第1章第12話「異能強襲」

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繁華街 16:20 帰宅時間が迫る街の雑踏の中を、黒の長髪をした女性が歩いている。 黒のスーツ=喪服に身を包み、その表情には若干の苛立ちが見えた。 月宮 刹那である。 刹那はこの街に到着した時から、こうして表に出ている。 勿論、観光などが目的ではない。すべては己の敵“カンケル”を探し出す為である。 しかしいくら探しても“カンケル”はおろか、その痕跡や気配も感じ取れない。 やっと見つけたモノでも、怪人や魑魅魍魎の類がその正体で刹那を満足はさせなかった。 先程も何かしらの戦いの気配を察したが無視した。今は感じられないので無視して正解だったのだろう。 情報ではここに存在する仮面ライダーは一人や二人では無いらしい。多くの組織や人間、人外がここに存在するらしいが、鬱陶しいことこの上ない。 “カンケル出現の可能性アリ”との情報を入手しこの街に着いて、もう一ヶ月近くが経過している。 が、一向に状況が前に進まない。この現状が刹那の苛立ちの原因である。 その後、刹那は気分を落ち着かせるために休憩も兼ねて公園のベンチに座り込んだ。 九月とはいえ、まだ残暑は厳しい。全身黒尽くめの刹那は、常人よりも暑く感じる。 刹那は途中で購入したペットボトルを飲み、水分補給をした。 「まったく、どうして都会はこんなに暑いのか」 最近話題のヒートアイランド現象に文句を言いつつ、刹那はペットボトルの蓋を閉める。 「同じ日本でも、私の村とはえらい違い…」 そこまで言いかけて刹那は口を閉ざした。 無意識のうちに口から出た言葉。失われた我が故郷。こんな形で思い出すとは… 「…最近どうかしている。どうしてこんなに昔の事を…」 刹那の密かな悩み。それは最近、頻繁に過去を思い出す事である。 刹那の喪服は、復讐を忘れぬ決意の証。勿論、刹那も過去を忘れたわけでも忘れようとしているわけでもない。 しかし最近は妙に感傷的になりがちだ。原因は刹那にも分からない。 昨晩は両親が夢に出てきた。“カンケル”に破壊される前の平和な時を垣間見た。 グシャ!! 刹那は思わず手に持っていたペットボトルを握り潰した。 15年前のあの夜。刹那を愛し刹那が愛した両親は“カンケル”に殺された。 刹那は見た。変わり果てた姿となった両親を。そして墓前で誓った。必ず仇をとると。 「・・・・・・・・・」 刹那は無言のまま立ち上がり、その場を後にしようとした。 そのとき… 「!?」 刹那は“ある気配”を察知した。これは以前にも遭遇した事がある。 しかし“カンケル”ではない。もっと別の存在。それは… 「異能…怪人…」 そう呟くと、刹那はある方角を見据えた。 刹那は知らないが、視線の先にあるのはボード学園であった。 ボード学園 16:30 夏休み明けの9月1日。 久方ぶりに学び舎に登校してきた生徒たちの姿も殆どなく、静寂が支配する放課後の校舎。最近は行方不明事件の多発で放課後まで残る者の皆無に等しい。 バサッ そんな学園の校庭に上空から一つの影が舞い降りた。 もしその姿を見た者がいたとすれば、きっとこう思うだろう。 怪物…と 翼竜を思わせる異形は、大きな翼をはためかせながら驚くほど静かに地上に舞い降りた。 『ふぅ…ここで最後か』 恐ろしい姿の翼竜の口から発せられた言葉は、その姿には似つかわしくない少女の声。そこには退屈である、という感情が含まれている。 『つまんねーな。サッサと終わらせようぜ、オカルト』 『・・・・・・』 翼竜に“オカルト”と呼ばれたのは新たに出現した単眼の異形である。 翼竜は普通に話しかけたが、それは何の前触れも無く突然現れた、としか思えない。数秒前まで存在していない。しかし、最初から存在していたと錯覚させるほど“オカルト”は突然現れたのだ。 『・・・・・・』 『…黙ってないで、何か言えよ。