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820 :ワイヤード 第一話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/10(金) 20:23:48 ID:r9yyjKLi
第二話『ナイトメア・侵食』


授業が終わった瞬間、イロリは千歳の席までダッシュし、腕を掴んで千歳を連れて教室を出た。
されるがままに、男子更衣室に連れ込まれる。体育の時は男子は大体教室で着替えるため、部活の時間に使用されていない。
なぜその事情をイロリが知っていたかは不明だが、とにかく邪魔者はいない。
あのまま教室に残れば、二人はクラス全員の好奇心の的として質問攻めに会っていただろう。
「イロリ……」
「どうしたの、ちーちゃん?」
「お前なんで……」
「そんなことより、他に言うべきことがあるでしょ?」
「あ、ああ……おかえり」
「ただいま、ちーちゃん。会いたかったよ。もう十三年になるね……」
「そうか、お前が京都の学校にいってから、もう十三年か……長かったな」
「でも、その分はこれから取り戻せるよ。だって私は……ちーちゃんの」
――およめさんだから。
声には出さなかったが、やはり千歳には伝わる。
無言のままイロリは千歳の両頬に手を添え、顔を近づける。唇と唇が触れ合う――
「おまえ達、何をやっているんだ」
――声。イロリが静止した。
「誰?」
イロリが聞くと、声の主は物陰から姿をあらわした。ナギだった。ただでさえ赤い髪の色が、いつもより深い、血のように染まっている。
これは、ナギが怒っていると気の特徴だ。千歳だけはそれを見分けることができる。
「……野々村ナギ。お前と同じクラスだぞ、一応な」
「そう……よろしくね、野々村さん」
「ナギでいい」
「ナギさん、ね、よろしく」
イロリは千歳から手を離し、ナギに近づく。手を出し、にっこりと微笑んだ。
「なんだ、この手は」
「何って、握手よ?」
「なぜ、お前と握手するんだ」
「え、仲良くして欲しいから……せっかく同じクラスになった人なんだから、仲良くしないと損でしょう?」
「……お前、それは本気で言っているのか?」


821 :ワイヤード 第二話 上のやつも二話ですorz… ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/10(金) 20:26:09 ID:r9yyjKLi
ナギはイロリをにらみつける。普段の力のない半目とは違う。視線だけで大型動物ですら殺せそうな眼光。
イロリはそれに対し全く表情を変える事無く、ナギに微笑み返した。
「そうだけど……気に障ったらごめんなさいね」
「ふん、まあいいだろう。それで、最初の質問に答えろよ西又イロリ」
「なにかしら?」
「何をしているんだ、ここで、千歳と」
「何って、久々に夫にあったのよ? することがあるでしょう」
「まどろっこしいぞお前。私は『質問』をしている。私自身を考えさせようなんて言う妙なクイズ精神はいらないんだよ」
「そう……なら、答えるわ。さっきも言ったように、私はちーちゃんのお嫁さんだから、キスしようとしてたんだよ。ただいまのキス」
「キス……だと?」
「そうだけど、なにか問題があるかしら?」
「お前、自分を客観的に見れないらしいな」
「どういうことかしら」
「お前の『質問』に答える義理はない。それより、だ。千歳、お前、なに固まっているんだ」
ナギはイロリを無視して千歳に歩み寄り、すねを蹴った。
「いてっ……なんだよ」
「なんだよじゃない。お前、唐突に現れた電波女に何いいようにされているんだ」
「(そうだ、なんで俺は……イロリのされるがままに……)」
千歳は、完全にイロリを受け入れようとしていた自分に戸惑っていた。
しかし何故か、イロリに迫られると断れなかった。まるで、何らかの『拘束力』があるみたいに、身体が動かなかった。
「まあ、事情は後でじっくりと聞こう。とにかく、千歳に無闇に手を出すなよ、西又イロリ」
「なぜかしら」
「お前、自己紹介で千歳と幼稚園の時結婚の約束をしたと言っていたな……」
「そうよ。その約束が、私たちを結んでいるのよ。あなたには分からないわ、私たちの約束なのよ」
「お前の知っている千歳はもういないんだ。人間は変わる。過去なんで、存在しないんだよ、それを理解しろ」
「な……なにを……」
ナギはイロリの質問には答えず、千歳のを引っ張って更衣室を出た。
チャイムが鳴る。次の授業が始まるのだ。イロリも引き下がらざるを得なかった。



