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8 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/28(月) 01:12:24 ID:+PHgdO5s
 僕の今までの人生で、女の子との待ち合わせというものをしたことが何度かある。 
 もっとも、たかが18年程度しか生きていないわけだから、これから送るであろう
人生の中で女の子と待ち合わせの約束をすることもあるだろう。
 確信としてではなく、「そうであったらいい」とでも言うべき希望を込めての推測だ。

 人生初の待ち合わせの相手は、さつき姉だ。
 いつごろに、どんな約束を結んだとかどこに行こうとしていたのか、といったことまでは
覚えていないけれど、さつき姉と出かけたことはあった。
 僕とさつき姉は一緒にいる期間が長すぎた。
 正確ではないけど、12年以上は近しい関係でいた。
 
 僕たち2人の間は恋愛感情で結ばれているわけではなく、2人が一緒にいることが
当たり前で、理由も無く関係が成立していた。
 惰性で結ばれている関係ではなく、逆に新鮮なものを求めて行動しようとしても
僕たち2人が離れることはなかった。
 僕がさつき姉以外に興味をひかれる対象が現れるまでは。

 僕は中学校2年生のころ、1人の女の子に惚れてしまった。
 当時僕が抱いていた感情はどうしようもないほどに巨大で、さらに刺激的過ぎた。
 授業中にその女の子のことを思うだけでため息が吐き出され、教科書をめくることを
忘れるほどのものだった。
 心を締め付けるもののくせに、上手いところで加減をするから追い出すこともできなかった。
 僕の恋愛感情は想うだけのものから、行動することへと変換された。

 好きな女の子に興味を抱いて欲しくて勉強をしたし、明るく振舞って話しかけもした。
 他にも思い出したくないほど子供っぽい、馬鹿なこともしでかしたりした。
 結果的には高校1年生の冬に僕の恋は成就した。

 僕と彼女は週に1回デートのために待ち合わせをした。
 待ち合わせの場所は、学校の近くにある小さなお店の前だった。
 2人で一緒に歩いて買い物に行ったり、散歩に出かけたり、公園でお弁当を食べたりした。
 だけど、ある日僕が彼女を自分の部屋に連れて行ったせいで関係がおかしくなりだした。
 さつき姉は僕がいないにも関わらず僕の部屋に上がりこんでいた。
 僕の彼女はさつき姉を見て、すぐに帰った。

 彼女がどんな感情を抱いていたのか完全には把握できないけど、やきもちをやくと同時に
失望したのだろうと僕は思う。
 きっと、さつき姉が僕の部屋にいたことのフォローをしっかりしていれば大好きだった恋人を
失わずに済んだのかもしれない。
 今となってはどうしようもないことだ。
 僕が女々しくも泣いてしまったことだってどうしようもないことだ。

 泣くこと以外にどうすればよかったのか。
 質問を聞いてくれる相手は周りにいたけど、僕が納得できるような答えを返してくれる相手が
いたのかどうかは知らない。
 いたとしても、僕はやっぱり聞かなかったんだろうけど。



9 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/28(月) 01:14:31 ID:+PHgdO5s
 朝の7時だというのに、日差しは夏らしく強かった。
 アパートの前に広がる駐車場で山川を待ってからすでに10分が経過している。
 部屋の中で待っていてもよかったのだけど、眠ったままのさつき姉を見て山川がなにを言うか
怖かったので、仕方なくこうやって直射日光を浴びて待っているのだ。

 今日は僕の住んでいる町の夏祭りが行われる。
 夜8時になれば数千発の花火が打ちあがるらしい。
 実は、僕は花火大会というものがあまり好きじゃない。
 夏祭りにいくのは結構好きだ。太陽の光が差さない時間帯に性別も送ってきた人生も違う
人たちが一箇所に集まってそれぞれに楽しむ。
 路地の両脇に並ぶお店はたこ焼き、たい焼き、カキ氷、わたあめ、おもちゃ、かた抜きなど
さまざまなもので営業をしていて、活気がある。
 僕はそんな人々の中を歩いたり、買い食いをしたりするのが好きだ。

 けれど花火大会はなぜか好きになれない。
 きっと人が集まりすぎることが好きになれない原因だろう。
 他には一緒に見に行く人がいないことが原因なのかもしれない。
 でも、どうだっていいことだ。
 人から誘われた場合には僕も花火を見に付き合うのだから、僕にとっては花火大会はその
程度の存在でしかないのだ。

 右から、浴衣を着た女性が歩いてきた。
 今日は地元で花火大会で行われるということで浴衣を着た女性がいてもおかしくない。
 しかし、朝の7時から浴衣を着ている女性というのはなかなかいない。
 なかなかいないというのは、いるということを否定しているわけではない。
 広い世の中だろうと狭い町の中だろうと、いることはいるのだ。
 山川のように朝から浴衣を着ている人間は。

