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12 :ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/12(日) 20:25:49 ID:4ulifI0Q
第六話『ダイヤモンド・発光』

お母さんは言っていた。泣いてる子を見たら元気付けてあげなさいって。
お母さんは言っていた。悪い子を見たら、迷わず戦って、勝ちなさいって。
お母さんは言っていた。輝けるものを見たら、一生大切にして、放してはいけないって。
お母さんは死んでしまったけど、息子はずっとその言葉を胸に秘めて生きていた。
――そして少年は、あのとき『輝けるもの』を見つけた。

「うっ……うぅ……」
「なぁー」
「うぅ……うっ……ぐすっ……」
「なんで泣いてんの?」
少年の目の前にうずくまり、泣いている少女。髪は燃えるように赤く、目は鋭い。誰も信じてはいないとでも言いたそうな、攻撃的な姿。
「……だまれ、話かけるな」
「泣いてたんじゃないのかよ……かわいくねー」
「お前に哀れがられるほど、不幸でもない」
「……なー、お前馬鹿?」
「なっ……なんだと!?」
「いや、質問に答えろよ。お前馬鹿かって聞いてんだよ」
赤い髪の少女は困惑しながらも、涙をぬぐい、強い意志のこもった目で答えた。
「馬鹿じゃない。私は……私は母さんの、娘だ。絶対に、馬鹿じゃない。誇りがあるんだ」
「……なら、その涙を止める努力をしろ。でなきゃ――死んでんのと同じだ」
「……」
少女は目を見開き、一瞬硬直した。
が、少ししてふっと表情を和らげ、少年に笑いかけた。


13 :ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/12(日) 20:26:39 ID:4ulifI0Q
「お前、名前は?」
「人に名前を聞く時は――」
「――ああ、そうだな。私は、ナギ。野々村ナギだ」
「俺は鷹野千歳。呼び方はどうでもいいから適当に考えろ」
「そうか。千歳」
「呼び捨てかよ。はええな」
「不満か?」
「いや、まどろっこしいよりはいいな。よろしくな、ナギ」
二人は顔を見合わせて笑った。どうしようもなく気が会うことを、見た時点で分かり合ってしまった。
これは、紛れもない『運命』だと。二人には無意識であれ意識的にでもあれ、理解されていた。



14 :ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/12(日) 20:27:11 ID:4ulifI0Q
「で、お前なんで泣いてたんだよ」
「聞くな。恥ずいだろうが」
「そういうわけにもいかんな。大方、その赤い髪にでも関係あんじゃねーの?」
「……勘がいいな、その通りだ。転校してきて、馬鹿どもが群がってきて、赤い髪気持ち悪いとか、何人だとか、宇宙人とか、わけのわからんことを言ってきた」
「よくある話だな。そういう特徴をあげつらって人を自分より下に見る馬鹿。そういう奴の脳こそどうにかしたほうがいい」
「ああ、そのとおりだな」
「でも、その口ぶりだとそのことに対して泣くほど悲しかったってこともないみたいだが」
「そうだな。実際は、『宇宙人の娘だ』とか言われたのがショックだったんだ」
「娘……」
「この赤い髪、母さんと同じなんだ。母さんにもらったこの髪を、私は好きなんだ。だから、馬鹿にされたくない。くやしかった……」
「……なぁ」
「なんだ」
「お前、だいたいどいつがお前を馬鹿にしたか覚えてないか?」
「……何をするつもりだ」
「いいから、質問に答えろよ、ナギ。別にお前に関係していることじゃない」
「……どうだか」
そうは思いつつも、ナギは千歳にだいたいの人数と人相と覚えていた限りの名前を教えた。
千歳は、後は大体聞き込みでなんとかするからと言ってどこかに走っていった。
「あいつ、証拠をあげて教師に密告でもする気か……」
余計なことを。とは思うが、なんだか嬉しくて、頬が緩む感覚があった。
それを自分でひっぱたいて引き締め、ナギは愛する母の待つ家に帰った。



