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415 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/09/24(水) 03:58:36 ID:THJYuPe3
「それで? どうだった?」
「やっぱり駄目だ。まともな返事なんか一度もしてくれない」
 自室から出てきた弟は、首を振ってからそう言った。
 仮面の女の襲来の後、夕食もとることなく俺と弟は妹に尋問を行っている。
 尋問と言うよりも簡単な問いかけだ。
 ――お前は寝ていた弟に何をしようとしていた。
 これに妹が答えてくれればいいだけなのだが、如何せん口を噤んだままだから手に負えない。
 最初に俺が妹と一対一で話してみたが、あの妹はその場に寝転がって無視しっぱなしだった。
 いっそのこと、寝ている妹の上に覆い被さって真上から問い詰めてみようかと思ったりしたが、
そうなったら今度は俺が多くの人間から問い詰められそうなので実行に踏み切らなかった。
 妹を強引に押さえつけながら、彼女が弟にした行為を問い詰める兄。
 受け取る人間によっては兄妹の仲を疑ってしまうことだろう。
 ちょっと強引だが、俺と妹がソッチの関係で、でも実は妹は弟が好きだから寝ている弟に手を出し、
その現場を偶然にも目撃して腹を立てた俺が妹を詰問している……なんてことを考える人間がいるかもしれない。
 七割ぐらい嘘が含まれていて、荒唐無稽とも言い切れないのが嫌なポイントだ。
 仮面の女の言葉は事実なのか。
 もしも事実だったなら、仮面の女が止めていなければ最悪な事態になっていた。
 兄妹の関係どころか、家庭崩壊の危機だ。
 ああでも、うちの両親はそんな最悪の過程を経ているのだから、なんとかしようとすればなんとかなるのか……?
 なんとかなるとしても、俺は御免だ。
 兄妹でそんなことするのは間違っている。
 俺は、弟と妹が男と女の関係になるなんて嫌だから。
「ねえ、兄さん。本当に……そうなの? 妹が僕になにかしたって」
「それが本当かどうか確かめようとしてるんだろ、今」
「そうだけどさ……なんで兄さんはそんなこと確かめたいの? 妹がしようとしてるところを見たの?」
「……まあそんなところだ」
 嘘。本当は見ちゃいない。仮面の女がそう言っていただけだ。
 上半身が肌着一枚の弟が転がっていた状況からして、信憑性はある。
 ちなみに、弟には仮面の女の正体はおろか、彼女が現れたことすら教えていない。
 同級生に他人の家へ不法侵入する子がいるなんて知ったら、いくらお人好しの弟でも避けるに違いない。
 俺は仮面の女の味方だ。彼女の正体をばらしてはいけないのだ。
「兄さんがそう言うなら、事実なんだろうけど……けど、僕にはやっぱり信じられない」
「妹がそんなことするはずない、ってか?
 お前もいい加減に危機感を覚えてくれよ。前に澄子ちゃんに捕まったことで懲りてないのか」
「そんな! ……そんなはず、ないじゃないか!」
 これはびっくり。弟が吼えた。
「僕だって少しは警戒していたよ! いや、少しどころじゃなくてかなり!
 前から……前から、あの子がそういう目を僕に向けていたのには気付いてた。
 だけどまだ注意が足りてなかった。あんなことされるんだったら、そもそも、あの子を信用すべきじゃなかった。
 呼び出しに応じるべきじゃなかったんだ」
「……悪い。無神経なこと言った」
「ううん、僕こそごめん。兄さんは何も悪くないのに」
 どうやら弟は相当酷い目に遭わされたらしい。
 何をされたのかは……概ね予想できるけど。
 弟が怒るなんて滅多にないことだ。
 花火以外の人間にそういうことされるのは、弟にとっては相当なショックだったんだろう。



416 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/09/24(水) 03:59:34 ID:THJYuPe3
「兄さんは思い出したんだっけ。小学生の頃のことと、伯母さんのこと」
「ああ。つい最近だけど」
「妹はね、先週花火が家に来てようやく思い出したらしいよ。
 自分が酷い目に遭ってたこと。伯母さんからかばっていたのが兄さんだってこと。
 内容は真逆だよね。間違って覚えるのも仕方ないけど。
 あの日の兄さんは、僕から見ても怖かったから。…………あ、ごめん」
「いや、いいよ。自分のやったことはわかってる。
 子供の頃の記憶なんて曖昧なもんだからな。妹は悪くない」
 俺が暴れた日を境に、妹は怖い目に遭うことはなくなった。
 最後に見た恐ろしい人間は――刃物を持った俺。
 伯母と俺に対する認識が入れ替わるには十分なインパクトだ。
 あの日に妹をかばっていたのは弟なんだから、妹の記憶が全て間違っているわけじゃない。
「昔のことを思い出したなら、もっと理解できないよ。妹が僕にそんなことするなんて」
「どうしてそう自信たっぷりに誤った認識を口に出来る……」
「え、兄さんは僕が間違ってるって言いたいの?」
 ……それ以外に何があると?
「お前な、妹に好かれてるって知ってるのか?
 それも兄弟愛なんてレベルじゃなくて、もっと深い関係を望んでるんだぞ、あいつは」
「ううーん……もしかして、その辺でずれてるのかな」
「何が?」
「兄さんと、僕の考え方。前提が違うっていうか、兄さんが惚けてるっていうか。
 ここまで逆の考えになってるなんて知らなかったよ」
「……さりげなく俺を馬鹿呼ばわりするとは。お前って男はつくづく……」
「いや、別に悪気があった訳じゃないんだけど。
 ……はあ。こうなったらもう、しょうがないや。
 無理矢理にでもわからせるしかないね、兄さんと妹に」
「なぬ?」



