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520 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:23:01 ID:Z1lt/1ae
『二人なら』

嘘ばかりついているから、みんなに見放されたんです。
どうしても正直ではない私は、生まれてから一度も本当のことを言ったことがありませんでした。
だから、誰もが離れていく。
私が誰も信じていなかったから。信じられていないみんなは私を信じない。
分かっていました。でも、分かっていてもどうしようもないことでした。
正直な気持ちは私の中にしかなくて。口に出してしまえば幾つかの意味はもう失った、ただの言葉になってしまうのです。
本当のことをいえないと分かっているから、本当のことを言おうともしない。
誠意が無い。
こうして、私は少しずつ孤立していき。
今は、もう一人だけのただの孤独な動物でした。
物語をする存在『人間』とは、もはやとてもいえない、ただの有機物。
それが今の私でした。
「またあの子ボーっとしてる……気持ち悪い」
「放課後なのにね。いっつも最終下校までああして座ってるのよ」
「……ほら、見てよ。やっぱりまばたきしてない……。やばいんじゃないの?」
「クスリとか、やってるのかもねー」
「やだ、最近大学とかでも流行ってるらしいから、ウチらの高校も……?」
「ありえるー」
クラスのみんなは、いつもこうして私を不審者のように扱います。
ただ、こうして座っているだけ。
なにもかもがおっくうで、誰かと関わることも、誰かを観察することも。ただ面倒で。
こうして流れ込んでくる言葉の意味も、本当には分からなくて。
ただ、私は見放されたんだと、そんな自覚だけが心の中に残って。
「あ、チャイム鳴っちゃった。帰らなきゃ」
「あたしもー」
「そうだ、スイーツ食べに行こうよ!」
「マジ、おごりー?」
「んなわけあるかって」
「あたっ」



521 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:23:34 ID:Z1lt/1ae
二人はチャイムを聞くとすぐさまカバンを持ち、教室を出ました。仲がよさそうで、何よりです。
私は立ち上がることすらもう面倒で、そのまま座っていました。
このまま、この場所で石になってしまえば良いのに。そうすれば、何も変わらないまま。
『過去』になれる。本当になれる。本物になれる。
でも、それは許してはくれない。
たぶん、あの人が来ます。
「はいどうも、風紀委員ですよー。この時間になっても残っているお馬鹿さんはここですかー?」
がらりと勢いよく扉を開けて入ってきた人。
井上先輩。二年生の、風紀委員。
黒のショートヘアに眼鏡の、一見真面目そうな女性。
実際、生活態度も真面目そのもので、統率力やリーダーシップ、能力が高くて、学校でも優等生。
でも、私は知っている。この人は、私と同じだって。
嘘ばかりついている。
「やっぱり、希望(のぞみ)さんですか。いつもお勤めご苦労様です」
特徴的なくすくす笑いとともに、井上先輩は私に歩みより、肩にぽんと手を置いた。
「でも、このままここにいたら、石になっちゃいますよ。帰りましょう」
優しい手。でも、とても冷たかった。
服の上からでも分かる。とっても、冷たかった。
たぶんそれは、心が冷たいから。
「どうして……?」
「なにがです?」
「どうして、私にこんなにかまってくれるんですか?」
隣に並んで歩く井上先輩に、私は以前からの疑問をついに投げかけた。



522 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:24:05 ID:Z1lt/1ae
「かまってるって、そんなに執着しているように見えますか、私は」
井上先輩は、小ばかにしたような笑みを浮かべる。
実際は、穏やかな笑みだった。けど、私にはその心の中にある邪悪が見えるようでした。
「なら言いますけど、私はあなたのことなんて虫けら程度にも気にかけていません。ただ、たまたま帰る方向が同じで、帰る時間が同じだという、ただそれだけです」
「……そう、ですか」
「怒らないんですね。女の子なのに。女性はえてして感情的です。ここは怒る所ですよ、希望さん。そうすれば楽になれます」
「楽……?」
「いつか、分かりますよ。楽に生きるということがどういうことか」
井上先輩は、気分がよさそうにカバンをぶんぶんと振って歩きます。
その姿が、私にはどうしようもなく輝いて見えました。邪悪なのに、なぜか美しく見えたのです。
「私は、あなたの生き方でも悪くないとは思いますけどね」
「え……」
井上先輩が急に放った『好意的な言葉』に、私は一瞬反応できませんでした。
「私は、食虫植物が好きなんですよね。だから、『花』みたいに生きることを目標にしていますし、たぶん成功しています。あなたは、たぶん『石』ですかね」
「石……」
「花も石も、あんまり動かないところは似てますよね。でも、石のほうが、たぶん楽に生きる可能性があります」
――だって、もともと生きてないんだから。
生きていることも、死んでいることも同じでしょう? くすくすと、井上先輩は笑った。
よく見ると、その顔は整っていて、美しいといっても過言ではありません。
いえ、美しいと呼ばなければ、たぶん間違いになるでしょう。
私は、やっぱり井上先輩は嫌いです。
私と同じなのに、違う。決定的な何かが違う。



