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13 :赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/03/22(木) 00:04:36 ID:hJFrsf6U
 えへへへへ。
 そんな低い笑い声が上の階から聞こえている。
 ここは二十八歳元引きこもりの榛原よづりの高級住宅だ。広いリビングに広い台所。俺の実家よりでかいんじゃないかと思う。こんなところにあいつは独りで住んでるのか?
 榛原よづりを助け起こした後、俺が学校へ行く準備を命ずるとよづりは素直に頷いて、自室のある二階へと鼻歌を歌いながら上がっていった。
 さっきまであんなに落ち込んでいたくせに、もう上機嫌になっている。猫か、こいつは。
 今、上でヤツはあの縁起の悪い黒い服からちゃんと学校指定のブレザーにでも着替えているのだろう。しかし、二十八歳の学生ブレザーか……。なんか想像つかん。
 そんなことを考えつつ、俺は散乱した一階で、連絡してそのまま姿を消していた委員長を探していた。
 よづりを宥めるので一瞬だけ忘れていたが、元々ここに来た目的は委員長を助けるためだったんだ。
 いま委員長はどこに居るのだろう。携帯電話で委員長の番号を押してみると、台所からサトミタダシのあの音楽が聞こえた。うわぁ、委員長の着メロだよ。
 委員長いわく、お父さんの好きな演歌歌手の曲が気に入ったので使っていると言い張っていたが……。残念ながら俺はこの曲の元ネタを知っていた。
 興味なさげにそう言い張る委員長を見て、俺は委員長でもゲームするんだなぁとちょっと親近感湧いた。そんなエピソード。
「台所に隠れるスペース無いだろ……」
 あったとして、冷蔵庫の中か? 無理だ無理。開いてたし、中見てるし。台所を覗くと、着メロのほかにブーンブーンとバイブが響くときの独特の音が一緒に流れている。
 テーブルの下を除くと、あった。委員長の携帯電話。
 携帯電話だけあっても意味無いんだよ。どうやらドサクサの最中に落としたようだ。俺は自分の携帯の緑ボタンを押して、止める。委員長のピンクの携帯電話が音をとめた。
 俺はそれを拾い上げる。この携帯電話の持ち主はいまどこにいるんだろう。
 玄関に委員長のものらしき靴はあった。中に居るのは間違いない……いや、委員長が裸足で逃げた可能性もあるな。
 くそぉ。
 台所、和室、風呂場、すべて見て回る。……隠れるところ、逃げ込むところ……。俺だったらよづりが刃物持って襲ってきたとしたらどこに隠れるだろうか。
 一階にはいないのかな? じゃあ二階か? しかし、二階にはよづりがいるし。まぁでも一応見てみるか。廊下を歩いて、二階への階段を昇ろうとした戻ったところで、
「ん?」
 廊下の奥にあるドア。小さな摺りガラスの窓がついていて、太陽光の明かりが漏れていた。トイレか。
 俺はちょっと気になって近づいてみる。よく見ると、トイレのドアノブの先にある小窓が赤くなっていた。誰か居る。家の者ではないはずだ。ではトイレに隠れているのは……。
 こんこん。
 軽くノックしてみる。返事は無い。
 しかし、人の気配はある。もう一度、静かにノックをする。何故か、子供の頃親戚の家でやったファミコンソフトのグーニーズを思い出した。
 ドアに顔を寄せる、もしかしたら怯えていて返事ができないのかもしれない。俺は小声で委員長を呼んでみた。
「いいんちょうー?」
「………森本君?」
 ようやく、聞こえた委員長の声はとてもか細い。怯えて怯えて、ついにどうしようもなくなったような。そんな感情の最後に出したような声だ。
「生きてる?」
「……なんとか」
 俺の小さいボケにも大して突っ込んでくれない。よづりはいったい何をしたんだ?
「そこに、榛原さんはいない?」
 ようやく俺という仲間に話しかけられたせいか、委員長は徐々に声の調子をとりもどしていく。しかし、口調によづりを怯えるような感情が残っている。
 俺が「いないよ」と言うと、ドアの向こうで大きな大きな安堵の息を吐く音が聞こえた。はぁぁぁぁという空気が震える音。
 そして、トイレのドアノブの赤いロック表示がガチャリとまわり、青へと変わる。そして、ゆっくりとドアが開いていき……。
「……本当に森本君?」
 ちいさなドアの隙間から、委員長の目が覗く。その瞳が俺を捉えた。俺はどんな表情で迎えればいいのか分からず、とりあえず普通にやぁと朝挨拶するように右手を上げてみた。
 委員長の目が大きく丸くなった。ドアの外に居るのが本当に俺だとわかると、委員長は急いでトイレのドアを開いた。そして大きく飛び出すと、、
「森本くぅん!!」
 ……俺の胸へ飛び込んできた。
 へっ!? 委員長の柔らかくてほそい体の感触がぼふりと俺の胸元に抱かれるように当たる。そのまま俺は押し倒されそうになるが、足の力で何とかその体を胸で留めた。
「ど、どうしたんだよ、委員長」



