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403 :真夜中のよづり8 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/10/11(木) 18:09:08 ID:Sz919uDw
 しまった。よづりを見失った。
 昼休みの終了を告げるチャイムが校内に鳴り響き、廊下は一気に人影が消えていく。
 一分後には廊下は閑散と人気が消えうせてしまった。所々で漏れ聞こえるのは、授業をはじめたらしき教室の教師の声だけ。
 ああ、そうか。俺、5時間目も遅刻になっちまう。今から走って教室に戻れば、間に合うだろうか。
 いや、だめだ。よづりを放ってはいけない。どうせ、今日は1時間目から4時間目までサボっちまったんだ。いまさら5時間目がなんだっつーんだよ。
 よづり…、よづり……。
 よづりレーダーとかあればいいのにな。ビーコンみたいに近づくだけで鳴るやつでもいいからなぁ。俺は閑散とした廊下を歩き、よづりの姿を探すことにした。
 廊下は一通り見てみた。しかしよづりの影はない。
 あんな影みたいなヤツ。どこへ行ったんだ? あんな常時フラッフラのヤツの脚力がそこまで持つとは思えない。むしろ、歩いただけで筋肉痛にでもなりかねない程だ。それは言い過ぎか。
一番わかりやすいのはどこかに潜んでいる可能性。
 ふと、横を見ると静かな教室が目に入った。ここは、たしか元々特別進学クラスの教室だったところだ。だったっていうことは今は違うわけ。
 一年前まではここに瓶底メガネかけたガリ勉生徒たちがいっぱい居た異様な教室だったのだが、生徒数の減少とこの教室の他の特殊教室とのアクセスの悪さで、いまはここはあまった机と椅子を置くただの物置兼予備教室となっている。
 
 ……なんだか、臭い。
 妙に俺の勘が「ここだ!」と反応を示している。
 元特別進学クラスの教室は擦りガラスと無機質な引き戸で閉め切られているが、なにか中から人の気配がしないでもない。人気が無いことも無いことも無いことも無い。つまりなんかありそうだってこと。
 開けたら案外居るんじゃないか。あいつが。
 俺は特別進学クラスの引き戸に手をかけた。もしかしたら中に居るよづりを刺激しないようにゆっくりと開ける。

 がちゃり。

 案の定鍵がかかっていた。
 そりゃそうだ。いくらかっこいいからという理由で木刀を持ち込む女子生徒(つーか、クラスメイトな)を黙認するゆるーい校風でも、そこらへんのセキュリティはしっかりしているようだ。
 うーん、あいつが鍵かかった扉を開けるようなスキルを持っているとは思えないし……。ここは違う……な。
 俺がここを諦めて別の場所へ探しに行こうと足を動かそうとした、そのとき。

 ガララ。

 元特別進学クラスの教室の戸が開いた。
 俺のいた西側の引き戸ではなく、東側の引き戸がだが。……特別進学クラスも教室の前と後ろにドアがある。後ろのドアは鍵が開いていたのか?
 いや、それよりもこんな授業時間に誰が……。もしかしてよづりか? 俺は一瞬向こう側の開いた出入口からよづりが顔を出すのを期待した。
 しかし、一瞬の間のあと。顔を出したのは驚くべき人物だった。

 魔女だった。

「……」
 まるで暗闇のように暗黒色をした長い髪の毛と、世間を斜めに見るような冷めた目つき。
 魔女。本名は紅行院しずる。俺の理解をはるかに超えた人物である。まず、生徒のはずなのに授業にまったく出てこないという。それなのに学校へは毎日のようにやってくるらしい。
 校内での行動は奇妙で奇天烈。俺が聞いた噂だけでも全ての行動に脈絡が無く、自由奔放だと。しかもわけのわからないことに学校はなぜかソレについては黙認しているとか。
 外へ出てきた、魔女は反対側の引き戸の前に居た俺に気付き視線を移す。その瞳に見つめられ俺の体に一瞬緊張が走る。こんな瞬間嫌だぞ。
 ……が、魔女はすぐに興味を無くしたようで俺に背を向けるとどこかへ向かって歩き出した。
 ふぅ……。俺は安堵の息を吐こうとして……。
「はぁ~……、んっ!?」



404 :真夜中のよづり8 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/10/11(木) 18:10:26 ID:Sz919uDw
 絶句した。
 魔女の姿。
 上半身は学校指定の体操服だ。
 問題は歩くごとにぷりぷりと振られる尻である。魔女の尻に俺は釘付けになった。
 いや、魔女の尻があまりにもセクシーだったからじゃない(それ以前に魔女の尻はセクシーというよりプリティと言うほうが……げふげふ)。
 俺の頭の中がバグったんじゃないかと思ってしまうぐらい、そこが(魔女の尻)理解不能なことになっていたからだ。
 ここで、「なんと魔女の尻は割れていたのだ!」と続けばいろんな人から愛想をつかされるが、もちろんいまはボケている場合じゃないよな。ちゃんと説明する。
 魔女が履いている白色のブルマ……。ブルマに白色ってあるのだろうか。そうだ、あれはブルマじゃない。魔女が履いているあの白色のモノ。俺には見覚えがある。つい今しがた見たばっかり。
 あれは……。あれは……!

