黒シリル×トウマ(439氏)

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2007/04/04(水) 15:51:34 ID:UwcOm5RP 「私、トウマのことが好きよ」 「トウマ、愛してる。 だから私だけを見て」 「………ねぇトウマぁ……………私を襲わないの?」 半年の間に何回言っただろうか? それらは全て私がトウマに向けた愛の告白。 そして、女の誘惑。 トウマになら抱かれてもよかった。 いや、むしろ抱いてほしかった。 私はそれだけ本気だったのだ。 …………だけど、トウマは私を抱いてくれなかった。 理由は「まだ心の準備が―――」とか「いきなりそんなこと言われたって―――」とかだそうだ。 照れて顔を真っ赤にしながらトウマはそんなことを言いながらしどろもどろに状況を回避しようとする。 まさかトウマがここまで純情だとは思っていなかったが……………それがいい。 トウマに今までにないくらい顔を真っ赤にさせながら私を犯させる場面を想像するだけで、私は興奮できる。 俗にこういうのを「狂っている」とかいうみたいだけど、それでかまわない。 トウマをモノにできるなら私はどんな汚名だって被る。 トウマをモノにするためなら私は何だってやる。 だから……… 絶対にトウマを手に入れてみせるわ。 ……………『何をしてでも、絶対に』…… そんな想いを胸に秘めて、私は今夜トウマに夜這いを仕掛ける。 夜も更けて日付けが変わった頃、私は息を潜めて真っ暗なトウマの部屋に侵入する。 防衛ロボ達は前もって締め出しておいたので、今部屋の中に居るのは私とトウマだけ。 まずは部屋のドアをロックし、邪魔者の進入を防ぐと同時にトウマの逃げ道を塞ぐ。 「トウマ……」 そしてトウマのベッドに歩み寄り、トウマが熟睡しているのを確認して……… 「あははっ…………えいっ!」 私は笑いながらトウマの上に飛び乗り、馬乗りになる。 「―――ぅあっ!? シリル!?」 トウマは驚いて目を覚まし、私を見た途端に慌てだす。 冷や汗を掻きだしたトウマが私から逃れようと暴れだす前に私はトウマの両腕を抑え込む。 おもいっきり体重を掛けてトウマの腕を捕らえた私は、にっこりと微笑みながら、 「トウマぁ、会いに来たわよ」 と言って、有無を言わせずにトウマの唇を奪う。 トウマは必死にもがくが、私は吸うだけでは物足りずに舌を入れてトウマの口内をかき回す。 トウマの唾液をたっぷりと飲み込み、トウマにも私の唾液を飲み込ませた後に私は唇を離してトウマの両腕を解放した。 今までされるがままであったトウマは自分の上に馬乗りになったままの私を驚愕した表情で見ながら、 「いくらなんでも強引すぎるだろ!?」 と怒鳴ってきた。 でもそこが可愛い。 トウマは女の子からの夜這いに素直に応えられないウブな男なんだから…… ―――犯したい!! ―――犯されたい!! 私は一層興奮する。 そして今度は馬乗りの体勢のままトウマに抱きついて、 「ふふっ…頂きまぁす」 と言ってからトウマの首筋を舐め、頬も舐め、耳朶を甘噛みする。 それらの一つ一つにトウマは過敏に反応してうめき声を出すので私も段々気持ちよくなっていって… トウマに抱きついたまま、トウマの耳もとで呟いた。 「ねっ、トウマぁ………………………しよっ?」    ・          ・ 「……えっ?」 シリルの一言で俺は正気に戻った。 そういえば、こういう状況のことを夜這いっていうんだっけ? 夜這いしに来たなら、最終的に交合までもっていかれても不思議ではないわけで。 「ちょっ……! 待ってくれ!!」 そう叫びながら俺は力尽くでシリルの下から抜け出してベッドから飛び降りた。 後を追ってシリルがベッドから降りて歩み寄ってくるので俺も後退りするが、すぐに壁際まで追い込まれてしまった。 「何で逃げるの?」 ……拷問か何かですか、これは? 俺を追い詰めたシリルの瞳は色欲の期待で満ちているのが何故かはっきりと解った。 それと同時に、いきなりお預けをくらって不機嫌気味の不満の色も。 しかし、だからといってこのまま相手に任せて事に及んでしまっていいとも思わない。 だから、 「なんでって……そりゃあ―――」 と言ってとりあえず何か反論しようとしたのだが…… 「何で駄目なのよっ!?」 そう叫びながら、シリルが俺の両肩を鷲掴みにして激しく揺さぶってくる。 「ぅお!? おっ、落ち着けって!」 俺はシリルをなだめようと声をかけるが、シリルは止まらずに、 「私の何が駄目なのっ!? ねぇ!? トウマぁぁぁぁぁっ!!」 さらに激しく叫び、揺さぶってくる。 「待てっ、たのむ! 待ってくれ!」 「待ったわよ!! 半年も待ったのよ!? この半年トウマは私を待たせて何してたのよ!?」 「それは……でも、こんなの………っ!」 「私からっ! ここまでやらないとっ! トウマはぁっ! 何もしてくれないぃっ!!」 シリルは完全に頭に血が上っているようで、もはや俺の声が聞こえているかどうかすら怪しい。 そうして俺は揺さぶられ続け…… 何だろう……? この感情は………? 何故か………頭が熱い…… 何故か………両腕に力を込めてしまう…… 何故か……………腹が立つ………! 