第2章第3話「襲来」

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執筆者:岡島 22:35 下水道 暗く静まり返った下水道、そこにフロストの姿があった。その手には携帯端末が握られている。 実は13号にはラビリンスによって発信機が付けられていて、その端末には13号の位置が表示されている。 「連中は引き揚げたか・・・・・・」 彼女が到着する少し前まで、Gのエージェント達が13号の探索の為いたのだが、 全員、引き揚げたので今はだれもいない。 「それにしても、いやな感じだな」 彼女も得体のしれない何かを感じ取っていた。だが彼女は、それを無視し任務を優先させた。 しかしながら、地下では電波が悪いのか、時折、位置を見失う事があり、 神羅月菜を見つけるのに少々手間がかかった。 「いた・・・」 ようやく、通路に座り込む月菜を見つけた。そしてフロストが月菜に近づくと 月菜はゆっくりとフロストの方を向き、苦しそうな声で言った 「てめぇは・・・・」 その様子を見たフロストは 「まだ生きているか」 と呟く。 月菜は片腕を失い、そこを無事な右手で抑えながら、両足を伸ばした状態で地面に座っている。 その体は傷だらけ、だがどうにか生きていた。 フロストは彼女の側まで来ると、懐から注射器と小瓶を取り出す。 ちなみに小瓶はバイアルというガラス瓶にゴム栓をした注射剤(注射器などを使い投与するための薬) の入れ物で、フロストはゴム栓に注射針を刺すと、中の薬を注射器に吸い取る。 そして、一定量になると注射器を瓶から外し、それをすばやく彼女の首筋に突き刺した 「な・・・なにを・・・・・」 と彼女は声を上げるが、フロストは 「心配ない、治療薬だ」 といったが、確かに治療の効果があるが厳密は治療薬ではない。薬を注入すると、すばやく針を抜き ネクロマンサーからいわれたとおり直ぐに、その場から立ち去った。 実は、フロストはこの薬を、似たような形で使ったことがある。 なのでどれくらいの量をどこに(この薬は体の一部分を除きどこに注射しても効果は出る)注射すればいいか などの使い方はわかっていた。 だが、その時は、「直ぐにその場から離れろ」という注意を無視したためひどい目にあったので、今回はそれに従うこととした。 しかしながら、今回は薬の効果が出るまで少々、時間が掛かった。 三日後 8:25 ボード学園、高等部2年C組教室 「はぁ・・・・・・・・・」 その日、私は学校に来たばかりだと言うのにかなり疲れていた。そして席に着くと 「あの・・・・・・・・・・大丈夫ですか・・・・・・・・志保さん」 と声をかけられる 「大丈夫よ、霧恵」 と私は返事をした そう、声の主は黒招霧恵。彼女もまた疲れているようで声も弱弱しかった。 あの日の事がきっかけになって、私と彼女、お互い、名前で呼び合うほど親しくなった。 と言っても、彼女は私の事を「さん」付けで呼ぶ。私は呼び捨てでいいと言っているんだけど・・・・・・ 「まさか“キャナ☆”さんがやってくるなんて・・・・・・」 彼女はまだ信じられないという様子だ 「それにしても、急な話ね・・・・・・・・・」 今日、学校に登校した私たちを待っていたのは、ものすごい数の人だかり、現場にいた知り合いに話を聞くと この学校の生徒で、売れっ子アイドルの“キャナ☆”が久しぶりにやってくるという。 そして、話を聞いた直後、彼女がやってきて、これでもかと言わんばかりの大騒ぎとなり、避ける間もなく、私たちは渦中に飲み込まれ どうにか、そこからの逃れた時には、私と霧恵はお互いヘトヘトになっていた。 もっとも、まだ騒ぎは収まってはおらず、クラス内は“キャナ☆”の話題で一色だった。 (そんな事よりも・・・・・・・) 私には、それ以上に気になる事があった。それは三日前のあの出来事。 あれ以降、何も起きていない。時間が経つにつれ、すべてが夢だったんじゃないかと思う事もある。 実際、現場にいたはずの霧恵も、あの時の事には一切触れようとしないし 幹也も佐由里さんも、三日前の出来事について話題にすることはない。 しかし、私は、あの時の出来事を完全に夢だとかたずける事は出来ずにいた。 だけど、あれが現実だったら・・・・・・・ 「志保さん・・・・・・」 「えっ!」 霧恵が心配そうな顔で私を見ている 「なに?」 