822 :ワイヤード 第二話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/10(金) 20:26:44 ID:r9yyjKLi
しかし、ナギは授業には戻らなかった。身体に力の入っていない千歳を保健室にぶちこむためだ。
「おい、来たぞ」
「あら、ナギちゃん、どうしたの?」
保険医は慣れた口調で対応する。ナギの乱暴な口調にももはやなんの意見も無いようだ。
「今日は私じゃない。こいつだ」
ナギは乱暴に力のない千歳の身体を保健室に放り込んだ。
「あら大変、ベッドに寝かせるから手伝って」
ナギはコクリと頷き、千歳の足を持った。保険医は千歳の上半身を抱え、ベッドに運ぶ。
「ナギちゃん、鷹野くん、どうしたの?」
「知らん。軟弱だからこうなったのだろう」
「そっか、原因不明か……なら、これは真面目な話だから、聞いてね」
「なんだ」
「コントラクターって、知ってる?」
「なんだ、それ」
「知らないなら、いいけど……もし、その言葉があなたと鷹野くんの間に立ちはだかったら、私に相談してね」
「ああ」
「まあ、一応身体自体に重大なダメージとかはなさそうね。疲労みらいなものだから、昼休みまで寝かせていれば大丈夫だと思うわ」
「……」
ナギは、保険医の目をじっと見詰めている。
「わかった、あなたも付き添いしてていいわよ。担任には私が言っておくから。大野先生ね」
「……感謝する」
「別に良いわよ。そういうの、応援したくなるじゃない」



823 :ワイヤード 第二話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/10(金) 20:27:36 ID:r9yyjKLi
「おい、千歳。いつまでくたばっているつもりだ、この軟弱者」
「すまん、意識ははっきりしているんだが……体が重い」
「保険医は心配ないと言っていた。さっさと治れ。気合いで治れ」
「無茶言うなっつーの。ってか、先生はどこいったんだ?」
「しばらく職員室に行くらしい。鍵をかけていった。だから保健室はしばらくお前の貸しきりだ」
「そうか。お前は、授業サボっていいのかよ」
「……」
「どうした?」
「イロリという女、お前の何だ」
「あいつは、俺の最初の友達だよ。幼稚園の頃、兄妹みたいに仲良くて、いつも一緒にいた。で、幼稚園の終わりごろにわかれちまった。それだけ」
「本当に、それだけか? 結婚の約束とやらは、本当なのか?」
「ああ……子供ごころながらに、結婚の約束までしたな。それを、あいつは律儀に覚えていたみたいだ。俺は今日まで忘れてたよ」
「それが自然だ。人は変わる。それが子供ならなおさらだ。それを……あいつは執着で動いている」
ナギの言葉には、表情には、髪には、怒りが明らかににじみ出ていた。
「お前、なんで怒ってんだよ。イロリはいいやつだぞ。最初からケンカ腰になるなよ」
「お前も過去の情報からそう言っているだろう。……私は昔の西又イロリは知らないが、少なくとも客観的にアイツを見ていると、吐き気がするな」
「なに言ってんだよ。そんなこと全然」
「お前は目に頼りすぎなんだよ。千歳」
「どういう意味だよ」
「お前、あの更衣室のなかでレイプされるところだったぞ」
「は……?」



