いで、この茶道部の部長である。
僕も所属している茶道部は、厳しいことで有名だ。厳しい、と云っても、それは活動内容が、
ではない。
部長を務める織倉由良が、入部者のある一部の行動に対して、である。
銀河の暗黒を溶かしたような、幽邃な瞳。流動する黒水晶のような長髪。雪の肌。桜の唇。
清楚で、でも肉感的な肢体。育ちのよさを感じさせる立ち居振る舞い。朗らかな人柄。
教員からの信頼も厚く、文武の人でもある先輩は完璧な女性だ。
それ故、言い寄る男も多い。
先輩が厳しい、と云うのは、つまり自分目当てで入部するひとに対してだ。
元々茶道部は「まったり仲良く」を伝統としていた。
だから作法やら礼法やらは必要なく、部員はのんびりと雑談しているだけで良い。
それ故に場の空気を乱す人を、先輩は嫌った。


115 :ほトトギす ◆UHh3YBA8aM [sage] :2007/04/28(土) 11:20:20 ID:mQwZBQ83
だから、男の部員は僕だけだったりする。ほかは皆追い出された。
黒一点。
それが今の茶道部であるが、もとより先輩以外とはあまり喋ることが無いから気にならない。
唯一の例外は、小学校からの知り合いであり、後輩でもある一ツ橋朝歌だが、彼女はほぼ誰とも
喋らず、部室の隅で黙々と読書に励んでいる。
昼休みも。放課後も。勿論今も。
「図書館よりも、環境が良いですから」
それだけの理由で冬は暖かく夏は涼しい部室にいついている。
まあナンパ目的でなければ、本をよんでいようがプラモを組み立てていようが先輩は怒らないが。
先輩は優しい。
「来たい時だけ、来ればいいよ」
入学当時、そう云って僕をここに誘ってくれた。
中学のときから、先輩は僕に気を使ってくれる。入部のお誘いも、入学したてで知り合いの
少ない僕を気遣ってのことだろう。先輩は本当に面倒見が良いのだ。
だから、と云う訳でもないが、以来一年間。昼休みや放課後は部室で先輩と話し込む事が多かった。
先輩は僕と違って家事が得意だ。それで僕の両親が家を空けると、生活無能力者の後輩のために
ご飯を作ってくれる。
お昼の弁当も、時には晩御飯も。
流石に甘えすぎだ。
そう思いつつも、あまりに上手なご馳走の山に屈服してしまっている。
そして先日、またもや両親が家を空けたので、わざわざ先輩は気を使って僕を夕食の席に招待
してくれたのだった。
けれど。
「すいません、折角のお誘いなのに」
僕は頭を下げた。
今日はイトコが家に来る。だから先輩のお誘いを受けるわけにはいかなかった。
「あ、ううん、気にしないで。急に誘った私が悪いんだから。・・・でも、イトコかぁ・・・・・」
考え込むように天井を見上げる。寛容な先輩はとくに気分を害した様子は無い。
「ねえ、日ノ本くん」
先輩がこちらに瞳を向ける。
「もしかして今までも今日のようにブッキングしたことある?」
「ブッキング・・・・ですか?云われてみれば過去に何度か被ったことがありますかね」
「六回」
「はい?」
「日ノ本くんが、今までに私のお誘いを断った回数」
「・・・・よく・・・・憶えてますね」
「日付も云えるわよ?」
ニッコリと笑う。
流石に才女。記憶力が生半ではない。
「話を戻すけど、それって、やっぱり今回みたいな理由だった?」
「えーと・・・」
僕は手を拱く。
「云われてみれば、あいつが来る時だったような・・・・」
というよりも、他に先輩のお誘いを断るようなイベントは無い。
「ふぅん」
先輩は眼を細めた。
「そのイトコって、どんな人?」
「どんな?・・・・そうだなぁ・・“和風”・・・・・ですかねえ」
「わふー?」
「大和撫子の見本みたいな奴です。外国人が持ってる変な日本のイメージみたいな」
「そう。女の子、なんだ」
ぽつりと。
呟くように先輩はそう云った。
「どうかしました?」
質すると、先輩は何でもない、と笑顔をつくる。
「大和撫子って事は、その子ってお嬢様然としているの?」
「と、云うか、まんまお嬢様です。あいつん家、金持ちですから。母方交叉従妹なんで、
うちは中産階級ですけど」
まあ話し相手のこの人も十分セレブだけどね。


