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467 :真夜中のよづり5 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/05/21(月) 23:25:43 ID:vreY5nDW
 俺の腕をがっちりとホールドしたよづりを連れて、俺は学校までの国道沿いを歩いていた。
 朝の十時ほどの住宅街を抜ける道は、車の往来は数多いが歩く人というものは少なく、俺らの存在は際立っていたであろう。
 普通の格好で俺ら二人が歩いていたら仲の良い過保護気味の姉と反抗期の弟とかに見られると思う。もしくは仲の良い兄嫁と義弟といった感じか。って嫌だよ、兄嫁と義弟が腕組んで歩いていたら。
しかし、そんな想像を破壊し、この場から大幅に浮いているのがよづりの制服姿だ。なんつーか、恋人同士にも見づらい、なんとも変な組み合わせ。
 車で俺らの横を通り過ぎていくドライバーが全員俺らを見ているような気がして、なんとも落ち着かない。緑色のタクシーの運ちゃんが明らかに俺らの横を徐行して通っていった。
 ヘタするとよづりはコスプレだからな。不気味なコスプレ。しかもその格好で年齢とは不釣合いなほどの天真爛漫な笑顔がさらに不気味さを強くかもし出す。
「えへへ、学校ぉ。学校ぉ」
 そんな他人の目なぞ気にせずはしゃぐよづりが少し羨ましくも思う。
「友達、できるといいな」
 俺は連れ立って歩くよづりにそう言って笑いかけるが、
「ううん、友達はかずくんで十分だもん」
 対するよづりは満足げなセリフでこれだもんな。これから更正させようってのに、こういうことを素で言うから少し困ってしまう。これからだんだんと離していくつもりなんだけどな。
「かずくんとずーっと一緒でいいもん。他の人なんかいらない」
「いや、ほら。でもさ。学校は友達を作る場所だぞ? 俺だけでいいってわけにはさ……?」
「いいの。あたしはかずくんだけでいいの」
 そう言って、ホールドされた腕が強く締められる。そうなったらこれがまた離れられない。
 宣言された言葉の決意は固く、俺は眉をひそめる。なんだよ、一体。この俺への盲目的な信頼はなにがきっかけなんだ? 俺はただ迎えに来ただけなんだぞ?
 お前のことをちゃんと考えてたのはどちらかといえば委員長のほうだったんだぞ?
「かずくんだけでいいって……」
俺の心の中にはある種の不安が渦巻いて離れない。
 そして、俺の内心がよづりは透けて見えたようだ。
「……かずくん。やっぱりあたしと一緒は嫌なんだ……」
 ぎゅう。俺の腕によづりの細い指が食い込む。俺の腕をへし折りそうなほど思いっきり握り締めて、きちちちち……と歯軋りの音とともに俺に不安げな顔を向けた。
 目の奥に光る淀んだ光は俺に対する妄執と依存をおびて光っている。しかし、それと同時に俺に拒否されたら……という不幸な妄想を抱え込んでいるかごとくの表情もしている。
「ちげぇよ」
 今日の朝、俺が来なかったことにより、よづりは俺が居ないという恐怖を体験している。
 俺がそばに居ると言った事も、心の底では実は信じていないのかもしれない。だからこそ、こうやって俺を放すまいと腕を掴んで俺の顔色を伺っているのだ。
「そんなわけないだろ。一緒だよ」
「本当に?」
「本当だ」
 だから俺はそう言って、よづりの頭を撫でてやる。ぐりぐりと撫でる手のひらの感触がいいのか、よづりは眉間によった皺を緩めてまた百合の花のような笑顔にもどる。
「えへへ……」
犬みたいだ。俺はころころ変わるよづりの表情を眺めてそう思っていた。スキンシップをとりたがって飛びつくところもよく似てる。もし尻尾がついているのなら千切れんばかりに振っていることだろう。
「私、かずくんが好き」
 よづりが言う。
「好き、好き、好き、大好き」


468 :真夜中のよづり5 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/05/21(月) 23:26:39 ID:vreY5nDW
 俺はなんと返せば良いのだろう。俺より十歳も年上の同級生の告白。ストレートだが、まるで呪文のような囁き。
 というか、これは告白なのか? ほら、告白っていうのはもう少しムード作って良い雰囲気でやるもんじゃないのか? 場所も体育倉庫の裏とか、誰も居ない放課後の教室とか、あと……土手とかで。
 魔法で幻を見させられてるみたいに現実味が感じられない。俺は何も居えず、よづりの頭をただ撫でるだけだった。
「えへへへへへ、えへへへ……」
 よづりのおとなしい笑い声が俺の耳と心に刷り込まれていくようだった。
 と、突然。よづりが俺の腕を離した。ふわりと腕にかかっていた重みが消える。そして、なにかに向かって操り人形のように走り出した。
 とんとんとんとふらふら揺れながら走る彼女の後姿が、俺からどんどん遠ざかっていく。
「……お、おいっ。よづり。どうした?」
 俺も後を追うに走る。よづりの走るスペードはとても遅い。すぐに追いついた。その途端、よづりはスピードを落として……なにかにもたれかかるように、ガラス壁にひざまずいたのだった。
「どうしたんだよ、一体?」
「…………おなかすいた」
「は?」
 よづりがもたれかかっていたのは、洋風喫茶店のショウケースだった。ひざまずき、彼女の目線の位置には赤や黄色、緑のサンデーに様々なフルーツを乗っけた色とりどりのパフェの見本品がずらりと並んでいた……。
「そういえば、私。朝ごはん食べてないの」
 ……まぁ、あの惨状ならなぁ。ぐちゃぐちゃの部屋を思い出した。あれ、いくらか軽く掃除しただけだけどよかったんだろうか。
「だから……」
 よづりはひざまずいた格好のままこちらをむいて上目づかいの視線で俺を見据える。ばさりと長い前髪(昨日切ったが、それでもまだ長かった)を口元までだらんとさせてふるふると唇を光らせていた。
「かずくんもおなかすいてる?」
「……食べたいのか?」
「うんっ」
 子供か。
 俺は頭を押さえた。どこの世界に学校へ行く前に喫茶店でパフェを食う元引きこもりが居るんだ?



