※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

131 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/11/20(木) 23:12:06 ID:rj7tQf5D
 第1話『偽善者』
 大切な人たちを失ってから、いくつの日々が過ぎたのだろうか。
最初は何気のない日常が続くと思っていた。
それが変わらないと信じていたからこそ、俺は失った時にその重さを知った。
 多額の借金を背負った両親が首吊り自殺をしたのは高校を卒業式が終わった当日であった。

その日は俺の卒業を祝ってくれた両親が普段は滅多に行かない料理店に連れてもらって、美味しい料理をご馳走になった。
親父は俺の卒業が嬉しかったのか、いつもよりお酒を飲み干すと泣きながら喜んでくれた。
母も俺の卒業を自分のように嬉しそうに祝ってくれた。
 普段とは何も変わらなかったおかげで俺は気付かなかった。
両親の様子がおかしかったことに。

 朝起きたら両親が首吊り自殺していた。
 その光景を目撃したとき、何でこんなことになったのかとさっぱりわからなかった。昨日まで何事もなくいつもの両親だったのに。
 厳しいが涙もろい父、いつも優しかった母。

 二人に何が起きたのかを知ったのは葬式の時だった。
親戚一同が集まり、俺が喪主をやっている最中の出来事だ。
ガラの悪い男が吐き捨てた言葉が発端だった。

『人に優しいバカは騙される』

 その言葉の意味は理解できなかったが、俺の両親に向かってバカと言った奴を許せなかった。
我を忘れた俺は問答無用にその男に殴りかかった。
親戚の人たちに止められるが、数発殴ってやった。が、逆に俺は腹部に何回も反撃された。
男は唇から切れた血を拭き取るとこう言っていた。

 両親にとって共通の仲である友人の事業が上手く行かずに従業員と奈落の海に沈没すると悲劇的な話で同情を誘い込み。
言葉を巧みに操り、自分を助けるためにこの消費者金融にお金を借りてくれないかと嘘の契約書を用意して契約させる。
両親は僅かな金額でも友人の助けになるのならと思って借りた金額が気が付くと数十倍にも膨らんでいた。

金利が高いわけではなかった。友人と消費者金融の人間が借用書を改竄し、借りた金額を限界枠突破まで設定してお金を借りた。
 両親が友人に騙されたと気付いた時はすでに遅く、
友人はどこか遠くへ高飛びして行方不明。
消費者金融はその事情も関係なしに取立てを行おうとしていたが。
俺に迷惑をかけないように弁護士辺りに依頼して恐いおじさんたちを家に来れない様にしていたらしい。

 そのガラの悪い男こそが両親が依頼した弁護士だった。
 俺は平謝りして、両親に何が起きたのか事件の真相を聞いた。
 両親は真面目に借金を支払っていたそうだ。生活費を削りながらも、
俺に何不自由がない生活を送らせる。借金していることを悟らそうとせずに。

 借金生活に疲れ、俺の行く先を見届けた後、両親は自殺した。

 俺は何も知らなかった。
 それは罪。
 子供だから両親の優しさと愛情に甘えていた。
 辛いこと、悲しいことから全てを遠ざけてくれた父と母を。
 俺は恩返しもすることができずに逝ってしまった。

 だから……。
 

 
 周防忍(すおう しのぶ)は……。


132 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/11/20(木) 23:15:18 ID:rj7tQf5D
人の死は慣れるものである。
 それが自分にとって親しい人だったとしても、失った痛みは過去になり、時の刻みはゆっくりと明日へと進んでいる。
逆らうこともできずにただ流されるだけ。
 両親を失った俺は厳しい現実を一人で生きていた。
多額の借金を抱えた両親の借金の相続を放棄すると今まで住んでいた家を俺は出て行かなきゃならかった。

当たり前の話だが遺産というのは両親が生前に築き上げた富のことを言う。
その中に借金も含まれるために親が汗水流して購入した家も遺産に含まれる。
自分以外の財産は没収され、通うはずだった大学も進学を諦め、求人情報雑誌でバイト先を探し、アパートを借りた。
 一人暮らしに馴染めずに色々と大変な事はあったが、
人間という生物はどんな環境でも適応していくというしぶとい生物だということを再認識する。
俺は今の生活に慣れると余裕というのが生まれる。
両親が死んでから、俺にはようやく肩の力を抜けて、物事をゆっくりと見つめる時間が増えたってことかな。

 近所で浪人生が何者かに刺殺されるという恐ろしい事件があったりと周囲には物騒な事件が増えた。
特に女性が男性を監禁するという犯罪が増加、社会問題化にまで発展して
ワイドショーを賑わせるなんて日常茶飯事になっている。
 まさか、俺がその事件の犠牲者になるなんて夢にも思わなかった。