824 :ワイヤード 第二話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/10(金) 20:28:33 ID:r9yyjKLi
「分からないのか? あの更衣室、放課後まで誰もこない。それに、鍵がかかっていたぞ。お前が拒んだ場合、お前が逃げないようにだ。約束だのなんだの言っていたが、アイツの拘束力は執着から生まれている」
つまり、ナギは鍵を破ってイロリの手から千歳を救出したと言うことになる。
「お前の嫁であることは、あいつにとってはさっさと肉体関係を結ぶと言うことなんだよ。短絡的だな、全く」
「お、おいおい。でも、それはお前の推測だろ。だいたいレイプなんて犯罪だ。誰も好き好んで……」
「それは男の場合だろう。女なら、レイプだって有利に運べる。例えばお前の携帯電話を奪い、ハメ撮りでもするとする。どうなるかわかるか?」
もし人を呼んだり、抵抗したりしたら、この画像を出して「レイプされた」と言う、と、脅迫する。そんなビジョンが千歳の頭に浮かんだ。
「アイツほど男受けする見た目なら、レイプされても不思議じゃない。誰もお前の言い分なんか聞かんぞ」
「でも、そんな無茶苦茶な」
「まあそうだな。確証などどこにもない」
「なら、信じろよ。イロリを」
「あいにく、私はお前のようにお人よしじゃないんでね。私が信じるのは、母さんと、お前だけだ」
「お前……」
「とにかく、お前は今日はそこで寝てろ。昼休みくらいまで休めば大丈夫だと保険医も言っていた」
そう言うと、ナギは千歳の頭を撫でた。不器用でぎこちない手つきだったが、優しさがこもっていた。
「(気持ちいいな……)」
今は亡き母に頭を撫でられた時のことを思い出す。こんな時は、母は……。
「(こもり……うた……ナギが……?)」
母の歌っていた子守唄が聞こえる。そしてそれは、他でもないナギの声だった。
誰よりも優しい声。いつも粗暴な言葉遣いをするナギのイメージとは違っていた。
しかし、千歳は知っていた。
これがナギの本当の姿なのだと。

夢を見ていた。
「千歳。お前は未来を信じているのか?」
「なんで、そんなことを聞くんだ?」
「幸せは、未来にしかないんだよ。それを知って、絶望したんだ。未来には、永遠にたどり着かないんだ」
「ナギ、それは違うんじゃないのか?」
「何がだ」
「希望とか、確かにこの現実では信じにくいし、怖いもんだ。未来もそう。だけどな、それでも幸せになるために、俺らは『信じる』ってことをするんだろ」
「……そうだな、私は、それを言って欲しかっただけかもしれないな。感謝するよ、千歳」
夢を見ていた。


825 :ワイヤード 第二話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/10(金) 20:29:10 ID:r9yyjKLi
「……なんで、あんな夢を」
最近、過去のことを夢に見ることが多い。イロリに会ってやっと思い出したが、朝見ていたのはイロリとの約束と別れ。
今見ていたのは……。
「ナギ……」
「呼んだか?」
「おわっ!」
「結局、放課後まで寝ていたんだな」
「まじでか……なんか、最近寝起き悪いんだよな。お前のがうつったか?」
「知らん」
「だよなぁ……あーあ。なんか一日中ねてると、損した気分だよな」
「昼飯のことなら、私がお前の分も食ってやったから安心しろ」
「そういう話じゃねぇよ」
「じゃあどういうことだ」
「俺も『今の時間』が大切なんだって思い始めたんだよ……お前が言っていたようにな」
「何を言っているのやら、さっぱりだな」
ナギは特徴的な意地の悪い笑みを浮かべた。
「ってか、ナギお前、放課後までずっとここで……?」
「別に、授業をサボる口実ができたから盛大にサボっていただけだ。お前が心配だったとかじゃない」
「そうかい」
千歳はなんとなく嬉しくなる。長い付き合いだから、分かるのだ。口は悪いが、ナギは心優しい。たぶん心配してくれたのだろう。
「なあ、ナギ……おれさ、やっぱり」
「ちーちゃん!!」
凄まじい勢いで進入者が現れた。鍵は、昼休み以降は開く寸法だったようだ。
「またお前か」
ナギは鋭い目付きでにらみつける。強烈な威圧。先ほどよりもかなり力を増している。
千歳の過労の原因を、イロリに押し付けようとしているように見える。
「イロリ……さっきは……」
「ごめんなさい!」
「え……?」
言葉を遮られ、あっけに取られる。ナギも少し動揺しているようだ。