「おはよう、北河君」
「おはよう、山川」
「どうかな? この浴衣、どこか変じゃない?」
 山川は両腕を上げて1回転してみせた。
 浴衣は頭上に広がる青空を一段階濃くしたような青で、金魚の柄がプリントされていた。
 帯は朱色で、山川の細い腰に少しだけ厚みを持たせていた。
 よく似合っている。けれど、それ以上に気になることがあった。

「髪、切った?」
「おお、やっぱり気づいたね。髪型を変えたことに気づいてくれるのは君くらいだよ」
 肩を通り過ぎるまで伸ばしていた髪をばっさり切って、耳が見えるくらいの長さに
していれば誰でも気づくだろう。
 理由はだいたい想像がつく。でも、聞くのはやめておこう。

「短い髪も浴衣も、似合ってる」
「……ほんと、北河君の優しさが身にしみるよ。持つべきものは友達だね」
 僕もそう思う。友人の少ない僕が言うのも変だろうけど。



10 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/28(月) 01:16:39 ID:+PHgdO5s
 夏祭りは、役場の下にある広場で行われる。
 広場に着いたのは8時ごろだったけど、近くにある駐車場にはまばらに車が出入りしていた。
 屋台や催しが行われる舞台の設営で広場は大忙しのようで、ダンボールを抱えた人間や
クーラーボックスを持った人が走り回っていた。

 会場の入り口に立つはっぴを着た男性に聞いたところ、夏祭りのプログラムは9時から
行われるらしい。時計を見ると8時20分になっていた。まだまだ時間がある。
 山川が手に持ったうちわを頭の上にかざしながら、喋りかけてきた。
「どうしようか」
「山川はどうしたいんだ? 僕は近くにある図書館に行って本を読みたいんだけど」
「私は小説を読む気分じゃないな。そうだな……」

 山川は歩きながら腕を組み、頭上を見上げた。
 つられて僕も空を見上げる。太陽から注がれる日光は、時間が経つごとに強くなっている。
 とてもじゃないけど、外でぼんやりしながら過ごすには適さない日だ。
「おお、そうだ!」
 首を下ろすと同時に山川がぱん、と音を立てて両手を合わせた。
「今からコンビニに行こう」
「僕はそれでいいけど、その後は?」
「大量にお酒を買おう」
「え?」
「北河君にお酒を持ってもらって、私の家で飲むとしよう。うん、それがいい」

 反論する気は起こらなかった。
 昨日山川に起こった出来事を考えれば、むしろ酒を飲んだ方がいいのかもしれない。
 未成年者だから、というのは僕たちの行動を邪魔する要因にはならない。
 山川やその他の数人を交えて飲んだことは何度もある。
 2人だけで飲む、というのは未だ経験なしだけど。

 タクシーを拾い、コンビニで6本入りのビールを3パックと大量のお菓子を買い込み、
山川の自宅へ向かった。
 僕の住むアパートよりも新しいアパートで、家賃が少し高いけどそのぶん中は広かった。
 そして、意外なことに散らかってはいなかった。

 買ってきたポテトチップスとチョコレートをテーブルの上に広げて、つまみながらビールを飲んだ。
 僕が飲んだ本数は4本。残りは全て山川が飲んだ。
 4本飲んだ時点で僕は飲むのをやめてお菓子をつまむことに専念したのだけど、山川は
台所からビールを持ってきて、また飲んだ。
 結果としては僕がお菓子を全部食べて、山川がビールを20本飲んだ時点で眠りに落ちた。

 山川の頭の下に枕を敷いて、僕は寝顔を見つめた。
 口からよだれを垂らし、頬にビールの跡を付けて、目からは涙を流していた。
 山川が着ている浴衣はポテトチップスのカスが付いていて、ビールをこぼした跡が残っていた。
 僕には山川の考えはわからない。
 また、別れた男性に抱いていた気持ちも分からない。
 ただ、山川の行動はこれでいいんだと思った。



11 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/28(月) 01:17:59 ID:+PHgdO5s
 山川が目を覚ましたのは、夜の7時だった。
 僕は山川にまだ寝ていたほうがいい、と言ったのだけど、花火を見に行くと言って聞かなかった。
 仕方なく山川の肩を支えてタクシーに乗せて、役場へ向かった。

 腕時計の針が8時を1分過ぎたころ、1発めの花火が上がった。
 続いて大きな大輪の花が夜空に咲き、同じものがもう一度上がった。
 打ち上げ花火の次はパチパチという音と共に金色の光、赤と緑と黄色の光が無数に打ち上げられた。
 僕と山川は役場へ向かう階段に座りながら、周りにいる人たちと同じように夜空を照らす
花火の競演を見つめた。