417 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/09/24(水) 04:00:10 ID:THJYuPe3
 弟は妹が待つ部屋のドアを開けた。
 さりげなく手招きしてくるということは、俺にも同席しろってことか。
 いいだろう。俺とお前、どっちが正しいのか。
 白黒つけてやろうじゃないか。
「待たせて悪かったね、兄さんとちょっと話をしてたんだ」
「……自分だけじゃ手に負えないからって、お兄ちゃんに頼るなんて。二人がかりで聞き出そうなんて。
 お兄さん、情けない。ずるい。卑怯だわ」
 机に突っ伏した妹は振り返りもせずそう言った。
 弟よう、やっぱり俺は間違っちゃいねえぜ。
 俺の妹はお前が好きなんだよ。俺のことは嫌いなんだよ。
 それでも俺が間違っているっていうなら、見せてみろ。
 俺が間違っていると言える根拠ってやつを。
「いや、さっきの件についてはもういいんだ。あれは兄さんの見間違いだったんだって」
 ――――え? そんなこと言ってないぞ?
「ほら、やっぱりお兄さんが間違ってるんじゃない。
 私がそんなことするはずないでしょ」
「うん、そうだね。するはずがないっていうか――できるわけがない、って感じだけどね」
「え……?」
 妹が顔を持ち上げた。
 弟は自分用の椅子に座り、妹を見る。
 驚きを顔に浮かべる妹と、微笑みを浮かべる弟。
 弟はたったの一言で優位に立った。
「お兄ちゃん、何を言ってるの?」
「動機がない、そもそも相手が違う、そして……覚悟もない。
 やっぱりそうだったんだね、その顔は」
「や、違う。違うの。私、本当は……お兄ちゃんを……」
「僕を、何?」
「……! お兄ちゃんの、ばかあっ!」



418 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/09/24(水) 04:01:40 ID:THJYuPe3
 妹は椅子を蹴飛ばすと、部屋の扉を乱暴に開いて出て行った。
 玄関の開く音、続けて駆け足の音。
 なんでか知らないが、妹が家を出て行ってしまった。
「おい、なんかすごい悔しそうな顔で出て行ったぞ、あいつ! 
 お前何言ったんだよ! 全部聞いてたけど!」
「……言い方がきつかったか。まさかあそこまで堪えてるなんて。
 兄さん、今ので大体わかった? 妹が何を考えてるのか」
「できるわけがないとか、動機と覚悟がないとか、相手が違うとかか?
 そんなんでわかるか。ヒントが足りん」
「……やっぱり気付かないんだ。
 兄さんは頭の回転は速いのに。記憶力だってすごいのに。大事なことには気付けないんだね」
 ええい、どこかで聞いたことのあるような、寒気を催す台詞を口にするんじゃない。
 何となく貞操の危機を感じてしまうじゃないか。
「そうだね。兄さんはともかくとして、妹にはそろそろ――はっきり意識させた方がいい。
 兄さん、妹を捜しに行こう。もう外は真っ暗だから、危ない目に遭わないとも限らない」
「言われなくてもそのつもりだ。
 あてはあるか? あいつの行きそうなところなんて俺にはわからないぞ」
「行き先はきっと兄さんの探しそうな――――いや、なんでもないよ。
 僕にもわからないから、手分けして探そう。
 もしも万が一、まぐれで僕が見つけたら兄さんに連絡するから」
「おい、万が一とかまぐれとかってなんだ」
「そのまんまの意味だよ。
 それで、これはお願いなんだけど。兄さんが妹を見つけたら、僕にはすぐに連絡を入れないで欲しい」
「お前は俺と妹の二人きりでしばらく話をしていろとでも言いたいのか」
「ご名答。その通りだよ」
「あのな、お前――――」
 突然向けられた弟の手によって、俺の言葉は止められた。
 止めざるを得なかった。
 弟の目は真剣そのもので、ふざけている様子が一切なかった。
「兄さん、お願いがあるんだ」
「今日のお前はお願いばかりだな。……言ってみろ」
「僕抜きで、妹と話をしてほしいんだ。
 今二人が話さないといけない。じゃないと、妹が壊れていってしまう」
「壊れる? それってどういう意味だ?」
「……今の妹は危ういんだ。誰かが助けないといけない」
「その役にふさわしいのはお前だろ。俺なんかが――」
「兄さん」
 弟は椅子から立ち上がり、手慣れた仕草でコートを纏い、こう言った。
「妹を、兄さんと僕のふたりで助けよう」



