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59 :ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/13(月) 11:58:43 ID:M7IGTwYl
第七話『ファーストバトル・開催』

「なんか、今日は身体だるいんだよなぁ」
「ん、昨日なんかあったの? オナニー八回くらいしたとか?」
「いや、彦馬じゃあるまいし」
「失礼な! 僕は仮にも紳士、一日一回に全てを懸ける!」
学校に行くと、いつもの風景があった。ナギと千歳を出迎える彦馬、各々好き勝手している楽しいクラスメイト達。
だが、同時にいつもと違うものもあった。
「みんなおはよー! そこの君も、あなたも、おはよー!」
元気良く全員に挨拶している女、イロリ。
千歳がナギを迎えに行ったとき、一緒に寝ていたから驚きだった。いつの間に仲良くなったんだ。
ナギに聞くと、「知らん」といってそっぽをむいた。
イロリに聞くと、「へへー、ちーちゃんには、ひ・み・つ」といってにやにや笑いをされた。さっぱりだ。
「いやー、イロリちゃんもクラスに馴染んできたねー」
「二日目にしてあれだからな」
イロリはクラスのほとんどの名前を覚えたようで、ほぼ全員と親しそうに一言二言交わしていた。
陰気な窓際族の、いかにも社交性がなく、嫌われ者で通しているようなやつにすら、陽気に声をかけていた。
これまでの人生でモテた経験のない者にとっては、イロリはまさに天使に見えたろう。
「でも、あんな可愛い子が千歳のお嫁さんだなんて、世の中不公平だよね。僕にも分けてくれないかい」
彦馬はからかうように言った。
「ナギちゃんというものがありながらさ」
「ナギだぁ?」
「そうだよ。ナギちゃんみたいな可愛い子といつもべたべたくっついてるのに、その上嫁を自称する幼なじみ登場だよ。しかも妹さんは可愛いし、これなんてエロゲ?」
「……百歌が可愛いのは認めるが」
「出たよシスコン」



60 :ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/13(月) 11:59:14 ID:M7IGTwYl
「出たよシスコン」
「ナギが、可愛い……だと」
机にだらりと身体を投げ出しているナギを見る。だらしなくボサボサの髪、だるそうにあけた口、半分しか開いていない目。貧相な身体。
美人だとかそういう系統の賛辞はとてもじゃないができない。
「見慣れてるからそういうことが言えるのさ」
「そうなのか……?」
「そうだって、ねぇ、ナギちゃん!」
彦馬は大きな声でナギに声をかける。
「なんだ……うるさいぞ彦馬」
だるそうにナギは顔を上げる。いかにも「うぜー」というような顔つきだ。イロリや百歌ならこんな表情死んでもしないだろう。
「ナギちゃん可愛いよナギちゃん!」
「……?」
ナギは働かない頭でしばしその彦馬の言葉をよーくかみしめた。
そして、理解した。
「眼科行け」
再び机につっぷして寝始める。
「ナギちゃん、そりゃないよぉ」
「見た目はどうあれ、ナギは中身があれだからな」
「でも、同じ言葉でも千歳がいうと違うんだよね。ほら千歳、言ってみてよ」
「はぁ?」
「ほらほらー」
「……わかったよ、ったく……。おい、ナギ」
再び声をかける。さっきよりさらに怒りをためながら、ナギが顔を上げた。



61 :ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/13(月) 12:00:24 ID:M7IGTwYl
「……なんだ千歳。彦馬よりくだらないことを言ったら唇に瞬間接着剤をつけるぞ」
「ナギ可愛いよナギ」
「……?」
ナギは再びさっきと同じように言葉の意味を脳内でこねくり回して考えた。
そして。
ぼふん。
顔から蒸気があがる。
髪の色と同じ真っ赤に染まった、ゆでだこ状態の顔。鋭い目で千歳をにらむ。
「お……お前……今……今言うことか!!!」
同時に、素早く手を振る。
「(投擲!?)」
敏感に反応した千歳が投擲されたものをぱしりと掴む。常人では考えられない反応と対応だ。
見ると、千歳の手の中にはシャーペンが納まっていた。芯を出して殺傷性をあげている。
「あぶねーぞ!」
「うるさい、お前が悪いんだろうが!」
「可愛いって言っただけだろうが!」
「そういう冗談は性質が悪いから止めろ!」
ここまでナギが興奮するのは珍しい。いつもはもっとだるそうに無視するというのに。
「なになにー? ナギちゃんを『可愛い』っていう大会ー? ナギちゃん可愛いよナギちゃん」
横からイロリが急に首を突っ込んでくる。このクラスにいることがよほど楽しいらしい。さっきからずっとニコニコしている。
「ああっと、イロリちゃん。昨日は自己紹介できなかったけど、僕は千歳の一番の親友の彦馬! よろしくね!」
彦馬はイロリに近づき、手を差し出す。
にっこりと微笑み、イロリも握り返す。
「うん。こっちこそよろしくね。でも、ちーちゃんの一番の友達かぁ……つまり、彦にゃんは、私のライバルってことだね!」