523 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:24:35 ID:Z1lt/1ae
「ただいま……」
家に帰ると、いつもよりにぎやかな声が聞こえてきました。
「お父さん。帰ってるの……?」
「希望。おかえり。さあこっちへ来なさい」
お父さんに連れられて、客間へ向かいます。
この時点で、これ以降がどういう展開になるか、大体予測はついていました。
「よぉ希望ちゃん、久しぶりやなぁ。美人になったやないか!」
「ほほぉ、これはこれは。とんだ上玉ですね」
二人の男。一人はガラの悪い関西人。もう一人は、キャリア風の男。
どちらも、たぶんお父さんの仕事相手か『オトモダチ』。
関西人の方は、以前も会ったことがある。目的は明白。もう一人も、たぶん同じでしょう。
「悪いね、希望。いつも父さんのために……」
お父さんは申し訳なさそうに私に言った。嘘つき。
私の事情になんて蓋をして、この人は被害者ぶって私に自らのエゴの反動を押し付けてくるだけなのです。
でも、もうこれは帰られない現実です。
だから、受け入れてしまうことしかできませんでした。
「じゃあ、ごゆっくりお楽しみください」
お父さんが客間に鍵をかけ、私と男二人が取り残されました。
制服が汚れるからいやなのですが。まあ、これも『仕方の無いこと』なのかもしれません。
「ほらさっさとその制服、ぬぎぃや」
「はは、まあまあ。もう少し楽しみましょうよ、西野さん」
「東郷はんがいうんやったら……」
東郷というエリートサラリーマン風の男は、にやにやといやらしい目で私を見る。
上から下まで、舐めまわすように。
汚らわしいです。えさを目の前にした、豚のよう。
まるで、社会そのものの家畜。
世界の歪み。



524 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:25:10 ID:Z1lt/1ae
「そうですね、まずは、スカートを自分の手であげてください」
「……」
無言で従う。両手で、のろのろとスカートをあげ、下着を男に晒しました。寒い。
「ピンクですか。可愛らしいものを。これも、お父さんに頼まれたんですか?」
「……」
「そう言えば、始めましてでしたね。私は東郷、お父さんと、そこの西野さんのお得意さまみたいなものです」
東郷は、礼儀正しく挨拶をしたかと思えば、また下衆な顔にもどって私に近づく。
スカートの中身をまじまじと観察して、顔を近づける。
域が当たってくすぐったい。
「君のお父さんはひどい人ですね。仕事を取るために、可愛い娘さんを売春婦にするだなんて……。もともとあの取り引きはお受けするつもりだったのに、これはとんだ儲けものです」
べろりと、私の太股を舐める。不快感が前進を走り、びくりと震えた。
「敏感なんですね。本当に、上物ですよ」
勘違いをしているようです。
あなたのような人に性感なんて抱いたことはないんですよ。
例えば、今後ろでマヌケ面をして見ている西野。
この男は幾度となく私を汚しつづけましたが、この男の独り善がりなセックスは、もうセックスではありませんでした。
ただの自慰行為。
私の身体を玩具にしているだけ。
この東郷も、たぶん同じ人種でしょう。自分に正直すぎるから、他人のことなんてまるで見えていない。
こういう極端な生き方をする点は、私と同じなのかもしれません。
「さて、下着をおろしてください。ゆっくりと、じらすように……。私にこびながら、ね……」
「……」
ためらいはない。
下着に手をかけ、指示どおりにおろしていく。女の大切な部分があらわになってゆく。
もっとも、私にとってはもうただの穴に過ぎませんでしたが。
さて、今日の夜も長くなってしまいそうです。何時間くらいで飽きてくれるでしょうか。
二人相手だと、しばらくは終わりそうにありません。
獣のように私の身体をむさぼる男達のことなど既に脳内から消去されていて、私はただ今夜の深夜にあるマイナー映画を見られるかが気がかりなだけでした。



