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444 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/06/19(火) 00:50:10 ID:XIqcMfzc
日はもうかなり前に沈み、窓からは深い漆黒の海の中で瞬く星と静かに佇む弓張り月が見える。
この病室の電気は既に消灯時刻を過ぎているために、消されている。
今の時刻というのは病院に入院する人々の生活サイクルの上ではかなり遅い時刻であるのだ。
現に、枕もとで蛍光塗料独特の薄ぼんやりとした優しい光を放っている時計の針は夜の十二時を過ぎていることを告げている。

部屋の中も外もまっくらなので、瀬戸黒の海で物静かに落ち着いて光り輝く月や星は一層美しく見えた。
今まで私はこの暗闇の中で孤独を感じ、心細さと悲しさで心が締め付けられそうになったことが何回あっただろう。
伝えたくても伝えられなかった想い、悪夢のような幼少期の記憶、自分の存在理由、そのときによって様々なことを考えたり、
回顧したりしたものだったが、最後はただただ侘しさと悲しみだけが残っているという点において共通していた。
しかし、その寂寥感あふれる、負の記憶しか生み出さなかった暗闇でさえ、気分が昂揚している現在の私ならば好きになれると思う。
周りにあるどんな些細なことさえも、私を祝福してくれているように感じられた。


445 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/06/19(火) 00:52:37 ID:XIqcMfzc
今までは私は彼に対しては、写真を毎晩眺めるか、彼に時々、料理を作ってあげるか、ないし家に招く程度のアプローチしか取ってこなかった。
まして、触れ合うことなど今までにはあろうはずもなかった。
しかし、私にはその程度が分相応だと思っていたので、それで十分だとすら思っていた。
私はもともと、ずっとずっと、彼の傍にいたいという願望があったので、私は彼に尽くし傍に居ることが満たされれば、満足だと思っていた。
当然、彼と結ばれたいという願望もなかったわけではなかったが。
だから、自分の想いを伝えたところで、それをあれほど真剣に受け取ってもらえ、回答をもらえるとは思わなかった。

そして、先程まで続けられていた情事に思いを馳せる。
彼とこれまでになく愛し合い、何かの誓いであるかのように、何度となく交わった。
当然のことながら、これが初めての事なので、苦痛がなかったかと言えばそれは嘘になるかもしれない。
けれど、その苦痛は自分の生きる目的となってくれた、何物にも勝る松本君と結ばれた事を雄弁に証明していた。
ただ、結果的に重病の彼に無理をさせてしまったことが少し残念だった。
でも、そんな無理をしてまで私を求め、愛してくれたのだと思うと自然に嬉しくなってくる。


北方さん、と私を呼ぶ声がしたので隣で静かな寝息を立てて眠っていた松本君を見たが、寝言だったようだ。
寝ながらも私の事を呼び続けてくれるなんて、本当に嬉しいことだ。

私はあなただけを愛している。
他には誰も要らないし、誰にも干渉させない。たとえあなたが愛してくれなくとも、私はあなたを愛している。
あなたの痛みは私の痛み、あなたの願いは私にとっても望むところ―。
彼に想いを伝えた時に言った言葉を彼の優しい顔を見つめながら、反芻する。
咄嗟(とっさ)に机の上にこっそりと置いておいた小箱の存在を思い出し、拾い上げる。
それは、もし叶うならば―、と一抹の期待から用意しておいたペアのプラチナのリング。
想いが通じた今、彼の指と私の指にはめるべきだ。
彼のよくクラスメイトに文化部の手と揶揄されている華奢な指にリングをはめる。
そして、私も松本君と同じ指に月明かりを反射するリングをはめる。

それから私は眠っている彼の唇に静かに口づけた。
願わくば、あなたの傍で過ごす、この良き日々が永遠に続きますように―。



446 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/06/19(火) 00:53:48 ID:XIqcMfzc
松本理沙はつい先程まで大きく震わせていた肩をとめて、恍惚とした表情で、やおら立ち上がると薄暗い部屋の一角にある、
背もたれのある椅子におぼつかない足取りで腰掛けた。

