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417 :真夜中のよづり7 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/07/22(日) 20:40:14 ID:QvlYH/2a
 よづりに絡まれながらも家から飛び出し、喫茶店にも寄りつつ……ようやく俺たちは我が織姫高校の校門の前へとやってきたわけだ。
 時刻は午前12時過ぎ。もはや昼じゃねぇか。ふらふらと外の世界であっちへ行きこっちへ行きする榛原よづり二十八歳元引きこもり高校生を連れた登下校は三時間近くもかかってしまっていたわけだ。
 明日からこいつと一緒に登校するときは確実に朝3時起きか? 朝のニュースキャスターじゃないんだからそんなの無理だっての。
「ほら、よづり。見てみろ。俺たちの学校だぞ」
「……そうだっけ?」
 覚えてねぇのか。
 俺の背中に隠れるように体をちぢこめてよづりは大きな校舎を眺めていた。生徒数三百人が勤勉に励む高校をまるで何かを恐れているように見ている。
 なにを思ってるいるんだろう。
「よし、いくぞ。よづり」
「……」
 俺がよづりに発破をかけて、俺の背の後ろから前へと進める。よづりは不安げに目を細めると、しぶしぶながらも自分の足で校門をくぐった。
 昼休みだからか、グラウンドでは体操ズボンにジャージ姿の男子生徒たちがサッカーボールを蹴りあっている。足を使って地面に落とさないように相手に向かってボールを蹴り上げている。どうやら蹴鞠をやっているみたいだった。平安時代かよ。
まぁ、あの遊びは結構シビアみたいだから盛り上がりそうだけど。
グラウンドの隅では同じようにジャージ姿の女子生徒が木陰で集まって話でもしていた。
なんだか、遅刻して来るっていうのはむずがゆい。あの女子生徒たちがこっちを見ているような気がしてならない。
「ねぇ、かずくん。あの子たち……私たちを見てるのかな?」
 歩きながらも、俺の背中に隠れながら進むよづりが不安げに聞いてくる。
「見てないよ。この学校で遅刻して来るヤツなんてザラだ。みんな気にかけてない」
 そう言う俺だったが、あんまり確証は無い。あの女子生徒達だって遠くにいるんだ。何話てるとか、どこを見ているとか、正直わからん。でも、ほとんど気にしてないはずだ。そんなもの。
 俺ら二人はグラウンドの横を通り過ぎて、昇降口に入る。昇降口には数人の生徒たちが居た。昇降口横にある自販機(紙コップのヤツ)でジュースを持ってダベっている。
「……今度は見られてるよね?」
「気にするなよ」
 グラウンドの奴らとは違い、今度は確実に見られていた。
 視線の先は間違いなくよづりだろう。見慣れない大人(二十八歳)が制服を着ていておどおどしながら俺の後ろに隠れているのだ。
 まぁ、そりゃあ。気になるよな。いぶかしげに見ちゃうな。
「見られてるよ……かずくん……」
「大丈夫だ。いいから気にするな。教室へ行くぞ」
 しかし、生徒達はすぐんび興味を失ったようで、また視線をお互いに戻した。
「ほら、大丈夫だろ? 誰もお前のことを気にしてないよ」
「……うん」
 よづりは自分のことを引きこもりと言っていた。劣等感を強く持っているからか、どうも他人の目に敏感に反応しているようでビクビクと体を震わせている。
 元引きこもりには酷だったか? いや、そんなことは無い。人は常に誰かから見られているものなんだから、これぐらい耐えられないと。
 教室へ行けば嫌でも沢山の注目を浴びることになるんだから。
「よづり。俺の後ろばかりに隠れてないで、前へ出てこいよ」
「………いや」
「じゃあ、横に並べ。いつまでも後ろにいちゃダメだ」
「……うん。わかった。かずくんと一緒なら……平気」
 そう呟いて。俺の横によづりが並んだ。二人揃って廊下を歩く。
廊下には多くの生徒が居た。みんな、いきなり俺と連れ立って歩く制服姿の大人に驚いたように奇異の視線を向けていた。
「……」
 無言でよづりが俺の腕を握ってくる。まるで逃げたい、逃げたいと言いたげに弱い力で引っ張る。
「安心しろって。いまはただ珍しいだけで見てるんだ。すぐに誰も見なくなるよ」
 そのとおりだった。生徒達は昇降口の奴らと同じく、一度だけ俺達のほうを見ただけだった。
 それにしても。どうしてよづりはこんなに皆の視線を気にしてるんだろう? そんなことを考えながらも、よづりに腕を掴まれたままだというこの状態にも少し焦っていた。
 俺ら、めっちゃ恋人みたいに見えてんじゃねーか? 急に顔が熱くなった。
「……えへへ」
 そんなとき。ふと、隣にいたよづりが笑う。俺はびっくりしてよづりを見た。流れるような黒髪が顔の三分の一ほどを隠しているが、彼女の口元は嬉しげに緩められ、目元には笑い皺がとほっそりと寄っている。
 どうしたんだ?