525 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:25:40 ID:Z1lt/1ae
次の日も、同じです。
睡眠時間が三時間にも満たない私は、授業中も殆ど目を開けたまま寝ていました。
休み時間も、同じ。
寝ていることも、起きていることも、私にはほとんど同じ状態になっていました。
それはたぶん、生きていることと死んでいるということが同じだと、そういう私の現状と同じなのだと思います。
しかし、その日は違いました。
「ねぇ、なんてあんた目を開けたまま寝てるの?」
「――ぇ?」
「あれ、寝てたんじゃないのか。いや失敬。あたしはてっきり目をあけたまま寝ているのかと」
「いえ、寝ていました……」
何故、わかったのですか?
「なんとなく。だってさ、起きてるといろいろ考えちゃって、あんたみたいには静止できないよ。だから、寝てるんだって思った」
「それは……そうですね」
「あ、あたし、同じクラスだけど一応自己紹介しとくね。涼子(りょうこ)。涼ちゃんって呼んでいいよ」
「涼……さん?」
「ちょっと違うんだけどなぁ。まあ、いっか。じゃあ、こんどはあんたの番。クラス同じだから知ってるけど」
「私は、希望(のぞみ)といいます」
「ニックネームをつけるのが難しそうな名前だね」
あはは、と、涼さんは笑った。もしかしたら、生まれて初めてみたのかもしれません。こんな笑顔を。
純粋で、なんの邪悪も無い。
本当に、綺麗な笑顔。
「あの、涼さん」
「ん、なに?」
「私に話し掛けたりして、いいんですか? 見られていますよ……。もしかしたら、あなたも……」
「あんたと同じになるってか?」
先読みされてしまいました。あたりまえでしょうか。
こういうときのいじめられっこのセリフは、大抵同じです。
手を差し伸べて欲しいのに、強がって。誰かの優しさに甘えて。
そんなに弱いから、味方がいないんだって、分からなくて。



526 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:26:10 ID:Z1lt/1ae
「ないない! んなわけないって!」
「え……」
涼さんは元気良く私の机の上に座ると、私の顔の前に顔を持ってきました。近いです。
目と目が合う。
一瞬、どきんと心臓が跳ねました。
「ねぇ、希望。あんた、いじめ、止めて欲しい?」
「……私は、いじめられてなんか」
「いないって? 嘘だね。私は知ってる。あんたの体操服ずたずたにされたり、あんたの下駄箱にゴミが入ってたり、お弁当捨てられたり……。全部、知ってんだから」
「……私は」
「ま、ただじゃないんだけどね。先に言わないと詐欺だから言うけど」
「え……」
「あたしの『おもちゃ』になりなさいよ。そうすれば、いじめ、止めてあげるわ。あたし犯人知ってるから、そいつらシメちゃえばいいんでしょ?」
「でも、そんなこと……」
女の子には、無理です。
私の敵は、結構多いんです。
「だいじょーぶだいじょーぶ。あたしはこう見えて、『オトモダチ』がいっぱいいるんだ。こわーい、『オトモダチ』がね」
「……」
「で、あんたは、この状況で立ち止まるか。それとも前に進むか、どっち?」
もう、答えは決まっていました。
いえ、この人に会ったときから、すでに全ては私のなかで決まったのかもしれません。
私は、涼さんのその綺麗な笑顔に、心奪われていたのです。
だから、迷わず首を縦に振りました。
「じゃ、今日からあんたはあたしの『おもちゃ』。あたしはあんたの『御主人様』。わかった?」
「……はい」



527 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:26:41 ID:Z1lt/1ae
そうして、その日は放課後、すぐに涼さんに誘われて一緒に帰ることになりました。
「ねぇ、あたしの家、こない?」
「え……」
「いいじゃん。あたし、一人暮らしなんだよね。だから家族はいない。誰にも迷惑かかんないし」
「あ、はい。わかりました」
「えらいえらい」
涼さんは私の頭を優しく撫でました。
気に入った玩具を磨く子供のその手に似ていて、私は心地よくて。
顔を真っ赤にしてしまって、涼さんに笑われました。
「ほら、そんな緊張しない」
「はい……」
フローリングに正座してしまった私をソファに導き、涼さんも隣に座りました。
「お菓子とか、好き?」
「あの……それって、スイーツっていうやつ、ですか?」
「へっ……?」
ぽかんと、涼さんは目を丸くしました。
「あの、私、なにかおかしなことを?」
「あはっあははは! 希望おもしろい! あんたの口から、『スイ―ツ』って! こりゃ傑作すぎる!」
「え、そんなに変なことを……?」
「いやぁ、あんたも女の子なんだなって。機械みたいな奴だから興味沸いたんだけど、こんな可愛いやつなんて! ……こりゃ、とんだ拾い物だね」
「そ、そんな……」
――可愛い。
先日、あの男達に散々言われたことでした。
でも、それはただの言葉。なんの意味ももっていないと、そう思っていました。
なのに、涼さんの口から出たその言葉は。
「可愛いよ、希望。あたし、ずっとあんたのこと見てたんだからね」