「いえ・・・・・その・・・・深刻そう顔をしていたんで、気になって」 「そう、特に何もないけど」 彼女に、あまり心配をかけたくなかった私はそう言って誤魔化した。 7:35 G支部、指揮官室 支部内にある指揮官用の自室で朝食をとりつつアリシアは、報告書に目を通していた。 報告書には「人造守護神 第3号に関する報告」と書かれている。 しばらく、それに目を通した後、机の隅に置き 「ふう・・・・・・・・」 と一息つくと、今度は別の報告書に目を通す。それは神羅月菜に関する報告書だ。 この三日間、状況に変化はなく、今日まで下水道の探索を行っていて、今日も行う予定だ。しかし未だに月菜の発見には至っていない。彼女がかなりの怪我を負っているのは明白だが 今も、生きているのか死んでいるのか全く分からない状況が続いている。 報告書を読み終えると、アリシアは、外の空気が吸いたくなり、部屋を出で、 出入り口に向かおうとしていた時 「おはようございます、予知者」 と支部の職員に声をかけられる 「おはよう」 と返事をすると、職員が 「ちょうどよかったです。少しよろしいでしょうか?」 「なに?」 この職員は、ちょうどアリシアにある事を伝えるために、彼女の部屋に向かう途中だった 「今しがた、『処刑者』から街に到着したとの連絡が入りました」 「そう、予定どおりね」 この街に来た翌日、彼女はGの日本支部に、連絡を取り、13号とは別の任務で 一人のエージェントの派遣を要請した。 ただそのエージェントは既に別の任務に就いていた為、その任務の終了を待たねばならなかった。 そしてエージェント到着の報告を聞いていた。その時、別の職員が血相を変えて走ってきた。 「大変です予知者!」 突然の事に、普通なら驚くところだが予知者は冷静に対応する 「どうしたの?」 そして、その職員から話を聞いた彼女は、さっきまでとは違い、驚きを隠せない様子で 「何ですって」 と言って、そこから走りだした。彼女の行先は医務室だった。 医務室には、動揺した様子の医療スタッフがいた。予知者が到着するとその中の一人が 「すいません、私が少し目を離したすきに、その・・・・・・・・・」 申し訳なさそうに言う。 実は医務室では、ある人物が怪我を負って療養していたのだが その人物が、まだ怪我が治っていないにもかかわらず、職員の目を盗んで居なくなってしまったのである。 そして、これがGにとって怒涛の一日の始まりだった。 7:45 路上 シンは、愛用のデジタルオーディオプレーヤーで音楽を聴きながら学校に向かって歩いていた。 そんな彼にボード学園の制服を着た一人の少女が近づいてくる。 髪は耳に被るくらいの長さでストレート、凛とした顔立ち、目つきは少々鋭く、威圧感を感じられる そして彼女は、シンに声をかけた 「シン・・・・・」 シンは、イヤホンで音楽を聴いていたが、その声を聞き取り、少女の方を向いた 「お前か・・・・・」 少女は気さくな様子で 「久しぶりだな」 と言った。それに対しシンは、特に表情を変えることなく 「何か用か」 とそっけなく、答える。 「特に用はないんだが」 と言ったのち 「今日からボード学園に通う事になった」 彼女の言葉に対し、シンは 「そうか・・・・・・」 と先ほどから表情を変えず、同じくそっけなく答える。 すると少女は、話題を変えるように 「何、聴いてるんだ?」 すると、シンは無言でプレーヤーのディスプレイを少女に見せつけた。 そこには、彼が今聴いている曲名と歌っている歌手の名が表示されていた。 「朱雀リンの曲か」 朱雀リンは最近、売れている女性歌手だ。そしてシンが聴いている曲は彼女も聴いた事がある。 この時彼女は、その曲に対する素直な感想を言った 「いい曲だな」 すると 「あいつの歌は最高だ」 さっきまで違って、どこか爽やかで、少々感情の籠った声で言った。 (初めて見たな・・・・・・) その様子を見ながら少女は興味深そうに思った。この後、二人は朱雀リンの曲に関する話をしながら、 一緒にボード学園に向かった。 そして、ボード学園に着いた二人を待っていたのは、ものすごい人だかりだった。 「何かあったのか?」 との少女の言葉に 「さあな」 とそっけなく返事をするシン、気になった彼女は近くにいた人に話を聞き“キャナ☆”が来る事を知った 彼女は、ふとこの事を話すと、シンがどんな反応をするか気になり、それをシンに話した。 「なんでも“キャナ☆”が来るらしい。