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222 :実験作 [sage] :2007/06/06(水) 22:15:13 ID:cQRlnMcP
「あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

少女の哄笑が響き渡る。其れは闇に、地に天に。
黒く、暗いその眼の鋭さを彩るのは墨汁交じりの朱の色殺意。
はや沈み掛けの黄昏すら届かぬ、薄汚れた狭い路地の中にて、対峙するは二つの影法師。
其の片割れは退治の為に、もう片割れは泰事の為に。
響くたった一人のオーケストラは前者の壊れた喉笛より撒き散らされる。
ああ、ああ! それは人間の、人間のみに許されたカプリチオ。
狂想の曲は独唱を終え、第二幕をバイオリンを加えて始めたいと願う強く尊く醜い人の意思は数多を捻じ伏せ唯一。
既に弓は彼女の手に。弓の名は“草刈鎌”。
うるはしき其の御手にて喉の肉の弦を掻き切り給えよ人の御子!
さすればひゅう、ひゅうなる音、そなたの打ち倒さんとする肉塊より漏れ出でん!

「あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!
よくここまで逃げられたね逃げられたね売女ぁああああああ!
あっはははははははは! でも終わりだよお、すぐに、すぐにわたしと××ちゃんの世界から消してあげる。堕としてあげる。潰してあげる。抉ってへし折って叩き割って引き裂いて磨り潰して焼き尽くして撒き散らして……あああああああああ!!
わたしのばか、ばか、ばか!
本当に神聖な××ちゃんの名前をこんな溝鼠の前で言うなんて穢しちゃう!
それもこれも全部あなたのせいだよ、失せろ、失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろ失せろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

夕闇に煌くは鎌の刃、沈む陽の紅に飽き足らぬ貪欲が求めしは何か?
熟れに熟れたトマトの赤? 否!
天空に輝く蠍の心臓の赤? 否、否!
紅玉の如き葡萄酒の赤? 否、否、否!

其は偽者にあらず、真実人の血。
晩餐にて取り繕うな娼婦の子、大工の継子! 我らが血潮は何者にも代えられぬ!
飛沫くは赤。漏れるは赤。
求めに従い銀弧は飛ぶよ、其の刀身を乙女を貫き血に濡らす為に!!

「死ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいねぇえええええええええええええええええええ!」

ああ、されどされど。されどされどされどされど!
悲しきかな哀しきかな人よ、人の力は人の御技によって御されるが定め。
其れは文字通り御す為の技なのだから。


「嗚呼、神よ感謝します。素晴らしい」
「………………っ!!」
振り下ろされたる死神の愛道具。
其れを容易く抜け、スケイプゴウトは己が裁定者を抱きしめる。
その硝子よりなお蒼い眼球に滲むは涙。其れは歓喜。
喚起するは万感の想い。
見ているのですか偉大なりしヴィーザル!
斯くして兄殺しの盲目者は己が咎の源、かつてヤドリギに貫かれしものに許されるということを!

「は、放せ……! 放せ放せ放せ放せ放せ放せ放せ放せ放せ放せ!」

「刃をお納めを。私はあなたの存在に非常に感激しているのですから……」
「……、何を言っているの。あなたが居なければ、あなたが奪おうとしなければ!!
うわあああああああああああ!!」


藻掻き藻掻くも万力はぴくりとも動かず。
宣教の真言は故に、否応無しに羊の耳に入り込む。


223 :実験作 [sage] :2007/06/06(水) 22:15:55 ID:cQRlnMcP
「私はあなたから彼を奪うつもりなどないのですよ。
そもそも何故に彼を奪う必要などあるのですか。」
「決まっているよ、そうしないとわたしを見てくれないから!
ううん、そんなはずはない××ちゃんは何よりわたしをアイしてくれてるのそしてわたしもなによりアイしてるのだから他の人に××ちゃんのアイが行くのは許せないの一片たりともわたしに向けてくれるアイが減るのは許せないんだから!!」

歓喜の笑みは慈愛の笑みに。
……否、之は自己愛。故に慈愛などでは決して有り得なく。

「いと気高き私の同志にして先達よ。あなたは正しい」
「さっきからなに言ってるの……!だったら早く死んで、死んでよ!! さっさと死んで死んで死んで、」
「しかし、たった一つだけ勘違いしていることがあります」
「間違ってるはずない間違ってるはずないそれよりさっさと死んで死んで死んで、」
「彼の愛が有限だと考えること。それがあなた様の唯一の間違い……。
彼の愛は無限です。ですから、あなた様に向けられる愛が減ることなどありえません。
無限は割り切れない故に無限なのですから」
「うんそうだったらいいかもしれないけどでもそんな保証はないんだよだからさっさと死んで死んで死んで、」
「偉大なる彼の寵愛を何より早くより受けたる聖女たるあなた様が彼を信じなくてどうするのですか。
いいえ、あなた様が分かっていないはずがないでしょう。彼がそれほどまでに大きな存在かを」
「うんそれはそうだけど××ちゃんはすっごい人だけどそれは当然の事だしそれはともかくさっさと死んで死んで死んで、」
「なればこそです! 私が彼の本当の価値を、いいえ価値などという尺度に換算する愚かな私めが此処に至りようやく啓示された真実を生まれながらに知るあなた様ならお分かりかと……!」

「……何を?」

漸く詩の朗読より戻りたる聖女。浮かぶ表情は人形よりなお雄弁に無為を語る。
絶対者を崇められ、自身を讃えられることが彼女に何をもたらしたのか。
下賎の女に見出せしものは果たして殺意か同意か無視かそれとも。
ゆうらりと万力を緩め、陽炎の動きにて距離を取る下女。
―――――いずれにせよ、次の言葉にて全ては決す。


「嗚呼、何と寛大なのでしょうさすがあの方に選ばれた方!
ええ、故に私は提言します!
あなた様とこの私め、彼の素晴らしさを知る二人は同志であると!
否、私はあなた方二人の下につくものであると!
故に、あなた様が私を退ける必要はないと!
ええ、それだけ、それだけの事なのですよ!!」


「……ふーん。」

聖女の言葉に込められた思いは何か。
夜の帳は下りた。鎌に集うは星の光、蠍の赤い光。

襲う為か捨てる為か、それは、一瞬揺らめくように掲げられ――――――








「―――――――嗚呼。美しい。何もかもが美しい。
素晴らしいよ、僕の為にここまでしてくれるなんて。」