一人で喋ってて馬鹿みたいだろ』 『・・・・・・』 沈黙が我が言葉。 そう言う様に、オカルトは翼竜を巨大な単眼で一瞥すると校舎の昇降口に目を向けた。翼竜が視線を追うと、そこに一人の少女が立っていた。 ボード学園の保健医であり、同時にライダー少女でもある人物。 橘 さくらである。 さくらは既にギャレンバックルを装着しいつでも変身できる体勢で異形と対峙していた。 「貴方たち、一体何者?何をしにここに来たの?」 『プッ…』 真剣な面持ちで語るさくらに対し、翼竜は吹き出した。 さくらの表情がやや曇る。 「何がおかしいの?」 『いいや、それが知りたかったら…』 翼竜の翼が大きく広がる。 翼竜はやや小柄だが、巨大な翼を広げると何倍も大きく見える。それに伴い、威圧感も数倍、数十倍に膨れ上がる。 『実力で聞けって事だよ!!!』 叫びと共に、驚異的な瞬発力で行動に出た。 「くっ!変身!!」 『Turn up』 さくらがバックルを展開させると同時に発生したフィールドが突撃してくる翼竜を弾き飛ばす。 『ちっ!おもしろい事するじゃねーか!!』 翼竜は体勢を整え悪態をつきながらも、心底楽しそうに言い放った。 『オレの名前はプテラだ!覚えとけ!!』 プテラは高々に名乗ると同時に、口から赤色の熱線を放った。 ギャレンは熱線をかわしながら醒銃ギャレンラウザーを連射するが、プテラも機敏に銃撃をかわす。 プテラとギャレンの一進一退の攻防が続く最中、オカルトは一歩引いた場所にいた。 今回の仕事は戦闘ではない、すべき事は別にある。だが、プテラが派手な戦闘を好む事は知っている。こうなる事はある程度予想済みだ。 ならば自分一人で仕事をすればいい。その方が楽だし確実だ。 オカルトはそんな事を考えながら、校庭の中心に立つ。するとオカルトの周囲に小型の魔方陣のような物が発生した。 「何あれ!?」 プテラと激闘を繰り広げるギャレンも、目の前で起きている異様な事態に気付いた。 何が起こっているのかは分からないが、異常な出来事とは理解できる。すぐにでも止めたかったが、プテラはそれを許さなかった。 『余所見してんじゃねーよ!!お前の相手はオレだろうが!!』 「くっ!」 プテラの豪腕による一撃がギャレンに直撃する。ギリギリのタイミングで防いだものの、その衝撃で大きく後退させられる。 (何かしようとしてるのは確か。なら…) ギャレンは体勢を立て直すと、ギャレンラウザーから一枚のカードを取り出す。 カードには縞馬のような絵が描かれていた。 『Gemini』 そしてそれをラウザーに読み込ませると、機械音声と同時にギャレンが二人に分身した。 『何!?』 突然の出来事にプテラは完全に標的を見失った。 振り下ろされた豪腕は、ギャレンに命中すること無く地面を直撃する。 その隙に、ギャレンは同時に分かれてプテラを撹乱した。 一体はオカルトへ向かって行き、もう一体はそれとは逆の方向へ走った。 『ちっ…邪魔はさせねぇ!!』 状況から見て本物はオカルトに向かっている方だ。一瞬、違和感を覚えたが考える時間は無い。プテラはそう判断し持ち前の瞬発力で一気に飛び出した。 一瞬の内にギャレンの背後まで移動する。今の獲物は隙だらけだ。一撃で仕留められる。 もう少し戦いを楽しみたかったが、さすがにオカルトの邪魔はさせられない。 『これで終わりだ!!』 豪腕が振り下ろされる。その一撃はギャレンの身体を怪力で粉々に粉砕する…はずであった。 『何!?』 プテラの顔が驚愕に染まる。 トドメの一撃はギャレンを確実に捉えた。なにしろ命中したのだから。 しかし命中と同時にギャレンの姿は消失し、豪腕は再び地面を直撃した。 突然のことに一瞬思考が止まってしまう。 『Bullet』『Rapid』『Fire』 『Burning Shot』 機械音声がその場に響く。プテラがその方向を見ると、ギャレンは既に必殺技の体勢に入っていた。 