私が今まで経験した苦痛は常に外からやってきた。
もっと私が小さかったとき、今よりもはるかに持病の喘息の症状がひどかったときからそう。
家の中で静かにすごしている分には生活には影響を与えなかったのに、外に出て遊ぼうとすると、
いつも決まって苦しい思いをする。
お兄ちゃんはいつもそんな病弱な私を精一杯助けてくれたのを幼心に覚えている。
でも、当たり前の話だけどお兄ちゃんは私と家の中で一緒に居られるわけじゃないし、お兄ちゃんだってまだ子供の頃だから、
外で仲間と遊んでいることだってあった。
そのお兄ちゃんについていこうと外に出ると、すぐにぜいぜいと息が切れ、歩くのがきつくなってきて、そのうち立っていられなくなり、
ひどいときはそのまま病院に搬送されてしまった。
お兄ちゃんはそんな病弱な私のことを、見捨てずに少しずつでいいから治していこうね、と常に励ましてくれた。


447 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/06/19(火) 00:56:31 ID:XIqcMfzc
私のお母さんは何度となく、発作が起こるたびにため息をつき、困った厄介者だとでも言いたげに見てくることも何回かあった。
お母さんは当時、専業主婦ではなく仕事をしながら家事を両立させなければならなかったから、そんな風に感じるのも仕方ない、と思うけど、
やはり薄情なものだ。
お父さんは今もそうだけれども仕事が大変で、しょっちゅう出張で家をはずすことが多く、発作の知らせを受けるたびに、
心配していると言う言葉を発していたらしいが、本当はそんなこと気にしていられるほど余裕はなかっただろう。
両親でさえ、こんなぞんざいな対応をとるのにお兄ちゃんは見捨てることがなかった。

私の成長と共に喘息の発作の回数は少なくなり、そのひどさも弱まってきた。
そういえば、この頃だったっけか、お兄ちゃんと初めてデートしたのは。
お兄ちゃんは始終私のことを妹、としてだけしか見てくれなかったのが少し残念だったけど、今まで外に出ることが危険と隣りあわせだった、
幼い頃の私から考えれば、大きく状況が好転したと思うし、とてもお兄ちゃんも楽しんでくれたからおおむね満足だったかな。

そんなこんなで、ようやくお兄ちゃんと絵本の中に出てきそうな幸せな兄妹だけの生活ができると思ったのに―



448 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/06/19(火) 00:58:22 ID:XIqcMfzc
再び外界から忌むべき苦痛が訪れた。
その苦痛は人に由来するものでなく雌猫なのだが、抜け目なくお兄ちゃんを惑わしていった。
だから、処分する前にご丁寧にも警告してあげたのに、逆に雌猫は私だけのお兄ちゃんに、
怪我を負わせて手術しなきゃいけないほどの半死半生の目に遭わせた。

その事実を知ったとき、とっても、悲しかった。胸が張り裂けるくらいの悲しみがこみ上げてきた。
もしかしたら、お兄ちゃんが、私の唯一のお兄ちゃんが、世界で一番大切な人が死んでしまったら、
と考えると夜も眠れなかった。
手術のあった日はずっと涙で湿ってしまった折り紙でずっと、折鶴を折っていた。
幸いなことにお兄ちゃんは手術が成功したので本当に良かったよ。

けれど、あの時、お兄ちゃんに万が一のことがあったら、あの警告を受け止めず、
無罪のお兄ちゃんに必要ない苦痛を与えて、行動を束縛する大怪我を負わせる原因を作ったあの雌猫を即座に殺していたと思う。
もともと、警告に応じても応じなくても殺すのと同じくらいの苦痛を与えてやるつもりだったしね。
だから、現に私はさっきもそうだったが、人を殺すに十分な量の毒を生成している。


449 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/06/19(火) 01:00:19 ID:XIqcMfzc
じゃあ、今の私はあれに対して殺意を持っていないかといえば、当然、否。
あの猫は、私の悪口をあることないこと吹き込んで、小難しい理屈や御託を並べ立てて、さも自分が世界の法の権化でもあるかのように尊大に振舞った。
それから私は猫ゆえに傲慢な態度を取るのか、と怒りを抱きつつ、どういう手法で殺してやろうかと考え、調薬の作業をしていた。