528 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:27:11 ID:Z1lt/1ae
――可愛い。
その言葉が、意味のあるように思えて。
「ロボットみたいに動かなくて。可愛いのにいじめられてて。なんだか、ほっとけなくてさ」
「涼、さん……?」
涼さんは、持ってきたお菓子をひとつ口にくわえます。
チョコレート。たぶん、手作りのトリュフでしょう。とてもとても、甘そうで、綺麗なんビーダマみたいに光っていました。
「涼さん……あっ」
涼さんは突然私の身体を掴んでソファに押し倒すと、私に覆い被さって唇を重ねました。
強引に、チョコレートを私の口の中にねじ込んできます。
「ん……んぅ」
焦って呼吸困難になる私を、冷静にくみふせたまま、舌で攻め立てる涼さん。
私の口の中にねじ込んだチョコレートを舐めとり、私のしたと絡ませあいます。
食べ物が口の中に入ったことで自然に沸いて出た私の唾液を強欲に吸い取り、ずるずると音を立ててむさぼります。
ああ……。その甘美な感触は、すぐに私の脳を沸騰させて機能停止させました。
「んぁ……ん……」
目を閉じ、舌の感触に集中し、正直な気持ちに身をゆだねました。
涼さんの舌にこちらからも絡ませ、涼さんの口の中にも、私達の舌の温度で溶けたチョコを流し込みます。
甘い、甘い。キス。
唇の間から、チョコの混ざった唾液が流れ出て、下にいる私の制服を汚します。
「はぁ……んっ……」
吐息が漏れる。
涼さんは興奮した様子で私をさらに攻め立てます。
私の、チョコで甘くなった舌を一気に涼さんは自身の口の中に吸い上げます。
むさぼるように、互いに顔を近づけ、唾液で口の周りがぐちゃぐちゃになっても気にしないで、長い長いキスは続きました。



529 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:27:41 ID:Z1lt/1ae
「……ぷはぁ……。どう、希望。スイ―ツの味」
「……涼さん」
「ん」
「キスって、こんなにも甘いんですね」
「あたしも、今初めて知ったよ」
「そうですか……うふっ」
「あ、あんた、初めて笑ったね」
「そうですか?」
「そうだよ」
「そうかもしれませんね」
「……やっぱ、可愛いんじゃん」
涼さんは、私の上に重なったまま、私の服を脱がし始めました。
昨日の男達と、同じ。
でも違う。
独り善がりじゃない。
「……希望、いい?」
「何を言っているんですか。私は涼さんのおもちゃですよ?」
「そうだったね……。可愛いよ、希望……」



530 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:28:12 ID:Z1lt/1ae
それからは、まるで夢のような日々が続きました。
私のいじめはなくなり、私は放課後になるといつも涼さんの家でえっちをしました。
とっても気持ちよくて、いままで男達にされていたものはただの自慰行為の手伝いのようなものだと、本当に実感しました。
それでも、私は何度も男達に犯されました。
時には、お父さんにさえも。
処女だって、お父さんに奪われた覚えがあります。
でも、私は抵抗しませんでした。だって、そんなもの私の生活の中では通過点に過ぎなかったからです。
涼さんと一緒にいれば、そんなもの乗り越えることができました。
しかし、そんな夢はたぶん、ただの幻想で。
永遠では、ないのです。
「ねぇ、涼ちゃんって、二年の北林と付き合ってるんだって」
「え、知らなかったの? 有名だよー。涼ちゃんに逆らったら、北林にぶっ殺されるって」
「やっぱり……だから最近涼ちゃんが気に入ってる、あの子。いじめられてないんだ」
「まあ、いい傾向じゃん。あいつ変な奴だからあたしはそんな好きじゃないけど、いじめって言うのはね。短絡的っていうか」
「そうだけど、やっぱり……」
「気にし過ぎだってば。あいつらの問題。あたしらはいつも通りでいいの」
「うん」
そんな会話を耳にしてしまいました。
……恐怖が、私を支配しました。
――付き合っている?
涼さんに、彼氏?
そんな……。
「その話、くわしく聞かせてください」
私は思わず二人に声をかけていました。
あまり性格がよくは無いし、私を好いてくれているわけではありませんが、他の人よりよっぽど正直で、信用できたからです。
案の定、私の剣幕に押されて、詳しい説明を聞くことができました。



531 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:28:42 ID:Z1lt/1ae
二年の北林。
悪名高い不良。ごつくて、人相が悪く、見た目は最低最悪。
しかし、その腕っ節で逆らう人間はいません。
こんな類人猿のような男と、あの涼さんが、付き合っている?
ありえない。
涼さんは、天使のように綺麗な人です。
それが、あのゴリラと?
話を聞いてから、私は何度か北林を遠くから観察しましたが、酷いものでした。
威張りちらし、教師すら見下し、本当に、根元から腐った男だと、一目でわかりました。
弱点も、同時にわかってきました。
二年の鷹野先輩を見ると、急に威張った動作を少し緩和する傾向にあります。
鷹野先輩のことは良く知りませんが、たぶん正義感のある人間なんだろうなと思います。
北林が必要以上に威張り散らすのをみると、鋭い眼光を浴びせ掛け、止めさせるのです。
しかし、この弱点を知っても特に使い道はないだろうと思います。私は鷹野先輩と知りあいではないのです。
――弱点?
なぜ、私は弱点なんて調べていたのでしょうか。
わたしは、涼さんのおもちゃであって、親兄弟、ましてや、恋人でもないのです。
涼さんの彼氏――愛した人――を、なぜ私が審査しているのでしょうか?
それどころか――私は北林を倒そうとしていた気がします。
なぜ、そんなことを。
分からない。
分からないんです。
私は、私自身のことすらわからないんです。



