京ちゃんの執事 その1

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京ちゃんの執事 その1」(2009/05/10 (日) 06:38:35) の最新版変更点

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「はじめまして、京様。」 「私が、あなたの執事となります一之瀬・・・裕輔です。」 「よろしくお願いいたします。京様。」 「・・・・・え?」 私とそう歳の変わらない男の人が、恭しく礼をする。 黒い執事服に身を包んだ彼は、自分を私の執事と呼んだ。 何? 何でこんな事になっちゃってるの?! それはあの日にさかのぼる。 私がまだ、当たり前の毎日を当然と過ごしていたあの日に・・・。 ・・・・・・・・・・。 「いってきまーっすっ!」 勢いよく店のドアを開き、私は着替えもままならないまま外へと飛び出した。 「ああっ!京ちゃん、朝ごはんはどうするんですかーっ!?」 「買って食べるからー!」 義父さんの声に背中で返事しつつ、私は朝の商店街を駆けた。 はぁ、はぁ、はぁ・・・! まずい、急がないとまた遅刻だ! 昨日も遅くまで義父さんのお菓子の仕込を手伝ってたから・・・。 私は神谷 京。私立ボード学園に通う高校2年生。 家は街の商店街の中にある喫茶店「タルト・タタン」の中にある。 義父、神谷 康太はその店を経営するパティシエだ。 その作るお菓子は絶品で、毎日のようにお客さんが押し寄せてきている。 なかでもアップルパイは世界のどこに出しても恥ずかしくないほどの味だ。 りんごのさっくりとした歯ざわり、パイのパリッとした食感。 それらが絶妙なバランスで完成しているのだ。 義父のアップルパイは世界で一番美味しいと思う。 わたしは、そんなアップルパイの作り方を毎日教わっている。 将来は、義父のようなお菓子職人になりたい・・・。 そんな夢を抱いている。 だけど、その所為で今朝も学園の遅刻の危機に陥って・・・もう! 走りながら制服を正し、町の中を駆け抜ける。 歩いて登校する生徒の姿はもう見えず、私の横を自転車通学の生徒が次々と追い抜いていく。 ああもう・・・!コレじゃ本当遅刻しちゃうよぉっ・・・! キキィッ! 「お、京じゃないか!」 私のすぐ横で、大きな自転車のブレーキの音と共に、聞きなれた声が私の耳に届いた。 「カシス君・・・。」 「よう、遅刻しそうなのか?」 私の幼馴染、カシス・S・時雨。 小さな頃から付き合いのある彼は、ニヤニヤしながら私を見てきた。 「お前またお菓子作ってたんだろ?だから遅刻しそうになってこんな時間まで走ってる訳だ。」 「う、うるさいよ、おすし!」 「おまえ!?おすしって言うなコラ!」 おすしというのは、日本人離れした名前をしたカシス君につけたあだ名だ。 カシス君はいつもこうやって私に突っかかってくるので、彼の嫌がるあだ名である「おすし」と呼んで反撃している。 「ああ、ちょうどよかった!おすし、ちょっと自転車貸して!」 「え?ちょ、ちょっと待てよ!?」 私はおすしを押しのけると、そのまま彼の自転車に乗って走り出した! 「まてよ!おーーーーーい・・・・。」 おすしは男だし、走っていっても間に合うだろう。うん。 ・・・・・。 「ふぁー・・・!間に合ったぁ・・・・。」 教室にかばんを置き、ほっと一息。 「おはよう、京。今日も遅刻ギリギリだったわね。」 「あ、冥ちゃん。おはよ~・・・。」 そこへ声をかけてきたのは、私の親友の豊桜 冥ちゃん。 中学から仲良しで、今ではおうちの人にも気に入られ、家族同然の付き合いをしている。 「うおおおいコラアァッ!人の自転車勝手に乗っていくってどういうんだよ・・・!!!」 「あ、おすし。おはよう。」 そこへ間を置かず、私以上に息も絶え絶えなおすしが教室に滑り込んでくる。 「あ、カシスくん、おはよう・・・って、大丈夫!?」 今にも倒れそうなおすしの様子を見て、冥ちゃんが心配そうな声をあげた。 「おい聞いてるのかお菓子女ッ!」 