「これで終わりよ」 ギャレンが静かにそう呟くと、銃身から紅蓮の炎を纏った弾丸が連続発射される。 それらは寸分の狂いも無くプテラ目掛けて直進する。 『へっ!そんなもの!!』 プテラは翼を広げ、上空へ舞い上がる事でそれらを難なくかわした。 しかし上空から見てプテラはある事に気が付く。いつの間にかプテラとオカルトは一直線上に並んでいたのだ。 自分がかわした事で、弾丸はオカルトへ向かっている。オカルトは“能力”の行使中で身動きがとれない。 プテラは苦々しく舌打ちをしながらも、熱線を放ち銃弾を打ち落とそうと試みる。 しかしその全てを打ち落とす事はかなわない。 一方のオカルトは炎の銃弾が向かってくると知りながらも、自らの仕事を遂行していた。 内心ではプテラと一緒だと何故こうも騒がしくなるのだとぼやいた。 そして察知していた。この戦いを見ている者、妙な力をもつ者、こちらに向かって来る者の存在を。状況が初めから不利なのは明確であった。 どうやら仕事を手早く終わらせたのは間違いなかったようだ。 オカルトが魔方陣を解除すると同時に、その姿が掻き消えた。 「!?」 『!?』 ギャレンとプテラは同時に驚いた。 しかし上空から見ていたプテラにはオカルトが何処へいったのかすぐに分かった。 オカルトはギャレンの背後にいた。そのままギャレンの後頭部を鷲掴みにする。 一瞬の出来事にギャレンは反応できなかった。 ギャレンは振り解こうとするが、何故か体が動かない。 頭の中に謎の声が響く。おそらくオカルトの声だろう。 『『無駄だ。お前の肉体は既に支配済み、あとは精神だけだ。お前の力と邪心は我が有効に利用してやる』』 「あ・・・う・・・」 声を上げたかったがそれもかなわない。それ以上に恐怖だったのは、徐々に自分が自分で無くなる感覚だ。体が、心が、自らのもので無くなっていくのが理解できてしまう。 『『変…身』』 それがさくらの聞いた最後の声だった。 今、校庭に立っているのはギャレン唯一人だ。茫然自失といった感じで棒立ちになっている。 その眼は虚ろであり、銀と赤を基調としていた身体も今や黒ずんだ禍々しい色へ変化している。 そのそばへプテラが降りてきた。 『へっ!相変わらずエグイことしやがるぜ』 『・・・・・・』 ギャレンの眼は虚ろなままだが、そこには先ほどとは異なる邪悪な意思が宿っている。橘 さくらの身体と精神はオカルトに乗っ取られてしまったのだ。 オカルトは乗っ取った身体の調子を確かめるように手足などを動かしてみる。 次の瞬間、何者かが堀を飛び越えプテラ達の前に現れた。 その眼は爛々と輝き、何故か希望と殺気を両方含んだ異常な輝きをみせている。 一方、その人物を捉えたプテラの目付きが鋭くなる。 月宮 刹那だった。 「はぁ…はぁ…やっと!!やっと見つけた!!」 『ぁ?何言ってんだ?見つけたのはコッチだろうが!!』 刹那はすでに臨戦態勢に入っている。プテラも刹那の姿を確認するとギャレンの時以上の威圧感を放った。 両者は顔見知り、それもかなり険悪な関係であることは明白である。 「カンケルの情報!!知ってる限りの事を全部話してもらうぞ!!」 『はっ!!誰がオメェなんかに教えてやるかってんだ!!』 ピリピリとした空気が場を満たす。が、ここでさらなる乱入者が現れた。 「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」 物凄い怒声と共に乱入してきたのは、やたらと長身の女だった。 しかし怒っていたのかと思えば、今は何故か逆に嬉しそうな顔をしている。 「きゃあぁぁぁぁ!!!可愛い娘が3人も♪はぁはぁ、ここまでねばった甲斐があった、よくやった私♪」 『な、なんだあいつは…』 異様なテンションで独り言を呟く長身の女に、プテラは若干引き気味である。 というより『可愛い娘が3人』という事はプテラを含めて、という事になる。怪人態のプテラを見て何故可愛いと分かるのか?