62 :ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/13(月) 12:00:54 ID:M7IGTwYl
「へっ……?」
彦馬はぽかんと口をあけた。
「彦にゃんって、なんだよ」
ナギはけらけらと笑いながら、彦馬を指差した。ツッコミどころはそこではない。
「おいイロリ、ライバルって何だよ」
千歳が冷静に聞く。
「ちーちゃんの一番になろうって、昨日決めたの! だから、まずはちーちゃんの一番の友達になって、そのあと一番の恋人になる! それでお嫁さんになるの!」
「……意味わからん」
千歳はあきれ果てる。目を輝かせて力説するイロリには悪いと思ったが、感情的すぎて説明になっていないのだ。
「つまりイロリは昨日こう考えたということだ」
「ナギ……」
「お前の一番になるために、今お前の心の中で高い地位を占めている人間全てに『勝つ』とな」
「どういうことだ」
「お前に認められるため、努力をするってことさ」
ナギは嬉しそうに語った。昨日イロリを応援するといったのは本当なのだろう。
「(でもまあ……)」
千歳も少し嬉しくなる。
好意をもたれてあいてをキライになる奴はいない。イロリは一途で努力家で、純粋だ。
いつか、いつかは、千歳の中でも大きな存在になるかもしれない。いや、きっとなるだろう。
「(って、なに他人事みたいに考えてんだ、俺……。決めるのは俺だろうに)」
そもそも、イロリのことを今自分はどう思っているのだろうか。千歳はそれすら良く分かってはいない。
もしかしたら、好きなのかもしれない。自覚がないだけで。
「(まあ、いずれ分かるか。……今は)」



63 :ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/13(月) 12:01:25 ID:M7IGTwYl
「皆さん、おはようございます」
教室に入り、ペコリと頭を下げる大人しい少女。
「やあ委員長、おはよー」
「おはようございます、彦馬さん」
「おはよう。ミクちゃん」
「おはようございます、イロリさん」
「……よう」
「おはようございます、ナギさん」
――井上 深紅。
「……」
千歳は他の人間には気付かれない程度の視線を送り、威嚇する。
視線が帰ってくる。本当に、お互いにしか気付かれないほどに小さな視線の交錯。
「おはようございます、千歳君」
口元だけが、にやりといやらしく笑った。
「ああ……。委員長」



64 :ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/13(月) 12:01:56 ID:M7IGTwYl
「今日の体育は男女混合だー」
女子の担当の教師が急な休みらしく、男子担当の筋肉質な教師が男女を全てまとめる。
種目はテニスになった。
「テニス経験者はいるかー?」
「はいはい、僕でーす!」
真っ先に手を挙げたのは彦馬だった。そう言えば、彦馬は中学の時テニス部だった。千歳は思い出し、人間には特技って一つぐらいあるもんだよなと思った。
「他には?」
「私も、少し」
イロリも手を挙げた。
「じゃあ、二人でてちょっくら1ゲームのシングルスて見本試合をしてくれ。ルール説明とか打ちかたとか動き方とか、そのときに説明するから」
男性教師はそう二人に頼むと、いやな顔一つせずに引きうけ、コートに上がった。
「さっそく直接対決だね。ちーちゃんの一番の友達の座、もらうから」
「じゃあ、僕にまけたら僕の恋人にとか……なんちて」
「いいよ」
「へっ……?」
「もし私に勝てたら、だけど」
自信満々で言い放つイロリに、少しむっとして彦馬も言い返す。
「そこまで言われたら、僕も男として引き下がることはできないね。良いよ、僕が勝ったら、千歳は諦めて僕のものになってよね」
「いいよ。サーブはどっちがする?」
「女の子だからね、君にやらせてあげるよ」
「いいの?」
「もちろん」
試合が始まった。