418 :真夜中のよづり7 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/07/22(日) 20:41:37 ID:QvlYH/2a
「かずくんの言うとおり、みんな、そんなに気にしてないんだね……。大丈夫……これなら大丈夫だよ……」
「そうか」
「うん……。あたしの制服姿って……変じゃないんだね」
 ……こいつ、もしかしてそこが一番怖くておびえていたのか? てっきり、学校や視線自体にトラウマがあったのかと思ったじゃねぇかよ!
 まぁ、実際はちょっと浮いてるんだけど……。よづりが気にしないんだったらいいか。気にしすぎることは心身によくないとか言うしな。
「ここを上がって、すぐ傍にあるのが俺らの教室だ」
「本当に?」
 なんで疑り深げなんだよ。
「ああ」
「じゃあ、そこへ行けばゴールだね……」
 ……いや、そこで俺にとってはそこからがスタートなんだけどな。
 と、そのとき。
「あ! 森本くん!」
 高いアニメ声で上から名前を呼ばれた。見ると、階段の踊り場から一人の少女が顔を出していた。少女は俺の姿を見つけるとぴょーんと階段からポニーテールを揺らして降りてくる。
 ぱたぱたというイクラちゃんが歩くような足音が似合う、少女。いや、少女っていっても俺と同級生なんだけどな。ただ、身長139センチ(本人は140と言い張っている)で、くりくりな童顔。
ちっちゃな鼻とつぼみのような受け口でそこから発せられるのは新人声優が演じる子役のようなほど高くて響くアニメ声。
 俺が今日の朝になでなでした、藤咲ねねこ(あだ名:ロリ姉)だった。
「どうしたのー? 朝いたと思ったら、教室には居なかったし……えいっ」
 ねねこは能天気に言いながら、最後は階段を三つ飛ばしで飛んで下りた。
「と、ととっとっ、あいたっ」
 着地を微妙に失敗した。しかし、そんなことは無理矢理おくびにも出さないで(若干痛がっている)ねねこは言葉を続けた。
「サボり? いいなぁー。あたしも一回サボってみたいよ。みんなやめろって言うんだけど……おりょ?」
 くりくりとしたどんぐり眼を凝らせて、ねねこはよづりの存在に気付く。
「お、お、お?」
「………」
 よづりも、突然現れた高校生とは思えない少女の存在に口をぽっかりとあけていた。
 ねねこはふにゅと頭を傾かせて、しばらく考える。自分の記憶の中によづりが居たかどうか探しているらしい。ねねこの頭がかりかりと動き、ハードディスク上を検索している。
 ただ、空稲恒が言うにはねねこの頭はウィンドウズMeぐらいの性能らしいのだが……。ま、まさかフリーズすることは無いだろ。
「むぅー……」
 眉毛が八の字に傾く。まぁ、見つからないだろうな。
「えっと……、誰でしたっけ?」
「……」
 よづりは相変わらず無言だ。無言のまま長く垂れた髪の毛の間からねねこを見つめる。しかし、見つめる時間は連続で2秒ほど、見つめるがねねこの戸惑う視線にすぐに目を逸らす。
「……えと……」
「………ん」
 じぃー。
 お前ら二人とも助けて欲しそうに俺のほうを見るなよ……。
「えーっと、ロリ姉。こいつはうちのクラスメイトの榛原よづりだ。今日から登校することになったんだよ。そして、よづり。この子はうちのクラスの女子の藤咲ねねこだ」
 ロリ姉はふむふむと頷く。よづりは聞いているのか聞いてないのかわからないが、よく見れば同じように納得したように頷いているので多分聞いてるのだろう。まぁ、表情は相変わらず暗いからわかりにくいが。
 しかし、ここでねねこに出会えたのは幸運かもしれない。
「へぇー、そうなんだ。はじめまして!」
 すぐに無邪気な顔になってねねこは笑うと、よづりに手を出した。
「は、はじめまして……」
 俺のときとはうってかわって、よづりは弱々しげにその手をとった。二人の間で軽い握手が交わされる。
 ねねこは誰とでも仲良くできる(可愛がられる)うちのクラスのアイドル(というか愛玩動物か?)的存在だ。個性的なやつが多い、うちのクラスでは(ナリは個性的ながらも)かなり人畜無害な部類に入る。
 ……クラスメイトの中には常に木刀をもってるヤツとか居るしな。
 元引きこもり二十八歳高校生でなおかつ暗く内気でかんしゃくもちというかなり萌え要素としてもかなり特殊な部類に入るよづりが、一番クラスに溶け込めやすくなるのはねねこと仲良くできることなのだ。
 うちのクラスの友人相関構成はそこまで単純ではない。しかし、ねねこに関してだけは恋愛ゲームの主人公のようにすべてのクラスメイトと同じぐらいの友情度で通じている。
 図にしてみれば、くもの巣の中心にねねこの顔を置いてその周りにクラスメイトの顔を乗せてみればわかりやすいかもしれない。



