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416 :ワイヤード 第十三話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/28(火) 15:39:49 ID:gifGW32h
第十三話『ネクストステージ・始動』

道場の中心で向かい合う千歳と理科子。二人の周囲には誰にも踏み込ませないほどの強力な闘気の壁がある。
見物に回ったイロリと、隣に座るここあももはや言葉を発することができず、ただ見ているのみ。
もはや、この勝負は向かい合った時点から始まっていた。
「(すごい……これがちーちゃんの『清水拳』)」
理科子の微妙な視線の変化と、脚の筋肉の収縮。次の動きへの予備動作。千歳はその全てを見切り、微細な牽制を繰り返していた。
おそらく、かなり修業をつんだものか、感覚の鋭いものにしか見えないであろう、その牽制。
この場では、イロリと、この道場でもトップクラスの実力を持つ数人の門下生達――ここあを含む――にしか気づけなかっただろう。
「(完全にりっちゃんの動きを『殺している』)」
攻めを重視している『炎雷拳』の理科子が攻められない。この時点で理科子は有利な点を全て剥奪されたようなものだ。
膠着状態。
このままにらみ合っていては互いに攻められない。
「(ちーちゃん……どう攻める?)」
と、千歳は急に一歩前に進んだ。
「……!」
理科子が一歩下がる。
牽制から急激に前進に転換した千歳の攻めに動揺したのだ。これがただのハッタリであり、『ただ一歩歩いただけ』だというのにも気付かない。
いや、気付いた時にはもう遅い。
「隙ありだ」
千歳の二歩目はさらに加速していた。理科子はさらに後退する。
戦闘において、近距離での逃げは自殺行為。相手から距離を取れるように見えて、それは防御としての役割を果たしていない。
重心がどうしてもぶれるために相手の攻撃を耐えられなくなるし、そもそも隙ができて絶好の攻めどころを相手に与えている。
千歳はそれを逃がさず、縮地法で間合いを詰め、拳撃を腹部に叩き込む。
上半身を逸らしても避けることはできない。動くなら、左右。
千歳の拳は右から繰り出されている。ならば逃げる時、理科子も自らの右側に動くのが最善だろう。



417 :ワイヤード 第十三話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/28(火) 15:40:21 ID:gifGW32h
「ところがぎっちょん!」
理科子はその読みを無視して、『前進』した。拳を跳ね除けながら、千歳の突き出した腕の内側。懐にまで身体を小さくして飛び込む。
この場所には攻撃はできない。少なくともとっさには。自分に近すぎると、攻撃に勢いがつかない。
しかし、この距離では理科子もたいした威力の攻撃はできない。少なくともイロリの常識ではそうだった。
理科子の炎雷拳の攻めは、それすら可能にする。
「っふぁ!!」
呼気を入れながらの突き。予備動作は殆ど無い。腕を伸ばしきってもいなければ殆ど引いてもいないショートパンチ。
「がっ……!?」
千歳は腹部にそれをまともにうけ、後ろに大きく後ずさる。
――後退した!
ここぞとばかりに理科子が大技の構えを取り、無防備な千歳に飛び込む。
「蒼天院炎雷拳奥義! 石火煉空迅拳!」
空気を切り裂きながらの超高速の突き。『拳が直接当たる前に衝撃波が相手に当たる拳』。
その衝撃が千歳を襲う。
「(――決まった!)」
「……あめぇな、理科子」
両腕を身体の前に円状に回した千歳。驚くべきことに、その円状の動きに衝撃波がかき消された。
「(けど、この技は二段構え……こっちが本命の拳!)」
直接千歳を殴りに行く。
その瞬間、理科子は確かに見た。
超高速の闘いの中だったが、確かに見えた。
千歳が、ふっと優しげに笑みを浮かべたのだ。