532 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:29:13 ID:Z1lt/1ae
「涼さん……涼さんっ! 気持ち良いですぅ!」
「あたしも……一緒に、一緒にイこうっ、希望!」
イくのはいつも同時です。そんな些細なことさえ今の私にはうれしいことでした。
「はぁ……希望ぃ、よかったよ……」
「はい、涼さんも……」
ベッドの上で、手と手を重ねあう。
「ずっと、二人でこうしていられればいいのにね……」
「……はい」
ずきん。心に皹が入る。
涼さんは、私のことはおもちゃとしか思っていない。
気に入った玩具で、一生遊べると勘違いしている子供と同じ気持ちなんだ。
それは、人間に対する愛の形じゃない。いつかは、飽きてしまう。終わってしまう。
涼さんが本当に愛しているのは、あの北林。
私は、それに口出しすることは許されません。
なぜなら、私はおもちゃだから。快楽を与える道具だから。
おもちゃは、持ち主を傷つけた瞬間にはただの不良品。
スクラップで、ジャンク。
私は、そこで立ち止まってしまう。
でも、それが正しいと、分かっているんです。
涼さんを愛してしまったから、傷つけたくないんです。
「では、今日は失礼します」
「うん、じゃあね。また、明日」
「はい」
ぺこりと頭を下げ、涼さんの家をでる。
ふりをして、さっき涼さんがシャワーを浴びている好きにあけておいたトイレの小窓から再進入する。
どうしても、黙ってはいられませんでした。
これが現実だと、認めることができませんでした。
だから、確かめようと思いました。


533 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:29:43 ID:Z1lt/1ae
トイレから物置に移動し、中に入ってじっと待つ。
北林を調べていたとき、偶然、今日涼さんの家に来るという情報を手に入れました。
それが本当なら、あと少しで来るはずです。
……インターホンが鳴りました。
すきまから、少し覗くと、涼さんの顔が見えました。
何故か、悲しそうな顔をしていました。
私には笑顔ばかり見せていた、あの明るい涼さんが、こんな悲しそうに。
何故?
「おう、涼子。来てやったぞ」
北林は偉そうに上着を脱ぎ、涼さんに渡しました。
「うん……シャワー、浴びてきて」
「面倒くさい。今すぐ脱げ」
「え……でも」
「いいから早くしろ!」
北林は涼さんの服に手をかけ、一気にびりっと破ってしまいました。
乱暴に涼さんをベッドに放り投げ、上から覆い被さります。
ベッドは私の角度からは良く見えません。声を聞くしかないみたいです。
「お前、もう濡れてんじゃねえか」
「これは……」
そう、私とさっきまでしていたからです。
「淫乱女が。俺が来るからって、オナニーでもしてたか?」
「ちが……んっ!?」
「はぁ……はぁ……もう我慢できねぇ、ほら、脚開け」
「んっ、やだ、そんな乱暴に……きゃ!」
「ははっ、てめぇなに抵抗してんだ。俺のおかげでいじめられなくなって、俺のおかげでお友達のいじめも止まったんだろうが! その分ご奉仕しろよ!」
そんな……。
北林の力で、私は助けられたんだ。
そんな真実に放心する間に、涼さんの声は大きくなってきました。



534 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:30:31 ID:Z1lt/1ae
「いたい……いたいよぅ……」
「ほら、もっと泣けよ!」
「うぐっ……だ、だめ、中は……今日は駄目ぇ!!」
「ほら出すぞ!」
「やだ、やだぁ!」
……もう、いや。
耳を塞いでも聞こえてくる声。
涼さんが、苦しんでる。
これは、私とあの男達の時と同じ。
独りよがりな自慰行為。
もう……。
いつの間にか、涙が流れていました。
いつからだったでしょう。でも、もしかしたら。
生まれたときから、ずっとずっと、泣いていたのかもしれません。