「・・・!誰がお菓子女よっ!」 「うぅぅ~~~~~~っ!!!!」 私におすしと呼ばれることが腹に据えたのか、私まで変な名前で呼ぶ。 私とおすしは顔を突きつけあいながら、犬猫のように威嚇しあう! 「・・・・はぁ。あんた達、仲がいいわねぇ・・・。」 「「そんなんじゃないっ!!!」」 冥ちゃんのため息交じりの言葉に、私もおすしもすぐに否定する。 「・・・もう。説得力ないっていうのよ。」 こんな感じの、私の毎日の様子。 帰りは家に直行し、お客さんの相手で忙しい義父の店を手伝う。 タタンの可愛い制服を着て、ウェイトレスとして昼間を働く。 「はい、ご注文のアップルパイです。どうぞごゆっくり。」 同じ学園の学生カップルにパイを届け、おいしいとの声が聞こえるたびに、私は誇らしい気持ちになる。 「父さん。今日も評判がいいね。」 「そうですね。ああしてお客さんが喜びの声をかけてくれるのは、嬉しい事です。」 厨房に戻り、せわしなく働く義父に声をかける。 「さっきのお客さんなんて、近くのスマートブレイン社のホテルで出しても通用するって言ってくれてたよ。」 「ああ、それは嬉しいですね。あの一流企業出資のホテルの味と、私を評価してくれるなんて。」 ・・・でも、義父はあまり嬉しそうではなかった。 「ねえ。義父さん。私、義父さんのお菓子が大好きだよ。でも、ずっと思ってたことがあるの。」 「?なんです?」 「なんで義父さんは、この小さなお店で満足しているの?もっと大きなお店に入って、そこでもっと・・・。」 すると義父さんは、いつもの人当たりのいい笑顔で、こう答えた。 「私はね、お金第一の仕事をしたくないんです。」 「べ、別にそういう意味じゃ・・・。」 「私は、義父さんのお菓子はこんなに美味しいんだよって、もっといろんな人に食べてほしいの!」 「・・・京。私はね。外国の修行から帰って、この店を始めました。それは、私の念願だった自分の開店です。」 「飾らない雰囲気で、誰でも入店でき、誰にでも手の届く値段で、最高のお菓子を振舞うのが私の夢なんです。」 「そこで見せてくれるお客さんの満足した笑顔が、私にとって何よりの報酬なんです。」 「分かってくれますね。京・・・。」 「私には、わからないよ・・・。」 どうしても納得はいかなかった。 義父の才能は、もっと多くの人に知って貰うべきだって思うのに・・・。 「京。これだけは知って置いてください。」 「・・・なに?」 「私は、地位や名誉で人を選ぶ仕事はしたくないんです。」 「私は・・・今のこの店と、あなたと言う娘を持った今の自分は幸せだと思いますよ。」 「義父さんは、もう、無欲なんだから・・・。」 そうもはっきりとした考えを持っているんじゃ、これ以上反論も出来ない。 私は苦笑しながら、その後も父さんの手伝いを続けた。 そんなある日・・・。 突然、義父が死んだ。 事故だった。 お菓子の材料の仕入先から帰る途中、父の乗った車が大型トラックに衝突される交通事故。 即死だったらしい。 義父の葬式には、町内の人やファンだったお客さんが大勢弔問に来てくれた。 一度だけ会ったことがある、義父の妹さんもいた。 葬式で泣いた人の数が、その人間の価値をあらわすのだという。 義父は、立派な人物だった。 私に残されたのは、父の店と、お菓子作りの技術だった。 私は一人でも店を続ける覚悟だった。 学校を辞めてもよかった。 父との思い出の証である、あの店を手放す事だけは、絶対にしたくなかったのだ。 親友の冥ちゃんが、彼女の家で暮らすように提案してくれた事は嬉しかった。 あそこの家の両親とも、お姉さんとも、家族同然の付き合いをしているから、 そのまま養子になってもいいと言ってくれていた。 でも、私はそれを断った。 私はやはり、自分の力で店を建て直したかったのだ。 今日も喫茶店「タルト・タタン」は開店する。 未熟な私の、お菓子を商品に・・・。 「おつかれさまー。」 今日の営業も何とか終了。 お菓子についての苦情はとりあえずは出なかった。 