2007/02/26(月) 02:47:24 ID:DxvYT3HD
「……んあ~」
朝、ジオフォートの微かな駆動音で目が覚め、欠伸をした。
ベッドから立ち上がり、バルコニーへ向かう。
「うーん、やっぱジオフォートから見る朝日は最高だなぁ!」
誰に言うでなく、一人ゴチる俺。
「……何独り言言ってるのトウマ?」
「うわっ!……って何だ、シリルか」
「そんなに驚かなくて良いじゃない」
クスクスと可笑しそうに笑うシリル。
馬鹿にされているのに、可愛い、と思うのは惚れた弱みってヤツかな?
「いや、俺此処で誘拐とかされたじゃん?
だからさぁ……」
「あ……ゴメン」
本当に申し訳無さそうにうなだれるシリル。
「……プッ!ギャハハハハ!
嘘、ウソだって!
俺がそんな事気にする訳ないだろ?」
「アッ!……トウマの嘘つき!!!」
怒ってそっぽを向くシリル。
「これでおあいこな?
ってーか、何しに来たんだシリル?」
「い、いや…ただ起こしてあげようかと思って」
「へぇ口ホントにそれだけ?」
「ほ、ホントよ?
あ!ご飯作ってる途中だった!
もう直ぐご飯出来るから、早めに食堂きてね!」
シリルが何か隠している気がしたけど、上手くはぐらかされてしまった。
……ま、いいか。
そのまま、朝日を眺め続ける。
そういや、贄神を倒してから、もう半年かぁ…。色々あったなぁ……。
魔族と人間族との永久平和条約の調印やら、聖剣シャイニングフォースの主、俺とシリルが、世界英雄になったり。
また、それの記念パーティーやら、記念パレードを世界中の都市で行ったり。
あっという間の半年だったけど、色々あったなぁ…。
最近では、魔族の長のアイツが────。
「……トウマ?トウマはおるか?」
ふと、俺が回想をしていると、ジオフォートの中から俺を呼ぶ声がした。
「どうした?」
バルコニーから中へ入ると、
ふわり、と俺の目の前に、紅の髪に、それに似た色の蝶のような翼を持った額に角が生えている美女が降り立った。
「おぉトウマ、そこに居ったのか」
「あぁ、朝日が綺麗だと思ってさ…」
「ふむ……確かに」
俺の後ろの朝日を見て頷く美女。
「それはそうと、朝食の準備が出来たようじゃ、早よう参れ」
「わかったよ……『リームシアン』」
そう、リームシアンがジオフォートに住み始めたんだ。
始まりは突然だった。
リームシアンが家来も(腹心であるルルネーゼルすらも)連れずにやって来て、
「我が居城であるクリムゾンパレスが再建するまで住まわせてくれぬか?」
と言ってきた。
当初の予定では、ラグナダームの飛行船に住む予定だったので、何でそうしないか尋ねると、
「あのような暑苦しい男の船になど乗っておられるはず無かろう」
と一蹴された。
それでは、何故このジオフォートに住もうとするのか?、と訊くと、
「……ここに来たのは、決着を付けるためじゃ……」
と言った。
俺は、(決着、って……決闘でもけしかけてくるつもりか……?)と訝しみながらも、リームシアンがジオフォートに住む事に賛成した。
しかし、シリルが猛反対して、リームシアンと一触即発の状態までになったが、リームシアンが、ジオフォートに住む代わりに、魔族のトップにしか閲覧を許されない『魔族秘史』を貸し出す。
と言うと、シリルも渋々了承した。
そんなわけで、半月ほど前からリームシアンはジオフォートに住んでいる。
初めは多少ぎこちない感じだったものの、今ではすっかりみんなにとけ込んでいる。
アミ公やファー公に姉の如く慕われている様を見ていると、とても微笑ましく思う。
幼い子供に慕われるほど、良い統治者なのだなぁと思った。
……と、考え事もこの位にして、俺は食堂へ向かった。
「ふぃ~腹一杯だぁ」
食事の後、再び部屋に戻ってきた。
朝から少々食いすぎた気のある腹をさすりながら、バルコニーへ出る。
平和になってから、暇さえあれば、バルコニーに出て、外を眺めている。
森や山、太陽や空、剥き出しの大地、そんなものを眺めていると、自然と心が落ち着くからだ。
そこらへんはやはり、自分が山岳民族で育ったことに起因しているのだろうか?
そんな事をぼんやり考えながら空を眺めていると、大きな鳥のような生き物が近づいてきた。
段々と大きくなるそのシルエットに、見覚えがあると気づいた
ルルネーゼルだ。
その鳥は急降下してきて、俺の目の前に着地した。
「これはこれはトウマ殿、いきなりで失礼ですが、リームシアン様がどこに居られるかご存知ですか?」
鳥から降りて、丁寧に尋ねてくるルルネーゼル。
「リームシアンなら、まだ食堂だと思うけど……」
「ありがとうございます」
これまた丁寧に謝辞を述べジオフォートの中に入っていくルルネーゼル。
リームシアンに何の用だろう?定期報告かな?
リームシアンがジオフォートにいる間、
代理として、ルルネーゼルが政治を執り行っているらしい。
ずっと前からリームシアンは政治をルルネーゼルに任せっきりだったので、なんら問題は起きていないようだった。
「女王の副官は大変だなあ……お前もそう思わないか?」
そう言いながらルルネーゼルを乗せてきた鳥を撫でてやると、嬉しそうにクルルル、と鳴いた。
「また独り言?」
突然、バルコニーの入り口の方から声を掛けられ、内心驚きながら、平静を装う。
「違う、コイツと語り合ってたんだよ」
「……ふーん」
撫でていた手を降ろすと、名残惜しそうにクルゥ、と鳴いた。
シリルが此方へ歩み寄ってくる。
「ねぇトウマ……」
「ん?」
「リームシアンの事、どう思ってる?」
「どう……って?」
「それは……その、個人として、どうなのかな…って思った…から……」
「個人として、かぁ……
……いい奴だと思うぜ?でなきゃ、幾ら強かろうが、あんなに魔族の人達に支持されねぇって」
自分の感想をありのまま伝える。
何故か不満そうなシリル。
「そうじゃなくって……女の人として、どう思ってる?」
「そりゃあ、綺麗だな……って……」
「……馬鹿!!!」
突然、俺を罵倒して走り去って行った。
何だったんだ?一体……。
俺はいつまでも、頭に『?』を浮かべたままだった。
第一章『prologue』終わり
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最終更新:2008年12月06日 16:06