116 :ほトトギす ◆UHh3YBA8aM [sage] :2007/04/28(土) 11:21:49 ID:mQwZBQ83
「年齢は?」
「いっこした。今高1です。先輩、光陰館(こういんかん)って知ってます?」
「知ってるも何も、超名門私立校じゃない。ううん、本物かあ・・・」
唸っから、僕を見る。
「その娘、よく遊びにくるの?」
「月1~2回ですからね、そこそことも少ないとも云えますが」
「・・・多すぎる」
「え?」
「ううん・・・。何でもない」
先輩は再び首を振った。
「それで、一番大事なことなんだけど」
大きな瞳が鋭く縮む。
「その娘、可愛い?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「にいさま、おかえりなさいませ」
家に着くなり、着物姿の美少女が三つ指ついて深々とお辞儀した。
「ああ、綾緒(あやお)。来てたんだ」
「はい。一時間ほど前に。失礼とは思いましたが、勝手に上がらせて戴きました」
「構わないよー。入っちゃ駄目ならそもそも鍵なんて渡してないし」
玄関から廊下にあがる。
綾緒は僕の靴を揃えると、「お持ち致します」と鞄を取り、しずしずと半歩後を後をついて来る。
この生ける市松人形が、従妹の楢柴(ならしば)綾緒である。
血の繋がりを感じさせないくらいパーツパーツの高級感が違う。
白子と間違うくらいに肌が真っ白で、唇は血のように赤い。
そのためかスッピンでも化粧をしている様に見えるのだ。
すこぶるつきの美少女で、これだけの造形美は、織倉先輩くらいしかお目にかかったことがない。
「御召替えなさいますよね?お手伝いしてもよろしいですか?」
綾緒はこうして僕の世話を焼きたがる。
「いや・・・それはちょっと」
「そう・・・・ですか・・・・残念です」
従妹は本当にひどく残念そうな――泣きそうな顔をする。
叶えてやりたくもあるが、着替えまでは躊躇われる。
「ここでいいよ」
部屋の前で綾緒に云う。
「あのぅ・・・本当にお手伝いは要りませんか?」
「うん」
「あう・・・」
しょんぼりとする綾緒から鞄を受け取り、部屋へ入る。
―――と。
「おい、綾緒」
「お手伝いですか?にいさま」
扉越しにウキウキとした声がかえってくる。
「そうじゃなくて、お前、僕の部屋に入ったな」
「あ、はい。失礼とは思いましたが、簡単にお掃除させて戴きました」
無頓着な僕でも気づくほどに室内はサッパリしていた。家具の配置も微妙に変わっており、
壁には不気味な能面が備え付けられていた。かわりに投げっぱなしだった雑誌の山がなくなっている。
ん?雑誌?
「まさか!?」
僕は慌ててベッドの下を見る。
「あー!無いっ!!」
「にいさま?どうかなさいましたか?」
扉越しの従妹の声。
「あ、綾緒!」
扉を開ける。
「お前、アレはどうした!?ベッドの下にあった、僕の宝物は!?」
「―――ああ、あの不埒な雑誌ですか」
ゾクッと。
背筋が震えた。


117 :ほトトギす ◆UHh3YBA8aM [sage] :2007/04/28(土) 11:23:23 ID:mQwZBQ83
目の前には笑顔の綾緒。けれど何か違和感。
この従妹はときどきこうして、纏う空気を変質させることがある。
「にいさま」
「な、なんだ?」
変貌した綾緒に、僕は気圧される。
「綾緒のにいさまは、あのような不浄のものに拘ってはいけません。そうですよね?」
「いや・・・でも」
「でも?」
たおやかな笑顔。
そして表情と相反する気配。
僕は「なんでもない」と答えるので精一杯だった。
「いいですか、にいさま。にいさまはあのような下賎者に発情してはいけません。
綾緒も殿方の『仕組み』が分からないではないですから、劣情そのものを否定はしません。
ですが、にいさまは綾緒と血の繋がった方です。情を向けるにしても、相手を選んで
戴きたいのです。下種下劣な下々の者に心動かされてはいけません。にいさまにはにいさまに
相応しい者がいるのですから」
わかりますね?と念を押される。意味が分からないが頷くしか出来ない。
「よくできました。それでこそ“綾緒の”にいさまです」
踵を上げて従兄の頭を撫でる。
「では、綾緒は夕餉の準備を致します。御召替えが終わりましたら、来てくださいな」
深々と頭を垂れ、しずしずと去って行く。
「・・・・・あいつ・・・年々強くなってくなぁ・・・・」
ため息を一つ。
昔はもっと儚い感じだった。否、今もそれは変わらない。
控えめで、大人しく、穏やかだ。
ただし、根の部分は誇り高く、他人を立てても下風に立つことも無い。
僕には特に丁寧に対応してくれるが、それでも時折、ああして主導権を握られる。
綾緒はどうも男女の『そういうの』に潔癖な部分があって、親戚の集まりでも僕が他の女の子と
話すことを許さなかった。
「毎日先輩に昼ご飯食わせてもらってて、たまには夜もご馳走になる、とかは云えんわなぁ」
云う度胸もないし、メリットもない。
どうせ僕は腰抜けだ。

