第1章エピローグ1「嘲笑う白の魔女」


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作者:空豆兄


PM19:02 工業団地へ続く道 


工業団地へと続く、人通りのない夜の産業道路・・・・。
その途中に、一見すれば異常とも思える二人の女性が、道路の路肩に立っていた。
まるで、そこを通ろうとするものを見張っているかのように。




「そろそろ、私たちに追いつくと思いますよ?『シンガー』。」

艶やかな紫の長髪を揺らしながら、その女性『メッセンジャー』はその隣に立つ小さな少女に語りかける。

「・・・・・・・・・。」
『シンガー』と呼ばれた少女は、その綺麗な顔に何の表情も浮かべないまま、ジャラ、とその身に巻かれた鎖を鳴らした。
彼女の腕に、脚に、その鎖はまるで彼女を縛るように全身に巻かれていた。


「私の書き足しておいたメッセージ・・・どうやら彼は応えたようですね。」
「・・・・・・・・・。」

少女は何も語らない。
だがメッセンジャーは、その「声なき声」を理解し、その証として彼女の発した「言葉」を自分の口で紡いでいく。

「・・・・・・・・。」

「ええ。そうでないのであれば、むしろ彼は「異常」と言えるでしょう。」
「・・・・・・・。」

シンガーは首を傾け、メッセンジャーの言葉に相槌を打つ。
彼女の首に巻かれた不釣合いな大きな首輪が、その動きによってずれて動く。
それに合わせて首輪につけられ、そこから彼女の全身に巻かれた鎖がまたジャラ、と音を立てた。

「なにせ『シンガー』である貴女が、彼の為にたった今まで歌っていた・・・。」
「彼の望みである「妹を探す」事・・・その思いは貴女の歌で、彼自身の感じ取る力を強化した筈です。」

「・・・・・・・・・。」
「この町の学園に向かっていた彼を公園に導いたのも、貴女のスケッチブックを開いたのも、貴女の歌の影響でしょう。」
「ただの人間である彼に、実際にどこまで効果があったかは測りかねますがね。」

「・・・。・・・・・・。」
「ああ・・・。そうですね。実際にそうなったのは、彼・・・「風瀬 列」くんの思いが真剣だったからです。」

二人の視線は今見えている道路の、その向こうへと向けられた。
今からここを通り過ぎる、その人物を迎えるように。


「しかし、貴女のお兄様はどういうつもりなのでしょう?何の能力も持たない、あの少年を観察対象にするなんて。」
「・・・・・・・・・。」

「先ほどあの公園で、貴女が華枝さんに渡したスケッチブック。あれは兄である彼の手に渡ったことで、華枝さんの手元に戻ります、けど・・・。」
「・・・分からないと言えば貴女もです。何故華枝さんに肩入れするのですか?お兄様に黙って勝手に出歩いた事、彼女の「運命」を後押しした事・・・。」