…謎である。 (あの身のこなしといい、こっちの正体に気が付いてるといい、相当な手だれか!?) プテラは乱入者を警戒し敵意ある目付きで睨み付ける。 しかし相手は、それに対し何故か黄色い悲鳴をあげた 「そんな熱い眼で見られたら~お姉さん困っちゃうぅぅぅぅ♪」 『・・・・・・(唖然)』 開いた口が塞がらない。間違いない、あれは唯の変態だ。関わってはいけない。 プテラが相手の空気に流されそうになっていると、不意にギャレンが口を開いた。 その声はさくらの物だったが、ノイズ混じりの感じである。 『あれは“騎士団”の“槍使い”だ。無類の女好きと聞いている』 『はっ…あ、あれが“槍使い”か!?一体何しに来た!?まさか、オレ達に感づいて!?』 『それは分からん。だが、ご所望の相手は我らしい。お前は月宮の相手をしろ』 『珍しくやる気じゃねーか。どういう事だ?』 プテラの問いにオカルトは答えなかった。そのまま八雲の前に立ち塞がる。 途端、八雲の表情が険しくなる。 「あんた男でしょ!!」 『この身体は女だ。身体的な特徴なら今は女だぞ?』 「きぃぃぃぃぃぃ!!屁理屈言うな!!この変態!!」 お前に変態と言われたくない、とプテラが内心思ったのは内緒。 「すぐに私があんたを叩き出して、その娘と色々楽しい事するんだから!!」 『ふん…できるかな?お前に我の相手が…』 両者に一触即発の空気が流れる。 そしてその空気に感化されたのか、刹那の殺気が爆発した。 刹那は両腕を前に伸ばしつつ交差させる。 それと同時に腰にベルトが出現した。 「変身!!」 そう叫ぶと同時にベルトの両脇に手を当てる。 刹那の身体は黒い光に包まれ、それが晴れると漆黒の悪魔が姿を見せた。 これが刹那の変身する“仮面ライダーシキ”である。 その身からは異常とも思える狂気が絶えず滲み出ていた。 ←第1章第11話「闇の戦士、駆ける/光の巫女はいまだ目覚めず」第1章第13話「戦いへの序曲」→
繁華街 16:20 帰宅時間が迫る街の雑踏の中を、黒の長髪をした女性が歩いている。 黒のスーツ=喪服に身を包み、その表情には若干の苛立ちが見えた。 月宮 刹那である。 刹那はこの街に到着した時から、こうして表に出ている。 勿論、観光などが目的ではない。すべては己の敵“カンケル”を探し出す為である。 しかしいくら探しても“カンケル”はおろか、その痕跡や気配も感じ取れない。 やっと見つけたモノでも、怪人や魑魅魍魎の類がその正体で刹那を満足はさせなかった。 先程も何かしらの戦いの気配を察したが無視した。今は感じられないので無視して正解だったのだろう。 情報ではここに存在する仮面ライダーは一人や二人では無いらしい。多くの組織や人間、人外がここに存在するらしいが、鬱陶しいことこの上ない。 “カンケル出現の可能性アリ”との情報を入手しこの街に着いて、もう一ヶ月近くが経過している。 が、一向に状況が前に進まない。この現状が刹那の苛立ちの原因である。 その後、刹那は気分を落ち着かせるために休憩も兼ねて公園のベンチに座り込んだ。 九月とはいえ、まだ残暑は厳しい。全身黒尽くめの刹那は、常人よりも暑く感じる。 刹那は途中で購入したペットボトルを飲み、水分補給をした。 「まったく、どうして都会はこんなに暑いのか」 最近話題のヒートアイランド現象に文句を言いつつ、刹那はペットボトルの蓋を閉める。 「同じ日本でも、私の村とはえらい違い…」 そこまで言いかけて刹那は口を閉ざした。 無意識のうちに口から出た言葉。失われた我が故郷。こんな形で思い出すとは… 「…最近どうかしている。どうしてこんなに昔の事を…」 刹那の密かな悩み。それは最近、頻繁に過去を思い出す事である。 刹那の喪服は、復讐を忘れぬ決意の証。勿論、刹那も過去を忘れたわけでも忘れようとしているわけでもない。 しかし最近は妙に感傷的になりがちだ。原因は刹那にも分からない。 