418 :ワイヤード 第十三話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/28(火) 15:40:52 ID:gifGW32h
――お前の拳は優しすぎる。
そう言っているかのように、優しく相手を見守る目。
理科子は、一瞬その目に目を奪われていた。
「蒼天院清水拳奥義……。金剛柳湖陣」
はっとした頃にはもう遅かった。千歳の奥義は既に理科子を捉えていた。
理科子の渾身の攻撃は千歳の手のひらに止められ、完全に衝撃を吸収されていた。
「(まずい……!)」
「破っ!」
吸収し、倍化し、逆流させる。それが蒼天院清水拳。
静かなる水の力。水面に撃った銃弾がひしゃげるように、水はときに相手の衝撃を全て跳ね返すダイヤモンドとなる。
理科子の拳の力が全て理科子自身に跳ね返り、理科子の身体を道場の端の壁にまで吹き飛ばした。
「うあっ!」
どしんと派手に壁に背中を叩きつけられ、理科子はうめいた。
「っつ~……千歳め、本気だすこと無いじゃん」
理科子では千歳に勝てない。それは理科子自身が一番良く分かっていた。
武道家としての実力は大体同じだが、相性が絶望的に悪い。というより、千歳の清水拳は流派自体がほとんど最強なのだ。
攻撃系の型の拳法でそもそも勝てる相手じゃない。
「ま、こんなもんか。今日はこれで終了ってことで」
千歳が背を向けた。
理科子が呼び止める。
「ま、待ってよ千歳! あたしはまだ……」
「無理だな。ゆっくり風呂入ってマッサージやらストレッチをしろ。でないと明日たぶん立ち上がれなくなる」
「……わかったよ」
もともと常人では耐えることのできない威力である炎雷拳のダメージをその身に受けたのだ。
いかにタフさのある理科子でも、これ以上の無茶はできない。
この勝負は千歳の勝利だった。



419 :ワイヤード 第十三話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/28(火) 15:41:22 ID:gifGW32h
「んじゃ、これお礼のアンパン」
「まいどあり。じゃあ、身体に気を付けろよー」
「言われなくても!」
つんとした態度で、理科子が扉を閉めた。何をそんなに怒っているのか。千歳には分からなかった。
門下生達もぞろぞろと各々の家への道を歩き始める。千歳とイロリもそれに交じって帰路を進む。
「じゃあちとせおにーちゃん、イロリおねーちゃん、ばいばいきーん!」
無意味にハイテンションなここあと大げさに手を振って別れたときには、イロリと千歳の二人きりだった。
「ねぇ、ちーちゃん」
「ん?」
「りっちゃんとずっと修業してたの?」
「まあ、そうだな。最近はサボってるけど。あいつメール癖悪いんだよ。やたらとメールしてくるから、定期的にいってやらないとキレて大変なことになる」
「そうなんだ……ねえ、りっちゃんって、ちーちゃんのこと好きなのかな?」
「はぁ? 何年も一緒の道場だが、そんな素振りは見せたことが無い! 断じてないな!」
「そうかなぁ……?」
「そうだっての」
千歳はむすっとして早足になり、理科子からもらったアンパンの袋を指の上でくるくると回す。
「そういえば、ちーちゃんって、昔からアンパン好きだったね」
「ああ、そうだな。母さんの好物だったからかもな。それに、理科子のつくるアンパン、美味いんだよ」
「そうだ! ちーちゃんのご両親に挨拶まだだったね、おじさまとおばさま、元気にしてる……?」
「……」
千歳は答えない。