65 :ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/13(月) 12:02:34 ID:M7IGTwYl
「おいおい、大丈夫かよ」
千歳が溜め息をついた。
「どっちが?」
「彦馬が」
「だろうな」
ナギも溜め息をついた。
「ふぅー……。この一球に、ちーちゃんを愛する気持ちの全てを懸ける……」
トスを上げる。
「ラブ・ラブ・サーブ!!!!」
きわめてダサい技名を叫びながらイロリはファーストサーブを放った。
が――
「――はやっ!?」
気付いたときには既にネットを越えていた。彦馬はとっさにラケットを突き出し、ボールに当てる。
「(当てるだけでいい、とにかく返して……なっ!?)」
全くボールが動かない。ラケットに吸い付いたように跳ね返らず、彦馬の腕を押し返していた。
「ぐ……おぁ!!」
彦馬が腕を振り切った。
「……」
沈黙。
からんっ。
乾いた音。
吹っ飛んだラケットが地面についた音。


66 :ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/13(月) 12:03:06 ID:M7IGTwYl
「私の――サービスエースだね」
周囲がどっと沸いた。
「すげっ! みたか今の!」
「ああ見た、ありゃ波動球だぜ!」
「イロリさんぱねぇっすwwww マジリスペクトっすよwww」
「技名はダサいけど、かっこいい!!」
千歳とナギもあっけに取られる。いや、千歳は、予想通りの展開にあきれ返っていた。
「やっぱりな」
「どういうことだ。あの力は……?」
「あいつ、目的のためだとああいう風にわけわかんねぇパワーになるんだよ」
「目的……? お前のために何かをすることでパワーアップしているということか?」
「まぁ、言うなればそういう感じになる」
「……これは、とんだ大物に出会ってしまったな」
「おいナギ、どこ行くんだ!?」
「確かめる」
「確かめるって何を!?」
――西又イロリ。お前なら、全てを乗り越えることができるかもしれない。



67 :ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/13(月) 12:03:37 ID:M7IGTwYl
「そんな……強すぎる……」
彦馬は膝をつき、放心していた。
仮にもテニス経験者だ。力の差は分かる。――いや、その底知れない力の一端に触れることができたのだ。
「あれは、テニスの技術なんかじゃない……もっと根本的な、生物のレベルで……」
――食われた。
完全な敗北。一球で、たった一球ですべてを理解してしまった。
「僕は……なんて思い上がりを……。あんなの、千歳じゃないと……千歳以外には……」
つりあうわけがない。
「そうか。諦めるにはまだ早いとは思うがな」
「!? ……ナギ、ちゃん」
「まあ、お前もまだ成長できる。今は私に変われ」
「……ナギちゃん、戦うのか!? あんなのと……!?」
「あんなのとは何だ。あいつは私の友達であり、千歳の嫁候補であり、お前が一瞬でも憧れた女だぞ」
「でも……」
「……つべこべ言っているひまはない。選手交代だ!」
ナギは大声で宣言した。落ちたラケットを拾い、手に馴染ませるようにぶんぶんと振り回す。
どうみても素人の手つきだった。
「ナギちゃん、テニス経験は……?」
「ないな、一秒たりとも」
「そんな! そんなんじゃイロリちゃんには……!」
「そんなもんで諦めているうちは、強くはなれない。お前が負けた原因がまだわからないか?」



68 :ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/13(月) 12:04:08 ID:M7IGTwYl
「え……?」
「お前は精神でイロリに凌駕されていたんだよ。あいつ、『負けたら千歳を諦める』覚悟でお前と戦ったんだぞ。その覚悟につりあう『覚悟』はお前にあったのか?」
「僕は……」
「誰かを上回ろうとするときは、誰かに傷つけられる、誰かに踏みにじられるものだ。傷付かずに前に進む道はない。欲しいもののために前進して、綺麗なまま道を終える奴などいない」
ナギは太陽の光を浴びながら、その赤い髪を輝かせていた。
彦馬にはそれが、まぶしすぎた。
「強くなるということは、傷付いていくということだ。その『覚悟』がなければ、誰にも打ち勝つことなどできない」
ナギはラケットをイロリに向け、宣戦布告をする。
「イロリ、お前は私に勝つといったな。なら、私に負ける覚悟もあるわけだ」
「……うん」
イロリが頷く。いい顔をしていた。迷いのない、戦士の顔を。
「なら、私も母にもらったこの身体が持つ『力』と『誇り』の全てを懸け、お前と戦うことを約束する!」
「……いいよ、私も愛の全てをかけて、ナギちゃんと戦うよ」
イロリの返答は、口調こそ穏やかだったが、静かで、しかし熱い闘志に満ち溢れていた。
戦いが始まった。