「シリル………」 「何よっ!?」 「狂ってるんだよ……お前はぁぁぁぁっ!!」 俺は、怒鳴りながらシリルを突き飛ばした。    ・          ・ トウマに突き飛ばされて……今まで自分でもよく分からないくらい荒れていた私の頭の中は一気に真っ白になった。 ……狂ってる? そんなの、自分でも分かっていたのに…… それをトウマに言われただけで、私の心は容易く砕けてしまった………… 私はふらふらと歩き出し、ドアのロックを解除して無言のままおぼつかない足取りで自室に帰った。 そして自分のベッドの上に倒れこみ、真っ白になって何もできなくなった頭の中にある私は……… 「ふ…ふふふ……くっ、うふふふふ……………」 何故か、笑ってしまっていた。 ……そうか…完全に狂っちゃったんだ、私……… そう分かった瞬間、真っ白だった頭の中がすっきりと晴れていった。 「ふふっ、あははハはっはハハッ」 笑いが止まらない。 だって…私、狂ってるんだから。 もう、トウマのことしか考えられない。 他の事なんてどうでもいい。 トウマさえ手に入れば、私は世界一の幸せ者になれるんだ。 だから…… ―――――他の『モノ』なんて要らない…………………必要ない……… 私に必要なものはトウマと私だけの世界だけ。 その世界を、絶対に………………… …………………手に入れてやる。    ・          ・ 夜が明け、一日が始まる。 結局あれから一睡もできなかった。 「シリル………」 あの時は言い過ぎてしまった、と反省している。 昼過ぎにでも、謝りに行こう…… そう決めて、俺はベッドの上に横になったまま考え事をしていた。 シリルは、事実上夜這いという形であるにしろ俺を襲った。 俺は、それにどう応えればいいんだろう……? 期待に応える? それじゃ駄目だ、意味がない。 シリルの機嫌をとりつつ貞操も守れる言い訳を考えないと。 ……どうしたらいいんだよ……… そんな事を延々と考えながらベッドの上で頭を抱え込む。 ………気が付けば、もう昼飯時だ。 「行かなくちゃ、な………」 俺はベッドから降りて歩き出す。 シリルの部屋がある西塔の階段前に来る途中に制御ルームを経由したのだが、制御ルームには何故か誰もいなかった。 気になって居住フロアにも下りてみたが、そこにも誰もいなかった。 他の皆は何か用事があったとしても、ゼナスとジラまでいなくなってしまうのは何かおかしい。 もしかしたら、シリルもいなくなっているのではないだろうか。 心配と不安に押されるように俺は足早にシリルの部屋に向かう。 部屋の前まで一気に駆け上り、部屋の中にシリルがいてくれることを祈って、 「シリル……ちょっといいかな?」 と扉越しから呼びかける。 ……僅かな沈黙の後、部屋の中から、 「トウマ? 入ってきて」 と返事があった。 そのシリルの声は俺が予想していたよりも明るい声で、俺は“ほっ”と胸をなでおろし、安心して部屋の扉を開ける。 そして、部屋の中に一歩踏み込んで……… 「―――えっ?」 ………俺は、自分の目を疑った。 「来てくれたの? うれしいっ、ありがと、トウマぁ」 シリルがにこやかに駆け寄ってくる。 しかし、俺の視線はシリルには向けられず、シリルよりも奥、部屋の奥にある『モノ』に釘付けになっている。 何処にもいないと思っていたら、みんなこんな所にいたのか……… ゼナスも、 ジラも、 ガドフォールも、 メーベルも、 アミタリリも、 ファークリンも、 ドゥーガも、 ガリュウも、 アバロンも、 みんな………みんな、『モノ』になっていた。 この部屋の奥で………みんな……… ……………氷漬けにされていた。 この部屋は肌寒い。 冷気がもうもうと立ち籠めているし……………何より、目の前に広がる光景が悲惨すぎるからだろう。 それを気にも留めずに両腕を広げて俺に抱きつこうとしてくるシリルを俺はほとんど無意識のうちに回避して、 「あれ……みんな、なんであんなふうになっちまってんだ………?」 とシリルに問いただす。 すると、シリルはからからと笑いながらこう言った。 「なんでって、夜這いのことみんなに話したのよ。 そしたらね、みんな『シリルが悪い』とか『考え直せ』とか言うからさ―――」 「………だから……?」 「―――うるさかったから、黙らせたの」 ……シリルは……… ……コイツは………っ! ―――――何もかもが、狂ってる!! 「―――何考えてんだよぉぉぉぉっ!! シリルーーーーーっ!!」 ―――怖い。 シリルが怖い。 シリルから一刻も早く離れたくて、俺は全力で逃げ出した。 後ろからシリルが追ってきている気がするが振り返らずにただ走った。 制御ルームまで逃げてきて、何処でもいいので転送システムを使ってジオフォートから脱出しようとして……… 「転送システムは停止させてあります」 と、シリルのものではない聞き慣れた声に言われて振り返るとそこにはアダムがいた。 「なら起動させてくれ、早く!」 とアダムに頼んだのだがアダムはそれを無視し、 「マスターシリルの命令により捕獲します」 と言って背後から俺の両腕を掴んだ。 まさかアダムに裏切られると思っていなかった俺は慌てて、 「っな、何すんだ!?」 と叫ぶ。 すると、 「薄情よね。 