が、それは大きな仇となってしまった。
お兄ちゃんが自分に逆らえない事を知っていながら、お兄ちゃんがお人よしなのを知っていながら、あの猫はお兄ちゃんを襲った。
しかも、完全な計画的な確信犯で、周到に強姦するまでに自分の論理を押し通すことによって、
お兄ちゃんをマインドコントロールしているあたり、いやらしさを感じる。
いや、誰が見てもいやらしいなんてレベルじゃない。
前に、何かの事件でストックホルム・シンドロームとかいう、被害者が加害者に親近感を覚えることが起こる、
とお兄ちゃんから教わったけれども、お兄ちゃんはそれとは明らかに違うと思う。
それは、あの雌猫がお兄ちゃんが私と帰ろうとしたのを邪魔した際にもお兄ちゃんはあの雌猫におびえに近い態度を取っていたことからも明白だと思う。


450 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/06/19(火) 01:01:26 ID:XIqcMfzc
自分の欲望が正攻法では達せられないことを知っていながら、お兄ちゃんの心を支配したいという自分の醜いわがままを通すためにあんなことをするなんて、
心を操作されているお兄ちゃんがかわいそうだ。
あの手のエゴばかり強い人間は、お兄ちゃんに飽きたら、ぼろくずのように、あっさりと冷たく捨ててしまうのは既に見えている。
そんなことは許さない。
私が"警告"に失敗したこともお兄ちゃんが穢されてしまったことの原因かもしれないが、あの雌猫が一番悪いのは当たり前の話だよね。

それに、私のお兄ちゃんが妹である私を裏切るはずなんてないんだから―。
優しすぎるお兄ちゃんだから、成り行きでこんな悪夢みたいな事が起こっているだけだよね。
でもね、お兄ちゃん。終わりの来ない悪夢なんて絶対にないんだよ?
その終わり、は私がお兄ちゃんを受ける謂れのない束縛から解放したときにやって来るんだよ。
そうしたら、お兄ちゃんは私のもので、私はお兄ちゃんのものになる。



451 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/06/19(火) 01:02:53 ID:XIqcMfzc
あはは、そのためにどうしたらお兄ちゃんが一番喜んでくれる方法であの雌猫を殺せるのかな。
お兄ちゃんは自分を苦しめた元凶はどんな方法で殺されるのが見たいのかな。
あ、そうか。あんな奴が死ぬ無様な光景なんか見たくないに決まってるよね。
それに、あのいかれた雌猫なら、最後までお兄ちゃんと一緒に居られる、とか言って逆に喜ばせしまうかも。
それなら、逆に身の回りの人が一人ずつ雌猫の前から離れていってしまって、最後にひとり残された状態で心細く、
誰にも見取られずに冷酷に殺せばいいのかもしれない。
あははは、お兄ちゃんが満面に笑みをたたえて喜んでくれる光景が今にも浮かんでくるよ。
あははははははははは、うれしいなあ。そんなにお兄ちゃんになでなでされたら恥ずかしくて困っちゃうよ。
でも、本当に私が…なでて欲しいのは頭だけじゃないんだよ………
それにしても、私がお兄ちゃんの心を読めればいいのに。
そうすれば、どうやってお兄ちゃんを解放すれば一番喜ぶか、どうすればお兄ちゃんの中の雌猫の記憶を消し去ってあげることができるのか、
それに…どうやったら、お兄ちゃんをあの雌猫以上に気持ちよくしてあげられるのか、今私が知りたいことがはっきりと解るのに……
お兄ちゃん、それでも私、がんばるからね。




452 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/06/19(火) 01:04:18 ID:XIqcMfzc
翌日、私は三日の間休んでいた学校へ久しぶりに行くことになった。
自転車は例の事故で使い物にならなかったが、新しい自転車を用意したのでその車輪を転がしながら学校に向かう。
不幸な事故だったけれど、自転車で学校に行く、という彼と私の共有の習慣になりつつあった自転車通学をやめようとは思わないし、
松本君がトラウマに感じることなく、再びそうすることを望むなら、また一緒に学校にいきたいとも思う。
松本君が昏睡状態を脱したことによって、こなす仕事の量は必然的に減ってしまったのだが、その手持ち無沙汰で学校に行くのではない。
それは松本君の居ない学校など行くことに意義があるなどと思わない私にとっては至極当たり前。
しかし、松本君は欠席することで私に迷惑をかける事と、早く日常生活に戻りたいという理由から、私には学校に行くように勧めてくれたため、
いったん彼の元を離れることにした。
松本君は自分のほうがよっぽどひどい状況にもかかわらず、私の心配をしてくれて、優しさが身にしみる反面、
逆に彼のことが心配になってくる。気を遣いすぎる事で治りが悪くなったりしないかと思ってしまう。