419 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/09/24(水) 04:02:59 ID:THJYuPe3
 主人公のことが大好きなヒロインが突然行方をくらました。心に何らかの感情を抱きながら。
 話の展開ではクライマックス。
 このイベントをクリアすればエンディングだ。
 こういう場合のお約束というと、近所の河原とかどこかのベンチに一人でいるヒロインを主人公が発見し、
感情をぶつけ合い最終的にはお互いの気持ちを理解し合う、というものになる。
 少なくとも俺はそんなものだと思っている。
 というかそうじゃなきゃヒロインが救われない。
 配役をうちの兄妹に当てはめた場合、主人公が弟、ヒロインが妹になる。
 俺など、主人公に協力を要請されて探しに出かける友人の役に過ぎない。
 友人は結局ヒロインを発見できず、ヒロイン発見の報すら知らされず延々捜し回るのだ。
 もちろん描写などカット。友人はカメラの外。
 友人は大抵良い奴で、翌日にはヒロインが見つかったことを喜び、連絡を入れなかった主人公を責めたりしない。
 断じて友人はヒロインを発見してはならない。
 繰り返すが、友人はヒロインを発見してはならない。
 今の例は、俺が現在置かれている状況と酷似している。
 妹が夜中に家を出て行った。
 妹に好かれている弟は捜しに出かける。
 俺は弟と手分けして妹を捜索する。
 うむ。お膳立てされたような整いっぷりだ。
 これで弟が妹を発見すれば、晴れてイベントクリア。
 二人はハッピーエンドを迎える。もちろん兄妹的な意味で。
 それが理想であり、他にあってはならない。
 だというのに――――俺は何をやっているんだ。
 主人公の友人はヒロインを発見してはいけないのに!
 なぜ! 俺は妹を発見してしまったのだ!
 妹もあっさり俺に見つかるような所にいるんじゃない。
 一番近い、といっても到着するまで歩いて二十分以上かかるコンビニ。
 そこに向かう途中の坂道の手前にあるバス停のベンチに妹は座っていた。
 せめて俺じゃなくて弟に発見されろよ。もしくは友人の家にでも邪魔してろ。
 ここから引き返すということも、無視することも、もはやできない。
 なぜなら、俺が妹の姿を確認した瞬間、妹と目が合ってしまったのだ。
 距離は約一メートル。
 まさかここには居ないだろうなんて思って、通り過ぎざまにバス停のベンチに目を向けたらこうなった。
 不覚、ここに極まれり。
 こんなの、普通では考えられない。
 シナリオの最後の最後がこんなんだったら、そこまでプレイしてきたユーザーから脚本を書いた人に苦情が届く。
 なんだこの斬新ゲー。