535 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:31:02 ID:Z1lt/1ae
――終わった?
気がつくと、北林は帰っていました。もう、深夜。
物置の中で、ずっとすすり泣いていました。
耳を物置の壁につけてよく聞いてみると、外では涼さんのすすり泣きが響いていました。
「希望……希望……」
――私の名前を、呼んでる?
「うぅ……希望……」
すすり泣きながら、私の名前を呼んでいます。
……ここで私は、出て行きたい衝動に駆られました。
でも、ここで出て行ったら、私はただの不法侵入者。救世主ではないのです。
私はおもちゃ。
決して、恋人じゃない。
……。
――また、ここで立ち止まるんですか?
突然響いてきたのは、井上先輩の声。
でも、私は……。
――そうやって言い訳して、ばつの悪い事情に蓋をして。そうして生きてきたから、あなたは孤独だったんです。
分かってる。分かってるけど、どうしようもないよ……。
「希望……」
――聞こえているんでしょう? あなたを呼ぶ声が。
それでも、私は戦う人間じゃありません。涼さんを守れないんです。
――あなたは、今の自分を守るために逃げているんじゃないんですか?
そうだけど……でも、私は、それ以外できないから。
今の、夢見たいな幸福を逃がしたくないから。
だから、何もできない。
――戦うのは、いつだって自分のため。
……でも。
――人間は、自らのエゴのために生き、そしてそのために戦っています。
……でも、私は。
――それを綺麗な言葉で否定して、誰かのために今の世界を守るんだって、変わっていくことから逃げて。
……私と、涼さんは……。
――自分の引き金くらい、自分で引かないと。
……恋人じゃないのに。
――その『覚悟』があれば、たぶん。
……なのに、なんで……。
――もっとちゃんと、自分の足で前に進めると思うから。
「希望……助けて……」
私は――っ!


536 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:31:32 ID:Z1lt/1ae
「希望……どうして……?」
物置を飛び出して、とうとう涼さんにかけよって抱きしめてしまった。
恋人じゃないのに。人間を気取って。
「涼さん……いえ、涼ちゃん! 私は……私は、涼ちゃんを愛しているから……!」
「希望……」
「だから、その涙を、止めてみせます……!」
「希望……!?」
押し倒し、唇をむさぼる。
あの男の精液を流し込まれたその口の中に舌をねじ込み、あの男の残滓を、掠め取っていく。
「んっ……希望、汚いから、そんなっ……」
「汚いものは、私にこそお似合いなんです」
そう言って、全身を舐めまわす。北林の薄汚い汗や精液を舐めとり、きれいにしていく。
そして、秘所にたどり着いた。
「ん……あ、あぁっ!! だめぇ!!」
涼ちゃんが、感じてる。
北林の時とは違う。もっと大きな快感に身体を震わせている。
「そこは、だめっ、だめ……汚いよぅ……」
「涼ちゃんの身体に、汚いところなんてありません……。それに、あの男の――」
――あの男の残りかすを、全て取り除かないと。
中に放たれた精液を、舌を奥までいれてかきだしていく。
そのたびに快感で涼ちゃんがびくびくと振るえる。可愛いです。
北林はしらない。涼ちゃんがどうすれば感じるか。どうすれば喜んでくれるか。
私は知ってる。私は、涼ちゃんのおもちゃだから。
「あっ、だめ、そこはぁ……! のぞみ、のぞみぃ、そこ、だめぇ!! んあぁあ!!!」
何回目かも分からない絶頂に涼ちゃんは叫ぶ。でも私は、やめない。
綺麗になるまで、バター犬みたいに、機械的に、ずっと、ずっと。



537 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:32:02 ID:Z1lt/1ae
「はぁ……はぁ……希望……なんであんたは……」
「すみません……。私、涼ちゃんに彼氏さんがいることを知って、いてもたってもいられなくて……」
「そっか……」
「余計なことをして、すみませんでした……。あの人が、涼ちゃんの愛した人なんですよね。なのに、私はその間に入ろうとして……」
「愛、ねぇ。そんなもん、あんのかなぁ」
「え……」
「聞いてたんでしょう? あたしと北林、利害一致してんの」
「それって、一体……」
「あたしね、本当はバイじゃなくて、レズなんだ」
「……」
「でも、昔そのことがばれて、気持ち悪いって、執拗にいじめを受けるようになった。そのとき、北林が現れてね、あたしにあるセリフを言ったの」
「もしかして……」
「そう、いじめを止めてやるから、おもちゃになれってね」
「そんな……」
「そういうこと。わかった? ……つかれたから、今日はもう寝よう、ね?」
「はい……」
その夜は、綺麗な月の夜でした。たぶん、もう少しで満月になる。
もう少しで。
そして、私達はいつしか手を繋いだまま眠りに落ちていました。
繋いだ手は、互いに強い力で結ばれていて。
決して放さない。
そんな夢物語も、今なら信じてしまえそうでした。



