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132 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/09/08(月) 21:00:30 ID:zlaROVGP
最終話 幽霊の日々へ
 今、物凄く背筋から悪寒が走ったような気がする。藤寺さんと優雅なお昼を過ごした後、商店街辺りでショッピングを楽しんでいた。
夕方頃になると遊び疲れたので藤寺さんと俺は駅前で別れることになった。
そして、藤寺さんは当たり前のように忘れた鋸(包装して隠してる)を持って、俺は自宅の帰路に着いている途中であった。
 嫌な予感がする。

 すでに陽が暮れて、周囲が薄暗くなっている。頭のおかしい人が現れる暖かな季節を迎えているせいか、
変質者が大量に出現している。男の変質者など鋸があるおかげで撃退することが容易に可能だが。
女の変質者ならそうはいかない。ヤンデレ症候群の影響のせいか、一般人の男性が凶器を持っていたとしても
簡単に女の変質者に拘束されるであろう。それ程に現代の女性による変質者の戦闘能力は飛躍的に上がっているのだ。
逮捕するならば、どこかの特殊部隊が出動しなければ事件は解決しない。

 だが、この予感は変質者が潜んでいるというわけでもない。そう、これは自分にとって身近な人物が
些細なことで人を殺すまで憎悪に発展してしまったそんな感じ。
 アパートの前に辿り着くと、禍禍しい殺気に当てられる。
その瞬間、俺の足は震え、恐怖という感情が体全体に行き渡っていることを体感する。
一体、俺が借りているボロいアパートの一室で何が起きているんだ。
浮気した男が妻に何かもバレている中で帰宅するのはこういう心境だろうか。
 俺は恐る恐るとドアを開けた。
 

「お帰りなさい。光一さん」
「ああ、ただいま。由姫さん」
 ドアを開けると飛び出すように現れて、にこやかな笑顔で由姫さんは俺を迎えてくれた。
ただ、その笑顔の裏には隠し切れない殺気など、目が全然笑ってない状態で来るとさすがに怖い。
幽霊というのは夏の怪談に欠かせないキャラであり、本来はこの存在に畏怖するはずだったのが、
彼女の穏やかな口調と人畜無害な人格のおかげでそういうことは感じることがなかったが。

 今は、由姫さんがとんでもなく怖い。
 これは幽霊というか、幽霊より怖い存在に彼女が進化していた場合。俺の命はある意味
失われる寸前に追い詰められた可能性すらもある。
 やばい。
「どうしたんですか?」
「あの、何か由姫さん怒っていますか?」
「お、怒ってないですよ。健気な幽霊を置いといて、他の女の子とデートしていたなんて。
全く、もう怒っていませんよ。ううん、むしろ、二人の将来を血の雨で祝福したいですよ」
「いや、待て、血の雨って……。やっぱり、怒っているだろ!!」
 額に怒りマークが再現されている由姫さんが冷笑している。というか、怒りマークが再現されるって、幽霊ってなんでもありかよ。



134 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/09/08(月) 21:02:20 ID:zlaROVGP
「何度でも言いますが。怒っていません。二人の関係がどんな薄汚れた関係だったとしても
私は冷たいマフラーであなたたちの幸せを見守ってあげます」
「ありえないほどに怒っているでしょ」
「そうですね。光一さんの怯え方が1とすると、私の怒りは富士山大爆発です。
噴火したら、火砕流が下々の庶民を巻き込み大災害に発展します」
「富士山って」
「どうかしましたか?」
 怒ってるじゃん!! 思い切り。
 普段は穏やかで蟻も殺さないような優しい笑顔と頭にブルーベリージャムが詰まっているだろう

由姫さんがこれまでもなく怒っているのだ。
恐らく、怒りの原因は幽霊を放っておいて藤寺さんと今まで遊んでいたせいだろうか。

「あの愚かな自分に由姫さんが怒り狂っている原因を教えてくれないでしょうか?」
「光一さんの胸に聞いてみたらどうですか? 
休日なのに幽霊の私を完全に放置して他の女の子とデートしていたら……殺されても文句ないですよね?」