 意気揚々としたよづりに手を握られ、喫茶店に引っ張り込まれる。
 止めようとしたが、どうせすでに一時間目は遅刻だ。二時間目ももうすぐはじまるから、今行ったらちゃんと出席を取ってくれるのは三時間目からだった。別に皆勤賞を狙ってるわけじゃないし、俺はそのまま引っ張られてみることにした。
店内はけっこう広々としていて、4人がけのテーブルが7つもある。まだ開店して数分も経ってないのにすでにぱらぱらとお客がいた。モーニングか?
おそらくバイトであろう若い店員に案内されて、俺たちは4人がけのテーブルの席に座る。
 よづりが歳不相応な笑顔で案内された席に着くと。俺はよづりの正面の席に座った。よづりは早速店員から渡されたメニューを掴み、開いて二秒で間髪要れずに「抹茶パフェクリーム」と注文を入れた。
 多少寝ぼけた顔で案内していた店員も、ようやく俺たちの特異さに気付いたようだった。制服姿のよづりを見て、露骨に表情が変わる。すごい不審そうな目でじとりと、メニューの写真を見て溢れるよだれをずるずると啜っているよづりを見ていた。
「あ、それとジンジャエール!」
 慌てて俺はよづりから関心を外そうと、店員に大きな声で注文した。
 店員はやはり、よづりを見ながらも「かしこまりました」と頭を下げてテーブルから離れていく。
 そんなによづりが目立ちすぎるかと俺は思った。しかし、よく考えれば俺らはこの喫茶店の近くの学生だった。
こんな喫茶店が開店して間も無いような時間に、すぐそこの制服ブレザー姿の生徒二人が来ている状況って、店員からしてみればただの不良学生カップルにしか見えないんだよな。
 俺は厨房へ去っていく店員の後姿を眺めながら今日何度目かのため息をついた。
「………かずくん」
 ふと、よづりに視線を戻してみると。
 よづりがいきなり不安そうな顔でこちらを見つめていた。ひぃっと背中に冷たい汗が流れる。
申し訳なさそうに顔を歪ませているよづりはいまにも膝を抱えんとするようにこちらを虚ろに見ていた。
「かずくん。こんなところ来たくなかった?」


469 :真夜中のよづり5 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/05/21(月) 23:28:19 ID:vreY5nDW
「な、なんでさ?」
「さっきから、ため息ばっかりだもん」
 くそっ。何度も聞かれてたか。
「そんなことない」
「……私のこと、実は嫌い?」
 なんだろう。この問い詰められているような感覚は。
「そんなことんないって」
「……本当に?」
 よづりの表情が暗くなり、だんだんとあの家の時のようにきちきちと音を立てて歯を食いしばり始めている。
 彼女が震える指で冷たいお冷を掴んだ。それを口元まで運び、ちびりと飲むと見せかけて……そのままテーブルの反対側に置く。そして、両手をふちにかけると、少し首を曲げて淡く揺れる瞳で、俺の真意をたしかめるように顔を寄せてくる。
 テーブルはそんなに広くないため、よづりの顔がテーブルの中央を超えて俺の鼻に髪の毛の毛先が触れそうなほど近づいている。目の奥に光る光は暗く、何かを呼び覚まそうとしているようだ。
「本当だよ。俺、ここ初めてきたからさ。なんだか落ち着かなくてさ。ただそれだけ…」
「………」
 俺はなんとか冷静を保って、青白いよづりのひきつった表情を貼り付けた頭を先ほどのように優しくなでてやる。
 さっきまで幼児っぽかったのに。ふとした瞬間にこいつは年相応の妖艶さを持って俺の砦に攻め込んで来る。
「………えへっ」
 おっ。
「……………えへへへへへへ」
 よづりの表情が、ころりと笑顔に変わった。俺は胸をなでおろす。
「えへへ。じゃあかずくんは私のこと好き?」
 そうして無邪気に投げてくる答えづらい質問。
「……えっと」
 さぁ、俺。どうする? どう返す? カードが出てきたぞ。「転職」「独立」「焼死」。なんのCMだよ一体!
まずひとつ。こちらも「好きだ」といえば波風は立たない。ただ、それは自分の気持ちに嘘をつくことになる。俺はそんなのは嫌だ。それに最後には絶対こいつ、よづりのためにならない。そんな気がする。
 じゃあ、「好きじゃない」と答えるか? 答えたらこいつがする反応は何が予想が出来るだろう。もしかしたらまた暴れだすかもしれない。いや、でも朝もあんなに暴れていたんだから、意外ともう暴れる体力は残ってないかも……。
「やっぱり……」
「好きだよ」
 よづりの顔がまた首切り人形のように暗黒に変化しそうになって、焦って思わず、口から出してしまった。
 げっ。ダメだ。俺、よづりを怖がってどうするんだよ! それじゃあ意味ないだろ!
「えへへへへへへへ、えへへへへ、えへっえへへ……」
 よづりは頬を桜色に染めて身悶えていた。その笑顔はまるで恋する中学生のようで、先ほどの黒さは微塵にも感じられない。
 ……俺、怖がっている場合じゃないだろっ。なに喜ばしてるんだよ……。
 だが、ふと悔しがる自分の感情に俺は違和感を覚える。