453 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/06/19(火) 01:05:52 ID:XIqcMfzc
学校まであまり距離がないので、いつも通りに松本君の家の前まで来てから、学校に向かうというルート選択をしたのだが、
いつも傍にいる松本君がいないだけで本当につまらなく寂寞(せきばく)としたものに感じられてしまう。
彼と話しながら学校に行く、という何気ないコミュニケーションからも、私が彼に助けられているということがわかる。
その寂しさを同じものを松本君にもはめた、光を反射して輝く、銀色のリングで紛らわしながら、足を動かした。

授業が始まると、無味乾燥とした英語の授業を淡々と聞き、指名された時は問題をそつのないようにこなしていった。
いつもならば、隣に座っている松本君が眠りそうになるのを注意してあげたり、苦手な問題でああでもないこうでもない、
などともがいている松本君を観察したり、微妙な表情の変化から考えていることを想像してみたりなどと、彼と話すようになる前からしていたことや、
直接に話をしたりすることで時間を有効に活用することができた。
でも、今はそうはいかないので、昨日の事をいろいろと思い出して、いまだ覚めやらぬ余韻に酔いしれながら時間を潰すことにした。




454 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/06/19(火) 01:06:53 ID:XIqcMfzc
時間が通常よりも数倍もはるかに長く感じられた午前中の授業を終え、食堂にやってきた。
自分で作ったサンドイッチを一つ、落ち着いた風合いのランチボックスから取り出し、少しずつ食べて始めた。
サンドイッチをゆっくりと咀嚼していると、松本君の事故について話をしている人たちがいたので、耳をそばだててそれを聞いた。
声から察するにどうやら、うちのクラスの男子の何人かが松本君の話をしているようだ。

「何でも、松本は土手から転がり落ちたらしいぜ。」
「ああ、確かに俺もそんな事を聞いた。しかも、自転車の破損が原因らしいが、バラバラになった自転車が直撃したらしい。」
「それがひどかったらしくて、内臓にダメージがかなりあったらしい。」
「それで、奴は緊急手術をする事になったんだな。」
「すぐに病院へ運ばれて、しかも手術を安全に受けたらしい。普通、あんな土手じゃ、誰も気づかないはずなのに、どれだけ運がいいんだよ、あいつ。」

「ああ、お前知らなかったのか?あれは一緒にデートしてたうちのクラスの北方さんが松本のために救急車を呼んだんだぜ。」
「ええ、デート?あの北方さんが松本と?信じられねぇな。非社交的な北方さんが松本と、か。」
「まあな、だが、うわさで聞いたから信憑性はないんだが、ただ北方さんが救急車呼んで、運が良かったな、だけではすまないようだぜ。というのも、
この事件には裏があるようで…」
「え…、事件の裏だって?細かく話してくれよ。」



455 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/06/19(火) 01:08:25 ID:XIqcMfzc
それから彼らは、情報をどこから仕入れてきたのか、事件の裏として、自転車の破損が不自然であることを話していた。
少しすると、私の聞き覚えのない、かすれ気味の声の女子が話に入ってきた。
彼女は小さい声で話したり、耳打ちしながら話したりとまるで私を憚っているような感じであった。
どこの誰だかはわずかながら聞こえた、話している内容からは特定できなかったが、彼女が私に何らかの悪意を持っていることは察することができた。

「…だから、自分の…に細工して……を………怪我さ……」
おそらく、松本君が乗っていた電気自転車は私のものだから、私が彼に意図的に怪我を負わせた、とかそんな意味のない事を言っているだけなのだろう。
そんなことを一々、気にしても詮無いことなので聞かなかったことにする。
しかし、それが不愉快なことには違いない。
サンドイッチとサラダを食べ終わり、私はあまり飲まないのだが、和食でないから、という理由で水筒に入れて持参した、
澄んだ紅色の紅茶をカップに静かに注ぐ。
この紅茶のかぐわしい香りには精神を安定させる効果がある、と何かの本で読んだことがある。
松本君について話している不穏な連中を横目で見ながら、紅茶に口をつける。
水筒に保温能力があるといっても、限界があるため、やや味は劣ってしまうのは仕方ない。
しかし、それが問題にならないくらい苦みが強い紅茶がそこにはあった。あまり味を見極められる方ではないが、今日は紅茶を淹れる時点でかなり失敗したようだ。
松本君の好きなケーキと一緒に振舞ってあげられるように、もう少し練習しなくては。