「シンガー。貴女は何を考えているのですか?」
「・・・・・・・・・・。」

メッセンジャーの問いに、シンガーは答えない。
いかにシンガーの声が聞き取る事が出来るメッセンジャーでも、その心の内までは窺い知る事は出来なかった。


二人の問答が終わろうとした時、道路の向こうから一人の少年が走ってきた。



前だけを見つめて一心に走る少年。
不思議なスケッチブックに書かれたメッセージと、自分の感じた直感を信じて、今彼は工業団地に入ろうとしていた。

やがて彼は路肩に立つ二人の女性に気づき、一瞬その視線をそちらへと向けた。

「・・・・・・・・・・。」

その中で、小さな少女と彼の視線はピタリ重なった。
少女は彼がこちらを向くことを予想していたのか、互いの顔を認識しあう。

しかしそれも刹那の出来事で、少年は再び前を向いて駆け出していった。



少女はその姿を目で追い、離れていく少年の背中をじっと見つめていた。





PM19:25 工業団地 路上


遂に陽は暮れてしまった。
空は殆ど真っ暗で、寂れた工業団地の中の僅かな外灯と、空に煌々と光る月がこの世界の頼り。

公園で拾ったスケッチブックの導くままここに来たけど、本当にここに華枝はいるのだろうか・・・?
当てもないまま、とにかく団地を進む。


・・・しかし、なんだろう。

ここに足を踏み入れてから、何か違和感が拭えない。
誰もいない寂れた工業団地。
不況で潰れた工場の立ち並ぶこの地に、もはや働いている人などいない。

でも・・・。

どうしてこんなに、誰かに見られている感覚がするのだろう。

何処を見ても人影はない。だけど。
何か落ち着かない。

魔境に足を踏み入れてしまったかのような気分。



魔境・・・。

自分で想像した言葉だが、その言葉に自ら震え上がってしまった。
今日の夕方の事・・・。

俺と神歌ちゃんを襲った、恐ろしい怪物・・・。
ああいうのが住み着くとしたら、こういう人気のない寂しいところなんじゃないだろうか。

・・・一人でくるんじゃなかった。
今更ながら後悔する。


空を見上げた。
何が起こるかわからないこの魔境の中、優しい月の光だけは俺の味方のような気がして。

華枝もどこかで、この闇夜の中で月を見上げているんだろうか・・・。
そう思ったとき。


ブゥゥゥ・・・・・・!


「・・・・・・・!!!!?」

夜の中に、黒い影があった。

虫のような羽音と共に、俺の見上げる夜空の中、その影は俺を見下ろしているように見えた。
虫のようなといったが、虫にしてはアレはでかすぎる。

距離があるというのに、その大きさは目で見てはっきりと分かる。
明らかに虫のサイズではない。

まるで、人が飛んでいるような・・・そんな風に見える。

俺は我を忘れてその姿を見ていた。
相手も、俺を見ているのだろうか、身動き一つしない。

電柱の頂点ほどの高さから、それと俺は見詰め合った。

やがて・・・。


ブゥゥゥゥンッ!!

「あっ!」

影はその場から唐突に飛び去った!

「・・・・!」
気がつけば、俺はそれを追って駆け出していた。

反射的にそれが飛び去った方向を追う。
夜空を見続けていたお陰で夜に目が慣れ、飛ぶ方向ははっきりと見えた。

何が在るか分からないが、俺はそれを追った。
明らかに華枝とは関係ない、むしろ夕暮れに見た怪物と近しいものだろうと、その想像は容易だった。

でも、アレは俺を襲わなかった。
だから信じたというわけではないけど、俺はアレは何か違うと感じたんだ。



影の飛ぶ速度と俺の走る速さは比べ物になるはずもなく、俺は最後に見えたその影の進む方向を懸命に追った。
僅かに明るくなる道。

どうやら此の先に街灯があるらしい。
夜目が利く今ではまぶしさに目を覆ってしまいそうだ。

俺はなるべく光を避けてさらに前へと進む。



・・・そして。

行き着いた先は、寂れた工場だった。
光を放っていた街灯は、ここのものだったようだ。

それにしても・・・。なんであの影はここに向かっていたんだろう?

光の届かない闇の中に、妙に濡れた地面があるのが気になった。
雨なんてしばらく降っていないのにな・・・。

そこで、もう一度空を見上げた。

やはりあの影の姿は何処にもない。
ここより先に行ってしまったのだろうか。


暗い工場をなんとなく見ていると・・・。


ん!?

街灯の下に、見慣れた緑の髪があった。
小さな体が光の中で横たわっているのが見えた。

そしてそれは、俺の大切な妹のものなんだと、すぐに理解した。


「華枝ッ!!!!!」

俺は駆け寄ると、その小さな体を抱きかかえる。
朝に見たきれいな華枝のフィッシュボーンテイルはところどころほつれていた。
華枝のかける小さな眼鏡は、本人と一緒に地面に転がっていた。

華枝に何かあったらしい事は見て取れた。
しかし衣服の乱れはないし、体に傷も見当たらない。
強いて言うなら、汗を多くかいているという事くらいだが。
熱はないようだし、病気で行き倒れたわけでもなさそうだ。


でも、最初にここに辿り着いた時、街灯の下には誰もいなかったような気がするんだけど・・・。
俺も疲れていたから、見落としていたのかもしれない。
あまりそこは気にしない事にした。

・・・そうだ。
晃輝に連絡しておかないと。

あいつも華枝を心配してくれた。

ピッ!