538 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:32:33 ID:Z1lt/1ae
「……」
起きると、涼ちゃんはもういませんでした。
先に学校に行ったのかと思いますが、学校にはまだ早い時間です。
見ると、机の上に書きおきがありました。
'ちょっと体調悪いから、病院行ってから学校行くね。先に行ってて。また後でね"
しょうがないと、私は制服を着ました。
置き手紙の横には、私に作ってくれた朝食がありました。
おいしい。
不思議です。涙が流れていました。
ただのサンドイッチなのに。
こんなに……。こんなに、心に染み込んでくるなんて。
そうして、私は学校に行きました。
いつ涼ちゃんが来るか、ずっとどきどきしながら待っていても、涼ちゃんは現れませんでした。
「……涼ちゃん」
ぽつんと、呟く。
でも、誰もいない教室に響くだけです。
放課後になっても、結局姿を見せなかったのです。
涼ちゃんと出会う前と、同じ。まばたきもせず、ただ、石のように固まっていました。
と――がらりと扉が開きました。
「お久しぶりですね。シンデレラさん」
井上先輩は、くすくすと花のように笑いました。



539 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:33:03 ID:Z1lt/1ae
「そうですか。あなたは、恋人じゃないから迷っているんですね」
「はい……。私は涼ちゃんの恋人じゃないから」
「で、それに何の問題があるんですか?」
「え……?」
「私は、今とてもとても手に入れたい人がいます」
井上先輩は、とてもきらきらした目をして放し始めました。
まるでそれは、無垢な乙女のように。
似つかわしくない、夢見たいな心で、ふわふわと、楽しそうに。
「その人のことが好きなのかは、私自身にもわかりません。でも――」
「……」
「――私は、後悔しない生き方のために、嘘をついてきたんです。だからこの正直だけは、絶対に逃がしたくないんです。彼を手に入れたいという気持ちだけは、絶対に……」
「井上……先輩……」
「だからっ」
にっこりをこちらを振り返ると、いつもの先輩でした。
「楽に生きるって言うのは、努力を放棄することじゃないんです。欲しい未来のために努力するのも、それは楽に生きてるってこと」
――自分を押さえつけるんじゃ、その嘘は嘘の意味、ないじゃないですか。
くすくすと、井上先輩は笑った。
「……はいっ!」
私は、決心した。
井上先輩のおかげだ。
そういったら、彼女は「なにがです?」と、とぼけていた。
けど、私は知っているんです。井上先輩は、たぶんいろんなことを知っているから。
だから――知らない振りしているんだろうなって。
それが、楽に生きるということ。
悲しい未来にならないために、努力するということ。
強くなるということ。
他人に嘘をついても、自分には嘘をつかない。そんな生き方。
だから――。



541 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:33:34 ID:Z1lt/1ae
「ねぇ、北林先輩」
「あぁ……? なんだよお前、涼子のダチ……うごっ……?」
マヌケな声をあげて、北林はうずくまりました。
「てめぇ……いきなり……ナイフ……」
おなかを押さえていますが、黒い血がどんどん流れ出ています。
放っておけば、もう、死ぬのも時間の問題でしょう。
でも、楽には死なせません。
「まずは、目です……」
「う、あ、まて、待ってくれ……おい……ああ、あぎゃああああああああああああああ!!!」
「うふっ」
何故だか、笑いがこみ上げてきます。
楽しい。
何故でしょう。私は今、返り血を一杯浴びて、不快で。
でも、楽しい。
「うふっ、うふふふ」
楽しい。楽しい。
涼ちゃんに褒めてもらった笑顔を、今浮かべているんだろう。私は。
この笑顔を、涼ちゃんに見せてあげたいくらいです。
「あはっ、あはははははははははははははははは!!!!! 楽しい、楽しいよぉ!!!!!!」



542 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:34:05 ID:Z1lt/1ae
「うふ、ふふふ……」
壊れたオルゴールみたいに笑いながら、私は山に死体を捨てに行きました。
誰かに見られてもかまわない。
返り血を拭かないまま、乱暴に北林を袋に詰めて、お父さんの車を勝手に運転して山に入り、引き摺っていきます。
できるだけ、人に見つかりそうにない場所……。
そう思って探していると、おあつらえ向きに誰も入らなさそうな険しい場所を見つけました。
……ん?
人影。
まずい、隠れないと。
「ねぇ、ちょっと!」
見つかった……! でも、この声は……。
「涼……ちゃん……?」
「うん。こんなとこで会うなんて、奇遇だね」
「はい……。涼ちゃん、その袋は?」
「ああ、これね」
袋をめくると、見知った顔が現れました。
「お父さん……?」
「うん。そうだよ。あと、西野っていうひとと、東郷っていう人は、既に埋めちゃったから」
涼ちゃんは、いつもの純粋向くな笑顔でえへへと笑いました。
「褒めてよ、希望」
「涼ちゃん……」
「ま、いいや。で、それは?」
私の引き摺っている袋を指差す涼ちゃん。
「これは……」
――涼ちゃんの、彼氏。
いえるわけが無かった。彼は涼ちゃんを守るもの。
おもちゃの私がそれを壊してしまった。なら、私は……。