不満はあるのだろうが、私が店を継いだことは既に周知らしく、誰も何も言わなかったと言うのが本当だろう。 ううん・・・。こんな、弱音なんて吐いていられない! もっと勉強して、義父さんに負けないお菓子職人にならなくっちゃ! 私は、変わらず店で働いてくれる店員さんを見送ると、一人で店内の片づけを始めた。 店内の机を拭き、明日の仕込みを始める。 いつも義父と立っていた厨房は、一人だとすごく広く感じた。 「一人、かぁ・・・。」 また一人に、なっちゃった。 天涯孤独だった私を義父さんに拾ってもらって、それからずっと、二人で頑張ってきてたのに・・・。 今日までは忙しさと必死さで、そんなことを考える余裕もなかった。 う、ううんっ! 弱気になっちゃダメ! 私、頑張らなきゃ・・・! 顔を叩き、気合を入れなおす。 明日もこれからも、この日々は続いていくんだから、ここで折れてちゃいけないよ! カラララララン・・・。 「?」 そこへ、入店を告げるカウベルの音が耳に届いた。 店にはもう閉店の看板を下げておいたはずなのに・・・。 「あの、すみません、今日はもう・・・。」 私は厨房から顔を出し、その入店した相手のほうを見た。 って、うわ・・・! そこに立っていたのは、私と同じくらいの歳の、まるでドラマに出てくる執事のような黒い服を着た、 すごくかっこいい男の子だった。 一言で言ってしまうと、そう。 いわゆる「イケメン」と言う奴だ。 ・・・って、見とれてる場合じゃないぞ私。 そのイケメン執事が何の用かは知らないけど、もうお店は閉店してるんだから、断りを入れないと。 「あの、すみません。今日はもう・・・。」 「お迎えに上がりました。神谷 京様。」 「へ・・・?あなた、私を知ってるんですか・・・?」 「はじめまして、京様。」 「私が、あなたの執事となります一之瀬・・・裕輔です。」 「よろしくお願いいたします。京様。」 「・・・・・え?」 私とそう歳の変わらないイケメン執事が、恭しく礼をする。 彼は、自分を私の執事と呼んだ。 何? 何でこんな事になっちゃってるの?! もう、訳がわからないよーーーーーっ!!? ←[[特別企画]]バックナンバーへ
「はじめまして、京様。」 「私が、あなたの執事となります一之瀬・・・裕輔です。」 「よろしくお願いいたします。京様。」 「・・・・・え?」 私とそう歳の変わらない男の人が、恭しく礼をする。 黒い執事服に身を包んだ彼は、自分を私の執事と呼んだ。 何? 何でこんな事になっちゃってるの?! それはあの日にさかのぼる。 私がまだ、当たり前の毎日を当然と過ごしていたあの日に・・・。 ・・・・・・・・・・。 「いってきまーっすっ!」 勢いよく店のドアを開き、私は着替えもままならないまま外へと飛び出した。 「ああっ!京ちゃん、朝ごはんはどうするんですかーっ!?」 「買って食べるからー!」 義父さんの声に背中で返事しつつ、私は朝の商店街を駆けた。 はぁ、はぁ、はぁ・・・! まずい、急がないとまた遅刻だ! 昨日も遅くまで義父さんのお菓子の仕込を手伝ってたから・・・。 私は神谷 京。私立ボード学園に通う高校2年生。 家は街の商店街の中にある喫茶店「カフェ・ド・タタン」の中にある。 義父、神谷 康太はその店を経営するパティシエだ。 その作るお菓子は絶品で、毎日のようにお客さんが押し寄せてきている。 なかでもアップルパイは世界のどこに出しても恥ずかしくないほどの味だ。 りんごのさっくりとした歯ざわり、パイのパリッとした食感。 それらが絶妙なバランスで完成しているのだ。 義父のアップルパイは世界で一番美味しいと思う。 わたしは、そんなアップルパイの作り方を毎日教わっている。 将来は、義父のようなお菓子職人になりたい・・・。 そんな夢を抱いている。 だけど、その所為で今朝も学園の遅刻の危機に陥って・・・もう! 走りながら制服を正し、町の中を駆け抜ける。 歩いて登校する生徒の姿はもう見えず、私の横を自転車通学の生徒が次々と追い抜いていく。 ああもう・・・!コレじゃ本当遅刻しちゃうよぉっ・・・! キキィッ! 