420 :ワイヤード 第十三話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/28(火) 15:41:52 ID:gifGW32h
「もしかして……」
「死んだよ。母さんはな」
「! ……ごめん、なさい」
「あっ、いや、気にすんな! 悪かったよ。ちょっとシリアスすぎた。お前が悪いことなんてないから!」
「……ちーちゃん、優しすぎだよ」
「そうでもないっての」
「……おじさまは?」
「……元気だ。と、思う」
「思う?」
「……。単身赴任ってやつ」
「そう、なんだ……」
たぶん、もっと違う。何かがあった。
イロリは敏感にそれを感じ取ったが、聞くことはできない。
千歳が傷付いてしまうかと思った。
たぶん、聞けば千歳は答えてくれるだろう。しかし、それに甘えてしまっては、いけないとイロリは思った。
――愛してるから、近づけない。
イロリは千歳を何よりも大切にしている。だからこそ、知らないままがいいことを知った。
「(でも、そんなの悲しいな……)」
――でも、いつか。
「いつか、さ」
千歳が小さく呟いた。聞き取れるか聞き取れないかの瀬戸際の声。
たぶん、聞こえるようには言っていない。独り言。
しかし、イロリには聞こえた。
千歳の声がなによりも大切な、今のイロリには、はっきりと聞こえたのだ。
「いつか、お前とも親父とも、百歌とも……××とも、一緒に笑って過ごせる日が来るかもな。楽しかった、あの頃みたいに」
一部は、千歳がわざと濁していったようで、全く言葉になっていなかった。
しかし、意味はイロリにもわかった。



421 :ワイヤード 第十三話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/28(火) 15:42:23 ID:gifGW32h
――何かが、あった。
千歳の未来を奪ってしまうなにか。イロリがいなくなってから、確実に何かが変わった。
ナギの言うとおりだ。
変わらないものなんてない。
変わってしまうのが自然で。
今の千歳だって、イロリの好きだった、あの頃の記憶の千歳とは違う。別の存在なんだって。
「(でも……)」
しかし、イロリは諦めることをしないと誓った。
前に進む。それしかできない。
「でも、私は、ちーちゃんのこと好きだから」
「……お前」
「きっと、また幸せになれる。そんな未来が来るから。だから、三つ目の約束、しよう」
イロリは手を差し出し、小指を上げた。
千歳は黙って自らの小指を絡める。
「三つ目の約束。『私は、何があってもちーちゃんを好きでいる。裏切らない。一緒に、幸せな未来を目指す』」
「……その約束、俺の役割がないぞ」
「ちーちゃんの約束は、ちーちゃんが決めて」
真っ直ぐな瞳で千歳を見るイロリ。
それを見ていると、千歳にもまた、過去を打ち破る活力が出てくるかもしれないと感じられた。
そう感じさせる。やはり、イロリというやつは不思議だ。
昔から、そうだった。



422 :ワイヤード 第十三話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/28(火) 15:42:54 ID:gifGW32h
「そうだな。俺の約束は……すまん、思いつかない」
「な、なにそれー! 台無しだよー!」
「いや、こういうとき格好いい演説ができたら俺も良い男なんだろうがな……なかなか難しいもんだ」
「ちーちゃんは既にスペース級の良い男だけど、そりゃないよー!」
「わかったわかった。じゃあ今の約束は、『絶対に次の約束を交わす。それまでお前との縁を切らない』だ」
「えー……ずるいよぅ」
「悪いとは思ってるけど、お前みたいに頭の回転は速くないんだ」
「ちーちゃんに褒められた……。うれしい! ……じゃなくて! ……でも、これは逆に言えばチャンス?」
「どうしてだ?」
「次の約束が『無ければ』、つまり私達の縁は一生続くんだよね」
「ああ、まあ、条件はそんな感じだな」
「縁があるなら、私の努力でちーちゃんに愛されるようになるチャンスがいっぱいある!」
「……そうだな」
千歳が苦笑する。イロリは何か言いたげにしていたが、このとき二人の帰路の分岐点に立った。
「じゃあ、今日は付き合ってくれてありがとな、イロリ」
「そんな、付き合うだなんて……ぽっ」
「馬鹿! ……ま、怪我しないように気をつけてさっさと帰れよな」
「うん。ちーちゃんも気をつけてね。明日、学校でまたね!」
「ああ、また明日」
イロリは手を振ってから背を向け、とてとてと家に走っていった。
「また急いで……こけんなよ」
背中を見送りながら、千歳はふと昔イロリに抱いていた心配事を今更思い出した。
さて、千歳は家に向かって歩く。
ふと、途中にあった公園を見た。
意識的にではない。適当に視線を移していたらたまたまうつっただけだ。
「なんだあれ……?」
人のような、ゴミのような何かが倒れていた。