そう言えば、彼女はここの生徒だったな」 「“キャナ☆”が、そうか」 とシンは興味が全くないと言わんばかりの様子でそっけなく言った。 (特に反応は無しか) 少女は少し期待外れな様子を見せた。 そして、“キャナ☆”が到着すると騒ぎは最高潮に達する。シンたちはと言うと騒ぎを避ける為 校門から少し離れた位置に待機し、収まるのを待っていた。 「それしても、騒ぎすぎだろ」 少女は、あきれたような様子で人々を見ながら言った。 彼女にとって“キャナ☆”は、少し気になる程度で、ファンというわけではない。 それ以前に、彼女は有名人を前に、騒ぐ人の気持ちが理解できなかった。 「ん?」 この時彼女は、空に浮かんでいる小さな光を放つ球体の様なものに気付いた。 「何だ、あれ?」 「見えるのかシン?」 シンも気付いたようだった。 その球体は、人混みの中に消えていった。しかし二人以外の誰も気づいていない。 実は。球体は普通の人には見えないのである。 ただ、ある程度の特殊能力を持つものなら見る事ができ、この場には二人以外にも、見る事にできる人間は何人かいた。 しかし皆“キャナ☆”に気を取られているため、気付く事が出来たのは二人だけだった。 「あいつ・・・・・・・」 と少女は、少々怒りを込めた様子で、低い声で呟いた。彼女は球体の正体が何であるか思い当たったからだ。 9:05 ラビリンス本拠地、首領室 「おはようございます」 朝の挨拶と共に部屋に入ってくるローレライ、しかし 「あら?」 部屋にいるはずの首領の姿がない。彼女は時計を確認する。 (いつもなら、もう起きてるはず) この時、彼女はいやな予感に襲われた。 「!」 そして、彼女の机の上にはローレライ宛ての手紙があった。ローレライはその手紙に目を通した。 そして彼女の顔は真っ青になった。 9:15 ラビリンス依頼受付センター 「何で、アタシこんな事してんだろ・・・・・」 あからさまに嫌そうな顔で、フレイムは愚痴をこぼしていた。 そんな彼女をなだめるように、菊乃が 「でもこれだけで済んだんだから、ラッキーと思った方がいいよ」 今フレイムは、ここでラビリンス宛ての依頼の処理を行っている。 現在彼女は、三日前の失態に対する罰として、ここでの仕事を命じられていた もちろん罰なので、ただ働きである。しかも、こういう仕事はフレイムの性に合わないので この三日間は苦痛でしかなかった。 「はぁ・・・・・・・・・確かにそうかもしれないけどさ・・・・・・・・」 ちなみに彼女が今まで受けた罰の中で、懲罰室でのお仕置きを加えたとしても 今回は、きわめて軽い。菊乃の言うとおりこの程度で済んだのは幸運と言えよう。 「はぁ・・・・・」 再びため息を漏らすフレイム、あと一瞬間はここで働かなければならない。 これからの事を思うと、彼女は憂鬱な気分に襲われた。 そして彼女の顔にも、憂鬱だと言わんばかりの暗い表情を浮かんでいた。 「はぁ」 再び、憂鬱な表情でため息。横で、仕事をしている菊乃は、迷惑そうな様子で 「その溜息、やめてくれないかな。こっちまでテンションがさがるよ」 するとフレイムは、憂鬱そうな顔のまま、元気のない声で 「ごめん・・・・」 と謝るものの、直ぐに 「はあ・・・・・・・」 とため息をついた。 菊乃は、額に手をあて、困った様子を見せる (まったくこの三日ずっとこう・・・・・・・・) しかも、仕事をはじめて、まだほとんど経っていない。 (今日も、思いやられる) 菊乃がそんな事を考えていると、外でものすごい音がした。 「!」 フレイムと菊乃は突然の事に、驚いた様子で、部屋から出た。外では 「ローレライ?」 ローレライがうつぶせに倒れていた。さっきの音は彼女が転んだ時のものらしい 菊乃は、おそるおそる近づき、声をかける 「あの・・・・・ローレライさま、大丈夫ですか」 すると、ローレライは、素早く立ち上がり 「大丈夫、ちょっと慌てていただけ」 そしてフレイムの方を向くと、どこか慌てているような様子で 「フレイム、ちょうどよかった。あなたに臨時の任務を与えます」 「えっ?」 突然の事に、呆気にとられるフレイム、そしてローレライは続ける。 「シ・・・・・首領を探してきてください」 8:30 ボード学園、高等部2年B組教室 Gのエージェントである蒼月真姫は、本業は学生である。その為、学業が優先。 