826 :ワイヤード 第二話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/10(金) 20:29:51 ID:r9yyjKLi
「やっぱりさっき、強引すぎたというか、焦りすぎだったって言うか……。私、ちーちゃんに会えて、その……興奮しちゃって、わけわからなくなって……
。やっぱり、いきなり結婚とかそういうのは、ダメだよね」
イロリはもじもじと顔を赤くさせながら、しどろもどろになりつつもしっかりと謝罪をしていた。
「(やっぱり、イロリは悪い奴じゃないよな。さっきのナギとの衝突も、いろいろ急いじゃった結果なんだ)」
千歳は『最初の親友』の変わらなさに安心した。それに、結婚とか妻うんぬんについても、考え直してくれると言うのだ。
大丈夫、もうトラブルは起こらない。
「ちーちゃんとは十年以上会ってなかったし、戸惑いとか、ギャップとか、行き違いもあると思うの……。だから、ちょっと距離を置いて、ゆっくりね……」
「ああ、そうだn――」
「だから、結婚を前提に、まずはお付き合いからにしよう! いいよね、ちーちゃん!」
「は……?」
驚きのあまり、言葉を出せない。単純な声しか絞り出せなかった。
隣にいるナギも同様のようだ。目を見開いて口をぽっかりとあけていた。
「ちーちゃん、私頑張るから……ちーちゃんにちゃんと愛されるように、がんばるから。だから、恋人から始めよう」
「な……」
「大丈夫、昔と同じに戻るだけだから。簡単でしょう?」
「(いつ、俺はイロリの恋人になってたんだ……?)」
どうしようもない理不尽と戸惑いが千歳を襲う。もはや、イロリの思い込みは抑制不可能ではないのか?
そんな諦めすら頭に浮かぶ。
「ふっ……ふはっ、ははははははははははははははははははは!!!!」
ナギが、唐突に笑い始めた。
「な、なによぅ、ナギさん、また私の邪魔を……」
「いや、失礼。お前は面白いやつなんだな。気に入った。第一印象を改めないとな」
千歳すら、ナギがこれほどに楽しそうな所を見るのは珍しい。いや、そもそもナギが母以外を褒めることなど、完全に初めてかもしれない。
「おい、イロリ。いろいろと邪推してすまなんだな。お前は本物みたいだ。逆に、応援してみたくなったよ」
「あ……ありがと、う?」
今度はイロリが戸惑う番だった。今まで敵対心丸出しだったナギが、いきなり友好的になったのだ。
「だが、千歳はそうは思っていないらしい。千歳、お前はイロリと付き合うのがいやか?」
「俺……?」
千歳はやっと気付く。周りに引っ張られっぱなしでなんだかついていけていないが、これはもともと自分の問題だと。
「俺は……」



827 :ワイヤード 第二話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/10(金) 20:30:22 ID:r9yyjKLi
「ちーちゃん……」
「俺は、友達からくらいがちょうどいいと思う。イロリがキライになったとかじゃなくて、やっぱり、人間関係とかさ。いろいろ急ぎすぎると、擦り切れることがあったり、壊れることがあったりするだろ? だから、ちょっとずつ、な」
「それは、結婚を前提に友達になるってこと?」
「いやいやいや、そんなのねーよ。どこの世界の友達だっての」
わざとやっているのかと疑わざるを得ない。
が、思い出してみると昔のイロリもこんな感じだった気がする。思い込みが激しく、天然ボケの自覚もなく間違った認識を押し通す。
そんなタイプ。決して頭自体は悪くないのだが、性格の問題かもしれない。
「でも……ちーちゃんがいいと思う関係で、いいよ。今はそれで我慢する」
「(よかった……一時はどうなることかと)」
「でも……」
「?」
「さっきも言ったけど、いつかちーちゃんから『愛してる』って言わせるよ。それは『約束』。私たちの二つ目の約束。ね?」
イロリはにっこりと笑った。ナギとは違う。なんの含みもない。思い込んだこと、決意したこと、すなわち『未来』に真っ直ぐ向いた、純粋な希望。
「――っ」
ドキリ。一瞬、心臓が跳ねた。不覚にも、こんな簡単にイロリを女として認識しなおすことになるとは。思いも寄らなかった。
「まあ、そんなもんだろうな。今は。だが……」
ナギは、イロリに近づき、肩をぽんぽんと叩いた。
「悪かったな。分かっていなかったのは私のほうだ。お前は、いい女らしい」
ナギはそう言うと、保健室を出ていった。珍しく、軽快な歩調だった。
「……ナギさんって、ぱっと見よりいい子だね、ちーちゃん」
「ああ、そうだな」
「ねえちーちゃん。ナギさんって、ちーちゃんとどういう関係なの?」
「どういうって……お前と同じだな」
「え……浮気?」
「ちがうっつーの。っていうか俺らは『友達』だからな。浮気とかそういう人聞きの悪い単語を出すな」
「あはっ、ごめんごめん。つい、ね」
「お前と同じ、昔からの友達だよ。小学校の……二年くらいかな」
「そっか……ねえ、聞かせて、私が引っ越した後の、ちーちゃんのこと。私の知らないちーちゃん……。知れば、今よりもっと近くにいられると思うから」
「近くに……か。悪かったな」
「なにが?」
「俺も、ちょっとお前を避けてるみたいに動いちまった。なんか、久しぶりだし……お前が昔のお前か自信なくて、その……遠慮した」
「ううん。悪いのは私。ちーちゃんの気持ちも考えずにお嫁さん宣言して、そのままキスしようとしちゃった……今考えると、あんまりいい子のすぐことじゃないね」
「でも、そういうのがお前だったって、なんか安心したかもしれない。案外、そう遠くないかもしれないな」
「え、なにが?」
――約束を果たす日。