456 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/06/19(火) 01:09:52 ID:XIqcMfzc
松本君の話をしていた連中が食堂を出て行った後も、私はすこしのんびりと食堂で過ごしていたが、
突如トントンと、肩を指で二回ばかり軽く叩かれた。
私に好き好んで話してくるような人はそうそういないので少しびっくりしたが、すぐに振り返り、肩を叩いた人の方へと向き直る。
すると、そこには少しおびえているのか、緊張しているのか、どちらともつかない表情で肩を微動させている小さな女の子がいた。
背丈はかなり低く、小学生低学年であると聞いても驚かないほど。
相手が私を呼んだにもかかわらず、なかなか話を切り出さずにもじもじしたままだったので、もどかしく感じられた。
「あなた、私に何か用があるのよね?」
はっきりとそれと解る頷きは肯定の意と取ってよいのだろう。
「それなら、何かしら?」
「…あの、…いくつか…この前の事故について伺いたいのですが、……松本先輩の乗っていた自転車は北方先輩の物ですか?」
「ええ、そうよ。けれど、これを見てくれるかしら?」


457 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/06/19(火) 01:10:52 ID:XIqcMfzc
またしても事故の内容だったので、この前に松本君にも見せてあげた事故の調査資料を見せてあげた。
彼女を観察しながら、食べ終わったランチボックスや水筒を片付ける。
彼女は妙に神妙な手つきでそれを受け取ると、内容を恐る恐る確認し始めた。
内容を読んでいく内に彼女が目を白黒させているのが解った。
彼女は私に蚤取り眼で自分が観察されていることに気づいて、途中、大げさに肩が跳ね上がった。
「な、な、な、何ですか?」
「あなた、さっきから怯えているみたいだけど、どうしたのかしら?」
「い、いいえ。別に怯えてなんて…」
そう、否定したがその釈明の仕方そのものが、その釈明が正しくないことを雄弁に語っていた。
彼女のことがやはり不審に思えたので、指の動き一つまでも見逃さないくらいのつもりで、観察することにした。
彼女と目が何回か合ったが、すぐに彼女のほうから、隠すことなく怯えながら、目を背けた。
「あなた、失礼ね。私はその資料をあなたに提示している。そしてあなたはそれを見せてもらっている立場なのに、そんな怯えた態度を取るなんて。」
「…す、すみません。わ、私…この事件で松本先輩が怪我をしたって聞いて、本当にびっくりしました。
それから、北方先輩がその場に居合わせた、とお聞きしたので、いろいろと確認したかっただけです。
決して、失礼な態度を取ろうと思ったわけではありません。」


458 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/06/19(火) 01:12:17 ID:XIqcMfzc
気弱そうな印象を抱いたそれまでの態度からは不似合いに最後の部分を強調して言った。
「それなら、あまり時間ないけれども、何か確認したいことは?少しなら答えるわ。」
「…いえ、あらかた確認したいことは確認できたので。」
「そう。それなら、私は失礼させていただくわ。」
「…あ、あ、…待ってください。あの、お手紙を先輩に渡すように、って友達から言われているんです。」
そういいながら、まるで小学生が背負っているランドセルに近い感じにデザインされている、小ぶりのバックから何も書かれていない、封がされた茶封筒を取り出した。
「あの…、これ…です。」
「そう、誰からかしら?」
視線を手渡された茶封筒から元に戻し、そう尋ねるとさっきまでそこに居たはずの名前を知らないあの子はいなくなっていた。
バックの中に入っている文房具入れから、はさみを取り出し、中の手紙を切らないように封筒の端を切った。
その中に入っていたものは松本理沙からの手紙で、白無地の便箋には放課後に屋上に来るように、と小さく走り書きされた文字で記されていた。