三日前は急を要する任務であった為、学校を休んだが、 この三日間は、学校が終わってから13号の探索に参加すると言う形になっていた。 ちなみに詩姫も同様である。 そんな真姫はと言うと、今かなり上機嫌で 「うふふふふふふ・・・・・・・・・」 彼女は携帯端末を手に、笑っていた。 ディスプレイには“キャナ☆”の顔がしかも綺麗に映っている。 写真の様子からみても、どうやら朝、登校した際にしかも至近距離で撮られたと思われるものだが、 朝の状況で、特に“キャナ☆”の周りはSPがガードしており、このような写真を撮るのは困難である。 しかし彼女はある方法で、それを可能とした。だがそれが原因で、この後彼女は、恐ろしい目に会うだった。 そう真姫が笑っていられるのも、今のうちである。 8:35  ボード学園高等部 3年B組 教室ではHPが行われていた。そこで一人の転校生が紹介されていた。それは朝、シンと一緒にいた少女。 彼女は、生徒たちに自己紹介をはじめた。 「武藤初音だ。よろしく」 彼女こそ、アリシアが呼び寄せた「処刑者」という二つ名をもつGのエージェントだった。 8:40 繁華街 朝、人が行きかう街にラビリンス首領の姿があった。もちろん仮面は付けておらず 頭に帽子をかぶり、顔にはサングラスで、服も半袖のシャツの上にパーカーと言った格好で下はジーンズと言った私服姿である。 彼女は、ある目的の為に、一人で外出していた。ローレライ宛ての手紙は、今日一日外出する事を伝えるものだった。 ちなみにこの日の為に、この三日間、彼女は自分の仕事量を増やし、今日一日、休んでも 問題がないようにしている。 そして今、彼女は街中を適当に歩いている。そして時折、腕時計で、時間を確認すると 「まだまだか・・・・・・・・・」 と呟く。 実は、彼女が行動起こすには、早すぎる時間帯なのである。彼女が目的を達成するには 少なくとも夕方近くまで待つ必要があり、その準備も午後から始めても十分間に合う。 最初は、午後から出かけることも考えた。彼女はよくちょっとした買いもの等で 一人で出かける事があり、それを装って出かけることも考えたのだが (だめだ、彼女に悟られる) 組織を設立する以前からの付き合いであるローレライに確実に悟られてしまう。 そうなったら、彼女は確実についてくる。 今回は、彼女の私用である。だからあまり部下を巻き込みたくなかった。 結局、ローレライがやってくる前に出かける事、すなわち朝早くに出かける以外になかったのだ。 「どこか時間をつぶせる場所は」 と呟きながら、繁華街を歩いていた。そして 「おや?」 ちょうど、彼女の前方の方に黒いスーツ姿の不機嫌そうな女性が歩いている事に気付いた。 そう月宮刹那である。首領はもちろん、ラビリンスもまだ彼女の事は知らない。 だが、首領は彼女が只者ではない事に気づいた。 この直後、爆音が響き、街は恐怖と混乱が覆う異様な状況に変わっていくその中で、一人、歓喜する刹那。 それらの全てが、戦いの予兆を示していた。 (どうやら退屈せずに済みそうね) ある程度距離を取りつつも、刹那の後を追う首領 (見物させてもらうわ) 口元に笑みを浮かべながら (いい時間つぶしになりそうね) 時刻不明 下水道 地面に座り、俯いている神羅月菜、そこに片手にはライト、もう片方には武器を手にした 数人の人間がやってきた。この者たちは彼女を探しているGのエージェントである その中の一人が、彼女に声をかけた 「神羅月菜だな?」 顔をあげる月菜、別の一人が、彼女の顔を確認すると、通信機で 「神羅月菜を発見しました」 連絡を入れる。その直後、彼女は立ち上がった。 「ん?」 この時、エージェントの一人が気付いた。 (確か、彼女は左腕が切り落とされていたはずじゃ・・・・・・・・) そう今、月菜には失われたはずの左腕が存在しているのだ。そして・・・・・・・・・・・・・・ 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」 突如、下水道に無数の悲鳴や銃撃音が響き渡る。 その悲鳴を聞いて、13号の捜索を行っていた別のエージェント達が駆け付ける。 「これは・・・・・・・・・」 やってきたエージェント達が見たもの、それは、周りが血で真っ赤に染まった下水道 そして月菜の姿はなく、彼女を見つけたエージェント達の無残な死体だけがそこにあった。 ←[[第2章第2話「騒々しすぎる朝」]] [[第2章第4話「」]]→