14 :真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/03/22(木) 00:05:40 ID:hJFrsf6U
 俺が声をかけると、途端委員長の体は脱力したようにへにゃりと床に引っ張られる。
「わっと!」
崩れそうになった体を俺は両腕で支えた。委員長のわきの下に腕を挟みいれて、きちんと立たせる。
「だ、大丈夫か? 委員長」
「……よ、よかったぁ……こ、こわくて、こわくて……森本君の顔見たら、安心しちゃって………」
 そう言う委員長の顔は、普段のキリリとした強情な表情とはまったく違う。ハリウッド映画の化け物に襲われたヒロインのような、とても弱弱しくて危なげで不安定な、怖がる女の子の顔だった。
 その表情に俺は少しだけ、胸がきゅんとなる。なんつーか、委員長でもこんな顔するんだ……という新鮮さ。うわぁ、めちゃくちゃベタだな。俺。
「安心しろ。もう大丈夫だ」
「……う、うん。……大丈夫、大丈夫だよね、ねえ、ねぇ………え、え、えぐ、えぐっ」
 俺の言葉に安堵したのか緩んだ顔の委員長はどんどん言葉尻が弱まっていくと。嗚咽を混じらせて、
「ええ、えぐっ、えぐっ、えぐぅ」
 静かに、泣いた。
 ……俺の胸で。涙をぽろぽろ流して。安堵の涙。ぽつりぽつりと、俺の制服を濡らす。
 よっぽどよづりに追われたのが怖かったのだろうか。それだけじゃないな。真面目一本で芯が頭の先から尻尾まで通っている委員長にとって、よづりのようなまったく芯が通っておらず、行動も思考も混濁した意味不明な相手と対峙したのは初めてだったのかもしれない。
 相手の意識が読めないという恐怖。それがよづりが暴れだした時の身体的な恐怖とあいまって、委員長にかつて無いほどの恐怖を襲わせたのかもしれない。
 よづりがどんな風に暴れたのかはこの家の惨状を見るしかないし全て俺の想像だよ? しかし、そんな想像を俺にさせてしまうほど委員長の姿はか弱かった。
 そのままえぐえぐと泣く委員長を俺は宥めるように彼女の髪の毛を軽く撫でた。細くて綺麗な髪質。俺が手のひらをスライドさせるごとに委員長のおさげが揺れる。
 しかし逆に、心の奥では俺はこんな女の子にいままで指図されていたのか……と妙な感情も浮かんでくる。
 まてまて、なんで俺はそこまで冷静なんだよ! ちょっと前の俺は女の子に抱きつかれたら確実に真っ赤になって慌ててただろ! 酔っ払った鈴森さんに抱きつかれた時なんて動けなくなって鈴森さんのリバースを避けきれず顔面からうけちゃったぐらいだぞ!?
 泣いている委員長を宥めるように彼女の髪の毛を撫でつつ、俺の頭の中では二つの意味で苦い思い出が再生されていた。
 と、そのとき。
「かずくぅぅぅぅぅん♪♪」
 二階にあるはずの家の主の部屋(多分)の引き戸が、ガラリガラリと勢いよく開かれる音と共に、全ての幸福を詰め込んだような甲高い声が家中に響いた。
「かずくんかずきゅぅぅぅん♪♪」
 猫なで声とも違う、媚びて媚びて媚びに媚びて媚びすぎるほどの甘ったるい響き。その声がドスドスドスという階段を勢いよく下りる音と共に抱き合う俺らの耳に届いた。
「……っ!」
 無言で委員長は肩をこわばらす。
 それを見て、俺はこの状況のマズさに気付いた。
「やべぇ!」
 トイレの前で、抱き合う二人。せっかく機嫌を治したよづりにこの姿を見られたなら、こんどは家の大黒柱(あるのか知らんが)を粉々にするほど暴走して、高級住宅を一瞬にして築80年のボロ家にしてしまう程暴れるかもしれない。
「かずきゅんかずきゅぅぅん♪♪ きゅんきゅん~♪♪」
 二十八歳がきゅんきゅん言うんじゃねぇ! さっき俺言ったけど。
 サキュバスのような甘い甘い悪魔の声が近づいてくる。階段を下りて、俺に向かってくる!
 よづりに応対していて、俺は判断能力が確実に上がっていた。
「わりぃ、委員長! ちょっとまた隠れててくれ!」
「きゃあ!」
 抱きかかえていた委員長をむりやり引き剥がすと、開いていたトイレのドアを開け、委員長を元のトイレの中へ押し込んだ。姿をもう一度隠させる。
「も、森本くん、いったい……」
「委員長! 少し静かにしてて!」
 洋式トイレだったトイレの便器に委員長は腰を落として座った格好。突然のことに口を開こうとする委員長を俺は全てを言わせず、俺はトイレのドアを勢いよく閉めた。
 かなり、でかい声で会話をしてたが、よづりに聞こえてなかっただろうか。多分、あの女の性格からして大丈夫だとは思うが。
「かずきゅぅぅぅん♪♪」
「いてぇ!」