 まてよ。俺は最終的にこいつをどうしたいんだ? 更正させるって決めたのは良いが……。具体的にはどうやって更正させる? というか更正させた結果が俺には想像がつくだろうか?
 ………そうだよ。考えなきゃいけないことは山積みなんだよ。解決すべき問題は沢山ある。
くそっ、俺は学校の成績もそんなによくないんだぞ! 三次関数どころか二次関数も結構危ないんだぞ。俺。スピークのスペルが出てこなかったこともあるんだぞ!?(sp……えーっとkはあったのは覚えてるんだよ。あとはeと……c?)
 とりあえず。とりあえずだ。まずはこいつのことをイロイロと調べなきゃいけないな。委員長はもちろんのこと、先生や先輩たち、もしかしたら二十八歳のOBにも話を聞きに行く必要があるかもしれない。
 そうだ、そもそもなんでこいつは引きこもってたんだ?
 二十八歳で高校生である理由も知りたいところだ。もし10回留年していたとしたら俺とヤンキー達の大先輩である意味尊敬すべきようこそ先輩になるんだろうか。いや、ならんな。
「お待たせしました。抹茶パフェクリームとジンジャエールです」
「わーい」
 俺らのテーブルに並べられる、大きな緑色のパフェと黄色のジンジャエール。
「いただきまーす」
 よづりはパフェが出てきた途端、きらきらと目を輝かせてじゅるりと溢れるよだれをすする。ついてきた長いスプーンを右手に取り、テーブルに備え付けられている大きいスプーンを左手に持った。
 そして、器用に二つのスプーンでもりもりと抹茶クリームを頬張る。
 両手装備かよ。器用なヤツだ。
 俺はしばらくの間、ストローでジンジャエールを飲むのを忘れ、両手を上手く使ってパフェを食うよづりに目を奪われていた。
 そんな俺の視線に、よづりはふっと気付いたのか。パフェに向けられていた視線をこちらに向ける。


470 :真夜中のよづり5 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/05/21(月) 23:29:02 ID:vreY5nDW
「おいしいよ。これぇ」
 そう言って、くすりと笑うとよづりは長いスプーンで抹茶クリームを掬うと、俺に向かって差し出す。
 俺の顔、特に口元に向かって伸ばされるスプーン。この形は間違いなく。
「はい、あーん」
 やっぱりかぁ……。
「あーん。美味しいよ」
 美味しいといわれても、俺はその抹茶クリームが業務用アイスにただ生クリームとコーンと缶詰のあずきで作られた原価を聞いたら驚きそうなほどお粗末な値段のシロモノだと知っているし……。
 いや、それはいい。ただ、こういうのは好きあったものどうしがラブラブっぷりを見せ付ける目的でやることであって……。
 って、俺さっき「好きだ」って言っちゃってるんだった。しまった、今の俺らはまさに「好き合うものどうし」じゃないか。
「……あーん」
「えへへっ。なんだか夫婦みたいだね」
 ……この寒気は抹茶クリームの冷たさのものではないのかもしれない。俺は二十八歳のよづりが笑顔で言った一言に妙なリアルさを感じてしまった。
 ああ、くそ。なんだか泥沼だ。いままでずっと、こいつの、よづりのペースで引っ張られている。
 このままじゃどんどんよづりを甘えさせてしまうだけだ。
 なんとか。なにか策を練らないと。なにか良い方法を考えないと。なにか、なにか。
いやそれよりも。悩むよりも、今この現実で俺がすべきことは一つ。
「間接キスだね。えへへ、かずくんが食べたスプーン……。 えへ、えへへ……じゅるり。じゅる。じゅるる、じゅるるるる。えへへ、かずくんの唾液の味がするよ……。すっごく美味しい……。じゅるるるる……」
 目の前で俺が食べたスプーンを美味しそうに音を立ててしゃぶるこの馬鹿を止めることかな……。
(続く)