執筆者:岡島 22:35 下水道 暗く静まり返った下水道、そこにフロストの姿があった。その手には携帯端末が握られている。 実は13号にはラビリンスによって発信機が付けられていて、その端末には13号の位置が表示されている。 「連中は引き揚げたか・・・・・・」 彼女が到着する少し前まで、Gのエージェント達が13号の探索の為いたのだが、 全員、引き揚げたので今はだれもいない。 「それにしても、いやな感じだな」 彼女も得体のしれない何かを感じ取っていた。だが彼女は、それを無視し任務を優先させた。 しかしながら、地下では電波が悪いのか、時折、位置を見失う事があり、 神羅月菜を見つけるのに少々手間がかかった。 「いた・・・」 ようやく、通路に座り込む月菜を見つけた。そしてフロストが月菜に近づくと 月菜はゆっくりとフロストの方を向き、苦しそうな声で言った 「てめぇは・・・・」 その様子を見たフロストは 「まだ生きているか」 と呟く。 月菜は片腕を失い、そこを無事な右手で抑えながら、両足を伸ばした状態で地面に座っている。 その体は傷だらけ、だがどうにか生きていた。 フロストは彼女の側まで来ると、懐から注射器と小瓶を取り出す。 ちなみに小瓶はバイアルというガラス瓶にゴム栓をした注射剤(注射器などを使い投与するための薬) の入れ物で、フロストはゴム栓に注射針を刺すと、中の薬を注射器に吸い取る。 そして、一定量になると注射器を瓶から外し、それをすばやく彼女の首筋に突き刺した 「な・・・なにを・・・・・」 と彼女は声を上げるが、フロストは 「心配ない、治療薬だ」 といったが、確かに治療の効果があるが厳密は治療薬ではない。薬を注入すると、すばやく針を抜き ネクロマンサーからいわれたとおり直ぐに、その場から立ち去った。 実は、フロストはこの薬を、似たような形で使ったことがある。 なのでどれくらいの量をどこに(この薬は体の一部分を除きどこに注射しても効果は出る)注射すればいいか などの使い方はわかっていた。 だが、その時は、「直ぐにその場から離れろ」という注意を無視したためひどい目にあったので、今回はそれに従うこととした。 しかしながら、今回は薬の効果が出るまで少々、時間が掛かった。 三日後 8:25 ボード学園、高等部2年C組教室 「はぁ・・・・・・・・・」 その日、私は学校に来たばかりだと言うのにかなり疲れていた。そして席に着くと 「あの・・・・・・・・・・大丈夫ですか・・・・・・・・志保さん」 と声をかけられる 「大丈夫よ、霧恵」 と私は返事をした そう、声の主は黒招霧恵。彼女もまた疲れているようで声も弱弱しかった。 あの日の事がきっかけになって、私と彼女、お互い、名前で呼び合うほど親しくなった。 と言っても、彼女は私の事を「さん」付けで呼ぶ。私は呼び捨てでいいと言っているんだけど・・・・・・ 「まさか“キャナ☆”さんがやってくるなんて・・・・・・」 彼女はまだ信じられないという様子だ 「それにしても、急な話ね・・・・・・・・・」 今日、学校に登校した私たちを待っていたのは、ものすごい数の人だかり、現場にいた知り合いに話を聞くと この学校の生徒で、売れっ子アイドルの“キャナ☆”が久しぶりにやってくるという。 そして、話を聞いた直後、彼女がやってきて、これでもかと言わんばかりの大騒ぎとなり、避ける間もなく、私たちは渦中に飲み込まれ どうにか、そこからの逃れた時には、私と霧恵はお互いヘトヘトになっていた。 もっとも、まだ騒ぎは収まってはおらず、クラス内は“キャナ☆”の話題で一色だった。 (そんな事よりも・・・・・・・) 私には、それ以上に気になる事があった。それは三日前のあの出来事。 あれ以降、何も起きていない。時間が経つにつれ、すべてが夢だったんじゃないかと思う事もある。 実際、現場にいたはずの霧恵も、あの時の事には一切触れようとしないし 幹也も佐由里さんも、三日前の出来事について話題にすることはない。 しかし、私は、あの時の出来事を完全に夢だとかたずける事は出来ずにいた。 だけど、あれが現実だったら・・・・・・・ 「志保さん・・・・・・」 「えっ!」 霧恵が心配そうな顔で私を見ている 「なに?」 「いえ・・・・・その・・・・深刻そう顔をしていたんで、気になって」 「そう、特に何もないけど」 彼女に、あまり心配をかけたくなかった私はそう言って誤魔化した。 