携帯を取り出すと、そこには着信とメールの知らせがあった。
発信者は・・・どっちも雅菜。

『家に行ったけど二人ともいないので、連絡がほしいです。』
『待っていられないので探しに出ます。華枝ちゃん絡みでしょう?』

・・・さすがというか、付き合いが長いというか。
それだけで俺の事情を見抜いてしまっている。

生徒会長を務めるような人望厚い成績優秀な女子生徒ってだけでなく、俺の幼馴染って部分も大きいよな・・・。


・・・・・・・・・・・・。


ピッ!

晃輝と雅菜へのメールを打ち終わると、携帯を閉じる。
俺はとりあえず妹の無事に安堵すると華枝をおぶり、家に向かって歩き出した。





PM19:32 住宅街


「・・・・・はぁ。」
列からのメールの返信を確認して、どっと疲れが出た。

華枝ちゃんは、やっぱり行方不明になるところだったんだ。
でも、今度はきちんと見つけ出した、か・・・。

いい加減、一人で何でも抱え込むのはやめないようにきつく言わないとね。
そういうことなら、私がいくらでも協力してあげるのに。

・・・まあ、一度や二度言って聞くような相手なら、私も苦労してないか・・・。

ふぅともう一度ため息をつくと、その足で自宅へと戻ろうとする。
明日、列から詳しい話を聞かなくちゃ。

それに、華枝ちゃんからも話を聞いたほうがいいかも。
こうも立て続けに危ない目に遭うようじゃ、他の生徒達も危ないかもしれない。
そうでなくても、今この街では行方不明事件が多発しているんだ。

それと関連するのかは分からないが、最近のこの街は妙な気配に満ちている。
人を襲うオルフェノクが出没しているわけではないが、まるで過去それがいた頃のような血生臭さが立ち込めている気がする。

仲間達にも声をかけて、街の住人を守るように言わなければ・・・。


と、そこへ。
暗い夜道を、制服姿の女子生徒が私の歩く前の道を横切った。

いけない・・・!
ああいう人こそ、今は注意しなければいけない時だ!


「あの、そこのあなた!」
「・・・・はい?」

私が駆け寄ってその女子生徒に声をかけると、その人はゆったりとした口調で私の声に返事を返した。

「この辺は最近は危険なんです。ですからこの時間に出歩かないで、早く家に帰って身を隠してください。お願いします。」
私は簡単に、しかし真剣にその警告を示した。
その制服の女子生徒は少し考えるような素振りをすると・・・。

「はい。そうさせて頂きます。それに・・・貴女も早くお帰りになりますよう。」
「わたくしに忠告を下さった事、とても感謝します。でも貴女もまた、その危険に身を晒しているのですよ?」

「貴女にも貴女を心配してくださる家族や友人がいらっしゃるはず・・・その方々に心配をかけないようにしてあげて下さいね。」


「・・・・!」

なんだ。
私は警告をしたつもりが、逆に心配されてしまった。
でもその丁寧な物腰と、きれいな声がつむぐ優しい言葉に少しもイヤミな所などなく、
むしろ私こそ失礼な事を言ってしまったんじゃないかと、そんな錯覚さえ起こさせた。

「ではまた明日・・・。ごきげんよう。」

「え・・・・あ。」

私がうろたえている間に、その女子生徒は路地に消えていった。
あの人、誰だっけ・・・。
学年は私より一つ上なのは分かる。でも、・・・。

・・・・・。

比良埼、藍、先輩・・・。

ふっと、その名前が頭に浮かんだ。
綺麗な容姿とその清楚な雰囲気で、後輩達に慕われている、人だったはず。

しかし、そんな先輩が、この時間まで一体何を・・・?