420 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/09/24(水) 04:04:37 ID:THJYuPe3
「よう、こんばんは」
「……こんばんは、不審な人物のお兄さん」
「最終が出て行ったバス停のベンチに居るお前も不審だよ、十分に」
「あは、はは……じゃあ、私は不審な人物の妹さん、かな」
 妹は俯き、表情を見せない。
 案の定落ち込んでしまっている。
 話をしてやってくれ、ねえ。
 ま、どっちにしてもこのまま放っておくつもりはない。連れ帰ることに変わりない。
「隣、座るぞ」
 許可をもらうことなくベンチに腰掛ける。手を着くとざらざらしていた。
 ふと、妹が薄着をしていることに気付いた。やはり寒いのか、くしゃみをしている。
 いきなり出て行くからそういうことになるんだ。反省しろ。
 とは思いつつも、ついコートを脱ぎ、妹の肩に被せてしまう。
 仕方ないことだ。風邪をひいたら反省もできないんだから。
「優しいのね、お兄さん。自分が寒くならない?」
 体は寒い。だけどお前の近くにいるから心は寒くない――なんて言ったら一気に冷え込むな。やめておこう。
「ちょっとは寒いさ。けど今日は風が強くないから、気にするほどじゃない。
 それにほら――お前冷え性だったろ。それでも寒いぐらいじゃないのか」
「そんなことまで知ってるんだ。お兄ちゃんも知らないはずなのに」
 …………当たるもんだな、当てずっぽうって。
「じゃ、有り難く借りておくね」
「おう。ところで、まだ帰らないのか?」
「うん。だって家に帰っても、どんな顔してお兄ちゃんに会えばいいのかわからないもの。
 いつもみたいにしてればいいのか、それとも……」
「いつも通りでいいじゃないか」
「無理よ。どうしても、絶対に、無理。
 もし、ここに来たのがお兄ちゃんだったら、顔会わせられなくて、逃げ出してた。
 たぶん、そんなことはないだろうなって、思ってたけど」
「そこまで悲観するなよ。俺が先に見つけただけだ。偶然だ。あいつだって怒ってないぞ」
「そういう意味じゃないの。お兄さんの考えてるのとは、違う。似てるようで、でも違う。
 顔を合わせづらいの。あんなことをしちゃったから」
「やっぱり、やってたのか」
「やろうとしただけ。……悔しかったの。花火ちゃんにあんなこと言われて。
 勘違いなんかじゃない。私だってお兄ちゃんのこと好きなんだから。
 お兄ちゃんが喜ぶようなことができるってことを知らしめてやりたくて」
「でもできなかった、か」
「…………うん。悔しいけど、認めたくなかったけど、どうしても駄目だった。
 たぶん、お兄ちゃんはそのことをわかってて、あんなことを言ったのよ」
 こりゃ、理由を聞くのは野暮だな。
 やっぱり怖いんだろう。男はともかく、下手すると女はかなり痛い思いをするというし。
 とりあえずよかった。妹が完全に覚悟を決めない限り弟と肉体関係を結ぶことはなさそうだ。



421 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/09/24(水) 04:06:22 ID:THJYuPe3
「ねえ、お兄さん」
「ん?」
「雨がどんな味だったら嬉しい?」
 こりゃまた、先の会話と繋がりのない話題を持ってきたもんだ。
「水道水と同じのが一番だ。苦かったり甘かったりするのは勘弁だ」
「じゃあさ、いつもはうっすら苦い味で、時々水道水だったりしたら?
 天気予報で曇り時々雨、降水確率四十パーセント、おそらく苦い味がするでしょう、なんて言われたら」
「……絶対に雨に濡れたくなくなるな。傘は毎日手放せない」
「そうなるよね。そしてきっと、みんな当たり前の雨の味なんか忘れてしまって、雨そのものが嫌いになる。
 苦い雨が降らなくなってしまっても、きっとそれは変わらない。
 雨が降らなきゃ、世界中が干からびちゃうのにね」
「だな。でも、まずそんな世界にはならないだろう……たぶん。
 話が大きく逸れている気がするんだが、戻してくれるか」
「逸れてるみたいだけど、ちゃんと繋がってるよ。
 だって私はそんな世界に住んでる人たちの気持ち、ちょっとだけわかるから。
 何の変哲もないものがどれだけ大事なのかってこと。
 たまにとっても苦くてもそれは必要なものだっていうこと」
 妹が立ち上がる。
 コートの袖に腕を通し、車の一切通らない道路の手前まで進んでいく。
 そこで妹は腕を広げ、踊るようにくるりと回った。
 まるで、雨が降ることを望んでいるように。
 月の出た夜の、冬の寒さの中で、一身に雨を浴びているようだった。
 外はこんなに寒いのに、つい真似をしたい気分になってしまったのは、妹のターンが綺麗に決まっていたからだろう。
 妹は夜空を見上げながら、楽しそうに、悩みから解き放たれたように踊るのだ。



422 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/09/24(水) 04:07:07 ID:THJYuPe3
「私はもう嫌いにならないよ。
 普通の雨も、苦い雨も。
 全部含めて潤いをくれるものだから。代わりになってくれるものなんかない。
 あの日から今日まで、毎日傘を差してきて、晴れた日だけしか笑うことはできなかったけど。
 本当は私、どっちかというと雨の日が好きだったの。
 朝からずっと降り続いて、空を暗く覆ったりしない、さぁぁっていう音を立てる穏やかな雨が。
 今になって、そのことがわかった。
 ……帰ろ、お兄さん。お腹減っちゃった」
「それはいいけど、もう大丈夫なのか?」
 さっきはあんなに落ち込んでいたのに。
「大丈夫よ、お兄さん。むしろここに居る方が辛いわ。ここ、寒いもの」
「……結局なんだったんだよ、さっきの雨の味が云々っていうのは」
「あれはただの喩え話よ。お兄さん、知らないの?
 雨っていうのはね――――」
 妹は、俺が久しく見ていなかった柔らかな笑顔を向け、言った。
「もともと、味なんかしないものなのよ」

 妹の気持ちも、何を雨に喩えたのかも、いまいち理解できない。
 だが、俺の妹の機嫌はころころと変わるんだと、今回の件でわかった。
 そう、まるでにわか雨のごとく。