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610 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/08/07(火) 01:46:25 ID:jLVPQr5r
 キ道戦士ヤンダム~狂気の鼓動は愛~

遠い未来、地球に巨大な隕石が海に落ちた。途轍もなく巨大な隕石によって打ち上げられた巨大
な波は地表面の三分の一を覆い、人々は…あるものは海上の上に浮島を作って粗末に暮らし、また
あるものは狭い陸地を求めて血で血を洗うような戦争を起こすという陰惨な生活を送ることを余儀
なくされた…この年より西暦は海中世紀と名を改める事になる…しかしこれは西暦を改めることに
より、この最大の危機を人類全体が協力して生きていくという崇高な思想による命名を…まるで
あざ笑うかのように、限られた陸地という椅子をかけた命がけの椅子取りゲームの開始…すなわち
全世界戦争の始まりの年でもあった…。
 これはそんな世界での、少年少女たちの、純愛と狂気で彩られた物語。
 
 パプアニューギニア沖、10時18分
 
 ドガガガガガアアアン!!…普段は波音しか響かないようなだだっ広い洋上に
巨大な爆音が鳴り響いた、爆音の正体はロボットと呼ばれる巨大人型兵器同士
による戦闘の副産物だ。海中戦争が始まると同時に開発されたこの兵器は、両
足に装着されたホバーシステムによって高速で自在に洋上を駆け巡ることのでき
るという特性を生かして各地で戦況を好転させ、いつしか型遅れの戦艦や空母艦
よりも戦争を左右するというような存在にまで祭り上げられていった。
 ドゴオオン…!!すさまじい爆音を上げて一機のロボットが海中で爆発した。
 それにつられる様に破壊されたロボットの左右後部に構えていたロボット達も
次々に爆破四散していく。
 「うおっしゃあ!!沙紀!!次は!?」
 一度に三機ものロボットを撃破したことで、極東アジア軍第十八天国舞台所属
 南慶介少尉待遇の声は普段の覇気のないものと違って、かなり気合の入ったものになっていた。 
「アイアイ!前方より二時と四時の方向より敵影二十機を確認、さら駆逐艦が一機近づいてる!」
 それに釣られるかのように副座の操縦席に座った 倉内 沙紀少尉待遇の声も、普段ののんびり
したものとは格段に違った、やる気の満ち溢れた声になっていた。 
「アイアイ!それじゃあ…一気に砕いてやるか!ミサイルランチャー!オープン!」
 …ドガガガガガァン!!!海上にて左右より挟み撃ちをかけようとしていた敵…北イタリア及び欧州
連合軍の量産型ロボットであるMRB≠002 スクアーロの編隊は慶介と沙紀の操るロボット…JRB≠055
覇洋の50発に及ぶ連続マイクロミサイルの攻撃を受けて次々に爆破四散していった。
 「すごいよ慶介…少尉殿!全ミサイルが敵に命中ですよ!」
 喜ぶ沙紀、しかしこれはある意味当然のことだった、何せこの機体…覇洋はスクアーロに比べれる
のが失礼なくらいに高コストな機体だったからだ。
 全長は18mのスクアーロをはるかに上回る30m、機体を覆う装甲は通常の三倍を超える硬質金属で形成
され、巨大な機体に見合うように武器も過剰なまでに火力過多に搭載されているのだ。
 「慶介…少尉!敵を前方に確認!指揮官用スクアーロです!」
 「沙紀少尉!クローアームを!」
 通常の三倍の速さで迫る指揮官用スクアーロが接近戦用のスピアで特攻を駆ける!しかしそんなものに
負ける覇洋ではない、スピアが近づくぎりぎりの距離でも後退せずに、左手に装着された有線式のクローアーム
をスクアーロの胸部にめがけて打ち出した。
 …ドオン!クローアームに挟まれるような形で攻撃を食らった指揮慣用スクアーロは一気に後方に吹っ飛んだ
その先には後退しようとした駆逐艦があった。
 「地獄に落ちろ!もちろん死ね!!」
 慶介はそう叫ぶとコントロールスイッチのパネルを押した、強力なクローアームはボタンひとつで暴導索に早代わりするのだ。
 ドガガガガガアアアン!!!…数珠繋ぎの有線とクローアームは一気に爆破した、そして指揮官用スクアーロと、それに巻き込ま
れた駆逐艦も次々に爆破されていった。
「…ふー…今日も…生き残れたね」
 生気のない顔で沙紀がつぶやく、どうやら無線で帰還命令が下ったようだ。
 「ふー…ふー…ああ…今日も助かったな…」
 先ほどの威勢と打って変わって、つかれきった顔で慶介は穏やかに、かつ沙紀
のそれに合わせるかのように慶介も呟いた。
 常に死と隣り合わせの恐怖と終わりの見えない戦争は、十代の少年少女の心には
かなりの負担となっているようだった。