419 :真夜中のよづり7 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/07/22(日) 20:42:49 ID:QvlYH/2a
 まぁ、いろいろ込み入っている、砕けて言うとねねこに認められれば自然と友達の輪も広がっていくということだ。
 だから俺は偶然起きたこの邂逅を心の中でめちゃくちゃ喜んでいた。
 俺が大粋な幸運を噛みしめているそのすぐ横でねねこは楽しそうによづりに話しかけている。
「なになに、転校生なの?」
「……違い…ます」
「ふーん、まいいや。今日から登校するんだよねっ。同じクラスなの?」
「同じクラスだよ」
 俺がよづりの代わりに答える。ねねこはよづりのことを転校生と思ってるみたいだが、こいつは不登校なのでクラスは一緒だ。だいいち同じクラスじゃなかったら俺もよづりと逢うことはなかったな。
「そっかぁ。じゃあクラスメイトが一人増えるねっ」
 枠は増えてないんだけどな。

「……ねっ」

「え?」
「………」
 今なんて言った?
「ん、どしたの?」
 ねねこが俺のほうを見上げて首をかしげる。
「……」
 俺の視線に、よづりはぷいとそっぽを向く。
……たぶん、だが。今よづりはねねこのセリフを少しだけ真似ていた。ねねこの語尾が上がる特徴的な喋りかたを口から発したのだ。それもどことなく楽しげに……。
「そうだ。榛原さん、今日がこの学校初めてよねっ。あたしが案内してあげる!」
 ねねこはよづりの手を取って、向日葵のような笑顔で笑いながら引っ張っる。
「お、おいおい。ねねこ」
「あたしねっ。転校生に校舎を案内する役、一度やってみたかったの! ねぇ、あたしに榛原さんを案内させて!」
 話を自分で進めていくなよ。あとねねこ、お化けの噂があるからって通らないから開かずの茶道室は案内できないだろ。
「い……いや………」
 よづりは抵抗するが。
「いいからいいから!」
 ねねこはそれを遠慮していると勘違いして、無理矢理引っ張っる。
 そんな、ねねこの天真爛漫な笑顔によづりも毒気を抜かれたのか、徐々に抗う様子も抜けていき。
「う、うん……」
 少しづつ、よづりはねねこに手を繋がれ、俺の傍から離れていく。
 さすがだ、藤咲ねねこ。その笑顔はよづりの心を覆った鎧を浄化していく程だ。浄化って言葉の響き、なんか恥ずかしいがな。
 というか、委員長。コレだったらよづりを迎えに行く役は俺じゃなくてねねこに行かせればよかったんじゃねぇか?
「まず、あたしたちの教室から案内してあげるね!」
 ねねこがよづりの手を引いて階段を昇る。連れられながら、よづりは不安げに俺の顔を見るが……。
「よづり。いってこいっ」
「う……うんっ。えへっ……」
 俺の言葉に、よづりははにかんで笑う。そして、ねねこの手をしっかりと掴んだ。
 まるで、自分の育てが娘が嫁に行くような感覚がする。寂しいとかそういう感じかな。よづりと出会って数日しか経ってないけどさ。
 いや、でもこれでいいんだ。
