枯井戸のクロニクル~島が燃え尽きる日~


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(自由帳掲載分から転載 2008-11-25)                    


島があり、その上に人々の生活がある。
そして、空がある。
過疎の島の上にふたをするように存在する、常に同じ色をした青空だ。
その空を見上げ、少女は魔法帽をかぶる。
赤に塗られた、自分のアイデンティティである帽子だ。
大戦でオリジナルは失われたため、FSMによる官給品だが、それでも魔力増幅のデバイスとしては十分だ。
「さ、出かけるよ」
いもぎの首輪を引き、少女はスケベイスにアクセス。飛行システムを呼び出す。
スケベイスから空中に、IDの半角文字列が飛行路の銀弧を描く。
飛ぶ。
それは、井戸島に流れる数千の魔力流の中から、自分の目的にあった道を選び出し、その流れに身をゆだねる行為。

ならば経路の探索とは、飛行に他ならない。
一瞬という時間を経て、少女、あいでぃちゃんは空中へと舞い上がった。

空中。
地上では、人間を含む生物の移動方向は前後左右でしかない。
だが、空中ではそれに上下が加わる。
単純な自由度の追加。
あいでぃちゃんは、それを心地良いと感じる。
風になる。
いもぎを懐にいれたまま、あいでぃちゃんは速度を加えてゆく。
飛ぶ先は、島の南部に位置する、巨大な建造物。
FSM大聖堂。

大聖堂には久しく行っていない。
神のヌードル触手は元気だろうか。
かつてIDチェックと称していたずらされたこともいい思い出だ。
井戸島に人が減ってからは、大聖堂に明かりが灯る日も減り、いつしか足が遠のいていた。
今日もそうだ。
かつては100を超える信者を誇った大聖堂も、今ではがらんどうの会議室が妙に物悲しい。
そこに向かい、あいでぃちゃんは声をかける。
「すいません、FSM様?いますか?」
沈黙。
いないのかな、と思い、いもぎと顔を見合わせる。
ノックをして宣教師を探そうとしたその瞬間、背骨をしたから上までなで上げられる感覚が来た。

「ひあっ!」
振り向いた先には、巨大なミートボールに絡みつく、触手の群れ。
神々しく光を放つその神の名は、
「FSM…様」
「よしてくれよ。僕はもう神じゃない。神の力は信徒から生まれるんだ。過疎のこの島では、僕の力なんてもうない」

彼は右の触手をふらふらと力なく振った。
その手から、急速に光が失われていく。
「どうして?」
かつては唯一神と呼ばれ井戸島全域を覆ったパスタの王は、口元に自嘲気味な笑みを浮かべると、
「ほれた女の子の前ぐらい、輝いていたいじゃないか」
「だからって、最後の蓄積信仰をこんなところで!もう島全体のエネルギーも残り少ないのに!」

井戸島は大戦によって一度沈んだ。
FSM教団は信者の信仰を触手ネットワークによって全体にいきわたらせ、浮遊と島の機能維持に使ってきたのだ。

信者の減少は、すなわち島の機関部が停止することを示す。
今、井戸島はゆっくりと沈みつつあった。
ならば、島の民である自分たちはどうするか。
FSM様ならその答えを知っている。
そう思ってここまで来た。
だが、今分かった。
この気さくなパスタの神は、自らの蓄積信仰をも島の維持に使ってきたのだ。
見ると、その大きさもかつてよりだいぶ小さい。
急に胸が苦しくなり、あいでぃちゃんはパスタを抱きかかえた。

「あいでぃ…ちゃん…」
「ごめん…FSM様…違う…ありがとう」
どうにかしたい。何を?
FSM様の気持ちも、島の沈下も、ロボの故障も、おねえさんの帰郷も、何もかもが脳の処理能力を超えていて。
わからない。
どうして、FSM様が苦しまなくてはいけないのか。
どうして、島のみんなが苦しまなくてはいけないのか。
悔しさが、ほかのいろいろな感情を飲み込んであいでぃちゃんの口元に血を結ぶ。
なぜ、彼らは去っていったのか。