昨晩は両親が夢に出てきた。“カンケル”に破壊される前の平和な時を垣間見た。 グシャ!! 刹那は思わず手に持っていたペットボトルを握り潰した。 15年前のあの夜。刹那を愛し刹那が愛した両親は“カンケル”に殺された。 刹那は見た。変わり果てた姿となった両親を。そして墓前で誓った。必ず仇をとると。 「・・・・・・・・・」 刹那は無言のまま立ち上がり、その場を後にしようとした。 そのとき… 「!?」 刹那は“ある気配”を察知した。これは以前にも遭遇した事がある。 しかし“カンケル”ではない。もっと別の存在。それは… 「異能…怪人…」 そう呟くと、刹那はある方角を見据えた。 刹那は知らないが、視線の先にあるのはボード学園であった。 ボード学園 16:30 夏休み明けの9月1日。 久方ぶりに学び舎に登校してきた生徒たちの姿も殆どなく、静寂が支配する放課後の校舎。最近は行方不明事件の多発で放課後まで残る者の皆無に等しい。 バサッ そんな学園の校庭に上空から一つの影が舞い降りた。 もしその姿を見た者がいたとすれば、きっとこう思うだろう。 怪物…と 翼竜を思わせる異形は、大きな翼をはためかせながら驚くほど静かに地上に舞い降りた。 『ふぅ…ここで最後か』 恐ろしい姿の翼竜の口から発せられた言葉は、その姿には似つかわしくない少女の声。そこには退屈である、という感情が含まれている。 『つまんねーな。サッサと終わらせようぜ、オカルト』 『・・・・・・』 翼竜に“オカルト”と呼ばれたのは新たに出現した単眼の異形である。 翼竜は普通に話しかけたが、それは何の前触れも無く突然現れた、としか思えない。数秒前まで存在していない。しかし、最初から存在していたと錯覚させるほど“オカルト”は突然現れたのだ。 『・・・・・・』 『…黙ってないで、何か言えよ。一人で喋ってて馬鹿みたいだろ』 『・・・・・・』 沈黙が我が言葉。 そう言う様に、オカルトは翼竜を巨大な単眼で一瞥すると校舎の昇降口に目を向けた。翼竜が視線を追うと、そこに一人の少女が立っていた。 ボード学園の保健医であり、同時にライダー少女でもある人物。 橘 さくらである。 さくらは既にギャレンバックルを装着しいつでも変身できる体勢で異形と対峙していた。 「貴方たち、一体何者?何をしにここに来たの?」 『プッ…』 真剣な面持ちで語るさくらに対し、翼竜は吹き出した。 さくらの表情がやや曇る。 「何がおかしいの?」 『いいや、それが知りたかったら…』 翼竜の翼が大きく広がる。 翼竜はやや小柄だが、巨大な翼を広げると何倍も大きく見える。それに伴い、威圧感も数倍、数十倍に膨れ上がる。 『実力で聞けって事だよ!!!』 叫びと共に、驚異的な瞬発力で行動に出た。 「くっ!変身!!」 『Turn up』 さくらがバックルを展開させると同時に発生したフィールドが突撃してくる翼竜を弾き飛ばす。 『ちっ!おもしろい事するじゃねーか!!』 翼竜は体勢を整え悪態をつきながらも、心底楽しそうに言い放った。 『オレの名前はプテラだ!覚えとけ!!』 プテラは高々に名乗ると同時に、口から赤色の熱線を放った。 ギャレンは熱線をかわしながら醒銃ギャレンラウザーを連射するが、プテラも機敏に銃撃をかわす。 プテラとギャレンの一進一退の攻防が続く最中、オカルトは一歩引いた場所にいた。 今回の仕事は戦闘ではない、すべき事は別にある。だが、プテラが派手な戦闘を好む事は知っている。こうなる事はある程度予想済みだ。 ならば自分一人で仕事をすればいい。その方が楽だし確実だ。 オカルトはそんな事を考えながら、校庭の中心に立つ。するとオカルトの周囲に小型の魔方陣のような物が発生した。 「何あれ!?」 プテラと激闘を繰り広げるギャレンも、目の前で起きている異様な事態に気付いた。 何が起こっているのかは分からないが、異常な出来事とは理解できる。すぐにでも止めたかったが、プテラはそれを許さなかった。 