聖剣が一本になって私の物になって以来、トウマのことを『元マスター』って呼んでたのよ、アダムは」 と、追いついてきたシリルに説明され、俺は一気に絶望した。 転送システムは全て停止させられ、アダムはシリルの言いなりになり、俺はこうして捕らえられている。 残された希望は……………無い…… 「シ……シリルっ、お願いだ、もう止めてくれぇっ!!」 俺が必死に懇願する。 が、シリルは妖しげな笑みを浮かべて俺にゆっくりと歩み寄り……… 「トウマ…………私だけのものになって……」 と言って、小さなカプセルを口に含んで俺にキスをした。 シリルは口に含んだカプセルをキスをしながら俺の口に移し、俺はシリルの唾液と共にカプセルを呑み込まされた。 その後もシリルからのディープキスは続いて、アダムに捕らわれたままの俺の身体を細い腕で強く抱きながら 執拗に舌を絡ませてくる。 「んぐぅ……」 必死にもがくも今の俺はとても無力で、どうしてもシリルに逆らえなかった。 やがて、 「………ぷはっ」 と息を吐きながらようやくシリルは俺から離れて、それでも自分の口を軽く舐めながら俺に視線を向けている。 その瞳の中にあるのは………相変わらずの色欲の期待だろう。 しかも、依然とは比べ物にならないほど純粋な欲望の期待で。    ・          ・ あと少し……… あと少しでトウマは私のものになる。 他の誰のものでもない、私だけのものに。 「シリル……何を、呑ませた…?」 ―――あぁっ! たまらないっ……!! トウマの自由さえ思うがままの今の私がっ!! ………さて、それはさておき、そろそろ“効いてきた”頃かな。 「アダム、トウマをトウマの部屋まで連れていって」 私はアダムにそう命令し、一足先にトウマの部屋に駆けていく。 トウマの部屋に着いてから手早くベッドの周りの物を退かせて十分なスペースを確保し、同時にベッドメイキングも済ましておく。 そして程なくして上がってきたトウマ達をベッド横に立たせ、 「アダム、下がって。 ついでにドアの鍵も閉めていってね」 と言って部屋の中を完全に二人きりの空間にした。 「………シリル……ぅうっ!」 さっきまで暴れていたトウマが私を見たまま一歩も動かないでいる。 これはさっき呑ませたカプセルが完全に効いてきた証拠だ。 「トウマぁ、さっき何呑ませたか教えてあげようかしら?」 そう言ってトウマと視線を合わせる。 トウマの今の瞳は………多分、私と同じだ。  「さっきのはね……………媚薬よ」 「―――っ!!」 一瞬、トウマの身体が“ビクンッ”と動いた。 ………ふふっ、驚いてる。 でも、もう未来は決まったの。 ………トウマは私と生涯を共にする。 ………ここは、私とトウマのための城になる。 私はベッドに腰かけ、コートの上着を脱いで薄着になり、トウマの方を向いて両腕を広げた。 薄着になってボディラインがはっきりとした私の太腿や胸をトウマが恥ずかしそうに気にしているのが見えて、 「…ねっ、したくなってきたでしょ? おいで、トウマ………」 とトウマを誘惑した。    ・          ・ 頭がぼうっとする……… さっきまでとても怖かったのに……今はシリルのことが…… ………シリルの身体がとても気になる…… 「…ねっ、したくなってきたでしょ? おいで、トウマ………」 シリルが呼んでいる。 行きたい…… イきたい…… いきたい……? 本当に……? このまま行ってかまわないのか……? このままイってかまわないのか……? ……分からない… ……判らない… ……解らない… ……シリル…… ……好きだよ……でも……… 俺は……このまま君を抱いてしまうくらいなら…… こんなことでここまで悩むくらいなら…… ……俺は……… 逝きたい……… 「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 力の限り叫び続ける。 訳も分からず走り出す。 「っ!? トウマっ!?」 シリルが何か言っているがもう何が何だか分からない。 …もう………何も分からない………    ・          ・ 「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 トウマがいきなり叫びだした。 叫びながら、トウマは何処かへ走り出す。 「っ!? トウマっ!?」 そんな私の呼びかけにも応えずにトウマはただ逃げるように駆けていく。 私も去っていくトウマを追いかけるが…… ………何故? まさか…媚薬を呑まされても、トウマは葛藤し続けたというの……? そんな……!? トウマはバルコニーの方へと走っていく。 そこなら先は行き止まりだ。 さっさと追いついてもう一押しでもすればきっとトウマは私に落ちる。 ……きっと… …………きっと!! それは賭けだ。 しかし、ここまできたからにはやるしかない。 私はトウマの後を追ってバルコニーまで出て……… 「―――っ!?」 …信じられない……っ! トウマはバルコニーから身を乗り出し…… 「トウマぁぁぁぁぁぁ!!」 私が急いで駆け寄るも間に合わず……トウマは…… ………落ちていった。 「―――っ!! トウマっ!?」 