611 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/08/07(火) 01:49:37 ID:jLVPQr5r
慶介と沙紀は疲れきったまま、戦闘領域から母艦であるヴァリアント号に帰還した。昇降用エレベーターで覇洋のコクピットから地面に降りたとき
二人は初めて全身から力が抜けるのを感じた。
 今日も生き残れた、この感覚が二人の体から力を奪っていった。まあ無理もないのだろう、子供のころに大津波を体験し、やっとの思いで生き残
ってみれば災害の混乱で家族と引き離されてこの戦争に送り込まれてしまったのだ…もはや生きていることは彼らにとって異常だった、ありえない
事態に巻き込まれていつ死んでもおかしくない状況下で、こうして二人でいられることが異常だった。
 「なあ沙紀…」
 格納庫を後にして、狭い通路で慶介がそう呼びかけた瞬間、沙紀は膝をついた…その体は小刻みに震え、可愛らしい口元からは嗚咽がこぼれる…
先ほどまでの名オペレータ振りとは打って変わって、彼女の体は今にも崩れ落ちてしまいそうなほどに弱弱しさを感じさせた。
 「う…う、うああああああ」目元に涙を浮かべて叫ぶ沙紀、彼女は完全にパニック状態になっているようだった。
 「くそ!時間切れか…大丈夫だ沙紀、今すぐ医務室に…!!」「あ、あああああああああ!!」
 慶介は沙紀を両手で抱えると医務室に向かって走り出した、赤ん坊のように泣き声をあげる沙紀を、慶介は力強く抱える…。
 「いやだ!いやだ!死にたくない!うああああああああ!!」「もう大丈夫だ、お前は俺が守る…」
 戦争に借り出された多くの子供たちはたいていの場合、津波の大災害による心的外傷を抑え、更に優秀な兵士やパイロットに
なるために、精神強化薬と呼ばれる薬を服用していた…倉内沙紀も例外ではない…前述のとおりその効果は絶大であったが、彼
女の場合はその副作用が強すぎた。
 沙紀は薬が切れると一気に当時の記憶を脳内でフラッシュバックさせて混乱してしまうのだ、パニックになるくらいならいい
が、最悪は手がつけられないほどに暴れまわることもあった…。
 「よし、これで大丈夫。あと数時間もすれば落ち着くでしょう」
 ヴァリアント内部の医務室-先ほどの混乱から処置を受けてようやく落ち着いた沙紀は、ベッドの上で空空と寝息を立てていた。
 「…彼女はこのままでは任務の遂行も難しいかもしれません…南少尉、申し上げにくいですが…」
 「この子を止めるのは無理です、多分もし俺からこの子を…倉内少尉を離せば…この子は自殺するかもしれません」
 慶介は陰鬱な表情でそう答えた、その目には涙を浮かべていた。
 「この子…もともと幼馴染だったんですけどね…あの災害で家族全員を目の前で失って…それ以来施設でも…軍に入ってからもずっと
一緒に生きてきたんです、そうしなければ…俺がいなければ必ずパニックを起こして…」
 「…典型的なタイプですね、戦争の傷を癒そうとするうちに、その心の支えに依存していくっていう…」軍医はそう言った、その顔は
今まで異常に事務的な顔だった。
 「…取り合えず少尉の薬の量は当分の間増やしましょう、後は貴方が支えてあげるといい、緊急時のパニックに対する処置方法も教えます…でもね」
 「何が言いたいのですかな?軍医殿」
 「人の心に開いた穴ってモノは…埋めようとするもの全てを飲み込むこともあるんです、それをじっくりとお考えください」
 「…覚悟は当にできてます、それに…埋めるものはもう手に入る直前だ…明日襲撃する船にはあれがたっぷり詰まっている」
 「…欧州連合の…ヤンダムを狙っているのですか?」
 ヤンダム…欧州連合の開発した新型の精神強化薬の名前だ、曰く、それを常飲すれば心的外傷によるフラッシュバックなどを
起こさずに、確実に今以上の能力を発揮できるという。
 「…けいすけ…たすけて…」
 ベッドでは沙紀が魘されていた、悪夢の内容は多分、あの大災害で両親を失った日の夢なのだろう…慶介は先の手をそっと握
った。
 「大丈夫だ沙紀、俺が助けてやる」
 慶介はあの日、そういって泣きじゃくる沙紀の手を握った時と同じように、その言葉を口にした。
 …自分だってあの災害で母と妹を失ったのだ、もう残っている心の支えは沙紀しかいない…なら、それを救おうとするのは当然
のことだ。
 慶介に手を握られた沙紀の顔は、どことなく幸せそうだった。

 医務室の外で松高軍医は苦々しくつぶやいた。
 「ヤンダムでは人の心は救われない…待っているのは破滅だけだ…」
 ヤンダムを多量に載積した欧州軍の輸送船がこのルートを通るまで、
それほど日はかからなかった。