7:35 G支部、指揮官室 支部内にある指揮官用の自室で朝食をとりつつアリシアは、報告書に目を通していた。 報告書には「人造守護神 第3号に関する報告」と書かれている。 しばらく、それに目を通した後、机の隅に置き 「ふう・・・・・・・・」 と一息つくと、今度は別の報告書に目を通す。それは神羅月菜に関する報告書だ。 この三日間、状況に変化はなく、今日まで下水道の探索を行っていて、今日も行う予定だ。しかし未だに月菜の発見には至っていない。彼女がかなりの怪我を負っているのは明白だが 今も、生きているのか死んでいるのか全く分からない状況が続いている。 報告書を読み終えると、アリシアは、外の空気が吸いたくなり、部屋を出で、 出入り口に向かおうとしていた時 「おはようございます、予知者」 と支部の職員に声をかけられる 「おはよう」 と返事をすると、職員が 「ちょうどよかったです。少しよろしいでしょうか?」 「なに?」 この職員は、ちょうどアリシアにある事を伝えるために、彼女の部屋に向かう途中だった 「今しがた、『処刑者』から街に到着したとの連絡が入りました」 「そう、予定どおりね」 この街に来た翌日、彼女はGの日本支部に、連絡を取り、13号とは別の任務で 一人のエージェントの派遣を要請した。 ただそのエージェントは既に別の任務に就いていた為、その任務の終了を待たねばならなかった。 そしてエージェント到着の報告を聞いていた。その時、別の職員が血相を変えて走ってきた。 「大変です予知者!」 突然の事に、普通なら驚くところだが予知者は冷静に対応する 「どうしたの?」 そして、その職員から話を聞いた彼女は、さっきまでとは違い、驚きを隠せない様子で 「何ですって」 と言って、そこから走りだした。彼女の行先は医務室だった。 医務室には、動揺した様子の医療スタッフがいた。予知者が到着するとその中の一人が 「すいません、私が少し目を離したすきに、その・・・・・・・・・」 申し訳なさそうに言う。 実は医務室では、ある人物が怪我を負って療養していたのだが その人物が、まだ怪我が治っていないにもかかわらず、職員の目を盗んで居なくなってしまったのである。 そして、これがGにとって怒涛の一日の始まりだった。 7:45 路上 シンは、愛用のデジタルオーディオプレーヤーで音楽を聴きながら学校に向かって歩いていた。 そんな彼にボード学園の制服を着た一人の少女が近づいてくる。 髪は耳に被るくらいの長さでストレート、凛とした顔立ち、目つきは少々鋭く、威圧感を感じられる そして彼女は、シンに声をかけた 「シン・・・・・」 シンは、イヤホンで音楽を聴いていたが、その声を聞き取り、少女の方を向いた 「お前か・・・・・」 少女は気さくな様子で 「久しぶりだな」 と言った。それに対しシンは、特に表情を変えることなく 「何か用か」 とそっけなく、答える。 「特に用はないんだが」 と言ったのち 「今日からボード学園に通う事になった」 彼女の言葉に対し、シンは 「そうか・・・・・・」 と先ほどから表情を変えず、同じくそっけなく答える。 すると少女は、話題を変えるように 「何、聴いてるんだ?」 すると、シンは無言でプレーヤーのディスプレイを少女に見せつけた。 そこには、彼が今聴いている曲名と歌っている歌手の名が表示されていた。 「朱雀リンの曲か」 朱雀リンは最近、売れている女性歌手だ。そしてシンが聴いている曲は彼女も聴いた事がある。 この時彼女は、その曲に対する素直な感想を言った 「いい曲だな」 すると 「あいつの歌は最高だ」 さっきまで違って、どこか爽やかで、少々感情の籠った声で言った。 (初めて見たな・・・・・・) その様子を見ながら少女は興味深そうに思った。この後、二人は朱雀リンの曲に関する話をしながら、 一緒にボード学園に向かった。 そして、ボード学園に着いた二人を待っていたのは、ものすごい人だかりだった。 「何かあったのか?」 との少女の言葉に 「さあな」 とそっけなく返事をするシン、気になった彼女は近くにいた人に話を聞き“キャナ☆”が来る事を知った 彼女は、ふとこの事を話すと、シンがどんな反応をするか気になり、それをシンに話した。 「なんでも“キャナ☆”が来るらしい。そう言えば、彼女はここの生徒だったな」 「“キャナ☆”が、そうか」 とシンは興味が全くないと言わんばかりの様子でそっけなく言った。 (特に反応は無しか) 少女は少し期待外れな様子を見せた。 そして、“キャナ☆”が到着すると騒ぎは最高潮に達する。シンたちはと言うと騒ぎを避ける為 校門から少し離れた位置に待機し、収まるのを待っていた。 「それしても、騒ぎすぎだろ」 少女は、あきれたような様子で人々を見ながら言った。 彼女にとって“キャナ☆”は、少し気になる程度で、ファンというわけではない。 それ以前に、彼女は有名人を前に、騒ぐ人の気持ちが理解できなかった。 「ん?」 この時彼女は、空に浮かんでいる小さな光を放つ球体の様なものに気付いた。 「何だ、あれ?」 「見えるのかシン?」 シンも気付いたようだった。 その球体は、人混みの中に消えていった。しかし二人以外の誰も気づいていない。 実は。球体は普通の人には見えないのである。 ただ、ある程度の特殊能力を持つものなら見る事ができ、この場には二人以外にも、見る事にできる人間は何人かいた。 しかし皆“キャナ☆”に気を取られているため、気付く事が出来たのは二人だけだった。 「あいつ・・・・・・・」 と少女は、少々怒りを込めた様子で、低い声で呟いた。彼女は球体の正体が何であるか思い当たったからだ。 9:05 ラビリンス本拠地、首領室 「おはようございます」 朝の挨拶と共に部屋に入ってくるローレライ、しかし 「あら?」 部屋にいるはずの首領の姿がない。彼女は時計を確認する。 (いつもなら、もう起きてるはず) この時、彼女はいやな予感に襲われた。 「!」 そして、彼女の机の上にはローレライ宛ての手紙があった。ローレライはその手紙に目を通した。 そして彼女の顔は真っ青になった。 9:15 ラビリンス依頼受付センター 「何で、アタシこんな事してんだろ・・・・・」 あからさまに嫌そうな顔で、フレイムは愚痴をこぼしていた。 そんな彼女をなだめるように、菊乃が 「でもこれだけで済んだんだから、ラッキーと思った方がいいよ」 今フレイムは、ここでラビリンス宛ての依頼の処理を行っている。 現在彼女は、三日前の失態に対する罰として、ここでの仕事を命じられていた もちろん罰なので、ただ働きである。しかも、こういう仕事はフレイムの性に合わないので この三日間は苦痛でしかなかった。 「はぁ・・・・・・・・・確かにそうかもしれないけどさ・・・・・・・・」 ちなみに彼女が今まで受けた罰の中で、懲罰室でのお仕置きを加えたとしても 今回は、きわめて軽い。菊乃の言うとおりこの程度で済んだのは幸運と言えよう。 「はぁ・・・・・」 再びため息を漏らすフレイム、あと一瞬間はここで働かなければならない。 これからの事を思うと、彼女は憂鬱な気分に襲われた。 そして彼女の顔にも、憂鬱だと言わんばかりの暗い表情を浮かんでいた。 「はぁ」 再び、憂鬱な表情でため息。横で、仕事をしている菊乃は、迷惑そうな様子で 「その溜息、やめてくれないかな。こっちまでテンションがさがるよ」 するとフレイムは、憂鬱そうな顔のまま、元気のない声で 「ごめん・・・・」 と謝るものの、直ぐに 「はあ・・・・・・・」 とため息をついた。 菊乃は、額に手をあて、困った様子を見せる (まったくこの三日ずっとこう・・・・・・・・) しかも、仕事をはじめて、まだほとんど経っていない。 (今日も、思いやられる) 菊乃がそんな事を考えていると、外でものすごい音がした。 「!」 フレイムと菊乃は突然の事に、驚いた様子で、部屋から出た。外では 「ローレライ?」 ローレライがうつぶせに倒れていた。さっきの音は彼女が転んだ時のものらしい 菊乃は、おそるおそる近づき、声をかける 「あの・・・・・ローレライさま、大丈夫ですか」 すると、ローレライは、素早く立ち上がり 「大丈夫、ちょっと慌てていただけ」 そしてフレイムの方を向くと、どこか慌てているような様子で 「フレイム、ちょうどよかった。あなたに臨時の任務を与えます」 「えっ?」 突然の事に、呆気にとられるフレイム、そしてローレライは続ける。 「シ・・・・・首領を探してきてください」 8:30 ボード学園、高等部2年B組教室 Gのエージェントである蒼月真姫は、本業は学生である。その為、学業が優先。 三日前は急を要する任務であった為、学校を休んだが、 この三日間は、学校が終わってから13号の探索に参加すると言う形になっていた。 ちなみに詩姫も同様である。 