私はトウマがさっきまで立っていた場所に駆け寄り、身を乗り出して落ちていくトウマを見て、 「トウマ……っうあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 私もトウマの後を追って、跳んだ。 …今、私とトウマは空中にいる。 私は何とかトウマに追いつき、トウマを抱き寄せる。 「ああぁ!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 私の腕の中で叫び続けるトウマを強く抱いて………私たちは、落ちていく。 幸い、下は海だ。 運が良ければ、もしかしたら…… そんな望みの薄いことを考えてしまう。 でも…… 仮にここで死んだとしても、トウマとなら……… 私は死を覚悟して、叫び続けるトウマを一層強く抱いて…… ……………着水。 意識は……有る! 身体は……動く! トウマは…………… ……いない!? 私は水中でもがきながらも、視界は悪いが辺りを見回す。 そして、何か沈んでいく影が見えた。 息苦しさにもかまわず、私はその影を目指して深く潜っていく。 深く、深く、深く……… 大分潜って、ようやく掴んだそれは………確かに人の手だった。 もう二度と離してしまうことのないようにしっかりとその手を掴み、海面を目指す。 海面は遠く、それに息苦しさも限界に近いが、私は決して気を失うまいと必死に泳ぎ続けた。 そして……… 「―――――ぷはっ!!」 無事に私は海面に浮上し、空気をおもいっきり吸った。 それから、今度は必死に岸まで泳いだ。 トウマの意識は無く、危険な状態であったために私は焦って泳ぎ続けた。 その途中で私たちの反応を感知したアダムが送りつけた量産型ロボ達に助けられ、なんとかジオフォート内部にまで戻ることはできた。 「トウマぁ!! しっかりして、トウマぁっ!!」 意識の無いトウマに必死に呼びかけながら私は何度も人工呼吸を繰り返した。 ―――まさか、こんな形でトウマと口付けするとは思ってもいなかったが……… そうしてトウマはやっと水を吐き出したが相変わらず意識が無いうえに衰弱が酷く、今度はリペア装置での回復を待つこととなった。 私はずっとトウマに付き添い、トウマが目覚めるまでずっとトウマを見ていた。 そして、リペア装置で治療を開始して六時間後……… 「……………ぅ………」 という声が聞こえ、私は静かにトウマの手をとった。 「トウマ………?」 私の呼びかけに応えたのか、トウマは身を起こしてゆっくりと辺りを見回し、そして、 「ここは………?」 と小声で呟いた。 私はトウマを失ってしまうのがとても怖くて…そして、こうして目を覚ましてくれたのがとても嬉しくて……… 「トウマ……っ! トウマぁぁぁぁぁ!!」 トウマを力いっぱい抱きしめた。 するとトウマは私の顔を見て、次に側にいたアダムの顔を見て、そして辺りを見回して…… 「ここは…何だ?」 「―――え?」 一瞬、トウマが何を言ったのか分からなかった。 私はトウマと顔を見合わせ、お互いに視線を合わす。 しかし、その後にトウマが発した言葉は、 「君、誰だ?」 だった。 今のトウマについて分かった事といえば――― まず、完全に記憶を失ってしまっている、ということ。 そして……… ………過去の自分を思い出そうとして、私を頼ってきていること。 トウマは、以前の自分を私が知っている、と考えている。 そして、それを信じきっている。 いわば、私がトウマの記憶となりえるのだ。 とりあえず、今日はトウマを休ませてあげよう。 私はトウマを彼の部屋まで送り、ベッドに寝かせて部屋の照明を落とした。 「おやすみ、トウマ」 「おやすみ、シリル」 そんな今日限りの別れの挨拶を済ませ、私はトウマの部屋を出てドアを閉めて――― 「………ふっ…ふふふ……あはっ、あははははははは……」 思わず笑ってしまった。 いや、これが笑わずにいられるものか? 何故なら……… 私がトウマの全てなのだから。 だから――― これからは………私の思うがままにトウマを『私色』に染められる…………… これで……………トウマは、完全に私のものになるのだ………! まずはアダムに私の部屋にある邪魔な『モノ』達を全て跡形も残らないように処分させた。 『アレ』を見られて下手に記憶を取り戻されては困るからだ。 ……さて、後は私の自由だ。 私が「前からずっとやっていた」とさえ言えばトウマは私を抱くだろう。 それだけじゃない。 トウマをジオフォートに閉じ込めるのも、 トウマに私を愛させるのも、 全て私の思うままなのだ。 こうして、私の望みは全て叶った。 トウマが手に入って、二人だけの世界も手に入って……… ………私は、幸せ者だ。 …明日から早速抱かせよう。 ずっと……ずっと待っていたんだから。 正常位は………もちろんやる。 フェラチオも良いかもしれない。 アナルセックスもやってみたい。 できることは何でもやる。 あと、避妊も。 妊娠しちゃったらしばらくできなくなっちゃうから。 何からしよう? 何からやらせよう? 何て言ってやらせよう? 考えてるだけで楽しい…あぁ、楽しい……! 「あはっ、あはははははははっ……………あは~……」 私の笑いは狂ったように止まらない。 だって……明日から、私の望んだ世界で生きられるんだから。    〈了〉
