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60 :『首吊りラプソディア』Take7 [sage] :2007/05/31(木) 15:00:45 ID:9HyouwZw
「虎吉殿、さっきから唸ってどうしたでござるか?」
「ん?」
 フジノが作ってくれた弁当を食いながら、俺は必死に考えていた。どこかで見たことが
あるとか、既視感とかいう類のものではない。過去に、それに何度でも見たことがある筈
なのだ。絶対に、それだけは間違いないと判断出来る。そこまでは出来るのに、答えは喉
まで出てきているのに、そこから先の部分が思い出せないのである。
 接点を幾つか考えてみた。
 例えば昔、近所に住んでいた。という線はどうだろうか。否、それは有り得ない。近所
に住んでいた者の顔は殆んど覚えているし、立花という名字も存在しなかった。少し年齢
が離れているが、俺とサキ程度の差であるとしたら間違えたり忘れたりする筈がない。
 では、過去に会った罪人の身内ならば。
 それは益々有り得ないと思う。管理局は仕事柄、罪人が身内に居た場合就職することは
不可能だ。娑場の組織である警察と似たようなものだ。それに国がきちんと調査を行い、
それで採用かどうかを決めるので誤魔化すことなど不可能だろう。
 ならば、専門学校は。
「ん?」
 そう言えば、昔、似たような娘が居たような。
「思い出した!!」
 あいつは多分、専門学校の後輩だ。今まで忘れていた、と言うよりも気付かなかった。



61 :『首吊りラプソディア』Take7 [sage] :2007/05/31(木) 15:02:02 ID:9HyouwZw
 学年の差が開いていなかったので同時に在籍することは無かったがプログラミング技術
の講習のときにOBとして呼ばれた際、俺はサキと何度も会っていたのだ。その当時サキ
の名前を知らなかったのは、今にして思えば不思議なことだと思う。何しろ毎回俺の講習
が終わった後に突っ掛ってきていたのだ、反抗的な目を今でも覚えている。
 今までずっと気付かなかったのは、その目が感情を消していたからだろうか。特徴的な
部分が消え、当時かけていた眼鏡も無くなり、地味に彩っていたジャージも今では見事に
キマったスーツへと変わっている。まるで別人のようだ、と思う。今とて、先程の私服姿
を見ていなかったら気付かなかった。もしかしたら永遠に気付かなかったかもしれない。
随分と酷い話だ、と思う。喧嘩ばかりだったが、それでも一緒に飯を食ったり遊んだりと
結構仲良くしていたと思うのに。そんな相手に気付いてやれなかったなんて。
「なぁ、フジノ。例えばの話だ。ある友達同士二人が何か事情があって暫く離れててさ、
その間に片方の外見が別人みたいになったとするだろ。そのせいで気付けなかったなら、
その姿が変わった奴は悲しむか?」
 言うまでもなく、俺とサキのことだ。因みに俺は悲しいと思う。何だ、俺達の繋がりは
この程度にしかなっていなかったのだな、と。女の心理では変わってくるかもしれないと
思いフジノに尋ねたのだが、やはり人間同士あまり変わらないようだ。フジノは腕を組み
視線を下げると、溜息を吐いてこちらを見た。



62 :『首吊りラプソディア』Take7 [sage] :2007/05/31(木) 15:03:41 ID:9HyouwZw
 数秒。
「その事情が何かにもよるが」
 悲しむでござろうなぁ、と一言。
「早い内にサキ殿に謝った方が良いでござるよ」
 ぼかしたつもりだったのに、いきなりバレてしまった。無理もないか、サキを見るなり
唸り出して、それが終わってからの例え話だ。冷静な目で見れば、こんなものは誰にでも
分かるだろうということに気が付いた。それだけ後ろめたく思っていた、ということにも。
「やっぱり怒るか」
「拙者がサキ殿の立場だったなら怒り心頭、悲しみ燦々でござる」
 そんなにか。
「もしかしたら、ズバッとやってしまうやもしれぬ」
 それはお前が剣士だからだ。
「サキ殿の場合は空気弾で圧死でござるか」
 何故そんなに残酷なことを言うのだろうか。
 だが悲しいことに、俺が無惨にもやられる光景が簡単に想像出来てしまった。カオリに
最近やられまくっているから、それの影響もあるのだろう。しかし何より、サキが発する
独特の威圧感のようなものに勝てる気がしないのだ。例えは悪いが、まるでSSランク罪人
のような圧倒的なものを見せるときがある。
 それに比べ、
「俺も落ち着いたもんだ」
 悪いことだとは思わないが、たまに鏡を見ると、酷くふぬけていると思うことがある。
昔、と言っても十年も経ってはいないが、まだ管理局に入ったばかりの頃は獣のようだと
周囲に言われていた。血筋が原因なのか短気だったのは自覚していて、管理局に入る前は
当時幼かったカオリを怯えさせない為、苦労して乱暴な面を抑えていたことも覚えている。
今はそのようなことをせずとも、自然に過ごしているが、
「年かねぇ」