「お、京じゃないか!」 私のすぐ横で、大きな自転車のブレーキの音と共に、聞きなれた声が私の耳に届いた。 「カシス君・・・。」 「よう、遅刻しそうなのか?」 私の幼馴染、カシス・S・時雨。 小さな頃から付き合いのある彼は、ニヤニヤしながら私を見てきた。 「お前またお菓子作ってたんだろ?だから遅刻しそうになってこんな時間まで走ってる訳だ。」 「う、うるさいよ、おすし!」 「おまえ!?おすしって言うなコラ!」 おすしというのは、日本人離れした名前をしたカシス君につけたあだ名だ。 カシス君はいつもこうやって私に突っかかってくるので、彼の嫌がるあだ名である「おすし」と呼んで反撃している。 「ああ、ちょうどよかった!おすし、ちょっと自転車貸して!」 「え?ちょ、ちょっと待てよ!?」 私はおすしを押しのけると、そのまま彼の自転車に乗って走り出した! 「まてよ!おーーーーーい・・・・。」 おすしは男だし、走っていっても間に合うだろう。うん。 ・・・・・。 「ふぁー・・・!間に合ったぁ・・・・。」 教室にかばんを置き、ほっと一息。 「おはよう、京。今日も遅刻ギリギリだったわね。」 「あ、冥ちゃん。おはよ~・・・。」 そこへ声をかけてきたのは、私の親友の豊桜 冥ちゃん。 中学から仲良しで、今ではおうちの人にも気に入られ、家族同然の付き合いをしている。 「うおおおいコラアァッ!人の自転車勝手に乗っていくってどういうんだよ・・・!!!」 「あ、おすし。おはよう。」 そこへ間を置かず、私以上に息も絶え絶えなおすしが教室に滑り込んでくる。 「あ、カシスくん、おはよう・・・って、大丈夫!?」 今にも倒れそうなおすしの様子を見て、冥ちゃんが心配そうな声をあげた。 「おい聞いてるのかお菓子女ッ!」 「・・・!誰がお菓子女よっ!」 「うぅぅ~~~~~~っ!!!!」 私におすしと呼ばれることが腹に据えたのか、私まで変な名前で呼ぶ。 私とおすしは顔を突きつけあいながら、犬猫のように威嚇しあう! 「・・・・はぁ。あんた達、仲がいいわねぇ・・・。」 「「そんなんじゃないっ!!!」」 冥ちゃんのため息交じりの言葉に、私もおすしもすぐに否定する。 「・・・もう。説得力ないっていうのよ。」 こんな感じの、私の毎日の様子。 帰りは家に直行し、お客さんの相手で忙しい義父の店を手伝う。 タタンの可愛い制服を着て、ウェイトレスとして昼間を働く。 「はい、ご注文のアップルパイです。どうぞごゆっくり。」 同じ学園の学生カップルにパイを届け、おいしいとの声が聞こえるたびに、私は誇らしい気持ちになる。 「父さん。今日も評判がいいね。」 「そうですね。ああしてお客さんが喜びの声をかけてくれるのは、嬉しい事です。」 厨房に戻り、せわしなく働く義父に声をかける。 「さっきのお客さんなんて、近くのスマートブレイン社のホテルで出しても通用するって言ってくれてたよ。」 「ああ、それは嬉しいですね。あの一流企業出資のホテルの味と、私を評価してくれるなんて。」 ・・・でも、義父はあまり嬉しそうではなかった。 「ねえ。義父さん。私、義父さんのお菓子が大好きだよ。でも、ずっと思ってたことがあるの。」 「?なんです?」 「なんで義父さんは、この小さなお店で満足しているの?もっと大きなお店に入って、そこでもっと・・・。」 すると義父さんは、いつもの人当たりのいい笑顔で、こう答えた。 「私はね、お金第一の仕事をしたくないんです。」 「べ、別にそういう意味じゃ・・・。」 「私は、義父さんのお菓子はこんなに美味しいんだよって、もっといろんな人に食べてほしいの!」 「・・・京。私はね。外国の修行から帰って、この店を始めました。それは、私の念願だった自分の開店です。」 「飾らない雰囲気で、誰でも入店でき、誰にでも手の届く値段で、最高のお菓子を振舞うのが私の夢なんです。」 「そこで見せてくれるお客さんの満足した笑顔が、私にとって何よりの報酬なんです。」 「分かってくれますね。京・・・。」 「私には、わからないよ・・・。」 