『余所見してんじゃねーよ!!お前の相手はオレだろうが!!』 「くっ!」 プテラの豪腕による一撃がギャレンに直撃する。ギリギリのタイミングで防いだものの、その衝撃で大きく後退させられる。 (何かしようとしてるのは確か。なら…) ギャレンは体勢を立て直すと、ギャレンラウザーから一枚のカードを取り出す。 カードには縞馬のような絵が描かれていた。 『Gemini』 そしてそれをラウザーに読み込ませると、機械音声と同時にギャレンが二人に分身した。 『何!?』 突然の出来事にプテラは完全に標的を見失った。 振り下ろされた豪腕は、ギャレンに命中すること無く地面を直撃する。 その隙に、ギャレンは同時に分かれてプテラを撹乱した。 一体はオカルトへ向かって行き、もう一体はそれとは逆の方向へ走った。 『ちっ…邪魔はさせねぇ!!』 状況から見て本物はオカルトに向かっている方だ。一瞬、違和感を覚えたが考える時間は無い。プテラはそう判断し持ち前の瞬発力で一気に飛び出した。 一瞬の内にギャレンの背後まで移動する。今の獲物は隙だらけだ。一撃で仕留められる。 もう少し戦いを楽しみたかったが、さすがにオカルトの邪魔はさせられない。 『これで終わりだ!!』 豪腕が振り下ろされる。その一撃はギャレンの身体を怪力で粉々に粉砕する…はずであった。 『何!?』 プテラの顔が驚愕に染まる。 トドメの一撃はギャレンを確実に捉えた。なにしろ命中したのだから。 しかし命中と同時にギャレンの姿は消失し、豪腕は再び地面を直撃した。 突然のことに一瞬思考が止まってしまう。 『Bullet』『Rapid』『Fire』 『Burning Shot』 機械音声がその場に響く。プテラがその方向を見ると、ギャレンは既に必殺技の体勢に入っていた。 「これで終わりよ」 ギャレンが静かにそう呟くと、銃身から紅蓮の炎を纏った弾丸が連続発射される。 それらは寸分の狂いも無くプテラ目掛けて直進する。 『へっ!そんなもの!!』 プテラは翼を広げ、上空へ舞い上がる事でそれらを難なくかわした。 しかし上空から見てプテラはある事に気が付く。いつの間にかプテラとオカルトは一直線上に並んでいたのだ。 自分がかわした事で、弾丸はオカルトへ向かっている。オカルトは“能力”の行使中で身動きがとれない。 プテラは苦々しく舌打ちをしながらも、熱線を放ち銃弾を打ち落とそうと試みる。 しかしその全てを打ち落とす事はかなわない。 一方のオカルトは炎の銃弾が向かってくると知りながらも、自らの仕事を遂行していた。 内心ではプテラと一緒だと何故こうも騒がしくなるのだとぼやいた。 そして察知していた。この戦いを見ている者、妙な力をもつ者、こちらに向かって来る者の存在を。状況が初めから不利なのは明確であった。 どうやら仕事を手早く終わらせたのは間違いなかったようだ。 オカルトが魔方陣を解除すると同時に、その姿が掻き消えた。 「!?」 『!?』 ギャレンとプテラは同時に驚いた。 しかし上空から見ていたプテラにはオカルトが何処へいったのかすぐに分かった。 オカルトはギャレンの背後にいた。そのままギャレンの後頭部を鷲掴みにする。 一瞬の出来事にギャレンは反応できなかった。 ギャレンは振り解こうとするが、何故か体が動かない。 頭の中に謎の声が響く。おそらくオカルトの声だろう。 『『無駄だ。お前の肉体は既に支配済み、あとは精神だけだ。お前の力と邪心は我が有効に利用してやる』』 「あ・・・う・・・」 声を上げたかったがそれもかなわない。それ以上に恐怖だったのは、徐々に自分が自分で無くなる感覚だ。体が、心が、自らのもので無くなっていくのが理解できてしまう。 『『変…身』』 それがさくらの聞いた最後の声だった。 今、校庭に立っているのはギャレン唯一人だ。茫然自失といった感じで棒立ちになっている。 その眼は虚ろであり、銀と赤を基調としていた身体も今や黒ずんだ禍々しい色へ変化している。 