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204 :最果てへ向かって(1/6) [sage] :2007/09/30(日) 22:01:04 ID:LEyxcZKH
「発射180秒前。79、78、77……」
 カウントダウンの無線交信が聞こえる。今、僕が居るのは外宇宙探査船の操縦室だ。
3分後、僕と彼女は二人、宇宙という漆黒の大海原への大航海に出るのだ。
 同時多発的に打ち上げられる第二次外宇宙探査隊。
その最初の打ち上げを直前に控え、地上との無線交信も緊張感に満ちている。
 無論、僕もそれは例外ではない。心臓がドクンドクンと大きな音を立てて動いているのが感じられる。
「120秒前。19、18、17……」
 ……数年前に派遣された第一次探査隊は全滅した。その理由は公表されていない。
原因究明を待つべきだという意見が大半を占めていたが、結局二度目の探査が行われる事になった。
「失脚を恐れた官僚の仕業」「第一次隊は無事で、これは予算を稼ぐの嘘」なんて噂もあった。
僕にはその真偽はわからない。知る必要もない。重要なのはこの任務を成功させられるか否かなんだ。
「90秒前、89、88、87……」
 カウントダウンの合成音声はただただ冷淡に発射までの時を告げる。
 目線を感じて顔を横に向けると、そこにはバイザー越しに彼女の柔らかな笑顔があった。
――大丈夫、上手くいくよ
そう語りかける様な視線が僕に向いている。ただそれだけで、僕の緊張が若干和らいだ気がした。


205 :最果てへ向かって(2/6) [sage] :2007/09/30(日) 22:01:45 ID:LEyxcZKH
 思えば僕は彼女にずっと支えられてきた。
第一次探査隊が全滅したというニュースを聞いた時、愕然とする僕を励ましてくれたのは彼女だった。
第二次探査隊の募集に真っ先に参加しようと言い出したのも彼女だった。
周囲の大反対にも粘り強く説得を重ね、前後して僕たちを襲ったストーカー騒ぎにも負けずに。
最後の方は僕よりもむしろ彼女の方が熱心だった気さえしてくる。
 候補に選ばれてからの厳しい訓練に、挫けそうになった僕を叱咤激励してくれたのも彼女だ。
「ちょっと、こんなところであきらめる気? 冗談じゃない。今までの努力はどうなるの? 夢の実現は? 」
その厳しい声に何度助けられた事か。だから僕は彼女に全幅の信頼を寄せている。
彼女とならどんな事態でも乗り越えていける。そんな万能感が僕にはあった。

「発射60秒前。59、58、57……」
 とうとう発射まで一分を切った。僕たちは発射前の最終チェックに追われている。
何重にも張り巡らされた管理コンピュータシステム。その全てが万全の状態を表すグリーンを示していた。
僕たちに出来るのはここまで。あとは何かに祈る事ぐらいしか出来ない。
「発射10秒前。9、8、7、メインエンジン点火」
 エンジンに火が入る。周囲に響き渡る轟音。緊張の一瞬。ここまで来たらもう引き返せない。
コンピュータを、地上スタッフを、技術者達を。そして何より傍らに居る彼女を、信じるしかない。
今まで幾多の困難を乗り越えてきた僕たちなら、大丈夫だと。
「……4、3、2、1、0。リフトオフ! 」

――この計画の第一段階にして最大の難関、地上からの打ち上げは無事成功した


206 :最果てへ向かって(3/6) [sage] :2007/09/30(日) 22:02:26 ID:LEyxcZKH
「コンピュータ、手動チェック、そのどちらも問題有りません。現在……」
 彼女は地上基地との交信に追われている。計器パネルに目を走らせる度に短い黒髪がふわりと動く。
その重力から解き放たれた姿を見てああ、今僕は宇宙に居るんだなという事を再認識する。
 と、彼女の顔が僕の方を向く。その視線は作業を止めている僕を咎めるものだ。
僕は急いでコンピュータに向きなおると、再び次の行程への準備に取り組み始めた。

