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506 :言葉と・・・・ [sage] :2007/08/30(木) 19:36:35 ID:b8VSN2bd
 第2話
 私が近衛先生のことを好きになったのは,よく覚えて
いない。先生には、他の人とは違う、何か特別なもの
があった。私が先生を好きになったのはそのためだった
と思う。先生の心の中の狂気のようなものが、私をぐっ
と掴んだのだ。
 先生は、看護婦の間では結構、人気があった。無論、
他の看護婦が先生を好きなのは、私とは違う理由だ。
日本でも有数の製薬会社のオーナー一族で、資産家
の先生は玉の輿を狙う看護婦には魅力的なものだった
のだろう。また。貴族風のちょっと青白い風貌も、先生
の魅力の一つだった。だけど、先生には、浮いた話は
一つもなかった。今思うと、先生の琴線にふれる女性
がいなかったのかもしれない
 私は先生を、自分の物にしたいと思った。先生の狂った
心を欲しいと思った。だけど、先生の目には、誰一人
映っていない。だから、先生が自分になんて振り向いて
くれないとよく分かっていた。私は遠くから先生
のことを見ているだけでとかった。先生が車に乗る
所を隠し撮りしたり、先生が出したゴミ袋から、先生
の日常生活を想像したり、先生の写真を部屋中に貼り付
けたり、そんなことをするだけで、満足していた。それ
で満足できたのは、先生が誰にも心を奪われてなかった
からだろう。



507 :言葉と・・・・ [sage] :2007/08/30(木) 19:40:03 ID:b8VSN2bd
ある日、病院で先生を目にした時、驚愕した。先生
の目に一人の少女が映っていたのだ。それが誰だか、
私には分からなかった。私が知らない人であることは
確かだった。私は、先生が誰にも奪われたくなかった。
だから、その女を殺してやろう、そう考えた。しかし、
不思議なことがあった。先生の生活にはあいかわらず
女性の蔭というものを感じられなかった。ゴミにコンドーム
があるとか、そういうのもなかった。じゃあ、誰なのか、
勤め先の同僚、マンションの住民、先生に近い人間を色々、
調べて見たが、それらしい人物はいなかった。物的な証拠
はない。だけど、私は何故だか,先生の心が奪われたと確信
していた。
 私が先生に対し、疑惑を持ち、ちょうど、一年がた
ったころだった。先生がとても、悲しそうな目で、病院
に来たのだ。わたしは直感した。先生は失恋してしまった
と。
 


508 :言葉と・・・・ [sage] :2007/08/30(木) 19:42:09 ID:b8VSN2bd
先生の失恋から数ヶ月たった日のことだった。措置入院
の患者が、先生の受け持ちになった。先生はちょっとめんど
くさそうだった。殺人犯の患者は何人もおりさして、珍しく
はないが、めんどくさいことは確かだった。
 患者の名前は桂言葉だった。なんでも、男女関係のもつれ
で、西園寺世界という女の子を路上で殺害したとのことだ。
桂言葉が、西園寺世界から恋人を盗ろうとした、もしくは
西園寺世界が桂言葉の恋人を盗った、とか色々、ドロドロ
した様相になっていたようだ。
 正直、私は桂言葉に対し、共感のようなものを持っている。
桂言葉は、その男のことをとても愛していたのだろう。その深い
愛が、殺人ということへいったのはむしろ彼女の純粋さを表して
いると思う。
 先生がカルテを見ると、先生の表情は見る見る変っていった。
私は少し、訝しく思った。先生の交友関係を私はだいたい把握
しているが、その中に桂言葉の名はなかったからだ。
 閉鎖病棟で、手錠に縛られた、桂言葉と先生も面会した。
私もいっしょだった。先生の桂言葉に対する目をみて、わかった。
先生はこの娘に対し、深い愛情を抱いていることを。私は、先生
のかつての先生の想い人が、桂言葉ではないか、そう思った。
 桂言葉は先生を誠君と呼んだ。先生の名は誠ではない、たぶん
桂言葉が好きな男と先生を、錯乱のあまり混同しているのだろう。
先生は、状況を把握し、すぐさま桂言葉に微笑みかけた。そして
先生は、桂言葉にやさしく語った。
「そんなこと、気にしてない。俺は言葉のことが好きだから。」
 わたしは、それは患者のための演技ではなく、先生の本心だろう
そう感じだ。