教えて、FSM様。どうして、みんなは戻ってこないの? 大戦は終わったじゃない!」
問いに、FSMはひらひらと軽く答える。
「大戦末期、上位の神々は天井に自閉隔壁を作ったんだ。隔壁内部に絶対的平和を保つ代わりに、外部からの進入をシ
ャットアウトする障壁をね」
だから、と続ける。
この島は平和だ、だが、それだけだよ、と。
平和さは時に停滞となり、人間はその性として停滞を好まない。
「じゃあ!その隔壁を解除すれば!」
「無駄だと思うよ。量産された機神によって守られてるし、仮に解除したとしても、この島には軽い存在ステルス
がかかってるんだ。人が来るかどうか…」

「それでも!たとえ無理でも!やってみなきゃわからないじゃない!」
叫び、もういもぎと同じサイズになったFSM様を懐に入れる。
「少しそこで我慢して。今、あの隔壁を叩き壊しに行くから」
「あいでぃちゃん…」
「何。しっかり掴まっててね?」
「じゃなくて、胸がないから座れないんだけど」
あいでぃちゃんは、無言でパスタを口に放り込んだ。

飛ぶ。
何もかも超えて、天上へと飛ぶ。
目の前にあるのは、絶対的な壁としての空だ。
来るものを拒む、平和の壁。
それを、壊しに行く。
井戸に混沌をもたらすために、平和という名の停滞を叩き壊しに行く。
ふと、上から風が来た。
風とともに来るのは、機神の一撃だ。
キヌゴッロスと呼ばれる大戦期の亜神級武装。
その光砲が、向かうあいでぃちゃんの真上から炸裂する。
対し、あいでぃちゃんは右へのロールで答えた。

右手に持った双葉の杖に精神を接続。
-ID強制表示システム、Y/N?
「決まってるじゃない!」
コンソールの「Y」を割れるような勢いで叩き。
そして、力が発動する。
半角文字列によって成る、必殺の情報弾。
敵は、キヌゴッロスの背後。ンポゴーデと呼ばれる、量産型機動亜神だ。
そこに、フルオートの十六連射が叩き込まれる。

IDの連射がンポゴーデの装甲を砕き、そのまま空へと抜ける。
破片が散って作られる、リング状の空白地。
そこに、飛び込む。
ポケットに入るまでに小さくなったFSM様を確かめ、
「もう少しだから!」
上を見る。
そこに、敵がいた。
上空管理システムに統御されたンポゴーデの群れだ。
彼らはいっせいに神槍を振りかぶると、
「!」
無言で光弾の投擲を開始した。
空一面を埋め尽くす光の流星雨。
それが、連続する。

左右を、必殺の光弾が抜けてゆく。
恐怖はある。
だが、ためらいはない。
それが、井戸島に生きるものとしての定めだから。
否。
井戸島のためではない。
自分のため、そして散っていったものたちのために飛ぶのだ。
「IDが表示されるまほう!」
手に持った双葉の杖が、いっそう強い光を放つ。
> 現在20人ぐらいが見てます
コンソールの表記で残弾を確認。
過疎の島に残された力。一発たりとも無駄にはできない。
だから、あいでぃちゃんは速度を加算する。
速く。早く。そしてどこまでも迅く。
そのようにして生まれるのは、スカートの弧をひく赤色の流星だ。

最小限の動きでンポゴーデを回避しながら、最適な着弾位置を割り出す。
双葉の杖に接続したロボの電子頭脳は、それを叶えた。
としあきたちが去り、ロボは停止した。
自分を乗せて井戸島を飛びまわったロボはもういない。
だが、
「わたしがいる!この島を!ここで過ごしたみんなを!わたしは忘れていない!」
否定としての過疎宣告弾を、左右へのターンで避ける。
「教会があって、としあきがいて、カソリーヌがいて…」
正面に瞬動したンポゴーデを、IDの連弾で叩き割る。
「だからわたしは!この島を守りたい!」

「来るよ。あいでぃちゃん」
FSM様の声とともに、上空から力が来た。
島の存在事実そのものをつかさどる、唯一絶対の管理者。
鉢植えの形をした、因果管理システムだ。
その周辺には少女型のデバイスが浮き、
「さあ、始めましょうか。この島、世界そのものの存亡をかけた、最高のシューティングをね!」

戦闘は加速する。
IDの連撃は防壁によって拡散され、減衰する。
その合間を縫って、敵の打撃が飛ぶ。
ループでその上を取り、半分でとめてフック。
鉢植えの上部は装甲が薄めの箇所だ。
「もらった!?」
「甘いわね!」
少女型のデバイスが、その口に笑みを浮かべる。
同時、鉢植えが、分裂した。

