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211 :すりこみ [sage] :2007/06/06(水) 10:23:22 ID:CEzbNnHt
「ねぇ、春樹君。君の家に遊びにいってもいいかい?」
「…それはなんの冗談だ?」
「冗談?僕が君に冗談を言ったことがあるかい?」
「…いや…覚えがないな。」
気がつけば小泉八雲…いや、小泉八雲の姿をした香住が俺の家の前に立っていた。
「だろ?まぁ、この姿で居るのには訳があるんだけど…君にならわかるだろ?」
「…ああ」
「それじゃぁお邪魔するよ。あはは…なんだかドキドキするなぁ」
まるで本物の八雲がそこに居るように思えるほど、香住の立ち居振る舞いは八雲のそれとまったく同じだった。
「夏海ちゃんは今頃、駅前のスーパーで買い物だね。帰宅はおそらく5時半頃かな…」
香住は壁掛けの時計を見ながら独り言のように呟いた。時刻は4時8分を指していた。
「君の部屋に行くのがいいのかい?それともこの場所でも問題はないのかい?」
「部屋に行こう…」
「ん…なるほど…了解した。」
いつもと変わらないにこやかな笑みのまま、香住は俺の後ろをついてくる。
まるで本当にそこに八雲が居るような気分にさえなってくる。
「へぇ…思った以上に整理されていて綺麗な部屋だね…」
香住は遠慮なくベッドに腰をかけた。
俺はしかたなく、椅子を引っ張り、背もたれに身体を預けて香住と向かい合った。



212 :すりこみ [sage] :2007/06/06(水) 10:26:17 ID:CEzbNnHt
「そんなことを言いに来たわけじゃないのだろ?今は…付き合えないと
…この家には近づくなといったはずだ!」
香住はようやく八雲の仮面を外し、柔らかい笑顔のまま
「はい、わかっております。私もまだ春樹さんと付き合えるとは思っておりません。」
そんな風ににっこりと微笑んだままベッドに寝転ぶ香住。
「ですから、今日は色々と確かめに参りました」
「何を…確かめに来たんだ?」
「藤岡冬彦…春樹さんのお父様ですが、5年前から行方不明。生きていれば45歳。
職業はサラリーマン…で間違いありませんか?」
「ああ…」
「冬彦という方は、見た目はよろしいのですけど、その中身に多少…難のあるお方で
…女癖がお兄様と同じく来る方は拒まない性格だったそうです。
その際に春樹さんがお出来になったそうです。」
「…それで……?」
「5年前に冬彦という方が行方不明になられたときはその女癖の悪さから、
新しい女と駆け落ちした…と考えられたそうで、現在に至っても行方不明…なのですが…」
香住は言葉を区切り、俺の顔を見つめて…
「私はそうは思わないのです。だって…春樹さん…」

「あなたが冬彦さんを殺した……そうですよね?」

「……」
俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、否定と受け取ったのかはわからない。
だが、そんなことはどうでもいいというように香住は淡々とした口調で言葉を続けた。