キッチンでは綾緒が夜支度をはじめていた。
和装の上に白い前掛けをつけた姿は、和風のメイドさんのようだ。
元々尽くすことが好きな綾緒には、違和感は無いのだろう。
加えて、女の嗜みとして家事全般を習得しているのだから、能力的にも申し分ない。
ちなみに彼女は武芸百般、外崎(とのさき)流居合いと新衛(しんえい)流柔術の印可持ちである。
だから、男の僕が腕っ節でも手も足も出ない。
趣味は“面”を集めることで、彼女の家はもちろん、この家の至る所にも喜怒哀楽あるいは化生・畜生
を模った(不気味な)面が飾られている。今日僕の部屋に備え付けられたものもそのひとつである。
本人が気に入っているようなので、外す事は無い。触る気にもならないので、掃除は時たま
やってくる綾緒本人がやっている。
彼女はこうして月1・2回僕の世話を焼きに来る。
形の上では「遊びに来ている」はずなのだが、実際は僕が凭れ掛かっているだけだ。
「本当は毎日にいさまのお世話をしたいのですけれど・・・・」
それが綾緒の口癖だった。
椅子に座り、従妹の少女に目を転じる。てきぱきと手際良く晩飯を作り上げていく。
「もう暫くで出来ますから、にいさまは寛いでいて下さいな」
従妹の機嫌は良さそうだ。
「綾緒はさぁ」
「はい。なんでございましょう」
とんとんとん。テンポ良く刻む。
その姿は堂に入っており、良妻賢母の感がある。
「良いお嫁さんになると思うんだよな」
思ったことを口にする。
カシャン。
あ、包丁落ちた。
「に、にいさま・・・それは、綾緒を・・・」


118 :ほトトギす ◆UHh3YBA8aM [sage] :2007/04/28(土) 11:24:28 ID:mQwZBQ83
RURURURURU・・・・・・。
遮るように、ベルが鳴く。
「電話だ。出てくる」
「それでしたら、綾緒が・・・」
「いいからいいから。綾緒は飯つくってて」
片手をひらひらと振って、廊下に出る。子機は居間にもあるが、キッチンが隣だ。綾緒の調理の
邪魔はしたくない。それで電話機本体のある廊下へ移動した。
「はい、日ノ本ですけど」
余所行きの声で受話器に語る。
「あ、日ノ本くん?」
そこからは聞き覚えのある澄んだ声が聞こえてきた。
「あれ?先輩」
「あ、私の声、わかるんだ。嬉しいな」
やはり声の主は織倉由良先輩だった。
「どうしたんですか、家の電話にかけてくるなんて」
「ケータイにかけたら出なかったのはだれかな?」
「あ~、すいません。部屋に置きっぱなしでした」
見えない相手に頭をさげる。
「で、どうかしましたか?」
「あ・・・うん。もうご飯は食べたのかなって」
「まだ夕方ですしね。鋭意製作中」
「昼間話してた従妹の娘?」
「です」
耳を澄ます。
ここまで届くはずの調理の音は、何故か聞こえない。
「う~ん。そっかぁ。もしつくってなかったら、御馳走しようかなって思ったんだけど・・・」
「いやいや、そこまで気を使ってもらうわけにはいかないですよ」
「そう?別に気にしなくていいのに。いつも食べてるんだから。――そうだ、じゃあ日ノ本くん」
「はい」
「明日のお弁当は何が食べたい?」
「昼飯・・・ですか?」
「うん。今スーパーにいるんだ。だからリクエストがあれば、お姉さんに云って欲しいな」
「いや、先輩のご飯美味しいですから、何でも有難く戴きますよ」
「も~。何でも良いが一番困るのに」
そう云いつつも、どこか声が弾んでいる。
そういや綾緒はもう作り終わったんだろうか。
キッチンから音がしないので、なんとなく振り返る。
――と。
「うわっ!!!!」
「ど、どうしたの、日ノ本くん!?」
「あ、な、何でも、ないです。ちょっと驚いただけですから」
目の前には綾緒。
いつの間に背後に立っていたのか。
口元だけ薄く笑って、僕を凝視している。

に、い、さ、ま

綾緒の赤い紅い唇が、音もなく動く。

『お断りして下さい』

従妹の可憐な唇がそう模った。
(いや、でも折角の厚意だし)
受話器を押さえ、小声で云う。
綾緒は表情を崩さない。
微笑したままゆっくりと首を振る。
(いや、でも・・・)
「・・・・・」