 ……さっき、俺がばっちり見ちまったよづりの毛糸パンツじゃないか!!

「ええええぇぇぇ!?」
 俺が気づいての叫び声をあげたときには、魔女の姿は廊下から消えていた。まるで煙のように、魔女の質量すべて合わせて姿がなくなっている。
 それはもう見事といえるほど綺麗に居らっしゃいません。あの白色の毛糸パンツをはいた不思議な不思議な魔女さんは。本当に魔法でも使ったんじゃないかと思う。
「ど、どういうことだ!?」
 もうワケがわからなかった。しかし、すぐに気合を入れなおすと俺は魔女を追いかけようとした……。が、ふとあることに気付いて足を止める。
 つい今、この元特別進学クラス。……いまここからよづりの毛糸パンツを履いた魔女が出てきたってことは……、
 この中によづりが居るかもしれない。魔女を探そうにも、廊下から消えている。
 恐る恐る俺は今度は今魔女が出てきた東側の引き戸に手をかける。ゆっくりと力を入れると、引き戸は静かに音を立てて開いた。

 ガラ……ガラッ、ガラッ。

 室内に体を滑り込ませる。
 カーテンが閉じられている部屋はほこりっぽくて暗い。教室の隅にうずたかく積み上げられた机。椅子。黒板。なにも掲示されていない掲示物。
 それ以外に何があるというのか、この教室には。
 なんで、こんなところに魔女は居たんだ? ……なんで、よづりの毛糸パンツを履いていたんだ?
 一応、部屋を調べてみよう。
 とりあえず、まず教室の後方隅に備え付けられた掃除用具入れを開けてみる。
「ひっ!」
 ……早速居た。
 よづりはタダでさえ狭い掃除用具入れの中で小さくなって蹲っていた。用具入れの中身は空で人ひとりが簡単に入れるスペースぐらいなので、よづりもうまーく収納されている。
 長い髪の毛が用具入れの地面に垂れて、昨日ざっくりと切った前髪の間から瞳を覗かせ俺の姿を見据えていた。
「よづり」
「……」
 俺が声をかけるとよづりは、無言でふるふると首を振った。
 まるで、俺を拒絶するような態度。俺の顔を捉えるよづりの瞳は安堵と何かが入り混じった不思議な光を放ち、俺を寂しげに見つめる。
 なにか言おうとしているのか、ぱくぱくと口をあけたり閉じたり。そんなよづりを俺はじっと見つめる。彼女を落ち着かせるように。
「かず……くん」
 向き合って10秒ほど経ったぐらいか。ようやく、よづりは俺の名前を呼んでくれた。彼女の瞳に力が湧き始め色素の薄い唇がにこりと微笑む。
 俺はよづりに向かって手を出した。よづりは震える手でそれを掴む。よづりの細い指先を握り、俺は彼女を掃除道具入れから引きだした。
 こんなところに篭っていたら、家に居たときと同じだぞ。
 ガタガタと音を立てて引きずり出したよづりの体は、マスターを失ったあやつり人形のように脱力していた。
「おいおい。よづり。立てるか?」
「……体中が痛いよ……」
「そりゃそうだ。こんなところに変な姿勢で篭ってたからだよ」
「ごめんなさい」
 俺が促すとよづりはアヒル座りで教室の床に尻をつける。俺も視線の位置を合わせるため、ほこり舞う床へ跪いた。
 よづりの表情はまだ妙に寂しげだ。そんな顔が気になってしまい、俺はできる限り明るい口調で話をはじめた。
「え、えーっと。よづり。一旦走り出してどうしたんだよっ」
「……見た?」
 よづりが俯き加減に聞いてくる。
「何が?」
 俺はしらを切った。
「見たよね……わたしの」