423 :ワイヤード 第十三話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/28(火) 15:44:06 ID:gifGW32h
案の定人間だった。気絶しているだけのようで、命に別状は無い。
ベンチに寝かせて介抱しているが、この浮浪者(仮)は、わりといい服を来た外国人だった。
十字架をあしらったそのマントなどからして、聖職者なのだろうか。千歳はその辺り、よく知らない。
寝顔を観察する。
金髪に白い肌。整った顔の美少女だった。年齢は同じくらいに見える。
「ん……?」
と、金髪の少女は目を覚ました。
「起きたか」
「あなたは……?」
「通りすがりの人。あんたが倒れてたから介抱してた」
「そうか。かたじけない」
難しい日本語も普通に放している。発音も完璧だ。日本に長くいるのだろうか。
「どうして倒れてたんだ……? 病院に連れて行ったほうが良いか?」
「いや、かまわない。腹が減っていただけだ」
「そりゃまたどうして」
「無一文だからだ」
えっへんと、少女は腕を組み、胸を張った。
そんな誇らしげに言うことじゃないだろうと、千歳は内心あきれる。



424 :ワイヤード 第十三話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/28(火) 15:44:37 ID:gifGW32h
ぐきゅるるるるるるるるる。
凄まじい音に、千歳の思考は吹っ飛んだ。
「なっ……?」
見ると、少女が目を輝かせてアンパンの袋を凝視していた。
指をくわえて、ヨダレを垂らしている。ばっちい。
おそらく、腹の虫も、金髪の少女のものだ。相当腹が減っていたのだろう。
「……」
突如アンパンの袋を上に上げる。ささっと追随して、少女もアンパンを見た。
さらに右に移動させる。つられてアンパンを見る少女。
「……欲しいのか?」
こくっこくっ。少女はさらに目を輝かせながら頷いた。
「やらねーぞ。飯ならいくらでも奢ってやるが、これは俺の大好物で……」
きらきらと輝く眼は、そんな言葉もまったく跳ね返してアンパンを見る。
ただひたすらに、輝く純粋な瞳がアンパンを向いていた。
「……ちくしょー」



425 :ワイヤード 第十三話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/28(火) 15:45:07 ID:gifGW32h
「♪」
もふもふとアンパンをかじる少女。ベンチに座って脚をぶらぶらさせて上機嫌だ。
結局、アンパンをあげてしまった。特大サイズの理科子特別製『リカコスペシャル』だというのに。
千歳はそれがたまらなく好きで好きでしかたがないというのに。
月数回の楽しみだというのに。
涙をのんで、隣の少女を恨めしく見つめる。
「うん、うまいぞ! こんなもの初めて食った!」
「ああ当たり前だよ。アンパンはうまいんだよ! 人間なら誰だって知ってる!」
「そうか……ならば私はここで初めて人間になれたというのか……!」
少女は素直に驚愕した。
ずいぶんと単純……失礼、天然ボケのようだ。
「あなたはいい人だ。私はこの国でクラゲのようにくだらない人間ばかりを見てきたが、あなたは違う!」
金髪の少女は屈託のない笑顔を千歳に向けた。
「ありがとう!」
――ああ。
千歳は思考を百八十度転換した。
――この言葉が聞けただけでも、アンパンの価値はあったかもな。
だれかに感謝されるというのは気持ちのいいものだ。それは誰だって知ってる。
千歳もそれが好きだ。だから、この言葉さえあれば、大抵のものは失ってかまわない。
「じゃあ、もう行くぞ。さっさと食うあてを探すんだな」
もう満足だと、千歳は立ち去ろうとする。
「アリエスだ」
「え……」
「私の名だ。この街にいるのだから、縁もおそらくあるだろう。私はアリエス。あなたは?」
「俺は……千歳。鷹野千歳」
「千歳殿、か。いい名だ。また会えることを祈ろう」



