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840 :羊と悪魔 :2007/09/16(日) 03:14:13 ID:XhI6Pjwi
 質問です。あなたにとって親友とはなんですか?


 私の学校には、とても目立つ髪の色をした女子がいる。
 名前はたしか、石橋あきら。「たしか」なんて使うのは、私が彼女の名前をろくに記憶していなかったからだ。
 そして、これからも彼女の名を記憶することはないだろう。

 結果から最初に言ってしまえば、彼女は死んでしまった。
 頭からその髪と同じ色の血を流しながら、殺された。


841 :羊と悪魔 :2007/09/16(日) 03:14:47 ID:XhI6Pjwi
 出会いは、小学校。私がいた小学校では四年生になるとクラス替えをする。
 目立つ髪をしたあきらのことは前々から気付いていたけど、同じクラスになったときは、なんとなく気に喰わなかった。
 クラス委員長の私。クラスメイトや、他のクラスの人とも仲良しな私。勉強だってみんなよりも得意な私。
 そんな私よりも目立っている彼女が、妬ましかったのだろう。
 でも、そんな嫉妬の感情はあっさりと消えた。ほんの二日三日彼女の立ち振る舞いを見ていて、どう考えても私の方が目立っていると確信したのだ。
 あきらは目立とうとしない。
 誰よりも目立つ髪の色を隠すように、いつも帽子を被っていた。勉強は得意そうだったけど、私に敵うものじゃあなかった。そして、いつでも一人ぼっち。
 そう、私の方が彼女よりも圧倒的に優れていたのだ。ただ髪の色が違うというだけで、彼女は私よりも格下なのだ。
 その頃は、そう思っていた。そう思っていたからなのか、何かにつけ彼女をいじめた。
 いじめた理由はよくわからない。ただ、何故かいじめたかった。きっといじめやすかったのだろう。
 あきらは大人しかった。不気味すぎるほど大人しかったことに、私は気付けなかった。

 燃えるような赤、ではない。鮮血のような赤。
 あきらの髪は、とても赤かった。非現実なほどに。


842 :羊と悪魔 :2007/09/16(日) 03:16:04 ID:XhI6Pjwi
 あきらをいじめる口実は、いつも決まって「親友だから」。
 たとえば給食で嫌いなもの(そういえば当時は魚類が食べられなかった)が出たら、それをあきらの机に置く。
「私たち親友でしょ?」
 そう言えばあきらは何も言わず、黙々と食べてくれる。自分のことだけど、酷い子供だ。
 借りたものを返さないことも多かった。教科書、鉛筆、消しゴム、彼女が大切にしていた小物。多分あきらは困っていただろうが、お構いなし。
「親友だもんねぇ?」
 私はことあるごとに親友という言葉を使っていたが、彼女を親友であるとは思っていなかった。

 責任転嫁もよくやった。
 男子が掃除中にふざけて箒を振り回して、窓ガラスを割ったとき、私の提案であきらが割ったことにしたのだ。
 すぐにやってきた先生に、
「あきらちゃんがほうきで割りました」
 と言ったら、先生は何もしていないあきらに説教をし始めた。あまりの先生の怒りっぷりに、さすがに私も罪悪感が芽生えた。

 しかし、もっと多くの手段で彼女をいじめていた気がするのだが、どうしてもその内容が思い出せない。思い出す必要がないと、私の脳が判断したのだろうか。


843 :羊と悪魔 :2007/09/16(日) 03:16:39 ID:XhI6Pjwi
 中学生になり、大人になったような錯覚を抱いて登校する私の姿は輝いて見えたであろう。
 しかしすでに内面と外面を切り分ける術を手に入れていた私にとっては、輝いていた私は偽りである。たとえ外面は意気揚々と学校へ向かうように見えていたとしても、内面は意気消沈していた。
 中学生になってもみんなの中心にいた私は、毎日のように恋愛の相談を持ちかけられ、正直疲れていた。よくもまぁそんなに異性のことを好くものである。恋愛をしたことがない私にそういうこと聞かれても、根拠のない励まししか出来なかったのがうしろめたい。
 そんな私の初恋が担任の先生であったことは、青春の思い出として、苦い恋の思い出として、タキシード姿の彼と隣に並ぶウェディングドレスの美人のツーショットとともに、今も大切に記憶の中にしまい込まれている。先生、末永くお幸せに。

 ところであきらのことだが、なんとまた私は彼女と同じクラスになった。私のいた中学校にはクラス替えが無いので、これから彼女と三年間付き合うことになる。
 そのころにはもうあきらをいじめることはなくなった。というか、無視することに決めた。相談されたり勉強したりで忙しくて、もう彼女の相手をしている暇は無かったからだ。
 三年間のあきらはおとなしく、誰よりも先に学校に来て、自分の席から動かず、時々自費購入したと思われる何かの小説を読み、そして誰よりも早く帰路に着いた。
 いつの間にか、同じ教室にいながら、彼女の存在に気付かないようになっていた。
 彼女がいじめられ続けていることは知らなかったし、彼女の机が罵詈雑言や中傷で埋め尽くされていることも知らなかった。



844 :羊と悪魔 :2007/09/16(日) 03:18:58 ID:XhI6Pjwi
 再び彼女の存在を思い出すのは、高校受験のときである。
 私は県立の有名校を志願した。偏差値は相応に高く、並の点数ではあっさりと不合格になってしまうが、私の成績なら確実に合格できるという程度の高校である。
 受験当日、試験会場であるその有名校の昇降口で、私は赤い髪の少女の姿を見た。小学生の頃から変わらない、前髪だけが少し長いショートヘア。鮮血のように赤い髪が、冬風に吹かれていた。
 あきらだ。
 驚き立ちすくむ私に気付き、僅かに顔を向けるあきら。その口元には、うっすらと笑みを浮かべていた。
 試験用紙の空白を埋めている間もずっと、あの笑みが頭の中に刻み付けられて離れない。思い出すたびに、何故だか背筋が冷たくなった。
 そうして私は合格し、あきらもまた、合格した。