828 :ワイヤード 第二話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/10(金) 20:30:53 ID:r9yyjKLi
そんなこと、言える分けないか。恥ずい。
「それより、昔の話だったな……」
「うん」
「あの……」
急に声がして、見ると大人しそうな少女が保健室の扉を開けた向こうに立っていた。
「もう下校時間ですから……鍵、閉めます」
いかにも内気そうな、長い前髪のショートヘアと眼鏡の少女は、消え入りそうな声で二人に呼びかけた。
「あなたは確か……私たちのクラスの委員長さんだよね? えっと……井上 深紅(いのうえ ミク)さんだっけ?」
イロリは早くもクラスメイトの名前と顔を一致させたようだ。
「はい……気軽に、ミクと呼んで下さい」
「なら、私もイロリって呼んでいいよ。よろしくねっ」
「はい……こちらこそ、よろしくおねがいしますね。イロリさん」
イロリとの対話を終え、ミクは千歳の方をむいた。
「鷹野君、先生が用事があるから来てって……」
「あ、ああ。わかった」
「あの……イロリさんは、先に帰っておいたほうがいいと思います。……長くなるそうですし、本来なら下校時間ですから」
「そっか……じゃあちーちゃん、また明日ね」
「ああ、また明日」
そうしてイロリは保健室を出た。
残されたのは、ミクと千歳のみ。――と、突然ミクが保健室の鍵を閉めた。
「……? どうしたんだよ、委員長。職員室に行くんじゃ……」
「鷹野君……見せたいものがあるんです」
「……なんだ?」
「これ……」
ミクは千歳に封筒を差し出す。中身は……写真のようだった。
「これは……!?」


829 :ワイヤード 第二話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/10(金) 20:31:32 ID:r9yyjKLi
「どうですか? よく取れていると思いません?」
「お前……何故……これは、ナギ、だと……」
写真は……全てにナギが写っていた。とは言ってもスナップ写真などという域ではない。
トイレ、着替え……そして、自慰行為に至るまで、あらゆるナギの痴態が克明に写されていた。
「これは……一体だれが」
「さあ、誰でしょうね」
「……お前じゃ、ないよな? お前、盗撮事件があったのを発見して、先生とか俺だけに知らせてるとか、そういうのだよな……?」
「……」
「なあ、なんとかいえよ委員長!」
「あはっ、鷹野君おもしろい顔してる♪」
「なんだよお前……こんな時にのんきな……盗撮があったんだろ!? 犯人はどうなってんだ。掴まったのか!?」
「必死に現実逃避して……かわいいですねぇ」
「な……」
「私ですよ。鷹野くん。この私が全て撮ったものです」
「……なにが。なにが望みだ」
委員長は、ナギと同じく小学校時代から同じクラス。そしてずっと委員長の女。
ナギの写真を持ち出したということは、ナギか妹の百歌を人質にとられるとなにも抵抗できないという千歳の性質を知っているということなのだ。
「同じですよ」
「なにがだ!?」
「イロリさんと同じ……あなたが、欲しいです」

がしゃんと盛大な音を上げて、皿が割れた。
「……お兄ちゃん?」
百歌は、なんらかの違和感を覚え、料理の手を止めた。
「……今日は、なんだか、おかしいよ……お兄ちゃん、早く帰ってきて……」