426 :ワイヤード 第十三話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/28(火) 15:45:38 ID:gifGW32h
「(今日もいろいろあったが、まあいい一日だったかもな)」
人助けもけっこうできたし、イロリとまた仲良くなれた。イロリと理科子を再会させることもできた。
「(このまま、みんなで幸せになれればいいんだけどな)」
イロリも、家族も、委員長も、彦馬も……そして、ナギも。あのアリエスという少女を加えてもいい。
千歳の目の届かないところでもいい。あかの他人でもいい。
幸せになって欲しかった。
笑っていて欲しかった。
生きていることに感謝して欲しかった。
隣にある幸せに、気付いて欲しかった。
「……あの人も」
京都にいるであろう、『あの人』を思い出す。

♪~愛が愛を 重すぎるって理解を拒み 憎しみに 変わってく前に~♪

携帯が鳴った。
「ん、理科子か?」
家族と理科子と彦馬以外、アドレスは知らないはず。
ナギはメールそのものを使用しないため、知っていても使わない。
「差出人……!?」
――『鷹野 万里(たかの まり)』。
「そんな……万里……姉……」



427 :ワイヤード 第十三話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/28(火) 15:46:08 ID:gifGW32h
一体なんの用だ。
あけるのが怖かった。
しかし、見なければならない。
イロリに、自分の過去と向き合う勇気をもらった。
だから、逃げてはいけない。
よし、あけよう。決心した。
「……ん?」
そのとき、千歳は画面に何か光るものを見つけた。
「(何だ……これは、画面の中のもんじゃない……画面の表面に反射して……)」
――矢!?
「うぉ!!」
とっさに身体を最大限ひねった。さっきまで千歳の頭部があった場所を拘束の『矢』が通過し、そのまま携帯電話に当たる。
矢が携帯を貫通し、それごと地面に突き刺さる。アスファルトに突き刺さるほどの、スピードと威力。そして精度。
「(なんだ、一体これは……ボウガンか!?)」
この際、何が起こっているのだとか、命を狙われているのかとか、誰が狙ってきているかとかは関係ない。
自分の身を守ることを最優先に。今は防御に専念すると決めた。



428 :ワイヤード 第十三話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/10/28(火) 15:48:16 ID:gifGW32h
「……やるね」
メア・N・アーデルハイドは、目標の予想外の反応速度に感嘆した。
「ボクの第一射をかわすなんて」
手にもっているのは、大型の弓。西洋で使われていた大型の物。
メアが持っていた『骨董品』であるが、その力は『オーバーテクノロジー』。失われた技術の結晶。
名を『アルバレスト』。石でできた、メアのような中学生の少女には到底扱えない代物である。
しかし、メアはこれを軽々と使用していた。信じ難い筋力だった。
なぜボウガンではなくわざわざこんなにとりまわしの悪い弓を使うのか。その答えは簡単だ。
「目標まで3キロメートル。……狙い打つ」
アルバレストの射程は通常の弓やボウガン、いや、拳銃などとは訳が違う。
使う人間にもよるが、最大射程は5キロメートルあり、現在のメアの力でも3キロまでは米粒に命中させるほどの精度をだせた。
さらに、メアはスコープなど使っていない。
目視である。
その視力と腕力と集中力は、もはや通常の人間のそれを遥かに上回っていた。
「……覚悟しろ、鷹野千歳」
人知れず目覚めた狩人は、今まさに、猛獣達の王に挑もうとしていたのだった。
――百歌のために……ボクは、お前を倒す。

そして戦いは始まった。