119 :ほトトギす ◆UHh3YBA8aM [sage] :2007/04/28(土) 11:26:17 ID:mQwZBQ83
笑みが、消えた。
表情(かお)のない従妹。
それだけなのに。
否。『そうなった』からこそ――僕の背筋は凍りついた。
僕は慌てて受話器をあてる。
「日ノ本くん?大丈夫?何があったの?」
「い、いえ、ちょっとコケただけです。それより先輩」
「ん?なぁに?リクエストはきまった?」
「あ、明日の弁当は、遠慮しときます・・・!」
「――え?」
信じられない、といった感じの先輩の声。
それはそうだろう、急に掌を返されたようなものだから。
「ど、どうしたの、突然」
「そんな世話になっちゃ悪いです・・・から・・・」
意識の大半は無表情な従妹にある。声が震えただろうか。
「そんな事今更気にしなくてもいいのよ?私が作るついでなんだから、一人分も二人、」
「とにかく、すいません」
遮って受話器を置いた。
「あ、綾緒・・・・?」
様子を伺う。
「お断りしたのですね?」
「あ、ああ・・・・」
「そうですか。それはようございました」
そう云って微笑。目元は凍てついたままに。
「ではにいさま、今の女性(にょしょう)について、綾緒に説明して下さいな」
従妹は穏やかな声でそう云った。

居間。
椅子に座らず、正座したまま、僕と綾緒は向かい合っていた。
先ほどの電話の内容は背後にいたためある程度聞こえていたようで、声の主――織倉由良
と僕の関係について説明させられた。
「なるほど。部活動の先輩ですか」
「あ、ああ、そうなんだよ。僕が家事無能力者なのはお前も知っているだろう?
それで先輩は気を使ってくれてるんだよ」
前に一週間で二キロも痩せたことがあってさ、そう説明する。
「にいさま」
じぃっと、僕を見つめる。
「楢柴の血縁ともあろうお方が他所様の御厚意に縋り付くようなことはしないで下さい。
ひとつにはにいさま自体の品格を損ない、二つには相手方に迷惑となります。
今後一切、その『織倉様』には甘えぬようにしてくださいませ」
「ま、待ってくれ」
「なにか?」
「その、確かに先輩に負担させちゃってるのは申し訳ないと思うけど、
こういうのもコミュニケーションのひとつだと思うんだ。だから・・・」
――あ。
僕は言葉を止める。
綾緒から再び表情が消えていたのだ。
「にいさま」
冷水のような声が響く。
「にいさまは綾緒の云うことが聞けませんか」
「あ、いや・・・」
「にいさまは、綾緒の云うことに逆らうのですね?」
綾緒の纏う気配が変わる。
この時の――
この時の綾緒に手向かってはいけない。
僕はそれを知っている。
だから慌てて首を振った
「そんなことない、そんなことないさ。ちゃんと、綾緒の云う通りにする、よ」


120 :ほトトギす ◆UHh3YBA8aM [sage] :2007/04/28(土) 11:28:47 ID:mQwZBQ83
「ほんとう、ですか?」
「ああ、もちろんだ。やっぱり迷惑かけちゃいけないよ、な・・・」
「そう・・・・。わかって頂けましたか」
先ほどの気配が消えて、従妹はにっこりと微笑む。
「それで良いのです。それでこそ“綾緒の”にいさまです」
立ち上がり、僕の頭を撫でる。
「良いですか、にいさま。親交を持つ事自体は構いません。ですが親しき仲にも礼儀ありです。
他者様に凭れてはいけません。それが特に女性と云うならばなおさらです。
今後は一線引いてその織倉様とお付き合いして下さいませ。宜しいですね?」
「あ、ああ。わかったよ」
「では、綾緒との約束ですよ。その方に甘えず、誤解させてはいけませんので二人きりで
あうことも禁じます」
「誤解?誤解ってなんだ?」
質すると、僕を撫でる手が止まる。
「あや、お?」
「わかりませんか?ならばそれでも宜しゅうございます。
にいさまはただ――綾緒の云う通りにしていれば良いのです」
従妹は小指をだした。
僕は逆らえず、自分の指を絡める。

ゆびきりげんまん うそついたらはりせんぼん のます

綺麗な歌声が居間に響く。
げんまんとは拳骨を万回浴びせると云うこと。
違反者はとことんまで殴りつけられ、針を呑まされる。
つまり指きりとは、破ったら“殺す”と云う宣言なのだと、昔綾緒に聞かされたことがある。
僕の背筋がぶるりと震えた。
「明日先輩になんて云おう・・・・・」
微笑む少女を見ながら、心でそう呟いた。