「殺すなんて物騒な」
「私は本気です。決めたんです」
 と、幽霊は俺が持って帰ってきた藤寺さんの忘れ物の鋸の包装を乱暴に破る。

銀色に輝くギザギザな刃の光が眩しく映る。柄を震えた両手で強く握ると素人丸出しの太刀筋で襲ってきた。
 俺は軽く避けるが、散らばっているヤンデレコミックに足を取られ、無様に尻餅をついていた。

幽霊の最初の一撃をかわせたのは本当に運が良かったのか、彼女にその気がなかったのかわからないが、
現状は俺の命の危機に直面したことだけは事実である。
 同居人である由姫さんが何の理由もなく襲ってくるとは。
全く、意味がわからない。
待て、親に生命保険をかけられているので、解約してから殺してくれ。って違う!!

「ゆ、由姫さん。血迷ったか!!」
「血迷ってません。私とあなたは違うんです」
 理由になってないし、意味不明で殺されるこっちの身になってみろ。
「私はすでに他界した死者。そして、光一さんは現代を懸命に生きる生者。
私たちは一緒に居ることができないだもん。だから、殺すしか道はないじゃないですか。
光一さんは私以外の女の子と一緒に居るだけで胸が痛むもん。痛いの。とっても。痛いんだから」

 と、また由姫さんが鋸で襲ってきたが、尻餅をついている俺は避けることはできなかったが。
刃が自分の体に直撃する寸前に無我夢中に両手を前に出した。


135 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/09/08(月) 21:03:51 ID:zlaROVGP
「はうわー!!」 
 鋸の刃は俺の顔の直前で止まっていた。
俺が必死にタイミング良く、刃を掴んでいた。俗に言う真剣白刃取りという火事場のバカ力が起こした奇跡がそこに実在していた。
 まだ、安心することはできない。体勢を取り戻していない俺が鋸の刃を受け止めるよりも幽霊が押し切る力の方が優勢なのだから。
 由姫さんは金切り声を上げながら、俺を殺すために鋸を引く。
「痛いのは一瞬だけです。お願いだから死んでください」
「死ねるかボケ」
「幽霊になって、ずっと、二人で一緒にいましょうよ。それが二人にとって幸せなんですよ」
「幸せだと……ふざけやがって」
 自然と俺の胸の奥深くから怒りが沸いて来たようだ。理不尽な理由だけで人の命を奪う
のは許してはいけない。許すわけにはいかなかった。
「由姫さんは誰でも良かったんでしょ!! ここに引っ越した相手がアパートを借りて、
幽霊の由姫さんを拒まなかったら、それで良かったんでしょ。『俺』じゃなければ理由はなかったんだろ?」
「違います。私にとって光一さんが必要なんです」
「必要なのは一緒に死んでくれる誰かだろうか!!」
「だから、違うんです。私は光一さんだから。
こんな私に優しく接してくれた光一さんだから、死んで欲しかったんです。一緒にいるために」
「何で俺なんだよ……」
「光一さんは幽霊で誰もが恐がっていた私を恐れずに一緒に居てくれる。
あなたの一緒に居るだけで私は幸せな気持ちになれる。
生前、あれだけ求めても手に入らなかった物がここにあるんです。
だったら、好きになるしかないじゃないですか!!」

「恋もしたこともなくて……
 まだまだ、たくさんやりたいことがあったのに
 死んじゃって……。
 この世に未練を残して幽霊の日々を送っていても
 私の心を満たすこともなく、孤独な日々ばかり。
 
 もう嫌になっていたんですよ。本当は。

 光一さんと出会ってから、毎日、毎日が幸せで楽しくて。

 だから、他の女に光一さんを渡したくないの。渡したくないんです。
 もう、独りぼっちなのは嫌っっっ!!!!!」

 由姫さんの瞼から涙が零れ落ちて、その雫が俺の頬に当たっていた。
溢れる気持ちが抑えきれずに彼女は声を抑えて泣き出してしまっていた。
 殺そうとする彼女の泣き顔を呆然と俺は見上げていた。
 