15 :真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/03/22(木) 00:06:36 ID:hJFrsf6U
 背後からの衝撃! 甘い声と共に俺の背中によづりが飛び込んできたのだ。
背中にふよんと、柔らかくあたる女の人特有の感触が伝わる。大きなクッションに俺は一瞬だけ意識がいやらしいほうに揺らいだ。その次の瞬間、なんと俺の首元にしっかりとよづりの腕がまきついていたのだった。
 今日は委員長に飛びつかれて、よづりに飛びつかれて、よく飛びつかれる日だな。オイ。そんなことを考えつつも、がっちりと閉められた首元。ちょいと力を入れればチョークスリーパーである。確実に死ねるな。
 ぐいっと、俺の横からよづりの横顔が現れた。
「かずきゅんかずきゅんっ♪♪」
 よづりは嬉しそうな声で俺の頬にキスの雨を降らせていた。ちゅっちゅっちゅっとついばむような感触がくすぐったくてこっぱずかしい。俺の頬が紅潮していくのがすぐにわかる。
愛情表現のようだがこれはいくらなんでもクラスメイトの域を超えているだろ! 俺が引き剥がそうとするが、かまわずによづりはキスを続けた。
小さな吸音が耳元で響いている。うわぁ、キスは憧れのものなのに、コイツのだと妙に変なことを考えちまう。
 よづりはようやく気が済んだのか最後に、
「ん~~っっ。ちゅっ」
 大きく頬を吸い込んだキスをすると、腕をはずして。俺から離れた。
俺は跡になってないかと心配で頬を指でなぞる。上書きされる心配は無いが、誰かに見られたら恥ずかしさで腹上死もいいとこだ。幸いにも吸った力は大して強くなかったようで、触った限りでは跡はない。
口紅だったら後で委員長にでも化粧落としを借りなければ……。
「えへへ、えへへへへ」
 よづりと向き合うと、よづりは相変わらず何も考えていない純粋すぎるほどの満面の笑みで俺を見つめていた。
「ねぇねぇ。見て見て。あたしの制服姿! 着たの一年振りなんだよ! ねぇねぇ! ねぇ!」
「お、おう」
 うるせぇよ! 構われたがりか! あ、構われたがりだった。
よづりはブレザーの制服を引っ張るように俺に見せつける。
うちの学校の制服は男女と共通の青色のブレザーで胸元にはプラスチックの名札がついている。男子は無地の黒ズボン。女子はひだのついたスカート。シャツの胸元には男子はネクタイ。女子はリボンがつき、ネクタイとリボンの色は学年ごとに違っている。
一年生は黄、二年生が赤、三年生が紺である。なんで、学年が上がるごとに地味になっていくかは永遠の謎だ。
 よづりは俺と同学年なので、赤色のリボンをつけていた。結び目は多少捻じ曲がっているが、一年ぶりに着たのだから慣れていないのも当然か。
「えへへ、似合う?」
 首をかしげて訊いてくるよづりに、俺はこくこくと頷くしかなかった。つーか、この会話の流れじゃ頷くしかないって。
 ただ思う。よづりの制服姿は正直委員長と比べると確実に浮いている。
 そりゃそうだ。二十八歳という年齢で大人の体つきのよづりには、なんというか……主婦が無理してきてみちゃいましたという感覚がしてならない。
いや、それすらも無いな。主婦にはありえない長い長い黒髪がよづりの浮いた状態をさらに際立てている。リングの貞子みたいな髪の毛だからな、普通の状態でも怖さが際立ってんのに……。
「えへへへ。かずくんに似合うって言われた。うれしいうれしい」
「ああ」
「じゃあ明日も制服で学校に行くことにするね!」
 当たり前だ。
「えへへ。さぁ。かずくん。早く学校に行こう?」
 こいつは、陽と陰の差が激しすぎる。さっきまで死ぬんじゃないかと思うほど落ち込んで泣きじゃくってたクセに、今は天真爛漫という言葉が似合うほど陽気だ。天真爛漫すぎて言動が幼児化している。
 だいいちあんだけ煽っていた酒は? まさかもうアルコールを分解したのか!? 日本酒だぞオイ!? 未成年だから甘酒しか飲んだこと無いけどさ。
 よづりは俺の手を掴んで引っ張った。まるで遊園地に行くのが楽しみで仕方が無い幼稚園児のようだった。
「あ、ちょっと待てくれないか。よづり」
「ん、なぁに? かずくん」
 学生鞄を持って玄関へ引っ張り靴も履かずに外へ出ようとするよづりを引き留める。よづりはこちらを向いてむぅ?と首をかしげた。なんだか仕草が猫みたいだ。黒猫だな、確実に。
「トイレ貸してくれないか?」
「おトイレ?」
 このまま出るわけには行かない。トイレに委員長が隠れたままだ。


