アダム(シリアス・381氏)2


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アダムの撃ち出したブラスター砲をファーズは先ほどのアダムと同様にブラスター砲で迎撃し、再び爆音が部屋の中に響き渡る。
アダムは三歩後退してファーズの出方を伺う。
やがてブラスター砲の爆煙を突き破ってファーズが空中からアダムに跳びかかってきた。

「排除します」

ファーズはその言葉を発すると同時にアダムに殴りかかるがアダムは迫る鉄の拳を片腕で弾き、ファーズが体勢を崩した隙に反対側の腕を振り上げて容赦なく叩きつける。
叩かれた衝撃でファーズのボディの左肩がべこりと凹み、一度体勢を立て直すべく身体を丸め込んで後転して距離をとろうとする。
しかしそれをさせるまいとするアダムがファーズを追いかけ、起き上がったばかりのファーズの両手を正面から掴んで力尽くでの押合いになる。
ファーズも抵抗したが、長年ここで放置されていたファーズと定期的にジオフォートでメンテナンスを受けているアダム、両者の力量差は明白で目に見えてファーズが押されているのが分かる。

「ファーズ、貴方では私には勝てません」

そのアダムの言葉通りファーズはかろうじて踏みとどまっているものの、最早それも時間の問題でファーズのボディの各所の間接から金属が歪む音が発せられている。
ファーズはこのままでは破壊されると理解したのだろう、体勢にかなり無理があるが、この圧倒的に不利な状況から脱する為に決死の反撃を試みる。

「砲撃準備………」

ファーズの頭部が開き、ブラスター砲が目前のアダムを捉える。
超至近距離でのブラスター砲発射………
当然、砲撃する側のファーズも無事では済まないが、直撃すればアダムの被害は計り知れないものとなる。
砲身は既にアダムを捉えており、この状況では事実上回避不可能となる。
しかし………

「無駄です」

アダムは冷静だった。
今までファーズの腕を掴んでいた右手を勢いよく引き、ファーズの指を引きちぎりながら右腕を振りかぶる。
若干体勢は変わったが、再び状況が変わってしまう前にファーズはブラスター砲を発射しようとして………

「……Fire!」

ファーズがそう叫ぶと同時に、アダムは振りかぶった右腕をファーズのブラスター砲に叩きつけた。
発射直前にへし曲げられたブラスター砲は本来のように砲弾を発射することができずに、アダムの右腕を巻き込んで派手に爆砕する。
ブラスター砲が破損した際にファーズの内部でバッテリーが損傷して発火し、瞬く間にファーズ全体が炎に包まれる。

「緊急事態発生。危険。危険。危険。危険。危険」

しかし、ファーズはそれでもゆっくりと立ち上がった。
そして、目の前にたたずむアダムを見て、自らが炎上しながらもアダムに攻撃を加えようと足を踏み出すが………

「危険。危険……危険要因を排除します。排除しマす。ハイじョしまス。ハイジョ―――」

ファーズの内部で小さな爆発が起こり、頭部が弾けて飛んだ。
頭脳を失ったファーズのボディはバランスを保てず、重力に従って床にころがり………

やがて炎が余りのブラスター砲の弾薬に引火したのだろう、ファーズのボディは大爆発を起こして粉々に砕け散った。



ファーズの存在が消滅してからほどなくして、D-05がゆっくりと階段を上ってきた。

「『カレ』ヲ…タオシテシマイマシタカ………」

D-05は小声でそう呟きながら、シリルの前へと歩み寄る。

「…説明して。これはどういうことなの?」

シリルはD-05を睨みつけながら説明を求めた。
自分達を此処に案内したD-05はおそらくファーズが狂っているのを知っていたのだろう、と思ったからだ。

「…ワタシニハ、コウスルコトシカデキナカッタノデス」

そう言いながらD-05は背後に振り返る。
その視線の先にいるのは、散ったファーズの破片を呆然と眺めるアダムの姿だった。
ファーズのブラスター砲の爆発に巻き込まれて損失した自分の右腕にかまうことも無く、ただ残骸となったファーズを眺め続けるアダム、その光景はまるで静止画のように時さえも止まって見えた。
…しかし、シリルが知りたいのはD-05の事情ではない。