 この探査船は、従来までの問題点を解決した最新鋭の超光速宇宙船だ。
完全循環型のシステムは乗組員3人までのほぼ半永久的な生命維持を保障する。
巡航速度の問題を外部と内部で時間の流れを変化させるという魔法のような方法で解決した。
これは同時に乗組員の寿命による探査期間の制約も緩和する。
だがその代償として一切の無線交信が不可能になってしまう。次の交信は機内時間で一週間後だ。
 その間に地球ではどれだけの時が流れているのだろうか。
社会情勢の変化によっては、知り合いが皆死んでいるという事さえ有り得るのだ。そう考えると心細くなる。
「……では準備が出来次第、巡航フェーズへと移行します。交信終了」
そして、もしかしたら最後になるかもしれない地球との交信が、終わった。

「遂に、ここまできたんだね。」
 感慨深げな声に振り返ると、そこにあったのは若干苦笑い気味の笑顔だった。
「まさか本当に君とここにこれるなんて、思ってもみなかったよ。」
そう。とうとう幼い頃からの夢が現実となったのだ。
努力だけではこの場所に立つ事は出来なかった。その裏には数多くの幸運があったに違いないのだ。
僕は彼女に笑顔を返すと、画面上で返事を待つコンピュータにエンターキーで回答した。

そして、船は巡航モードに移行する。



207 :最果てへ向かって(4/6) [sage] :2007/09/30(日) 22:03:12 ID:LEyxcZKH
 シートベルトを外し、機体後方へと直線的に移動する。訓練したとはいえ無重力下での移動にはまだ不慣れだ。
分厚いドアを潜り抜けると、そこにあるのは暖色系の照明に彩られた居住スペースだ。
さらにその奥にある寝室に入り、重い防護服から着替えながらこれから一週間何をして過ごすかを考える。
 病的なまでの自動化のおかげで、巡航に入ると僕たちはする事が無くなる。端的に言えば退屈だ。
もし外を見渡そうとしても、光の速度を超えているのでそこにあるのは只の漆黒だ。
ただ自分たちの健康に気を使い、なるべく怪我の無い様に生活するだけの日々。
その退屈を紛らわせる為、コンピュータ内に本や映画、音楽等のデータが大量に詰め込まれているくらいだ。
……その中に18歳未満お断りな物も含まれている事には驚いたが。

 その時、ドアが開く音がした。顔を下に向けたまま私服姿の彼女が僕に向かって飛んでくる。
彼女は無重力下での行動には不向きなスカートを履いていて、そして……
「ふふっ」
彼女は笑っていた。最初は含み笑いだった声が徐々に大きくなりそして、
「あはっ、あははっ! あははははははは!!」
遂には哄笑へと変わった。気が狂ったかのような笑いを続けながら僕の方に突っ込んでくる。
戸惑いに固まる僕に彼女はかまわず抱きついてきて、そして……口付けた。
 いきなり舌をねじ込むディープキス。情熱的に絡んでくる彼女の舌。腰に手を回されているから離れる事も出来ない。
慣性の法則に従って運動し続けた身体が壁に接触したところでようやく彼女は唇を離した。
僕らの口から零れた唾液の橋は、すぐに丸くなって換気口の方へと吸い込まれていった。
興奮と混乱で頭が真っ白な僕は彼女の、かつて見た事のない妖艶な笑みを見つめる事しか出来なかった。


208 :最果てへ向かって(5/6) [sage] :2007/09/30(日) 22:04:01 ID:LEyxcZKH
「あははははっ! これでやっと夢が叶ったんだ!! ここまで長かったね。うん、本当に長かった。」
 途方もない違和感が僕を襲う。目の前の彼女がまるで別人のように感じられた。
「ねぇ。君とわたしの夢って、実はちょっと違うんだ。知ってた? 」
何の事だ? 現にさっき夢が叶ったって言ってたじゃないか。
「わたしの夢はね……君と二人っきりで過ごすこと。ううん、そうじゃないね。君をわたしのものにすること。」
 その言葉に頭が回転を再開する。確かにここは二人きりだ。邪魔が入る余地などありはしない。
でもまさか、募集の後押しをしたり、訓練中励ましてくれたのは、全部その為だとでもいうのか……!?
「そうだよ。最初は君を何処かに監禁してしまおうと思ったんだけど、その維持を考えると現実的じゃないなって思って。
 ここなら絶対に変な害虫も付かないし、何より政府公認だもんね。ぜーんぶそのためにがんばったんだよ?
 あのクソ教官の拷問みたいな訓練にも、セクハラ上司の厭味にも負けずにね。褒めてほしいくらいだよ」
彼女が絶対しないような言葉遣いが、快活な性格の裏に隠された黒い感情が、僕の衝撃を大きくする。