 打ち上げ花火が再び打ち上げられる頃になって、山川が口を開いた。
「綺麗」
「綺麗かもしれない」
「私、綺麗?」
「僕の主観では、綺麗なほうかな」
「あの花火と、どっちが綺麗?」
「それを僕に聞くのは間違いだ。僕には花火が綺麗かどうかよくわからないから」
「なんで?」
「僕もよくわからない。たぶん、花火を綺麗だと思う感性が育っていないのかもしれない」
「ふーん」

 山川はどうでもよさそうに言うと、僕の肩にもたれてきた。
 肩の上に山川の耳が乗っていたが、ビールの酒臭さのせいでムードもへったくれもなかった。
「こんなふうにしてて、私達どう思われるかな?」
「恋人だと思われるかもね」
「だよね。本当は、今日一緒に彼氏とくるはずだったんだけどさ」
「うん」
「なぜか、彼氏の代わりに北河君と来ているわけですが、どうします?」
「なにを?」

 山川は僕の肩から頭を離すと、顔を寄せてきた。
「キスでもしよっか」
「君に僕に関する情報を教えてあげるよ」
「なになに?」
「僕は友人と酒を飲むのは好きだけど、酒臭い匂いをさせた友人とキスをするのは嫌いだ」
「ちっ、この意気地なしめ」
「君は彼氏に捨てられたけどね」
「ふん」

 山川はそう言うと、空を見上げた。
 ただ、首の角度からいって花火よりも上を見つめているように見えた。
 僕は、山川の顔から目を離して花火を見つめた。
 大きな音を立てられて、付近に住む住民は迷惑じゃないのかな、と思った。



12 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/28(月) 01:19:59 ID:+PHgdO5s
 花火の最後の一発が上がってから、山川を送っていくことにした。
 ベッドに山川を寝かせてからまた変なことを言われたけど、無視して部屋の電気を消した。
 山川から受け取った合鍵で鍵をかけて、アパートの敷地から出る。
 家族連れや酔っ払ったスーツ姿の男性、カップル数組とすれ違った。
 地面が暗くて、酔っ払った足では上手く歩くことができなかった。

 タクシーで自宅のアパート前に到着したのは、11時ごろだった。
 201号室の明かりは、なぜかついていなかった。
 鍵を開けて部屋の中に入り、電気をつける。
 居間のテーブルの上にはビールの缶とお菓子の袋が大量に広がっていて菓子くずが
散らばって、畳の上にビールをこぼした跡まであった。
 まるで山川の部屋のごときありさまだった。

 さつき姉は畳んだ布団の上に座って、壁にもたれて目を瞑っていた。
 僕の部屋を散らかした犯人がさつき姉であることは間違いない。
 一言二言文句を言ってやろうかと思ったけど、起こすのもなんとなく気が引けるので、
電気を消し座布団を枕代わりにして畳の上に横になる。

 酒がいい感じに回っていて、上手いこと眠りにつけそうだった。
 けれど、さつき姉が僕に喋りかけてきたことで目を覚ますことになった。
「ねえ、惣一。どこに行ってたの? 何も言わずに」
「書置きしてたじゃないか。友達と花火大会に行く、って」
 寝返りをうってさつき姉の方を見る。
 暗くて顔までは見えなかったけど、壁にもたれたままの姿勢でいるようだった。
「さつき姉は、なんでビールなんか飲んだんだよ。しかもこんなに散らかして」
「ん……ごめんなさい。明日、ちゃんと片付けるから」
「忘れないでちゃんと片付けてね」

 さつき姉の無言を肯定の意思と受け取った後、気になることがあったので聞いてみた。
「今日はさつき姉、どこに行ってたの」
「えーと……どこ行ったんだっけ。あ、花火を見に行ったんだった」
「そうなの? それなら電話してくれれば一緒に見られたのに」
「ううん、いいのよ。惣一の邪魔するのも気が引けるし、花火は見られたから、よしとするわ」

 さつき姉の体が動いた。
 壁から体を離し、布団の上に横になったようだった。
「ねえ。花火、綺麗だった?」
 過去形ではあるけど、山川と同じ種類の質問だった。
 だから、山川に返したのと同じ答えを返すことにした。
「綺麗だった、かもしれない」
「じゃあ、もうひとつ聞くけど……私、綺麗?」

 また山川と同じ質問だった。
 なんと答えようかと考えているうちに、さつき姉の寝息が聞こえてきた。
 僕は考えるのをやめて、もう一度寝返りを打って眠ることにした。