63 :『首吊りラプソディア』Take7 [sage] :2007/05/31(木) 15:05:46 ID:9HyouwZw
「余計な部分が消えただけ、でござるよ」
「そうか?」
 渡された茶を飲みながら、首を傾げた。
「虎吉殿は元々、優しい人でござる。某達が付き合うきっかけとなったときのことは、今
でも覚えているでござるよ。あれが無ければ今頃、某は墓の中でござる」
「『邪』のときか。あれは俺が、そっち系統を専攻してたからだ」
「照れなくても良いでござる。確かに技術も大事でござるが、それ以上に言葉が」
「あ、虎吉ちゃーん!!」
 フジノの言葉を遮るように、カオリの言葉が聞こえてきた。笑みを浮かべ、元気に手を
振りながら駆け寄ってくる姿は子犬のようだ。元々ドジなのにそんなことをしたら危ない
と昔から注意をしているが、それを全く気にしていないのは何故だろうか。
「虎吉ちゃ……ひゃぁ!!」
 案の定カオリは転び、背後を歩いていたサキが無表情で手を差し延べる。カオリは手を
掴んで起き上がると、笑みを浮かべながら頭を掻いた。あまりにも穏やかな光景に、つい
口元が緩むのを自覚する。こうした時間が、いつまでも続けば良いのだが。
「ほら、先輩が視姦するから」
 これだ、いちいち悪口を言ってくるのだ。
 だが昔のことを思えば、それも大して気にならなくなった。
「なぁ、サキ。もしかして俺のことを先輩とか言うのは、俺がOBだからか?」
「今頃気付いたんですか?」
「本当にすまん。と言うか、さっき思い出すまでお前のことを忘れてた」
 無言で空気弾を撃たれた。
 一発目を避けたものの連続で撃たれ、とうとう五発辺りで脇腹に当たる。威力は手加減
してくれたのだろう、骨にまでダメージが来ることは無かったが、肝臓が悲鳴をあげた。
「し、仕方ないですよ、サキさん。あたしも今の格好を見たときに気付きませんでしたし」
 カオリ、ナイスフォローだ。



64 :『首吊りラプソディア』Take7 [sage] :2007/05/31(木) 15:08:08 ID:9HyouwZw
「でも先輩の前では今の姿でしたよ?」
 そう言われれば反論出来ない、カオリもフォローは不可能と判断したのか苦笑を浮かべ
露骨に視線を反らされた。再び怒りに火が点いたのか、サキは更に空気弾を撃ってくる。
心なしか威力が上がってきている気がするが、気のせいだと思いたい。背後からの着弾音
が激しいものになっているが、これも幻聴だろう。
「んな訳ねぇ!! サキ、すまんかった!! 堪忍してくれ!! フジノも早く『邪』を!!」
「いや、ここは手を出さないのが筋でござる」
 そんな筋はドブにでも捨ててほしい、俺は今にも死にそうなのだ。フジノが言った圧死
という言葉も、あながち冗談で済まないレベルになってきている。弾などはもう、空気が
歪んで陽炎のようになっているのだ。兄貴や親父ならともかく、俺などは一撃で消し墨と
なってしまうだろう。圧死の前に、こんがりとしたウェルダンになる。
 これは不味いと判断したのか、漸くフジノが動いた。『邪』を抜くと途端に圧縮された
空気が霧散し、稼働を停止させられた指輪が高い音をたてて余剰熱量を放出する。
「助かった」
 空気が美味い、例え先程まで凶器になっていたものだとしても。
 深く呼吸をした後、飲みかけだった茶を飲むと気持ちも落ち着いてきた。
「フジノ、俺はお前より先には死なないからな。だから安心して生きろ」
「今更格好付けても遅いのではござらぬか?」
 告白のときと同じ台詞だったが、フジノは複雑そうな顔をした。
 沈黙。
 強い視線を感じて振り向けば、何故かカオリがこちらをじっと見ていた。
「何か虎吉ちゃんとフジノさん、まるで恋人みたい」
「そうですね」
 言ったつもりだったが、うっかり忘れていたらしい。思い返してみれば、同僚の剣士と
しか紹介していなかったような気がする。管理局の中では皆が知っているので失念をして
いたが、こいつらはそれを知っている筈がないのである。サキは新人だし、カオリは会う
こと自体何年ぶりなのだ。
 口にするのも照れがあったが、黙っておく程のものでもない。
 俺は咳払いを一つして、
「みたいも何も、付き合ってるぞ?」
 直後。
 カオリは目を丸くして、サキすらも珍しく驚いたような表情をして、
「「嘘ォ!?」」
 声を重ね、絶叫した。