「ねぇ、何で第一次隊が全滅したのか教えてあげようか? 」
何故彼女はその理由を知っている? そう思いつつも好奇心には勝てずに首肯を返す。
「技術的には何の問題も無かったの。彼らはね、簡単に言えば孤独に押しつぶされちゃったんだ。
 どんなに厳しい訓練を重ねた屈強な精神でも、報われないかもしれない任務に絶望してしまったのね」
そうだったのか……。納得すると同時に、自分もそうなってしまうのでは、という恐怖がこみ上げてくる。
「でもね、わたしたちは大丈夫。絶対に絶望なんてしない。だってここに居るのは君とわたしの二人なんだもの」
何故そう言い切れるんだ? 第一次隊だって二人ペアでの行動だったはずだ。
「偉い学者さんたちが考え付いたの。強い依存関係にある男女なら、これを乗り越えられるってね。
 特に女の側が奉仕的で、独占欲強くて、周囲を傷つけることにためらわない性格が最適なんだってさ。
 ストーカー騒ぎのこと覚えてる? あれはね、わたしたちに適性があるかを判断する試験官だったの。
 わたし、その人達にお墨付きもらっちゃった。だからわたしたちはここにくることが出来たの。他の探査船の人達もそう。
 皮肉だよね。地上では病的だって言われるような人間のほうが宇宙での生活に適してるなんて。」


209 :最果てへ向かって(6/6) [sage] :2007/09/30(日) 22:04:54 ID:LEyxcZKH
 一気にしゃべりきった彼女はもう一度僕に口付けてくる。それは甘美で、捕らえたものを決して逃さない魔法。
 腰に回していた手がズボン越しにさっきから興奮しっぱなしのソレに触れる。
情熱的に絡み合う舌が、布越しのもどかしい刺激が、僕の精神を侵していく。
 永遠のようなキスが終わると、彼女は微笑みながらポケットから何かを取り出した。それは白い錠剤の詰まった小瓶だった。
「ねえ、コレ何だかわかる? コレはね、最先端の不妊薬なの。後遺障害も副作用もなしのパーフェクトなおクスリ。
 でも政府のお偉いさんがこんな物は倫理に反するって大反対して結局一般に発表されなかったんだ。勿体無い話だよねぇ」
それはそうだ。そんな薬があったらみんなナマでヤり放題だ。宗教色を強めるあの国がそれを認めるとは思えない。
「でもその分こういう任務には最適なの。だから船内に特製の合成プラントまで作ってあるの。
 きみの子供を産めないのは残念だけどここで子育てするのは大変だからね。人が住める星が見つかるまで我慢しなきゃ。
 でも、その分妊娠なんて心配しないで思いっきりナカに出しちゃっていいんだよ。
 わたしも君のアソコからせーえきがびゅくっ、びゅくっ、って出てくるのを感じたいの」
彼女の口から出てくるとは思いもしなかった卑猥な言葉。その一つ一つが、僕を昂ぶらせていく。
「だからね…………しよ?」
 その一言で、僕の理性はいとも簡単に崩れ去った。今度は僕の方から口付ける。
彼女は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに蕩けた笑顔でキスに夢中になった。
そして僕たちの顔の間に三回目の橋が渡って切れた時に、彼女は飛び切りの笑顔で僕に囁く。

「これからは、ずっと一緒だね」

――そしてこの日から、僕たちの、僕たちだけの世界が、始まったんだ。