 あの時、困っている桜井彩さえ助けなければ、俺は後々と起こる厄介ごとに巻き込まれなくて済んだのだ。


 バイト先の都合で仕事を早めに切り上げてきた。
 自宅に早く帰宅できた日の出来事だった。
 俺が借りているアパートの前にたくさんの荷物が置かれていた。
いわゆる、日常品とタンスとテレビとか冷蔵庫とかetc。
自分が借りている部屋のドアの前に多数の荷物が置かれていたら、

なんとなく家に帰ることができないなと微妙に違ったことを考えていた。
 ちなみに俺が借りているアパートというのは一軒家であり、二部屋しか存在していない。
 その家の前には広めの庭と外界の接触を封じる囲いが刑務所のごとく男の身長の何倍もある高い壁で覆われていた。
 不思議なアパートである。
 大家であるババアに『ほう。このアパートを借りるのか? 物好きな。その好奇心が君を殺すよ』と入居時に
  不気味な伏線を残したことは気になるが。もう、2年以上もこのアパートに住んでいるが何事も起きなかった。




133 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/11/20(木) 23:17:01 ID:rj7tQf5D
 今まで隣に住んでいる人がいなかったが、この引越しの荷物が見る限りでは隣の空き部屋に誰かが住むようだ。
  これからは同じアパートで暮らす身なんだから、隣人とは良好な関係を築かないとね。些細なことがきっかけで、
  深夜にボリューム最大で音楽とか流されたり、糞尿を投げ付けられる可能性もあるし。
 今の内に軽く挨拶を交わしていこう。
 引越し作業をしているであろう、隣人の姿を見掛ける。

「あの、こんにちわ。今日、ここに引越ししてきたんですか?」
「あ、あ、あのあなたは?」
「俺はこのアパートに住んでいる周防 忍と言います。よろしくお願いします」
「私は桜井彩です。今日からこのアパートに引っ越してきました。周防さんですね。
 よろしくお願いしますね。では、私は引越しの作業がありますので」

 と、桜井彩さんは軽く会釈すると引越しの作業に戻っていた。
 物腰が穏やかで和やかな雰囲気を持っている人である。
 容姿は童顔で、長い腰まで届く黒い髪をピンク色のリボンで纏めていた。
 作業中のために地味な赤色のジャージを身に纏っていたが、ちゃんとした洋服を着ているならば、
 相当な美人の分類に入る女の人だ。年頃は俺と同じぐらいだろうか。

 そんな彼女はよいしょ、よいしょと抜けた掛け声をかけながら重たい荷物を運び出した。
 中身は知らないが、ダンボールの箱を彩さんは頑張って運ぼうとしたが。女性の細い腕では
 その荷物を運ぶのは表情を見る限りでは辛そうだ。本来なら引越しセンターの社員辺りが重たい荷物を
 率先して運んでいるはずなのだが。その会社のトラックも見えずに、ただあるのは彩さんの荷物だけ。
 まさか……。
 辿り着いた真相に、俺は恐る恐ると彩さんに言った。

「もしかして、引越しセンターの人に逃げられたんですか?」
「うにゃ!!」
 奇妙な叫び声の共に運んでいたダンボールを派手な音を響かせながら彩さんは落とした。

「そ、そうですよ。悪いですか? それがあなたと私にどういった関係があるんですか?
そりゃ、私が節約するために新聞紙に隅の隅に載っている怪しい引越しセンターに引越しの依頼をした私が悪いんですけど。
本当の悪は人を殺してそうな狂暴な引越しセンターの男たちですよ!!!! 
このアパートについた途端に荷物だけその辺に投げて、とっとととんずらしたんです。
信じられますか。こんなことが!!」
「あのお気持ちは少しわかりますので。落ち着きましょう」
「いいえ。もう、私のことはもう軽くスルーしてください。後は一人で運びますから」
「そんなこれだけの荷物を女の子一人で運ぶのはさすがに無理だ」
「いいんですよ。もう、私は人なんて信用しませんから」
「えっ?」

 その時の彩さんの瞳が寂しそうで何かを求めていた。それが何か全くわからないが、確かに俺の心の中で何かを惹きつけていた。


134 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/11/20(木) 23:19:08 ID:rj7tQf5D
 しかし、それはすぐに敵意に満ちた視線に変わった。
「どうせ、あなたも何か下心があって私を助けようとしているんでしょ!!」
「違いますよ」
「ニンゲンなんて、ニンゲンなんて……」
「彩さん?」
「私のことは放っといてください。あなたの手なんか絶対に借りないんだから」
 と、彩さんは再び引越しの荷物を持ち始めた。女性のかよわい力ではこのたくさんの荷物を運ぶのは殆ど不可能。
本当なら猫の手も借りたいはずだが、彼女は断固として俺の力を借りずに再び作業に取り掛かった。
「よいしょ。よいしょ」
 妙な掛け声で彩さんは重たい荷物を運ぶ。
膝は不安定にガクガクと震え、彼女の白い頬が紅潮して、荒い呼吸していた。
 その姿を見て、さすがの俺もただの傍観者でいることに罪悪感を覚えてしまう。
両親が大変な時に何もできなかった自分。そのことが後悔になるなら。
ここで困っている彼女を見過ごすことが後で後悔すると言うのならば。
 俺は自分にとって正しいと信じていることをしよう。