16 :真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/03/22(木) 00:08:06 ID:hJFrsf6U
「うん。トイレどこだ?」
「そこ。一緒についてってあげようか? かずくん」
「いや、いい。玄関で待っててくれ」
「うん。すぐ来てね」
 珍しく、よづりは素直に頷いた。俺は靴下で玄関に出ているよづりに靴を履かせるように促すと、彼女はいそいそと靴べらを使って革靴を履き始めた。きついのか、うんうん言っている。
 その間に、俺はトイレの前まで走って来た。玄関からトイレのドアは見えないため、よづりに気付かれずコンタクトは取れるはずだ。よかった、ヤツが本当についてこなくて。
「いいんちょぉー……」
 突然、押し込めたことを怒ってないかな……。ドアごしになるべく小声で呼んでみる。
「……なに?」
 怒っているのかどうか微妙な間で返事が返ってきた。トーンは低いが、はっきりとした声だ。くそ、表情が見えないし俺が鈍感なせいで委員長の感情が想像できない。
「とりあえず、いいか。お前が出てくるとまたややこしくなるかもしれないから……。俺らが出てってからしばらくしてそこから逃げろ」
「この家の鍵はどうするわけ?」
「開けっ放しでいいだろ」
「泥棒が入るわよ」
「もう、泥棒が入ったみたいにグチャクチャになってんだから、逆にはいらねぇよ」
「まあ……そうよね」
「じゃあ、いまからよづりを学校に連れて行くから。お前も後から来いよ!」
「ねぇ、あたしと榛原さんが教室で鉢合わせたら……もしかして危ない?」
 委員長の語尾が弱弱しくなっていく。彼女はある意味俺の知らないよづり(暴走モードな)を知っている。委員長はよづりに対して怯えているのだ。
 しかし、俺はあまり大事にはならないと確信していた。
「大丈夫。俺がなんとかするよ」
「なんとかって……」
「もし、よづりが暴れてお前に危害を与えようとしたら、全力で守ってやる」
「森本君……」
 そろそろ、戻らないとマズイかな。
 なぜなら、玄関から聞こえるよづりの鼻歌がだんだん不機嫌なメロディーと変化してきているのだ。ヤツには忍耐が無いらしい。
「そろそろ行って来る。あとでな」
「……うん」
 俺は委員長のうなずく声を聞くと、慌てて玄関へ戻った。玄関では制服姿でカバンを持ったよづりが俺のほうを見て、くんくん鼻を鳴らしながら待ち構えていた。まるで散歩を待っている犬のようだだ。
 さっきは猫で、今は犬。ワンニャンだ。ワンニャン。
「かずくん! いこいこいこう!」
 よづりは俺の手をもう一度掴んで、しっかりと指を絡めた。いわゆる恋人つなぎだ。
 そのまま俺を引っ張ると、玄関を飛び出した。幸せそうに笑って俺の手を引くよづりの顔。満面の笑み。天真爛漫。