15 :ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/12(日) 20:27:57 ID:4ulifI0Q
翌日。ナギが学校に行くと、ナギのクラスの教室で、隣のクラスであるはずの千歳が待っていた。
「よお、ナギ」
「何の用だ」
「何のようかって、別にたいした用じゃない。ってか、お前に用があるのはこいつらだ」
「ん……?」
千歳の指の先を見ると、何人かのクラスメイトが土下座をしていた。
「あれはなんだ。新手の我慢大会か?」
「いや、あいつら昨日のことをお前に謝りたいらしいぜ、なあ?」
千歳はリーダー格らしき少年に呼びかけた。
「は、はいぃ! ナギさん、すみませんでした!」
リーダー格らしきその少年は、千歳よりもずっと大柄で強面だ。なのに、今は何故か千歳に怯えているように見える。
それに、良く見ると土下座している連中はみんないたるところに青あざや擦り傷がある。
――そして、千歳の頬にも小さな擦り傷。昨日はなかったはずだが。
「お前、まさか……」
「こいつら、たたりに会ったらしいぜ。俺はなにがなんだか知らねーけど」
「千歳……」
「ん、なんだよ」
「お前、馬鹿なんだな」
ナギはそう言ってけらけらと笑った。



16 :ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/12(日) 20:28:28 ID:4ulifI0Q
「おい! てめぇ助けられた身分で!」
「見苦しいぞ今更自分の手柄を主張するとは。男らしくない」
「ぐっ……」
「だが――感謝するよ千歳。これはお礼だ」
ナギの笑顔が輝いた。千歳は目を奪われ、硬直する。
「(こいつ、笑うと可愛いんだな……)」
ちゅ。
そんなことを思っている間に、何か柔らかいものが頬に触れていた。
「へっ……?」
「特別だぞ。忘れるな」
恥ずかしそうに頬を赤らめ、ナギはそそくさとその場を立ち去った。
「お、おい! お前今……」
「だーまーれー! 二度目はないからついてくんなー!」
「逃げんな! 今のって……ちょ、お前足速いんだよこら!」



17 :ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/12(日) 20:29:14 ID:4ulifI0Q
「はぁ……はぁ……。どこいったんだよ、ナギのやつ……」
「ここだ。遅いんだよ軟弱者が。捕まえたい物は絶対に放すな」
見ると、木の上に立っていた。ナギの身体能力は同年代の人間とは比べることができないくらいに高いらしい。
息切れすらしていない。
「……俺の母さんみたいなこと言いやがって……降りて来い!」
「捕まえてみろ」
「んだとぉ……」
しかし、高いしとっかかりがない、上りにくそうな木だ。正直、普通じゃ上れない。
「(どうする……)」
「こないのか? ……まあ、その程度だな、馬鹿の力っていうのは」
「(くそ、この女、絶対殴ってやる……)」
千歳は、上ることをさっさと諦め、降ろす手段を考え始めた。
まずは弱点を探ることにする。基本は、相手を良く観察することだが……。
「ん……?」
「なんだ?」
「くまさんぱんつか」
「なっ!」
とっさに両手を離し、スカートを押さえた。バランスを崩し、ナギは落下する。
「危ない!」
千歳が飛び込み、ナギの地面への激突を防いだ。
「……くっそ、こんな手に引っ掛かるとは……。って、千歳、どこへ行った?」



18 :ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/12(日) 20:29:45 ID:4ulifI0Q
「ここだ……」
「下……」
気付いたら、千歳の顔の上にしりもちをついていた。
「お前尻柔らか……へヴぁ!!!」
「し……死ね馬鹿!!」
顔を髪と同じくらいに真っ赤にして、ナギはさっと千歳からどいた。
「いってー……危なかったな。これで貸し二つ」
「何が貸し二つだ。お前が勝手にやったことだろうが。それに、ひとつ目はもう返済している」
「それもそうか。じゃあ貸しひとつ」
「初めてだよ、お前みたいな奴……納得いかないが、礼くらいはしてやる」
ナギは魅力的な笑みを浮かべ、千歳に近づき、肩を掴む。
「おい、ナギ、お前何を……」
「わかるだろう。お前も馬鹿じゃないなら。目を閉じろ」
「……わかった」
二人の距離は少しずつ縮まっていく。
時が止まる。全ての音がなくなってしまった世界に放り込まれてしまったようだった。
とくん、とくん。
互いの心臓の音だけが、二人の間に流れていた。生きている証し。確認しあう。
嬉しくなる。
目を閉じる。
唇が近づく。
――どきどきしている。