136 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/09/08(月) 21:05:16 ID:zlaROVGP
「人の命を奪っていい理由にはならないだろ」
「わかってます。自分が傲慢で卑劣で我侭なことぐらいは。
でも、心があなたを求めているの。淀んだ心が光一さんを独占したくてたまらないんです。
この気持ちを抑えることはできません」
「俺の気持ちを考えないのか」
「考えません。だって、光一さんは死んだ女の子よりも生身の女の子の方がいいんでしょう。
そう、藤寺音梨沙みたいな女の子の方がお好みなんでしょ。幽霊の宮野由姫を好きになってくれないなら……」
「殺すのか?」
「はい」
「俺の気持ちを聞かないのか?」
「聞きたくないです。あの女に惚れていることを悠長に語る光一さんなんて見たくありませんから」
 唇を尖らせて、すねるように由姫さんは言う。
そろそろ、俺の両腕が痺れてきて、だんだんと力が抜けてくる。やばいかもしんない。
「いいから、聞け。年増幽霊。俺は別に藤寺さんが好きなわけじゃあない。
ただ、お付き合いすればいいなってぐらいにしか思っていないんだ。
普通はそうだろ。
相手が運命の相手なんて考える奴はただの妄想壁だ。
出会いと別れがあり、そこに自分と相性のいい異性を選ぶんだ」
「で、肝心な私のことをどう想っているんですか?」
「嫌いじゃない。というか、年増は俺の好みじゃあない」
「うふふふ、そうですか。光一さんの気持ちはよーーーーくわかったので、キルします」
「待てっっ!!」

 由姫さんの人離れした強い力がすでに痺れていた俺の両手を崩した時に、偶然にも俺の頚動脈を切り裂いた。
声にならない悲鳴を上げるが、幽霊は躊躇せずに俺の腹部を鋸で切り裂いた。
鋭い痛みが体全体を襲うはずだが、脳内に耐えられる痛覚を軽く通り越しているせいか、全く痛みを感じることはなかった。
 


 松山光一が最後に見た姿は自分の血で汚れている幸せそうな由姫さんの笑顔だった。


137 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/09/08(月) 21:06:31 ID:zlaROVGP
 ボロアパート浪人生殺人事件ファイルA
 松山光一 享年××(ソフ倫指定なら18才以上は確実)
 死因   メッタ刺し(かなり怨恨がありそうな殺し方だ)
 犯人  
 最重要容疑者 藤寺 音梨沙
 被害者を殺した凶器にはべったりと藤寺音梨沙の指紋が発見。
ついでに被害者の指紋も付着されているが、その件には警部的にはどうでもいい。
問題は1週間前以上にホームセンターで藤寺音梨沙が鋸を購入している。
動機はなんとなく恋愛沙汰。
被害者が通っている予備校では親密な関係だったと予備校教師や予備校生徒が証言している。
ただし、死亡推定時刻に藤寺音梨沙には駅内をうろついている所を防犯カメラで録画されているので
事実上は無罪確定というか、起訴出来ません。逮捕されることなく、事情を聞いてあっさりと釈放された。

 無残な死体を見る限りでは上記の最重要容疑者以外の人物の犯人がいるとするならば、
捜査本部はヤンデレ症候群感染者の犯行以外はありえない。

 だが、犯人の有力の情報は見つからずにこの事件は何の進展もなく時効を迎えることになる。
余談だが、浪人生が住んでいる部屋には幽霊が住み着いているという噂があるが、
大家は今回の事件を境に古くなったアパートを売り払い、
他の不動産会社が土地と建物の権利を持つが、その場所はすでに取り壊されたために噂を確かめることはできない。
今、そのアパートだった土地は今でも空地になっていると言う


138 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/09/08(月) 21:09:08 ID:zlaROVGP
見慣れた自分の姿を見下ろしていた。酷い表情をしている。
いかにも、恐ろしい目に遭ったかのように口から情けなく血が吐き出しており、鼻水を垂らしている。
腹部から容赦ない血液が出血しており、水平に凶器であろう鋸が勝利の証と言わんばかりに突き刺さっていた。
これが生前の松山光一の哀れな姿であった。