どうしても納得はいかなかった。 義父の才能は、もっと多くの人に知って貰うべきだって思うのに・・・。 「京。これだけは知って置いてください。」 「・・・なに?」 「私は、地位や名誉で人を選ぶ仕事はしたくないんです。」 「私は・・・今のこの店と、あなたと言う娘を持った今の自分は幸せだと思いますよ。」 「義父さんは、もう、無欲なんだから・・・。」 そうもはっきりとした考えを持っているんじゃ、これ以上反論も出来ない。 私は苦笑しながら、その後も父さんの手伝いを続けた。 そんなある日・・・。 突然、義父が死んだ。 事故だった。 お菓子の材料の仕入先から帰る途中、父の乗った車が大型トラックに衝突される交通事故。 即死だったらしい。 義父の葬式には、町内の人やファンだったお客さんが大勢弔問に来てくれた。 一度だけ会ったことがある、義父の妹さんもいた。 葬式で泣いた人の数が、その人間の価値をあらわすのだという。 義父は、立派な人物だった。 私に残されたのは、父の店と、お菓子作りの技術だった。 私は一人でも店を続ける覚悟だった。 学校を辞めてもよかった。 父との思い出の証である、あの店を手放す事だけは、絶対にしたくなかったのだ。 親友の冥ちゃんが、彼女の家で暮らすように提案してくれた事は嬉しかった。 あそこの家の両親とも、お姉さんとも、家族同然の付き合いをしているから、 そのまま養子になってもいいと言ってくれていた。 でも、私はそれを断った。 私はやはり、自分の力で店を建て直したかったのだ。 今日も喫茶店「カフェ・ド・タタン」は開店する。 未熟な私の、お菓子を商品に・・・。 「おつかれさまー。」 今日の営業も何とか終了。 お菓子についての苦情はとりあえずは出なかった。 不満はあるのだろうが、私が店を継いだことは既に周知らしく、誰も何も言わなかったと言うのが本当だろう。 ううん・・・。こんな、弱音なんて吐いていられない! もっと勉強して、義父さんに負けないお菓子職人にならなくっちゃ! 私は、変わらず店で働いてくれる店員さんを見送ると、一人で店内の片づけを始めた。 店内の机を拭き、明日の仕込みを始める。 いつも義父と立っていた厨房は、一人だとすごく広く感じた。 「一人、かぁ・・・。」 また一人に、なっちゃった。 天涯孤独だった私を義父さんに拾ってもらって、それからずっと、二人で頑張ってきてたのに・・・。 今日までは忙しさと必死さで、そんなことを考える余裕もなかった。 う、ううんっ! 弱気になっちゃダメ! 私、頑張らなきゃ・・・! 顔を叩き、気合を入れなおす。 明日もこれからも、この日々は続いていくんだから、ここで折れてちゃいけないよ! カラララララン・・・。 「?」 そこへ、入店を告げるカウベルの音が耳に届いた。 店にはもう閉店の看板を下げておいたはずなのに・・・。 「あの、すみません、今日はもう・・・。」 私は厨房から顔を出し、その入店した相手のほうを見た。 って、うわ・・・! そこに立っていたのは、私と同じくらいの歳の、まるでドラマに出てくる執事のような黒い服を着た、 すごくかっこいい男の子だった。 一言で言ってしまうと、そう。 いわゆる「イケメン」と言う奴だ。 ・・・って、見とれてる場合じゃないぞ私。 そのイケメン執事が何の用かは知らないけど、もうお店は閉店してるんだから、断りを入れないと。 「あの、すみません。今日はもう・・・。」 「お迎えに上がりました。神谷 京様。」 「へ・・・?あなた、私を知ってるんですか・・・?」 「はじめまして、京様。」 「私が、あなたの執事となります一之瀬・・・裕輔です。」 「よろしくお願いいたします。京様。」 「・・・・・え?」 私とそう歳の変わらないイケメン執事が、恭しく礼をする。 彼は、自分を私の執事と呼んだ。 何? 何でこんな事になっちゃってるの?! もう、訳がわからないよーーーーーっ!!? ←[[特別企画]]バックナンバーへ

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