543 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:34:40 ID:Z1lt/1ae
「じゃあ勝手にみるね」
「だ、だめ……」
「ご開帳ー! ……へぇ、北林じゃん。昨日ぶりー」
「え……?」
のんきに涼ちゃんは、北林の死体に挨拶をしました。
「いやぁ、相変わらず、死んでもこいつは仏さんっていうよりゴリラだよね。希望もそう思うでしょ……?」
「希望ちゃん、どうして……?」
「そりゃ、あたしのおもちゃを勝手に使う馬鹿は駆除しないと」
涼ちゃんはちらとお父さんを見て言った。
憎悪のこもった目。
でもお父さんのことなんてどうでもよかった。
「この人、涼ちゃんを守ってたんだよ……?」
「いいよ別に。私は、もっと大切なものを手に入れたんだから」
「もっと、大切なもの……?」
――何、それ?
涼ちゃんの大切なもの?
もしかして、おもちゃの私はもう、次の何かにとってかわられて……。
「それはね、希望だよ」
「え……私……?」
「そんなに意外そうにしないでよ。気付いてるとおもったんだけどなぁ、あたしが希望のこと、本気で愛してるって」
「でも、わたしはおもちゃで……」
「おもちゃだけど、代わりはいないでしょ。希望っていう名前の、ひとつだけのおもちゃ」
――だったらそれ、人として立派に生きてるってことでしょ?
涼ちゃんはそう言って私に微笑んだ。やっぱり、この笑顔はすごいです。
私の、皹の入ったこころを一瞬で潤わせてくれます。



544 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:35:11 ID:Z1lt/1ae
「ねぇ、希望……。あたしね、ずっと前からあんたのこと、見てたよ。前にも言ったでしょ」
「……でも」
「あたしがレズだからとか、あんたが好みだからとかじゃない。あんたのこと知りたくなって、調べてみたら、なんかあんたのことが、何よりいとおしくなって……だから、あたしは」
涼ちゃんは。
「あたしは、嘘ばっかりついてきた。でも、あんたはそんなあたしを許してくれた。だから、希望には、もう少しだけ正直になろうと思って……」
涼ちゃんは。
「だからさ、この殺人の罪は全部あたしが引き受けるからさ。ばれるまで、ちょっとだけ時間を稼いだから……その時間だけは、一緒にいさせて欲しい」
涼ちゃんは、最初から私を救うつもりだったんだ。
私をただの人形から、人間に変えるために。
でも、それは。
涼ちゃん自身が義性になるということ。
「涼ちゃん、私は……」
「三人も殺したあたしと一緒にいたくないのはわかる。でも、今あたしは正直になったから、だからお願い……!」
「私は、涼ちゃんのこと、誰より愛しているんです。これは、本当の気持ちです」
「……!」
「私も、涼ちゃんと同じ。嘘ばかりついていました。でも、涼ちゃんと二人なら……変われる。前に進める。そう、思ったんです」
これは、私の本当の気持ち。
嘘じゃない。
この気持ちは、絶対に嘘じゃないと、確信しているから。
「だから、涼ちゃんだけが罪を背負うんじゃなくて、二人で……。二人で、ずっと一緒に」
「希望……」
歩みより、涼ちゃんの手を取ります。
小さくて、柔らかくて、暖かい手。
本当のぬくもり。
これは、嘘じゃない。



545 :二人なら  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/04(火) 01:35:41 ID:Z1lt/1ae
「今夜は、月が綺麗ですね。涼ちゃん」
「うん、そうだね、希望」
見上げると、山奥の森の木々の間から、満月が見えていました。
まるで私達を祝福する光のようで。今の私には、その光すら心地よくて。
「旅に出ましょう。永遠の旅に」
「そうだね、二人なら……」
「死ぬまで……。いえ、私達なら、死んでも手を繋いで……」
「行こう。ここから、また生まれたんだ。あたしたち」
こうして、手を取り合って私達は歩き始めました。
月明かりが照らし出す新たなる旅路。
人としての人生。人として生きられないかもしれない人生。傷付いてしまった人生。
変わっていくこと。それは自然なこと。
変えていくこと。そえは傷付いていくこと。
私達は、変えていくことを選んだ。
それは、前に進むということ。
強くなるということ。
またここで、生まれるということ。

ここでまた、二人の生命を確かめるように、私達は唇を重ねました。
――それはまるで、チョコレートのように。

甘い甘い、約束の味がしました。