2007/04/04(水) 15:51:34 ID:UwcOm5RP 「私、トウマのことが好きよ」 「トウマ、愛してる。 だから私だけを見て」 「………ねぇトウマぁ……………私を襲わないの?」 半年の間に何回言っただろうか? それらは全て私がトウマに向けた愛の告白。 そして、女の誘惑。 トウマになら抱かれてもよかった。 いや、むしろ抱いてほしかった。 私はそれだけ本気だったのだ。 …………だけど、トウマは私を抱いてくれなかった。 理由は「まだ心の準備が―――」とか「いきなりそんなこと言われたって―――」とかだそうだ。 照れて顔を真っ赤にしながらトウマはそんなことを言いながらしどろもどろに状況を回避しようとする。 まさかトウマがここまで純情だとは思っていなかったが……………それがいい。 トウマに今までにないくらい顔を真っ赤にさせながら私を犯させる場面を想像するだけで、私は興奮できる。 俗にこういうのを「狂っている」とかいうみたいだけど、それでかまわない。 トウマをモノにできるなら私はどんな汚名だって被る。 トウマをモノにするためなら私は何だってやる。 だから……… 絶対にトウマを手に入れてみせるわ。 ……………『何をしてでも、絶対に』…… そんな想いを胸に秘めて、私は今夜トウマに夜這いを仕掛ける。 夜も更けて日付けが変わった頃、私は息を潜めて真っ暗なトウマの部屋に侵入する。 防衛ロボ達は前もって締め出しておいたので、今部屋の中に居るのは私とトウマだけ。 まずは部屋のドアをロックし、邪魔者の進入を防ぐと同時にトウマの逃げ道を塞ぐ。 「トウマ……」 そしてトウマのベッドに歩み寄り、トウマが熟睡しているのを確認して……… 「あははっ…………えいっ!」 私は笑いながらトウマの上に飛び乗り、馬乗りになる。 「―――ぅあっ!? シリル!?」 トウマは驚いて目を覚まし、私を見た途端に慌てだす。 冷や汗を掻きだしたトウマが私から逃れようと暴れだす前に私はトウマの両腕を抑え込む。 おもいっきり体重を掛けてトウマの腕を捕らえた私は、にっこりと微笑みながら、 「トウマぁ、会いに来たわよ」 と言って、有無を言わせずにトウマの唇を奪う。 トウマは必死にもがくが、私は吸うだけでは物足りずに舌を入れてトウマの口内をかき回す。 トウマの唾液をたっぷりと飲み込み、トウマにも私の唾液を飲み込ませた後に私は唇を離してトウマの両腕を解放した。 今までされるがままであったトウマは自分の上に馬乗りになったままの私を驚愕した表情で見ながら、 「いくらなんでも強引すぎるだろ!?」 と怒鳴ってきた。 でもそこが可愛い。 トウマは女の子からの夜這いに素直に応えられないウブな男なんだから…… ―――犯したい!! ―――犯されたい!! 私は一層興奮する。 そして今度は馬乗りの体勢のままトウマに抱きついて、 「ふふっ…頂きまぁす」 と言ってからトウマの首筋を舐め、頬も舐め、耳朶を甘噛みする。 それらの一つ一つにトウマは過敏に反応してうめき声を出すので私も段々気持ちよくなっていって… トウマに抱きついたまま、トウマの耳もとで呟いた。 「ねっ、トウマぁ………………………しよっ?」    ・          ・ 「……えっ?」 シリルの一言で俺は正気に戻った。 そういえば、こういう状況のことを夜這いっていうんだっけ? 夜這いしに来たなら、最終的に交合までもっていかれても不思議ではないわけで。 「ちょっ……! 待ってくれ!!」 そう叫びながら俺は力尽くでシリルの下から抜け出してベッドから飛び降りた。 後を追ってシリルがベッドから降りて歩み寄ってくるので俺も後退りするが、すぐに壁際まで追い込まれてしまった。 「何で逃げるの?」 ……拷問か何かですか、これは? 俺を追い詰めたシリルの瞳は色欲の期待で満ちているのが何故かはっきりと解った。 それと同時に、いきなりお預けをくらって不機嫌気味の不満の色も。 しかし、だからといってこのまま相手に任せて事に及んでしまっていいとも思わない。 だから、 「なんでって……そりゃあ―――」 と言ってとりあえず何か反論しようとしたのだが…… 「何で駄目なのよっ!?」 そう叫びながら、シリルが俺の両肩を鷲掴みにして激しく揺さぶってくる。 「ぅお!? おっ、落ち着けって!」 俺はシリルをなだめようと声をかけるが、シリルは止まらずに、 「私の何が駄目なのっ!? ねぇ!? トウマぁぁぁぁぁっ!!」 さらに激しく叫び、揺さぶってくる。 「待てっ、たのむ! 待ってくれ!」 「待ったわよ!! 半年も待ったのよ!? この半年トウマは私を待たせて何してたのよ!?」 「それは……でも、こんなの………っ!」 「私からっ! ここまでやらないとっ! トウマはぁっ! 何もしてくれないぃっ!!」 シリルは完全に頭に血が上っているようで、もはや俺の声が聞こえているかどうかすら怪しい。 そうして俺は揺さぶられ続け…… 何だろう……? この感情は………? 何故か………頭が熱い…… 何故か………両腕に力を込めてしまう…… 何故か……………腹が立つ………! 「シリル………」 「何よっ!?」 「狂ってるんだよ……お前はぁぁぁぁっ!!」 俺は、怒鳴りながらシリルを突き飛ばした。    ・          ・ トウマに突き飛ばされて……今まで自分でもよく分からないくらい荒れていた私の頭の中は一気に真っ白になった。 ……狂ってる? そんなの、自分でも分かっていたのに…… それをトウマに言われただけで、私の心は容易く砕けてしまった………… 私はふらふらと歩き出し、ドアのロックを解除して無言のままおぼつかない足取りで自室に帰った。 そして自分のベッドの上に倒れこみ、真っ白になって何もできなくなった頭の中にある私は……… 「ふ…ふふふ……くっ、うふふふふ……………」 何故か、笑ってしまっていた。 ……そうか…完全に狂っちゃったんだ、私……… そう分かった瞬間、真っ白だった頭の中がすっきりと晴れていった。 「ふふっ、あははハはっはハハッ」 笑いが止まらない。 だって…私、狂ってるんだから。 もう、トウマのことしか考えられない。 他の事なんてどうでもいい。 トウマさえ手に入れば、私は世界一の幸せ者になれるんだ。 だから…… ―――――他の『モノ』なんて要らない…………………必要ない……… 私に必要なものはトウマと私だけの世界だけ。 その世界を、絶対に………………… …………………手に入れてやる。    ・          ・ 夜が明け、一日が始まる。 結局あれから一睡もできなかった。 「シリル………」 あの時は言い過ぎてしまった、と反省している。 昼過ぎにでも、謝りに行こう…… そう決めて、俺はベッドの上に横になったまま考え事をしていた。 シリルは、事実上夜這いという形であるにしろ俺を襲った。 俺は、それにどう応えればいいんだろう……? 期待に応える? それじゃ駄目だ、意味がない。 シリルの機嫌をとりつつ貞操も守れる言い訳を考えないと。 ……どうしたらいいんだよ……… そんな事を延々と考えながらベッドの上で頭を抱え込む。 ………気が付けば、もう昼飯時だ。 「行かなくちゃ、な………」 俺はベッドから降りて歩き出す。 シリルの部屋がある西塔の階段前に来る途中に制御ルームを経由したのだが、制御ルームには何故か誰もいなかった。 気になって居住フロアにも下りてみたが、そこにも誰もいなかった。 他の皆は何か用事があったとしても、ゼナスとジラまでいなくなってしまうのは何かおかしい。 もしかしたら、シリルもいなくなっているのではないだろうか。 心配と不安に押されるように俺は足早にシリルの部屋に向かう。 部屋の前まで一気に駆け上り、部屋の中にシリルがいてくれることを祈って、 「シリル……ちょっといいかな?」 と扉越しから呼びかける。 ……僅かな沈黙の後、部屋の中から、 「トウマ? 入ってきて」 と返事があった。 そのシリルの声は俺が予想していたよりも明るい声で、俺は“ほっ”と胸をなでおろし、安心して部屋の扉を開ける。 そして、部屋の中に一歩踏み込んで……… 「―――えっ?」 ………俺は、自分の目を疑った。 「来てくれたの? うれしいっ、ありがと、トウマぁ」 シリルがにこやかに駆け寄ってくる。 しかし、俺の視線はシリルには向けられず、シリルよりも奥、部屋の奥にある『モノ』に釘付けになっている。 何処にもいないと思っていたら、みんなこんな所にいたのか……… ゼナスも、 ジラも、 ガドフォールも、 メーベルも、 アミタリリも、 ファークリンも、 ドゥーガも、 ガリュウも、 アバロンも、 みんな………みんな、『モノ』になっていた。 この部屋の奥で………みんな……… ……………氷漬けにされていた。 この部屋は肌寒い。 冷気がもうもうと立ち籠めているし……………何より、目の前に広がる光景が悲惨すぎるからだろう。 それを気にも留めずに両腕を広げて俺に抱きつこうとしてくるシリルを俺はほとんど無意識のうちに回避して、 「あれ……みんな、なんであんなふうになっちまってんだ………?」 とシリルに問いただす。 すると、シリルはからからと笑いながらこう言った。 「なんでって、夜這いのことみんなに話したのよ。 そしたらね、みんな『シリルが悪い』とか『考え直せ』とか言うからさ―――」 「………だから……?」 「―――うるさかったから、黙らせたの」 ……シリルは……… ……コイツは………っ! ―――――何もかもが、狂ってる!! 「―――何考えてんだよぉぉぉぉっ!! シリルーーーーーっ!!」 ―――怖い。 シリルが怖い。 シリルから一刻も早く離れたくて、俺は全力で逃げ出した。 後ろからシリルが追ってきている気がするが振り返らずにただ走った。 制御ルームまで逃げてきて、何処でもいいので転送システムを使ってジオフォートから脱出しようとして……… 「転送システムは停止させてあります」 と、シリルのものではない聞き慣れた声に言われて振り返るとそこにはアダムがいた。 「なら起動させてくれ、早く!」 とアダムに頼んだのだがアダムはそれを無視し、 「マスターシリルの命令により捕獲します」 と言って背後から俺の両腕を掴んだ。 まさかアダムに裏切られると思っていなかった俺は慌てて、 「っな、何すんだ!?」 と叫ぶ。 すると、 「薄情よね。 聖剣が一本になって私の物になって以来、トウマのことを『元マスター』って呼んでたのよ、アダムは」 と、追いついてきたシリルに説明され、俺は一気に絶望した。 