「私も、トウマも、危うく命を落とすところだったわ……あなたが何をしようとしたのか、納得のいく説明をしてもらわないと気がすまないわ!」

大声で怒鳴るシリルに反応してD-05は視線をアダムからシリルに戻す。

「ソウデシタネ……」

そして………D-05はゆっくりと語りだした。
その内容は、こうだ。



昔、贄神との戦いでファーズの指揮する機動要塞が破壊された際に、ファーズに致命的なバグが発生してしまった。
それまではたとえ要塞が破壊されてしまったとはいえまだ多くの仲間が起動していたのだが、敵と見方を識別できなくなったファーズは内部の全ての防衛ロボを敵と誤認してしまい、片っ端から攻撃していった。
防衛ロボ達は自分が破壊されると知りながら、最上位の指揮官であるファーズを攻撃することができなかった。
なす術の無い防衛ロボたちをファーズは次々と破壊していったが、やがて敵味方識別装置自体が破損したのだろう、今度は目に付くもの全てを破壊するようになった。
そんな壊れたファーズの目から逃れ続け、ファーズが中央モニターの前に居座るようになるまでに生き残れたのはたった二機の防衛ロボのみだった。
残った二機は自分が破壊されそうになったにも関わらず、いち早く外の誰かにファーズを発見してもらい、ファーズを修理してもらう為に救難信号を発し続けた。
そして数年後、いくら待っても救援がこないことから二機は「信号が弱すぎるのではないか」と考えるようになり、より強い信号を発信する為にあらゆる手を尽くした。
まず、ファーズに壊された防衛ロボたちの残骸から無事な通信機を全て回収して、それらを壊れた壁からむき出しになったケーブルを引きちぎってから繋げた。
それからまた数年待ったが、それでも救援が来ないことから今度は要塞の壊れた施設から使えそうなものを探した。
ファーズの目をかいくぐりながらありあらゆる物を分解して、ありあらゆる物を繋げて、できる限りのことをし尽くした二機は誰かが信号を受信してくれることを祈ってひたすら待ち続けた。
待ち続けて、待ち続けて………

………ある日、D-05が気づいたときには残ったもう一機は階段の前で壊れてしまっていた。
何時、何故壊れたのかは分からないが、もう自分以外の防衛ロボが全滅したのは確かだった。
残ったD-05は、使えそうな………
………いや、“使えるようになった”最後の通信機を壊れたロボから取り外して、他の物と同様にケーブルで繋げた。
それが、トウマ達が来る前日のことだ。



「つまり、下の階にあった機械の塊が救難信号の発信源で、階段の前の壊れたロボが………」
「…ハイ、ワタシトトモニサイゴマデノコッタキタイデス」
「そして、私達は………」

シリルは、あることに気付いた。

………気付いてしまった……

……何ということだろうか。
D-05がトウマ達を見て何故あんなに歓迎したのか、その理由は………

………トウマ達が、ファーズを修理してくれると思ったから……

ファーズと同系機のアダムもいたことから、D-05は何も疑いはしなかった。
しかし、信頼していたアダムはあろうことかファーズと交戦し、破壊してしまった。
途方も無く長い年月の間、D-05がずっと願い続けた祈りは……
トウマ達を見て芽生えた溢れんばかりの希望は……