 そうだ。あまりにも天真爛漫……すぎる。

「かずくんと一緒のクラスなんだよねぇ。えへへ、昼休みは一緒にお弁当食べようね。放課後は一緒に帰ろうね。ずうぅっと一緒だもんねぇ。えへへへへ、えへへ、えへ、えへへへへ」
俺はよづりが元々どんなヤツだったのかは知らない。もともとの性格も知らない。もしかしたら、引きこもる前は普通のOLでバリバリと働いていたキャリアウーマンだったのかもしれない。
だが、わかる。この天真爛漫さが確実に後天的なものだ。後からできた天真爛漫。
 さらに、この天真爛漫の根源は、俺への執着。いや、依存といったほうが正解か。俺への依存心が彼女をそこまで天真爛漫にさせている。
 じゃなきゃあ、迎えに委員長が来ただけであんなに暴れていたのに、俺が着たとたんに大人しくなって俺に懐くのは異常だろ?

 じゃあ、……解決すべき問題はここなのかもしれない。
 彼女の依存心を捨て去ることが、よづりを更正させる一番の近道だろうな。

 ただ、今は彼女を家から出して学校に行かせることが大事だ。今は、今だけは、俺に依存させてあげよう。そして少しづつ、離していけばいい。

「さぁ、かずくん。行こ行こ!」




 この時の俺は、まだ物事を楽観していた。まだ甘く考えていた。
 まだ、覚悟を決めていなかったのだ。

 覚悟したと思い込んで、頭が働かせ彼女を助けようとするヒーローになった自分に一人で勝手に酔いしれていた。
 それが彼女を、よづりを傷つける結果になるとわかっていたはずなのに。
(続く)