※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

382 :一週間 土曜日 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/07/21(土) 23:15:34 ID:GEl7EzNH
 さてと。僕は自宅のベッドに転がって天井を眺める。時刻は午後6時。夏場だからいくらか明るい外もそろそろオレンジ色に染まり始める。
 昨日の先輩の襲撃事件があって、一日あけた今日。僕は平和的な一日を過ごしていた。
 一日中寝っころがってテレビを見て、洗濯をして、ゴロゴロして。うん、とっても健康的で堕落した休日の使い方だ。一切家から出ることなく、僕は一日を終えようとしているのだ。
 だから。先輩とは一切逢っていない。たとえ、先輩が玄関のドアのすぐ傍にいようとも。
「せーんぱい。そろそろいいかげん帰ってくれませんか?」
「帰らないもん!」
 玄関の向こうから聞こえる先輩の声は、あいも変わらず切なく寂しそうだ。
そう。先輩は昨日の夜襲撃して来てから一夜明けて、昼を過ぎてそしてこの今まで。ずっとこの玄関の前に張り付いていたのだ。
朝、コンビニへ行こうと玄関を開けたら驚愕したもんな。この玄関前の砂とほこりが舞う廊下で先輩が横になって寝ているんだもの。
覗き穴から覗いてみると、着のままのスーツと中に何かが仕込まれていたスカートを砂だらけにして、涙で腫れた瞼を閉じて時折口元で「みぃーくん……」と呟きながら僕の部屋の前を占領している先輩。
びっくりして思わずドアを閉めて、普段かけないチェーンも思いっきりかけたよ。
 そして、思いを振り切るように眠りについて(嫌な夢を見た)、昼ごろ、僕はそろそろ帰っただろうと覗き穴を覗いてみると……。
 まだ居るのだ。玄関前で体育座りをしながらずっとずっとまるで暗闇の中で明かりがそこにしかないように、僕の部屋のドアを見つめていた。
 起きている。だが、意識はどこへ居るのかわからない。虚ろな表情でただじっと僕の部屋のドアを見て、パクパクと口を動かしている。
 僕が少しだけ、ドアノブを動かしてみた。鍵をかけたまま、ドアノブを少しだけ捻る。
 かちゃ……。
 瞬間。
「みぃーくん!!」
瞬間。先輩はまるで先ほどとは別人のように跳躍し、驚くべきスピードでドアノブを掴み思い切り力を入れてがちゃがちゃと開けようとひねる。
 が、鍵をかけてあるので、一向に開かない。
「……みぃーくん……みぃーくん……」
 先輩はドアノブを話すと、絶望にうちしがれたような表情を浮かべて、へなへなと脱力した。
 もう一度、少しだけドアノブを動かしてみる。
「みぃーくんっっ!!」
 その反応だけは、何よりも早かった。またもや、掴まれる玄関のドアノブ。そしてがっちゃがっちゃと勢いよく動き……。
「……そんなぁ……」
 またもや静かになる。
 ……怖い。僕はすこしだけ動かす度に、すぐさま開けようとする先輩の必死さに恐怖を覚えた。触ると動く。おもちゃだったら面白いけど、これがこんな状態だったらどうやっても楽しめない。
「先輩」
 あまりの異常さに、僕はドア越しに声をかけたのだ。
「みぃーくん! お願いだから開けて! なにもしないから、なにもしないから、なにもしないから!!」
 先輩の口から飛び出すのは「なにもしないから」という言葉だけ。どれだけ必死なんだ先輩は! たかだか4日間じゃないかっ。
「ダメですっ! 明日入れてあげますから! だから今日はもう帰ってください!」
「お願い、お願いよぉぉぉ……」
 先輩のか細い声に僕も良心が痛めつけられる。


383 :一週間 土曜日 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/07/21(土) 23:16:21 ID:GEl7EzNH
 でも、開けてはいけない。昨日までは先輩のためと自分のためを思って開けなかった。しかし今日の様子は昨日と違う。
「ねっ? もうエッチもしないから。なにもしないから。ただみぃーくんの顔だけ眺められたらいいから。だから、一緒に居させて……。私を拒絶しないで……。見捨てないで……」
 危険。この二文字が僕の脳内に浮遊し赤い光を放ちながらワーニングワーニングと警告音を鳴らしているのだ。
 もはや、命の危険とも同じぐらいの危機感。 あ、いや、毎日の先輩とのエッチでも何度も命の危険は感じてたけど、それとは比べ物にならないぐらいの恐怖と異質さ。
「…………」
 どうする? 今開けるか。それとも明日開けるか。
 どっちが一番安全だろうか?
 今開ければ、まだ間に合うかもしれない。エッチも30回ぐらいでギリギリ勘弁してくれるかも……(それに明日日曜だし)。
 いや、先輩の体力も限界はある。明日なら、先輩の体力も落ちてむしろ最小限被害でいい方向へ転がる可能性も……。
 そのとき。
 RIRIRIRIRI
「電話だ……」
 僕は受話器を取る。
「もしもし……、あ。課長」
 電話の主は課長からだ。
「はい、はい、はい、え……?」
 ……緊急の仕事? 今から課の仲間を全員集めてミィーティングをして、すぐさま大阪に行くことになった? 休日出勤で悪いが、いますぐ支度をして会社に来てくれ……?
「はい、わかりました……」
 ……電話が切れる。課長はかなり慌てた様子だった。しかし、大阪まで行くって、なんて突然に。
でも何日かかるんだ? 明らかに泊りだって言ってたし。それよりも……。
「……先輩をどうしよう……」
 さてと。ここで問題。どうせ休みだから篭城するつもりだったけど、この家から出ざるをえなくなった。
 しかし、玄関には先輩が居て病的なまでにこちらを見張っている。先輩とは課やらなんやらが違うから、先輩も大阪に行くことは無いだろう。
 しかし。この状態で外に出たら、先輩を振り切るのは辛そうだ。覗き穴から先輩の様子を確認する。
「みぃー、みぃー、みぃー、みぃー……はぁはぁ」
 もはやあだ名でさえも君付けじゃなくなっている。僕の姿を見たらすぐさま押し倒し陵辱したりんという禍々しい紫色のオーラを放ってドア越しに居るであろう僕を見据えている。
「……こうなったら、方法は一つだ」
 僕はそっと玄関から離れ、スーツを着込むとリビングを通ってベランダへ。
 僕の部屋は二階で、しかもベランダの傍には電信柱が建てられている。つまり、やろうと思えばベランダから出入りすることが出来るのだ。
 先輩に気付かれないように僕はベランダへと出る。電信柱に足をかけてするすると降りていった。
 ふっ。この秘密の抜き道の存在は先輩も知らないはずだ。
(せんぱいっ。ごめん!)

 僕は心の中で先輩に謝ると、走って逃げるようにアパートを離れていった。
(続く)