そのそばへプテラが降りてきた。 『へっ!相変わらずエグイことしやがるぜ』 『・・・・・・』 ギャレンの眼は虚ろなままだが、そこには先ほどとは異なる邪悪な意思が宿っている。橘 さくらの身体と精神はオカルトに乗っ取られてしまったのだ。 オカルトは乗っ取った身体の調子を確かめるように手足などを動かしてみる。 次の瞬間、何者かが堀を飛び越えプテラ達の前に現れた。 その眼は爛々と輝き、何故か希望と殺気を両方含んだ異常な輝きをみせている。 一方、その人物を捉えたプテラの目付きが鋭くなる。 月宮 刹那だった。 「はぁ…はぁ…やっと!!やっと見つけた!!」 『ぁ?何言ってんだ?見つけたのはコッチだろうが!!』 刹那はすでに臨戦態勢に入っている。プテラも刹那の姿を確認するとギャレンの時以上の威圧感を放った。 両者は顔見知り、それもかなり険悪な関係であることは明白である。 「カンケルの情報!!知ってる限りの事を全部話してもらうぞ!!」 『はっ!!誰がオメェなんかに教えてやるかってんだ!!』 ピリピリとした空気が場を満たす。が、ここでさらなる乱入者が現れた。 「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」 物凄い怒声と共に乱入してきたのは、やたらと長身の女だった。 しかし怒っていたのかと思えば、今は何故か逆に嬉しそうな顔をしている。 「きゃあぁぁぁぁ!!!可愛い娘が3人も♪はぁはぁ、ここまでねばった甲斐があった、よくやった私♪」 『な、なんだあいつは…』 異様なテンションで独り言を呟く長身の女に、プテラは若干引き気味である。 というより『可愛い娘が3人』という事はプテラを含めて、という事になる。怪人態のプテラを見て何故可愛いと分かるのか?…謎である。 (あの身のこなしといい、こっちの正体に気が付いてるといい、相当な手だれか!?) プテラは乱入者を警戒し敵意ある目付きで睨み付ける。 しかし相手は、それに対し何故か黄色い悲鳴をあげた 「そんな熱い眼で見られたら~お姉さん困っちゃうぅぅぅぅ♪」 『・・・・・・(唖然)』 開いた口が塞がらない。間違いない、あれは唯の変態だ。関わってはいけない。 プテラが相手の空気に流されそうになっていると、不意にギャレンが口を開いた。 その声はさくらの物だったが、ノイズ混じりの感じである。 『あれは“騎士団”の“槍使い”だ。無類の女好きと聞いている』 『はっ…あ、あれが“槍使い”か!?一体何しに来た!?まさか、オレ達に感づいて!?』 『それは分からん。だが、ご所望の相手は我らしい。お前は月宮の相手をしろ』 『珍しくやる気じゃねーか。どういう事だ?』 プテラの問いにオカルトは答えなかった。そのまま八雲の前に立ち塞がる。 途端、八雲の表情が険しくなる。 「あんた男でしょ!!」 『この身体は女だ。身体的な特徴なら今は女だぞ?』 「きぃぃぃぃぃぃ!!屁理屈言うな!!この変態!!」 お前に変態と言われたくない、とプテラが内心思ったのは内緒。 「すぐに私があんたを叩き出して、その娘と色々楽しい事するんだから!!」 『ふん…できるかな?お前に我の相手が…』 両者に一触即発の空気が流れる。 そしてその空気に感化されたのか、刹那の殺気が爆発した。 刹那は両腕を前に伸ばしつつ交差させる。 それと同時に腰にベルトが出現した。 「変身!!」 そう叫ぶと同時にベルトの両脇に手を当てる。 刹那の身体は黒い光に包まれ、それが晴れると漆黒の悪魔が姿を見せた。 これが刹那の変身する“仮面ライダーシキ”である。 その身からは異常とも思える狂気が絶えず滲み出ていた。 ←[[第1章第11話「闇の戦士、駆ける/光の巫女はいまだ目覚めず」]][[第1章第13話「戦いへの序曲」]]→

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