405 :真夜中のよづり8 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/10/11(木) 18:12:47 ID:Sz919uDw
「だから何がって。俺にはお前が階段からねねこと滑り落ちたところまでしか知らない。気がついたらお前は走り出してたからな」
 できるかぎり、俺はさっきの水色パンツ事件を『なかったこと』にしようとしたのだ。見たと思ったのはよづりの勘違いで実際にはよづりがあんな水色毛糸パンツなんて履いてたなんて誰も見てないぞ……とな。
「……」
 やべぇ。失敗だったか。
「えへっ」
 おっ? 機嫌が直ったか? と思った直後。
「えへへへへっ。あはははっ」
 途端、よづりはいきなり笑い出した。
「お、おい」
「えへへへっ……かずくん。いいよ。誤魔化さなくてもいいの」
 いままでのあの堕落しきった甘ったるいぐんにゃりとした声とはちょっと違う態度になる。よづりは不気味に笑い、そして自嘲気味に言葉を紡いでいく。
「わたし……。二十八歳だもん、だからかずくんのお友達の女の子たちとは違うの。制服だと……足がスースーして、寒いの。だから、毛糸のおぱんつ履くの……」
 いや、俺と同い年のロリ姉も毛糸のパンツ履いていたぞ。お前は見てなかったようだが……。
「ごめんね、かずくん。わたし、かずくんよりうーんと年上なのに……かずくんに毛糸のおぱんつ見られただけで恥ずかしくなっちゃって、ん~~~~ってなっちゃって……」
 よづりは無理に笑おうとして、作り笑いに慣れてないようで、口元をゆがめただけの変な表情になってしまっていた。そうだよ。俺は心の中で苦虫を噛みしめた。
 よづりがあまりにあっけらかんと「二十八歳で元引きこもりだから」って言ってたからあまり気にはしなかった。しかし、そんな年齢差の事実はよづりの心の中にはじつは深く深く問題を根付かしていたんだ。
 よひきこもっていたせいかどうだかはわからないが、他人との差異にひどく敏感に感じ取っているのかもしれない。
 ……こいつの心の中は大小さまざまな糸が絡まりあっていて、全体像がまったく見えてきやしねぇ。
「ごめんね。かずくん。めーわくかけちゃってごめんね……。」
 よづりはそう呟きながらじりじりと俺のズボンに手をかける。
「もう、ぜったい、ぜったいかずくんにめーわく、かけない。かけないから……」
 途端、よづりの表情が180度変化する。さっきほどまで浮かべていた歪んだ笑顔は、瞳を潤ませ不安に満ちた光を放つ悲しみの顔へと変化する。よづりの細い腕は俺の脚に抱きつき、太腿部分に顔を寄せていく。
 ひざまずいていた俺は、支えられず思わず尻餅をついた。
 尻餅をついた俺によづりは悲しげにその細くて豊満な体を近づけ、俺の存在を確認するかのように悲しみの顔を寄せていく。どかそうとしたいが、よづりの悲しみの表情が気になり、俺はなすがまま。
 俺の胸のなかによづりは顔を埋める。長い黒髪に阻まれてよづりの表情は見えない。ただ、一本一本が漆黒に光る黒髪の間からすぅはぁすぅはぁと漏れるよづりの呼吸音だけが聞こえていた。
「……かずくん。もう絶対めーわくかけないから。私とずっと一緒にいて……」
「よづり?」
「一緒に。おねがい、かずくん。もう一人はいや……。この中に隠れてて、一人、暗い中、狭い中、ひとりぼっち、ひとり、ひとり、わたし、すっごく怖かった……。こわかった。こわいこわいこわいこわいこわい……」
「落ち着けっ。よづり」
「気付いたの。わたし、一人じゃ生きていけない。わたし、一人じゃなにもできない。だから、だから……」
 ………。
「かずくん。ずっと、わたしと、ずっと一緒、一緒にいよう? かずくんがいないとわたし、もうだめなの。だめ、だめ、だめ……えぐっ、えぐっ」
 嗚咽。そして、そのまま。よづりは俺の胸の中で静かにずっと泣いていた。
 俺は返事をするべきなんだろうけど、どう返せばいいのか? 思いつかない。安心させるためにはすぐにでも「ああ」と言ってやればいい。今日の昼間だって結局はよづりにあわせて喫茶店まで入ったんだしな。
 だが、今の状況は喫茶店のときとは同じに出来ない。俺の頭の中で警戒アラームが鳴り響く。
 本当にこのままよづりの全てを受け止めていいのか? 俺はよづりを普通にしてやろうとしてるんだぞ? なのにこのままよづりを俺に依存させてしまったら……。

 俺は何も言えずに、ただよづりの背中を優しくなでていた。

 行為は言葉よりも伝わらないものである。よづりは俺の優しい手つきから、俺の返事を「肯定」ととったのだ。
 それから、よづりは本当に俺から離れなくなった。
(続く)