「手伝います」
「結構です!! 私、一人でやらないと」
「いいんです。俺が勝手に手伝いたいと思ったから。もし、迷惑になるなら、警察とかに通報しても構いませんから」
「その、困ります」
 と、制止する彩さんの言葉を無視して、俺は引越しの荷物を運び出す。
荷物自体は彩さんの几帳面な性格なのか、ダンボールの表面に日常品の分類をマジックペンで記載されていた。

それを見て、まずは一人で運べる重たい荷物を見つけて、とっと彩さんが住むことになる部屋に運ぶ。
彼女からの冷たい視線を受けるが、それらを考えるのは後にして、引越しの作業を続けていく。
 どのくらいの時間が過ぎたかはわからないが、すでに夕日が沈む頃には彩さんの引越し作業はほとんど終わっていた。

荷物を運ぶ作業しかしていないため、彩さんの部屋はダンボールの荷物だらけになっていた。
だが、これ以上は彼女の私物とかプライベートに関することが多いので荷物整理は手伝うことできないだろう。

 彩さんは俺とも口は聞かずに部屋の中央でぽつんと座り込んでいた。
作業中ですら、俺とは全然口を聞かなかったし、赤の他人が踏み入ってはいけない領域に無神経に入り込んだのだ。
彼女が怒るのも無理は無い。

「じゃあ、これで失礼します」
「待ってください」
 俺の退室を遮る彩さんの声。
 彼女は表情を長い髪で隠し、視線は俯いて畳の方を向いていた。


135 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/11/20(木) 23:20:32 ID:rj7tQf5D
「どうして、私なんかを助けたんですか?」
「人を助けるのに理由がいるのか」
「人間は自分に利益がないと人を助けることなんてしませんよ」
「そうかもしれないね」
「だから、あなたも私の体とかそういうのが目的じゃないんですか?」
「いや、さすがに初対面の人に嫌らしいことを考えるのはちょっと」
「だったら、どうして、私なんかを助けたの!!」
「理由なんて特にないかな。何か自然と体が動いて、桜井さんを助けたくなったのかな?自分でもさっぱりとわからないけど」
 その解答に彩さんは呆然と言葉を失う。
「それに桜井さんは今日からお隣さんじゃないか。互いに助け合うのは良いことだよ」
「互いに助け合う……」
 その言葉に反応して、彩さんは俺の顔を見上げた。彼女は泣いていた。
目を真っ赤にして、瞼から涙が頬をつたって零れ落ちていた。
「ご、ごめんなさい。私、周防さんが手伝ってくれたのに冷たい態度を取って」
「いいよ。俺も出来すぎた真似をして済まないと思っている」
「あの、ありがとう。本当に助かりました」
「いいえ。それでは今日はもう帰ります」
 と、軽く会釈して俺は彩さんの顔も見ることもなく、さっさと部屋を退室していた。
彼女の笑顔を間近で見てしまうと自分では制御できない感情が生まれそうだったから、

俺は自分の家にさっさと帰宅することを望んだ。

 桜井彩。
 最初は彼女の雰囲気通りに朗らかで誰からも好かれる優しい人だと思っていたが。
話しかけると冷たい瞳でこの世の全ての人間を拒絶している。
その理由はまったくわからないが、過去に人を拒絶させる程の出来事があったのだろうか。

それならば、今日出会ったばかりのキモい男なんかが引越しの手伝いをさせてくれと言われたら、
相当に嫌な思いをさせてしまったかもしれない。いろいろと注意せねば。
 これからはある程度の距離を置いて、隣人として接して行こうと思う。



136 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/11/20(木) 23:21:33 ID:rj7tQf5D
 引越しの手伝いを終えてから、しばらくの時間が流れた。
今はいつもの就寝する時間帯で俺はのんびりとテレビでも視聴していた。
 その時にインターホンの音が鳴り響いた。
 この夜更けに一体誰が訪ねてくるのだろうか。俺は欠伸をかきながら、ドアを開くと。
 訪問主は彩さんだった。
「あ、あの」
「どうしたんですか。こんな夜遅くに」
「え、え、えっと」
 虎柄のパジャマを着用している彩さんが何か言い出しづらそうな感じで俺を上目遣いで見ていた。
この時間帯に男の俺に尋ねてくるのだから、余程重大な問題なのであろう。
「その、今日は手伝ってくれて本当にありがとうございます。
色々と手伝ってくれた周防さんに悪いんですが、お願いがあります」
「どうしたの?」
「ベットと布団が引越しセンターの手違いで明日か明後日に届くことになっているんです。
だから、あの、周防さんが良ければ、泊めてくれませんか?」
「はい?」
 
 俺は思わず首を傾げた。

 それが俺にとって、ヤンデレな日々の始まりだったかもしんない。