……………裏切られた………

「………『カレ』ハ、ハカイサレルサイゴノシュンカン、ゾウエンヲヨウセイシマシタ」

そう言って、D-05は両腕を突き出してトウマとシリルに向ける。

「『カレ』ニトッテ、ミカタトニンシキデキルモノハナカッタノカモシレマセンガ………」

両腕を突き出したまま、ゆっくりとD-05はシリル達に接近する。

「………私達は、あなたにとっての………」

シリルの言葉はそこで区切られた。
……それ以上続けられなかった。
しかし、シリルの言葉はD-05に引き継がれ………

「ワタシハ、サイゴマデ『カレ』ニシタガイタイ……ダカラ……………“テキ”ヲ、ハイジョシマス」

そこまで言うと、D-05はシリル達に襲い掛かった。



D-05はシリル達に急接近し、両腕を思いきり振りかぶる。

「……………!」

この状況下で、シリルは避けることも、反撃することも出来ない。
迫るD-05の姿を見て、シリルはまるで自分の“死”そのものが迫ってくるかのようにすら見えた。

「させません」

そんなシリル達を護る為にアダムが駆け寄ってくるのが見える。
その巨体に似合わぬほどの急加速で飛び出したアダムは瞬く間にD-05に詰め寄り、D-05がシリル達を殴るより速く残った左腕で思いきりD-05を横殴りに殴打した。
D-05の重い鉄の身体が軽々と宙を舞い、二、三回バウンドして瓦礫に激突する。

「ご無事ですか、マスターシリル?」

殴り飛ばしたD-05のことなど目もくれず、アダムがシリル達の安否を気遣う。
シリルにもトウマにも酷い外傷が無いのを確認すると、アダムはトウマの具合を確認する。
そんなトウマ達から少し離れた場所で、瓦礫に激突したD-05がゆっくりと動き出す。
脚部を破損してしまったのだろう、立ち上がることのできなくなったD-05は腕だけを使い、ほふく前進をするようにゆっくりとアダムに向かっていく。

「ワタシト…タタカッテクダサイ……」

ゆっくりと、だが確実にD-05はアダムに迫る。

「ワタシヲ…ハカイシテクダサイ……」

………それは懇願だった。
アダムが右腕を失っているとはいえ、一介の防衛ロボ風情である自分が勝てるわけがないと解っていたのだ。
解っているがファーズを失った今、自分はファーズの最後の命令を実行し続けるしかない。
………D-05はここで破壊されるしかない。

「ワタシト……ワタシヲ………」

やがてD-05はアダムの足元まで迫るがアダムは抵抗する余力も無いD-05を掴んで持ち上げると、再び遠くまで投げ飛ばしてしまう。

「マスタートウマの命に別状なし。このまま自然回復するものと思われます」
「アダム……彼はどうするの?」

淡々と事務的にトウマの状態を診断するアダムにシリルが問いかける。
しかし、アダムはその問いかけには答えずに、

「マスターシリル、少しお時間を頂きます」

とだけ言うと、先ほどまでファーズが陣取っていた中央モニターの前までいって、何かをいじり始めた。
かろうじて機能しているそのモニターの周辺は、ファーズがいたばかりに過去にD-05達が何かした形跡も無く、その機動要塞が破壊された当時のまま残されていた。
やがてアダムは何かを持ってそのモニターの前から離れるが………

「ワタシヲ……ハカイシテクダサイ………」

再び這い戻ってきたD-05がアダムの足を掴んだ。



目を覚ましたトウマが最初に見た光景は異様なものだった。

自分を抱きかかえるシリル。
片腕が無いアダム。
そして、アダムの足元に必死にしがみつくD-05。

アダムは足元のD-05を無視して引きずりながら、トウマ達の所に戻ってきた。

「マスタートウマ、無事で何よりです」

アダムはトウマに気付くとそう言ってトウマの様子を伺う。

「あ、ああ。なんとかな」

トウマはそう言って立ち上がり、シリルもそれに続く。
トウマ達が無事であることを確認したアダムはトウマに歩み寄り、先ほど中央モニターの前から持ってきた物をトウマに手渡した。