 自分が死んだ事実が全く受け止めることが出来る人間は大人しく病院に行け。
俺は殺害した犯人を横目で睨んでいた。

「ううっ、私は悪くないもん。光一さんが女の子のタブーの年齢のことを言うから悪いんですよ。
年頃の女の子の求愛に年増だから好みじゃないなんて絶対に言ったらダメですからね。
来世の課題です。言えば、こんな風に殺されるんです」
「殺した犯人が笑顔でサラリと言うな。このボケ幽霊!!」
「ふふふ。光一さんも立派な幽霊の仲間なんですよ。
そう、私と一緒でこの世に彷徨う幽霊さん。きゃは……光一さんとずっと一緒。てれりこてれりこ」

 そう、年増幽霊が言った通りに俺は死んでしまったせいか、幽霊になっていた。
幽霊になるとこの世の物理法則の枷が外れるのか、自分の体は浮遊しちゃったり、
自分が着ていた洋服が由姫さんとお揃いの白い着物を着てしまっていたり、
だんだんと幽霊になったという現実を受け入れるしかないようだ。
 特に人を殺したくせに由姫さんは蔓延なる笑顔を浮かべて、何だか幸せそうであった。
ああ、幽霊同士の物理干渉が出来るんだったら、頬を引っ張ってやりたい。

「で、他に何か言いたいことは?」
「あの世で結婚式をやりましょう!! 幽霊同士でも婚姻届を提出できるんですよ」
「結婚できると思っているのか? 人を殺しておいて」
「てへっ。ごめんなさい!!」
「ごめんですむなら、警察も鑑識も名探偵も葬式もいらねぇ!! 
返せ人の青春!! というか、大学に受かれば数多なる出会いの日々を!!」
 と、俺は由姫さんの襟首を掴んで思い切り揺らした。彼女は声にならない悲鳴をあげるが、
そんなもんは俺の知ったことじゃあない。青春の日々、ヤンデレゲーの最新作を遊ぶ機会を永遠に失ったのだから、
これぐらいのことは当然である。

「そんなに幽霊になることは嫌なんですか?」
「嫌に決まってるだろ」
「幽霊になれば、夜は毎日墓場で運動会が出来ます。それに学校も試験も何にもありません」
「それ、妖怪の話ですから!!!!」
「むぅ、幽霊の特権は他にありますよ。え、えっと、とりあえず、死なない?」
「すでに死んでるじゃん」
「そういえば、そうですね。だったら、特権として光一さんは私の恋人になれます。それで何とか納得してください」
「納得ね……」
 生きている時は結ばれるはずがなかった運命が死ぬことによって、新たな可能性を導き出した。
多くの大切な物を失ったが。失ったが。失ったが。ってか、失いすぎだ!!
「由姫さんの事は今まで家賃が安くなるための年増幽霊程度にしか思っていなかったけど、
これからは一人の異性として見るよ」
「と、と、年増ね……」
 と、由姫さんは額に青筋を立てて、不機嫌そうに言った。
「でも、光一さんも見た目は少年でも、中身はおっさんのようになるんだからね」
「おっさん幽霊と呼ばれるのは物凄く嫌だな」

 まだ、気分は大人になっていない浪人生気分なので年数が経つと心が中年のおっさんに老けていく運命なんだろうか。
仮に15年ぐらいの月日が経てば、、由姫さんみたくおっさん幽霊と呼ばれるんだろうな。


139 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/09/08(月) 21:11:54 ID:zlaROVGP
「これから、どうするの? 幽霊になって自縛霊としてボロいアパートに縛り付けられるのは嫌だぜ」
「大丈夫です。光一さんという恋人が出来た以上は私も自由ですし、
光一さんは特にこの世に強い未練を残して死んだわけではないので、二人揃ってあの世に行けます」
「あの世って、死んだ人間が行くとこか?」
「そうです。死者が成仏できる場所で閻魔様の審判を受けて、天国行きのパスポートを貰うんですよ。
ちなみに地獄行きになると針山地獄や浄化の炎に焼かれたりと恐ろしいらしいですよ」