 俺の目的はよづりをちゃんとした人間に治してやることだ。そんな、寂しいとかいった感傷で俺が我侭を言ってはいけない。
 心を開かせるのは俺より適任が居たということ。ただそういうことだ。

「ねねこ! よづりをちゃんと案内してやってくれよ!」
 俺は階段を昇っていくねねこに大きく声をかけた。
「うんっ! がんばるねっ!」
 ねねこはいつもと変わらない笑顔でこっちを向いて返事をする。
 そう、いつもとかわらない笑顔で。
 いつもとかわらず。

 ずり。

「あ」

 よそ見しながら階段を駆け上がっていたせいか。足を踏み外したのだった。
「きゃあっ!」
「……あんっ」
 犬が右向きゃ尾は左。ねねこが足をすべらしゃ、手をつないでいたよづりもこける。


420 :真夜中のよづり7 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/07/22(日) 20:44:12 ID:QvlYH/2a
 どがらっしゃん!!

 ねねこはよづりを道連れに階段を転げ落ちたのだった。

「お、おいっ!」
 一番下まで、転げ落ちた二人。
 落ちたねねことよづりの二人は天地がひっくり返っていた。
 本来足のあるところに頭があり、頭のあるところに足。
 体育の授業で前転しているときとまったく同じ格好で、よづりとねねこは俺の前できゅぅと伸びていた。
 で、体育と違ってこいつら二人は体操服ではなく制服を着ていたわけなので……。
「……げ」
 二人のスカートがめくれあがっていた。
 俺の目の前には二つの白い布が晒されてしまっていた。
 一つは色気もへったくれもない、ねねこのお子ちゃま的なしろおぱんつ(防御力2)。
 そして、もうひとつは……。
「……毛糸…?」
 よづりがはいていたのは本気で色気のかけらも感じられない、毛糸のパンツであった。
 毛糸パンツ。
 毛糸で編んだパンツ。
 氷攻撃耐性は20%ぐらいだろうか?
 氷の精霊フェンリルと闘う時には是非事前に買って装備しておきたいシロモノだな……って。
 でんぐり返ししたままで意識を回復させ、自分がどんな状態か自覚したらしいよづりと、視線が交錯した。

「うわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああん!!」

 よづりは俺の視線が自分のぱんつに言ったことが気づくや否や、顔を真っ赤に染めて立ち上がると、叫び声を上げながら走り出す!
「よ、よづり!!」
 よづりは俺の横を通り過ぎ、廊下を奥に向かって走り去ってゆく。
「まて、よづり!」
「うわぁぁぁああああん!!」
 クラスメイトの空稲恒の言葉を思い出した。恒曰く「ロリ姉は人畜無害だけど、たまにどでかい爆弾を落とすから注意にゃ!」と。
ああ、今なら恒の言ってることがわかるっ。ねねこめ、こんな所でドジなんて起こすな! ドジなら人の迷惑にならない形でやってくれ!!
 俺は、よづりと同じようにパンツを晒してのびているねねこを放置したまま、廊下を曲がり消えていくよづりを追いかけた。
(続く)