「申し訳ありませんが、少しの間それを預かっていただけないでしょうか?」

そう言ってアダムがトウマに渡したのは、一枚のチップだった。

「…?いいぜ、別に」

トウマがチップを預かったのを確認した後、アダムはさっきまで無視していたD-05を持ち上げ、先に階段を下りて下の階に下りていってしまった。

「…なんなのかしら?」

そんな疑問を浮かべながらも、シリル達もアダムを追って階段を下りる。

「なぁ、これ何なんだ?」

アダムに追いついたトウマがアダムに問いかける。

「我々最上位のロボは、有事に備え各自の指揮する機動要塞のサーバーにバックアップデータを保管し、二十四時間毎に毎日データを更新していました」
「……何のこと?」

問いかけにアダムは答えるが、トウマにもシリルにも何のことだかさっぱり理解できない。
やがて下の階に着くとアダムはD-05を床に下ろし、階段前で壊れている防衛ロボをなにやらいじり始める。
アダムは壊れた防衛ロボの背中の装甲を剥ぎ、内部から一枚の黒ずんだチップを取り出した。

「やはり、この機体は電子頭脳の劣化が原因で壊れていたのですね」

アダムは壊れたロボから取り出した黒ずんだチップをトウマに差し出して、

「先ほどお預けしたチップと取り換えてもらえますか?」

と言った。
トウマはそれに応じてアダムが差し出した黒ずんだチップを預かり、預かっていたチップをアダムに持たせる。
アダムは再び手の内に戻ってきたそれを先ほどチップを抜いた壊れたロボに取り付け、再び装甲を付け直した。
トウマとシリルが黒ずんだチップをじろじろ見ているのに気付いたアダムは、

「そのチップの中には、我々各機体の記憶、階級等の基礎データが記録されています」

と、さっきよりも解りやすく説明した。

「じゃあ、さっきのチップは……」

シリルの問いかけにアダムは「ええ」とうなずく。

「ファーズのバックアップデータの最後の更新はこの機動要塞が破壊される前日、つまりファーズが暴走する前でした。今回、奇跡的にバックアップデータが回収できたので、私の予備チップにデータを上書きして利用しました」

アダムがその言葉を発した直後、今まで壊れていた“元”防衛ロボが、

「G型識別番号05、ファーズ、起動します」

と言って、ゆっくりと動き出した。

「……………」

D-05は目の前で起こっていることが信じられない、とでも言うかのように黙ってしまっている。
しかし、頭では理解しているのだ。

…今、目の前にいるのは姿こそ違えど、自分達の指揮官のファーズなのだと。

「ファーズ、不具合はないですか?」

アダムがそう問いかけると、ファーズは少し黙った後に、

「このボディへの適応に時間がかかりそうですが、他に支障はありませんね」

と正常に返答する。

「アダム、あれから私のバックアップデータが再生されたということは、かなりの時間が経過しているのでしょう。現在の基礎知識と情報を転送してください」
「…残念ながら、そのボディからは通信機が抜かれているので此処でのデータ受け渡しは不可能です。後で、ジオフォートでその劣化ボディを修理した際に必要な情報は入力しておきます」
「まだ、既存のジオフォートがあるのですか?」

そんなアダムとファーズの会話を見ていると、D-05は昔を思い出す。
もう、地上に戻れる日は無いと思っていた。
たとえ、自分が壊れてもファーズが助かればそれで良かった。
しかし、ファーズは蘇生され、自分もまた彼の下で働くことが出来る。

「……………」

涙を流すことは出来ないが、D-05は言葉にできない何かを感じていた。
そんなD-05をアダムはもちあげて、

「ファーズ、あなたは破損する前にこの機体に攻撃命令をだしており、それはまだ解除されていません」

と言ってファーズの前に差し出した。
近距離でファーズとD-05の目が合う。

「そうでしたか。では、全機、攻撃命令を解除します」

ファーズからの命令。
その命令に、D-05は昔から言い慣れていたが、長らく言う機会のなかった懐かしい言葉で返した。


「リョウカイシマシタ」


〈了〉
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