転送システムは全て停止させられ、アダムはシリルの言いなりになり、俺はこうして捕らえられている。 残された希望は……………無い…… 「シ……シリルっ、お願いだ、もう止めてくれぇっ!!」 俺が必死に懇願する。 が、シリルは妖しげな笑みを浮かべて俺にゆっくりと歩み寄り……… 「トウマ…………私だけのものになって……」 と言って、小さなカプセルを口に含んで俺にキスをした。 シリルは口に含んだカプセルをキスをしながら俺の口に移し、俺はシリルの唾液と共にカプセルを呑み込まされた。 その後もシリルからのディープキスは続いて、アダムに捕らわれたままの俺の身体を細い腕で強く抱きながら 執拗に舌を絡ませてくる。 「んぐぅ……」 必死にもがくも今の俺はとても無力で、どうしてもシリルに逆らえなかった。 やがて、 「………ぷはっ」 と息を吐きながらようやくシリルは俺から離れて、それでも自分の口を軽く舐めながら俺に視線を向けている。 その瞳の中にあるのは………相変わらずの色欲の期待だろう。 しかも、依然とは比べ物にならないほど純粋な欲望の期待で。    ・          ・ あと少し……… あと少しでトウマは私のものになる。 他の誰のものでもない、私だけのものに。 「シリル……何を、呑ませた…?」 ―――あぁっ! たまらないっ……!! トウマの自由さえ思うがままの今の私がっ!! ………さて、それはさておき、そろそろ“効いてきた”頃かな。 「アダム、トウマをトウマの部屋まで連れていって」 私はアダムにそう命令し、一足先にトウマの部屋に駆けていく。 トウマの部屋に着いてから手早くベッドの周りの物を退かせて十分なスペースを確保し、同時にベッドメイキングも済ましておく。 そして程なくして上がってきたトウマ達をベッド横に立たせ、 「アダム、下がって。 ついでにドアの鍵も閉めていってね」 と言って部屋の中を完全に二人きりの空間にした。 「………シリル……ぅうっ!」 さっきまで暴れていたトウマが私を見たまま一歩も動かないでいる。 これはさっき呑ませたカプセルが完全に効いてきた証拠だ。 「トウマぁ、さっき何呑ませたか教えてあげようかしら?」 そう言ってトウマと視線を合わせる。 トウマの今の瞳は………多分、私と同じだ。  「さっきのはね……………媚薬よ」 「―――っ!!」 一瞬、トウマの身体が“ビクンッ”と動いた。 ………ふふっ、驚いてる。 でも、もう未来は決まったの。 ………トウマは私と生涯を共にする。 ………ここは、私とトウマのための城になる。 私はベッドに腰かけ、コートの上着を脱いで薄着になり、トウマの方を向いて両腕を広げた。 薄着になってボディラインがはっきりとした私の太腿や胸をトウマが恥ずかしそうに気にしているのが見えて、 「…ねっ、したくなってきたでしょ? おいで、トウマ………」 とトウマを誘惑した。    ・          ・ 頭がぼうっとする……… さっきまでとても怖かったのに……今はシリルのことが…… ………シリルの身体がとても気になる…… 「…ねっ、したくなってきたでしょ? おいで、トウマ………」 シリルが呼んでいる。 行きたい…… イきたい…… いきたい……? 本当に……? このまま行ってかまわないのか……? このままイってかまわないのか……? ……分からない… ……判らない… ……解らない… ……シリル…… ……好きだよ……でも……… 俺は……このまま君を抱いてしまうくらいなら…… こんなことでここまで悩むくらいなら…… ……俺は……… 逝きたい……… 「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 力の限り叫び続ける。 訳も分からず走り出す。 「っ!? トウマっ!?」 シリルが何か言っているがもう何が何だか分からない。 …もう………何も分からない………    ・          ・ 「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 トウマがいきなり叫びだした。 叫びながら、トウマは何処かへ走り出す。 「っ!? トウマっ!?」 そんな私の呼びかけにも応えずにトウマはただ逃げるように駆けていく。 私も去っていくトウマを追いかけるが…… ………何故? まさか…媚薬を呑まされても、トウマは葛藤し続けたというの……? そんな……!? トウマはバルコニーの方へと走っていく。 そこなら先は行き止まりだ。 さっさと追いついてもう一押しでもすればきっとトウマは私に落ちる。 ……きっと… …………きっと!! それは賭けだ。 しかし、ここまできたからにはやるしかない。 私はトウマの後を追ってバルコニーまで出て……… 「―――っ!?」 …信じられない……っ! トウマはバルコニーから身を乗り出し…… 「トウマぁぁぁぁぁぁ!!」 私が急いで駆け寄るも間に合わず……トウマは…… ………落ちていった。 「―――っ!! トウマっ!?」 私はトウマがさっきまで立っていた場所に駆け寄り、身を乗り出して落ちていくトウマを見て、 「トウマ……っうあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 私もトウマの後を追って、跳んだ。 …今、私とトウマは空中にいる。 私は何とかトウマに追いつき、トウマを抱き寄せる。 「ああぁ!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 私の腕の中で叫び続けるトウマを強く抱いて………私たちは、落ちていく。 幸い、下は海だ。 運が良ければ、もしかしたら…… そんな望みの薄いことを考えてしまう。 でも…… 仮にここで死んだとしても、トウマとなら……… 私は死を覚悟して、叫び続けるトウマを一層強く抱いて…… ……………着水。 意識は……有る! 身体は……動く! トウマは…………… ……いない!? 私は水中でもがきながらも、視界は悪いが辺りを見回す。 そして、何か沈んでいく影が見えた。 息苦しさにもかまわず、私はその影を目指して深く潜っていく。 深く、深く、深く……… 大分潜って、ようやく掴んだそれは………確かに人の手だった。 もう二度と離してしまうことのないようにしっかりとその手を掴み、海面を目指す。 海面は遠く、それに息苦しさも限界に近いが、私は決して気を失うまいと必死に泳ぎ続けた。 そして……… 「―――――ぷはっ!!」 無事に私は海面に浮上し、空気をおもいっきり吸った。 それから、今度は必死に岸まで泳いだ。 トウマの意識は無く、危険な状態であったために私は焦って泳ぎ続けた。 その途中で私たちの反応を感知したアダムが送りつけた量産型ロボ達に助けられ、なんとかジオフォート内部にまで戻ることはできた。 「トウマぁ!! しっかりして、トウマぁっ!!」 意識の無いトウマに必死に呼びかけながら私は何度も人工呼吸を繰り返した。 ―――まさか、こんな形でトウマと口付けするとは思ってもいなかったが……… そうしてトウマはやっと水を吐き出したが相変わらず意識が無いうえに衰弱が酷く、今度はリペア装置での回復を待つこととなった。 私はずっとトウマに付き添い、トウマが目覚めるまでずっとトウマを見ていた。 そして、リペア装置で治療を開始して六時間後……… 「……………ぅ………」 という声が聞こえ、私は静かにトウマの手をとった。 「トウマ………?」 私の呼びかけに応えたのか、トウマは身を起こしてゆっくりと辺りを見回し、そして、 「ここは………?」 と小声で呟いた。 私はトウマを失ってしまうのがとても怖くて…そして、こうして目を覚ましてくれたのがとても嬉しくて……… 「トウマ……っ! トウマぁぁぁぁぁ!!」 トウマを力いっぱい抱きしめた。 するとトウマは私の顔を見て、次に側にいたアダムの顔を見て、そして辺りを見回して…… 「ここは…何だ?」 「―――え?」 一瞬、トウマが何を言ったのか分からなかった。 私はトウマと顔を見合わせ、お互いに視線を合わす。 しかし、その後にトウマが発した言葉は、 「君、誰だ?」 だった。 今のトウマについて分かった事といえば――― まず、完全に記憶を失ってしまっている、ということ。 そして……… ………過去の自分を思い出そうとして、私を頼ってきていること。 トウマは、以前の自分を私が知っている、と考えている。 そして、それを信じきっている。 いわば、私がトウマの記憶となりえるのだ。 とりあえず、今日はトウマを休ませてあげよう。 私はトウマを彼の部屋まで送り、ベッドに寝かせて部屋の照明を落とした。 「おやすみ、トウマ」 「おやすみ、シリル」 そんな今日限りの別れの挨拶を済ませ、私はトウマの部屋を出てドアを閉めて――― 「………ふっ…ふふふ……あはっ、あははははははは……」 思わず笑ってしまった。 いや、これが笑わずにいられるものか? 何故なら……… 私がトウマの全てなのだから。 だから――― これからは………私の思うがままにトウマを『私色』に染められる…………… これで……………トウマは、完全に私のものになるのだ………! まずはアダムに私の部屋にある邪魔な『モノ』達を全て跡形も残らないように処分させた。 『アレ』を見られて下手に記憶を取り戻されては困るからだ。 ……さて、後は私の自由だ。 私が「前からずっとやっていた」とさえ言えばトウマは私を抱くだろう。 それだけじゃない。 トウマをジオフォートに閉じ込めるのも、 トウマに私を愛させるのも、 全て私の思うままなのだ。 こうして、私の望みは全て叶った。 トウマが手に入って、二人だけの世界も手に入って……… ………私は、幸せ者だ。 …明日から早速抱かせよう。 ずっと……ずっと待っていたんだから。 正常位は………もちろんやる。 フェラチオも良いかもしれない。 アナルセックスもやってみたい。 できることは何でもやる。 あと、避妊も。 妊娠しちゃったらしばらくできなくなっちゃうから。 何からしよう? 何からやらせよう? 何て言ってやらせよう? 考えてるだけで楽しい…あぁ、楽しい……! 「あはっ、あはははははははっ……………あは~……」 私の笑いは狂ったように止まらない。 だって……明日から、私の望んだ世界で生きられるんだから。    〈了〉

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