高速戦闘中の管理システムの視覚は、こちらに向かって落下してくる魔法帽をかぶった少女を確認した。
「終わりね。あいでぃちゃん。島はここで閉じるの」
笑みとともに、八方に展開した鉢植えがエネルギーを放射する。
それが魔法少女の体を貫くのを、視覚素子は確実に見ていた。

「終わったのね」
鉢植えが分裂機動を終え、元の一体へと再合神。
これで、終わったのだ。
自閉隔壁を破壊できる存在はもはやない。
井戸島に二度と騒乱は訪れず、
「平和こそが、人の望み」
だから彼女は下を向き、
「?」
自分のヴィジョンにノイズが生じたことに気付く。
「!?」
振り向いた先の鉢植えには、

「…串?」
鉢植えの上部から下部まで、貫くように巨大な串が突き刺さっている。
「まさかッ!」
先ほど撃墜したのは、
「ふふ…赤字指定の串は痛かろう!」
落下して行く血まみれの魔法少女が、それでも叫ぶ。
そこに、あいでぃちゃんが駆け寄る。
「ニセちゃん…どうして」
「行きな。あいでぃ。あたしは幸せだったさ。この島に生きて、そしてみんなと楽しくやれて
…あんたのレプリカとして、しかしレプリカじゃない人生を生きれた。
あんたにも、守りたいものがあるんだろう。物理的な島じゃない。もっと大きなものだろう?
だから、あんたは生きな。生きて、行っておくれよ。あたしの幸せを繋いでおくれ!」

一本の串を残して、ニセちゃんは爆散した。
その串を掴み、自分の左手に突き刺す。
ニセちゃんの痛みを忘れないために。
ニセちゃんの幸せを繋ぐために。
スケベイスの上で、あいでぃちゃんは上を見上げる。
過去は繋いだ。
現在も見た。
ならば向かうは、決着必定の未来のみ。
双葉の杖に命を燃やし。
今、自己(IDentity)は島と一体となる。

「この島に生きる、全ての生き物たち!」
実装石は、公園の隅で金平糖を舐めながらその声を聞いた。
「この島に生きる、全ての夢たち!」
道端の絵描きが、ふとペンを止めて空を見上げた。
「この島に生きる全てよ!わたしの声がとどいていますか?」
鈴々が、えいかいわが、台車に乗って移動するアダムが。
「わたしは、小さな存在です。この島も、同じです」
わはーが、満面の笑みで空を見る。
「でも、みんなのおかげでここにいる。この島が好きだから、楽しいから、そう思って、みんなでここにいれる!」
だから、と言葉を接ぐ。
「力を貸して…!」

島が、揺れた。
枯れていたビール火山に、再び宴の火が灯る。
戦いの宴だ。
島の下方構造となっていたヌードル触手網が、一斉に青い光を放つ。
応じ、あいでぃちゃんの双葉の杖が、変形していく。
より強く、大きく。
出来上がる力は、魔力の奔流に包まれた、数十ヤードの大剣だ。
「これは…島の人々の思いが、FSMを通してあいでぃちゃんに供給されているのかッ!?」
鉢植えが、理解できないといったふうに揺れる。
「何故?わたしは絶対平和を生み出そうとしているのに!」
「教えてあげましょうか」

言葉とともに一撃を放つ。
強く、熱い思いの一撃。
「わたしたちは与えられた平和なんていらない!」
活力とは混沌。
混沌とは騒乱。
しかし、あえてそれを望む。
明日には、停滞は存在しないし、してほしくもないから。
突き刺さった大串に向かい、一直線に杖を振りぬく。
轟音。
そして、鉢植えが、爆散した。
そのまま、威力強化を加えたIDを、全弾叩き込む。
ガラスの割れるような音が、響いた。

自閉障壁が、砕ける。
その向こうには、嵐の空がある。
でも、
「大丈夫」
下を見る。
島のみんなが手を振っている。
「みんながいるから」
帰ろう。
帰ろう。
自分たちの居場所へ。
そこが変わることは恐れない。
ただ、そこが滅びることを恐れる。
だから帰ろう。
――ただいま

-完-                    


ええっと、これで終わりです
駄文ですみません
本当はもう少し普通の話しな予定だったんですけど
終わクロとチェンゲを見てたらこんな感じに…
いろいろ殺してすいません
特にキャラに恨みとかはないです

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