213 :すりこみ [sage] :2007/06/06(水) 10:28:09 ID:CEzbNnHt
「冬彦さんのことをさらに調べると…ある特殊な性癖の持ち主だった可能性が浮かび上がるのです。それはペドフィリア(小児性愛)の可能性です。」
…香住が小児性愛なんて言葉を使うなんて意外だった…いや、八雲なら使いかねないか…
香住と八雲…こいつはどっちなんだ…いや…今はそんなことはどうでもいい…
「冬彦さんが小児性愛の代償行為として晶子さんと結婚なさったのであればある意味…理性的な行動と考えられなくもないのですけど
…私はある仮説…というよりも直感なのですけど…冬彦さんが晶子さんと結婚なさった決定的な理由
…それは夏海さんにあったのではないかと考えているのです。」
「…何故そう思う…」
「女の感…といいますか…春樹さんと夏海さんを観察してみると何となくそんな風に感じるのです…」
「……」
「夏海さんの中身は様々なコンプレックスの集合体…ファザコン・ブラコン・ユディットコンプレックスが混ざり合った歪んだ感情。
夏海さんは春樹さんのことを愛している。
でも、心のそこでは男というものに怯えている…
それはおそらく…春樹さんと冬彦さんの面影がだんだんと重なってきているからではないでしょうか…」
「……」
「だから、夏海さんは春樹さんのことを好きだとしても直接的に行動を…同じ布団を共にしながら春樹さんを誘惑できない
…いえ、誘えないのでしょうね。もし、そういう関係に至っていれば…今はつきあえない…あなたはそんな曖昧な言葉は言わないでしょ?」
「……」
「にも拘らず…夏海さんは春樹さんを取られることを極端に恐れている…まるで春樹さんが居なくなると冬彦さんが戻ってきてしまうかのように
…くすくす…
春樹さんにとっては生殺しの状態ですよね。
夏海さんは身体を許さない…
なのに、他の女が春樹さんに近づくことを許さないだなんて
…くすくす…
本当に酷い仕打ちですね。」
「……」



214 :すりこみ [sage] :2007/06/06(水) 10:30:30 ID:CEzbNnHt
ベッドに仰向けに寝転がり天井を見上げたまま、
香住は突然思い出したかのように口を開いた。
「そういえば菊池裕子さん…行方不明だそうですね?彼女を殺したのは…どちらなんですか?」
「どちら…?」
「はい、夏海さんですか?それとも…春樹さんですか?」
「何故…そう思うんだ?」
「菊池さんは春樹さんに好意を持っておられたそうです。だから夏海さんがそれをもし、何らかの形で知ったとしたら…
…例えば、家に遊びに来た菊池さんの口から聞いたりしたら…菊池さんはただじゃすまないでしょうね…。」
「そうじゃない!何故…なんで俺に菊池を殺さなきゃならない理由があるんだよ!」
自分の声が部屋の中にこだまする。息が荒い…くそ…くそ…くそ…。
香住は微かに不思議そうな顔を見せると
「春樹さんが菊池さんを殺す理由ですか?そんなのは決まっているじゃないですか」
香住はにっこりと微笑みながら

「そうしないと夏海ちゃんが菊池さんを殺したことになっちゃうじゃないですか。」

と、まるでその場に居合わせたのだといわんばかりに…
まるで俺の心を見透かすように…
「ですから…私は春樹さんの言葉…『今は…』というのは夏海さんが生きている間は
ずっと…そう理解しています。」
そんなとんでもないことを、平然と俺に言いやがったのだ。



215 :すりこみ [sage] :2007/06/06(水) 10:32:34 ID:CEzbNnHt
「じゃぁ…お前も…お前もあいつらみたいに夏海を殺そうとしているのか…」
「私がそんなことをするわけないじゃないですか…」
「じゃぁ…あいつらは一体なんだったんだよ…」
「一之瀬さんたちですか?…あの人達は兄を愛しておられた方ですから…
きっと間違われてしまったのではないでしょうか…いえ、兄はきっとわかっておられなかったのでしょう」
「…間違えた?わかっていなかった?」
「ええ…決して夏海さんに手を出してはいけないってわかっていなかったんです。
だからお亡くなりになられたのですよね?」
「………」
「兄が私に手を出す何人にも容赦しないのと同じように…
春樹さんは夏海さんに手を出す何人も許さない…
夏海さんに手を出す者は殺されて当然…いえ、寧ろ殺すべき害虫…
そう…壊れているのは夏海さんだけじゃない…
寧ろ、夏海さん以上に壊れているのは春樹さんです。そのことを兄も理解していなかったんです。」