19 :ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/12(日) 20:30:16 ID:4ulifI0Q
ナギは、どうしようもなく自分が女の子であるということを自覚した。
昨日今日会ったばかりの男に、心奪われた。
理由なんてない。時間経過など、理由にならないということを知った。
この心はなんなのだろうか。
幼い心には、まだ正確には理解できていなかった。
しかし、この感情は嘘じゃない。
こうして、互いに感じあっている。
二人の距離は、あと五センチ。
それだけ。
心の距離は――。もう、あるのかないのかも分からない。
ただ、通じ合って、交じり合って、心地よいさざなみの中にいるだけだ。
二人の距離はあと二センチ。

――小さな恋の炎は、確かに燃え上がっていた。それは確かな経験で、過去で、嘘ではなかった。



20 :ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/12(日) 20:30:54 ID:4ulifI0Q
「とまあ、こういう出会いがあったわけだ。ずいぶん脚色と単純化を加えてはいるがな」
「っておーい! 肝心のキッスの場面はどうなの!?」
「ああ、あれね。あと一センチほどで授業開始のチャイムがなって、お流れになった。それ以来は、あんな雰囲気になることもないな」
「……そんなぁ、ナギちゃん、そをさぁ、もっと強引にぐいぐいーっと」
「何がぐいぐいーっとだ。つまり、そこで私と千歳のフラグはもう進んでないんだよ。だから私はお前を阻害し得ない」
「……ナギちゃん、ずるい」
「何がだ」
「だって、その話聞いてたら、ナギちゃんもちーちゃんも、両思いだけど遠慮してるみたいじゃん。そんな二人の間に入るなんて、私が邪魔者すぎるよぉ」
「だから、今はそうでもないと何度言ったら……」
「それはナギちゃんがそう思い込もうとしているだけで、本当は違うんじゃないかな。少なくともちーちゃんは、私よりもナギちゃんのことが好きみたいだけど……」
「はぁ……ソースは?」
「女の勘!」
「アホくさい。やってられんな。もう寝るぞ」
「えー! もっとおしゃべりしようよー! これ、私がナギちゃんに勝つために必要なんだよ!?」
「知らん。後はお前の努力次第だろう。未来を信じるなら、自分を信じたいなら、努力しなければ死んでいるのと同じことだ」
「ずるーい。……ぷーん、もういいもんっ! 明日から、本気でナギちゃんに勝つため、たくさん勝負するから、覚悟しててね!」
「ああ、いつでもかかってこい。私はもう寝る……おやすみ、イロリ」
「うん、おやすみ、ナギちゃん……」
イロリは名残惜しそうにしていたが、やがて大人しくなって寝息を立て始めた。



21 :名無しさん@ピンキー [sage] :2008/10/12(日) 20:31:35 ID:4ulifI0Q
ナギはというと、横目でイロリの顔をちらりと見ながら、心の中で悪態をついていた。
「(くそっ、イロリのやつ、余計なことを思い出させたな……。千歳とのキス、か……結局、一回もできなかったな)」
そもそもチャンスが一回だけだったのに、それを逃がしたのだ。
あのときの胸のときめきを考えると、それだけで頬が熱くなる。
「(……私も、前に進むことができるのか……? この西又イロリのように)」
えらそうなことを散々言ったが、ナギは正直イロリのことを尊敬していた。
臆病な自分とは全く違う、ポジティブで純粋なその精神には、感服する。
「(いつか、私も……愛しているなんて言葉、口にできるのだろうか)」
自信がなかった。
愛されて良い自信。愛して良い自信。
成長できていないのは、ほかでもないナギ自信だ。それを彼女は自覚していた。
イロリのように、反省して、成長して、行動して、また反省する。そんな、それだけのことさえできれば、未来を掴むことができるのに。
自分には、できない。
「(イロリ――。お前なら、お前なら、できる。これは、嘘じゃない)」
――今はただ、自分が欲しかったものをイロリにたくしても良いかもしれない。
そんな気分になる。不思議なやつだ。西又イロリという女は。
「(だからこのキスは、私からお前への、お前から私への、『契約』だ。悪く思うな)」
ナギの唇が、イロリの唇に軽くふれた。
――千歳との、間接キスということになるな。
ナギはふっと自嘲気味の笑みを浮かべた。