そんな真姫はと言うと、今かなり上機嫌で 「うふふふふふふ・・・・・・・・・」 彼女は携帯端末を手に、笑っていた。 ディスプレイには“キャナ☆”の顔がしかも綺麗に映っている。 写真の様子からみても、どうやら朝、登校した際にしかも至近距離で撮られたと思われるものだが、 朝の状況で、特に“キャナ☆”の周りはSPがガードしており、このような写真を撮るのは困難である。 しかし彼女はある方法で、それを可能とした。だがそれが原因で、この後彼女は、恐ろしい目に会うだった。 そう真姫が笑っていられるのも、今のうちである。 8:35  ボード学園高等部 3年B組 教室ではHPが行われていた。そこで一人の転校生が紹介されていた。それは朝、シンと一緒にいた少女。 彼女は、生徒たちに自己紹介をはじめた。 「武藤初音だ。よろしく」 彼女こそ、アリシアが呼び寄せた「処刑者」という二つ名をもつGのエージェントだった。 8:40 繁華街 朝、人が行きかう街にラビリンス首領の姿があった。もちろん仮面は付けておらず 頭に帽子をかぶり、顔にはサングラスで、服も半袖のシャツの上にパーカーと言った格好で下はジーンズと言った私服姿である。 彼女は、ある目的の為に、一人で外出していた。ローレライ宛ての手紙は、今日一日外出する事を伝えるものだった。 ちなみにこの日の為に、この三日間、彼女は自分の仕事量を増やし、今日一日、休んでも 問題がないようにしている。 そして今、彼女は街中を適当に歩いている。そして時折、腕時計で、時間を確認すると 「まだまだか・・・・・・・・・」 と呟く。 実は、彼女が行動起こすには、早すぎる時間帯なのである。彼女が目的を達成するには 少なくとも夕方近くまで待つ必要があり、その準備も午後から始めても十分間に合う。 最初は、午後から出かけることも考えた。彼女はよくちょっとした買いもの等で 一人で出かける事があり、それを装って出かけることも考えたのだが (だめだ、彼女に悟られる) 組織を設立する以前からの付き合いであるローレライに確実に悟られてしまう。 そうなったら、彼女は確実についてくる。 今回は、彼女の私用である。だからあまり部下を巻き込みたくなかった。 結局、ローレライがやってくる前に出かける事、すなわち朝早くに出かける以外になかったのだ。 「どこか時間をつぶせる場所は」 と呟きながら、繁華街を歩いていた。そして 「おや?」 ちょうど、彼女の前方の方に黒いスーツ姿の不機嫌そうな女性が歩いている事に気付いた。 そう月宮刹那である。首領はもちろん、ラビリンスもまだ彼女の事は知らない。 だが、首領は彼女が只者ではない事に気づいた。 この直後、爆音が響き、街は恐怖と混乱が覆う異様な状況に変わっていくその中で、一人、歓喜する刹那。 それらの全てが、戦いの予兆を示していた。 (どうやら退屈せずに済みそうね) ある程度距離を取りつつも、刹那の後を追う首領 (見物させてもらうわ) 口元に笑みを浮かべながら (いい時間つぶしになりそうね) 時刻不明 下水道 地面に座り、俯いている神羅月菜、そこに片手にはライト、もう片方には武器を手にした 数人の人間がやってきた。この者たちは彼女を探しているGのエージェントである その中の一人が、彼女に声をかけた 「神羅月菜だな?」 顔をあげる月菜、別の一人が、彼女の顔を確認すると、通信機で 「神羅月菜を発見しました」 連絡を入れる。その直後、彼女は立ち上がった。 「ん?」 この時、エージェントの一人が気付いた。 (確か、彼女は左腕が切り落とされていたはずじゃ・・・・・・・・) そう今、月菜には失われたはずの左腕が存在しているのだ。そして・・・・・・・・・・・・・・ 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」 突如、下水道に無数の悲鳴や銃撃音が響き渡る。 その悲鳴を聞いて、13号の捜索を行っていた別のエージェント達が駆け付ける。 「これは・・・・・・・・・」 やってきたエージェント達が見たもの、それは、周りが血で真っ赤に染まった下水道 そして月菜の姿はなく、彼女を見つけたエージェント達の無残な死体だけがそこにあった。 ←[[第2章第2話「騒々しすぎる朝」]] [[第2章第4話「兄妹の悩み/影の初めの接触…失敗」]]→

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