「ですが、いかがでしたか?プレゼント…喜んでいただけましたでしょうか?」
「…なにがだ…」
「電話…致しましたでしょう?夏海さんを誘拐、拉致しようとする不届き者が居ると…」
「……」
「一之瀬さんたちは二階堂、四谷、五代の三名を殺したのが夏海さんだと思っていたようですから
…きっと油断なさったのではないでしょうか?あの方たちの心意気は素敵なのですけど…
殺すことに関しては初めてだったようですから…」
「香住……お前…」
「それで…一之瀬さんたちはいかがでしたか?お電話差し上げた通りの時刻にちゃんと見えられましたか?」
「…お前…なにを言ってやがるんだ…」
「私一人ではあの方達を処分することは出来ませんでした…ですから私に出来ることをしただけです。
いつ来るかわからないのでは…厄介だと思いまして…」



216 :すりこみ [sage] :2007/06/06(水) 10:35:01 ID:CEzbNnHt
「八雲は……八雲はどうした…」
「兄ですか?…兄は私がきちんとおしおきしておきましたのでご安心ください。」
そういって、香住はベッドに膝を立て、ズボンのジッパーをゆっくりと開き…

そこから真っ赤な血に染まった男性器を取り出した。
その勃起した男性器はまるで香住の股間から生えているかのように雄雄しくそそり立っていた。
「兄からの伝言です。これを貴方に受け取って欲しい…のだそうです。」
そういって香住はそれをそのままゴミ箱に投げ捨てた。
「ゴミは…ゴミ箱に捨ててよろしかったですか?」
「ああ……」
「他のゴミは…どこに捨てられたのですか?」
「ゴミはゴミ捨て場に捨てているぞ…?」
「ゴミ捨て場…ですか…」
香住は怪訝そうな表情を浮かべて、俺の言葉をかみ締めているようだった。
「?…それ以外のどこに捨てるって言うんだ?」
俺の言葉を遮るように香住はベッドから立ち上がり、服装を直しはじめる。
「そろそろ夏海ちゃんが戻ってくる頃だね。僕はそろそろお暇するとしよう。
それじゃ、春樹…また明日学校で会おう。夏海ちゃんによろしく伝えておいてくれないか?」
それは八雲の笑顔なのか、香住の笑顔なのかわからないまま

「春樹が性欲を持て余すようであれば僕が処理してあげてもいいと…」

その紅い唇が動き中から紅い舌がみえる。
「僕は夏海ちゃんのことも嫌いじゃないんだ…だから春樹…僕は八雲なんだ…
君の親しい友人の小泉八雲だよ。だから君が望むのなら…いつだってこの身体を使うといいさ。
…君のことだからまさかとは思うが僕のことが好きで一途に貞操を守り通しているとかそういうことはないよね?
いや、もしかしてそうだったのかな?それなら春樹…早く言ってくれればいいのに。僕も春樹のことを…」

香住と八雲の姿が完全に一致する。違いなんて見当たらない。
いや、はじめからこいつは香住だったのか?その笑顔もその声も八雲のものだ。
じゃぁ、香住は…香住はどこに居る?
いや、こいつは八雲で香住なのか…いや、香住が八雲なのか…何故だ…何故だ…
世界がぐらりと歪む。どうしてこいつは…何故……何故……何故…
…何故……何故……何故……何故……何故……何故……何故…
こいつらはこんなにも狂っている?
何故俺に…何故俺なんだ…何故俺でなければならないんだ…どうして…何故…
八雲の声が聞こえる。静かな世界の中で八雲の声だけがはっきり聞こえる。
まるで俺の心を見透かしたかのように
「春樹…君は炎だ。そして僕らは飛んで火に入る夏の虫なんだよ…その身を焦がしてでもその明るさに惹かれてしまう
・・・いや、寧ろその身を焦がすために火の中に飛び込みたいと願ってしまう…これは理屈じゃない…本能といってもいい
…僕も君のその歪みに惹かれているんだよ?春樹…」

気がつけば部屋の中には誰も居ない。
全てが自分の妄想であって欲しいと思った。
だが、ゴミ箱の八雲だけが…それが夢でなかったことを教えてくれた。