「何で、そんなに詳しいんだ」
「これです。自縛霊のための天国と地獄の観光ツアーガイドブックです。
あの世に行けない人のために無料で送ってくるんです。配達してくるあの世の人に聞いてみると親切に教えてくれますよ」

「色んな意味であの世も現実とそう変わらないよな」
 渡されたガイドブックの内容を見ると、天国の内容は翼を生えやした天使のような人間が楽しそうに鋸を持った女性たちに
追われている姿がある。地獄の方は鬼女どもが金棒を持って、縞々のパンツに縞々のブラだけで
露出度が多い奴らが暴れているような描写がある。
針山地獄や血の池と言った有名な観光地は人気が高く、100年程の予約がいるなど、
殆ど想像していたあの世とは当たり前だが全然違っていた。

「天国の方は鋸を持った女の人たちに追われているのは……一体」
「多分、未来永劫の愛を誓った人が他の女の人と浮気したとかで、神聖なるアイテムである
『聖剣コトノハガリバー』で穢れを払っているかもしれませんね。
とはいえ、すでに死人ですので、鋸で100等分切断しても死ぬことはありませんし、思う存分に好きな人を独占できますね」

「いや、待て。この天国というのは」




140 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/09/08(月) 21:12:38 ID:zlaROVGP
「そうです。朽ちることがない愛しい人を永遠に監禁できる場所なんですよね。
生前は100年程度ぐらいしか愛しい人と一緒に居られませんけど、
あの世に行き、天国のパスポートさえ貰えば、光一さんを永遠に独占できます。
例え、五体満足じゃなくても、顔や足や腕を胴体さえ切り裂かれたとしても一緒に無限の時を過ごすことができるんです」

「なんて、恐ろしい場所だ。天国。というわけで、地獄の方に行こう」
「地獄の方はもっと悲惨です。想いを届かずに散った女の怨念が想い人と誤認して、鬼女たちが襲ってきます。
彼女たちは生前に愛しい人の争いが敗れて、殺されたり自殺した人ばかりで構成されていますので、
その恐怖と不安のあまりに金棒で光一さんの頭を軽く砕きますよ。砕いて砕いて砕いて、砕ききった骨を飲み干します。
でも、死ぬことができませんから、無限に鬼女のトラウマによる監禁されますよ」

「恐るべし、鬼女の執念。天国と地獄……どちらも地雷だな」
「そうですか。どちらも私にとっては幸せですよ。ずっと、これからは光一さんと一緒にいられるもん」
「そうですか」

 と、俺はどちらを選んだとしても幽霊になった自分のこれからの日々は暗雲の日々が待っているような気がして、嘆息する。
果たして、好きな人と無限の時を一緒にいることが幸せであろうか。
毎日毎日、コロッケを食べていると飽きてくることと同じで、最愛の人と無限に居られることが幸福なのであろうか。
男という生き物は同じ女性ばかりだと息が詰まるのだ。
ガイドブックのように鋸を持った女性に追われるのは日常的なことかもしれない。
 だけど。
 
 由姫さんの場合は天国と地獄をどちらかを選んだとしても、
俺を狭い籠に押し込めて、一生懸命に愛情たっぷりの監禁をするので、
俺が他の女の人に目を奪われることがないかもしれない。そんな気がするのだ。人の生存本能がそう訴えているのだ。

「では。そろそろ、行きましょうか?」
「ああ。どこでもいい。俺を連れて行ってくれ」

「あの世に無事に辿り着いたら、光一さんを、光一さんを、光一さんを。きゃあ、これ以上考えたら鼻血が出そうになります」
「下手な妄想しないでください。ってか、鼻血出てるー!!」

 
 こうして、俺と由姫さんの幽霊の日々は始まったばかり。
 閻魔様、どうか、理解のある審判をよろしく。


 幽霊の日々  完