PM19:40 商店街付近


この波乱の一日もようやく終わると、大きくため息をつく。
華枝を探して夢中で奔走して・・・。

団地を抜け、街の明かりが近くに見えてきた。
もう少し歩けば、家に帰り着く。

・・・それにしても。
こうやって華枝を負ぶって歩くなんて、何年ぶりだろう。
小学生の頃は、華枝は毎日のように泣かされていて、泣き止まない華枝を頑張って負ぶって帰ったっけ・・・。
懐かしいあの頃。

夕焼け。兄妹二人で歩いた帰り道・・・。


「う・・・・・ん。」
「華枝?」

背中で、僅かにうめく声が聞こえてきた。
華枝が起きたのかと思い、声をかける。

「おにぃ・・・ちゃん・・・?」

いつかのように、華枝は俺を背中から呼んだ。
泣き疲れて眠ってしまった時の華枝を思い出す。

「もう大丈夫だぞ。華枝。俺がついているからな。」
「おにぃ・・・ちゃん・・・・。」

「おにぃちゃん・・・。おにぃ・・・・。」

華枝の声に涙が混じり始める。
何度も聞いた、華枝の泣き声・・・。
「もう安心だからな。」

「おにぃちゃん・・・っ!ごめんなさい、ごめんなさい・・・・っ!!」

「華枝?」
「うう、うええええ、う、うわああああああ、ああああ・・・・・!!」


華枝は、俺の背中で声をあげて泣き始めた。
よほど怖い事があったのだろう。その安堵から泣いているのだと。


俺はその時はそう思っていた。


華枝は何年たっても子供のままで、俺がいないと何も出来なくて。
いつも俺の影で泣いているような子だから、俺が守ってあげないといけない。

きっとこれからもそうなんだと、俺は考えていた。




・・・・・・・・・・・・・・・・。





時刻不明 場所不明




この町の外れには、誰も近づかない「帰らずの森」と呼ばれる大きな森が広がっている。
そこは昔から「手出しの許されない場所」として、開発が進んでおらず、今でも迷い込んだ人間は、二度と出てくることがないといわれている。

「お化けの出る」と言う噂に拍車をかけているのが、この森の中にある「幽霊屋敷」の存在だ。
町の外の人間が建てたといわれる、何のために作られたのか分からない、謎の洋館。

森の中に立っているその古い建物は、蔦が朽ちかけた壁を侵し、ボロボロの屋根には不吉を告げるカラスが、啼き声を上げていた。
近くの住人もお化け屋敷と称して、誰も近づかないその館。

      • その地下に、恐るべき実験を続ける、一人の「魔女」がいることを、誰も知らなかった。


・・・・・・・。


「ほうほうほう・・・・。ゼベイルの奴が生きておったか。」
「キヒヒヒヒヒヒヒ・・・・」

あやしげなツボや薬品棚、いかにも中世の魔女が使っていたようなそれらの器具と、それらとはまるでかけ離れた科学的な施設。手術用のメス。計器、手術台。
      • 手術台の上には黒い布がかぶせられ、それはその下に何かが入っているかのように、膨らんでいた。

奇声をあげて笑う、その部屋の主は、黒い法衣に身を包み、長い年月を刻んだ皺だらけの醜悪な顔を歪める。
それが彼女、この館の主、ウィッチ・ビアンコ。

・・・「白の魔女」、である。


「はい・・・おばあさま。」

その老婆と相対するのは、金髪の女。
先ほどまで、町で若い男を「ゴーレム」に襲わせ、誘拐を続けていた人物。
その名を「ガブエイア」という。

「この町に集まったいくつかの組織に、情報と金をばら撒いたところ、その有力な情報を得られました。」
「とっくに死んだものとあきらめておったが・・・、そうか生きておったか・・・。キヒヒヒヒッ・・・。」

「おばあさま・・・・?」

「「ウルエイア」!「ラフエイア」!帰っておるか!」
彼女が部屋の外に呼びかける。




「・・・あんだよババア。連日の「人間すりかえ」の仕事から帰ったオレらに、ねぎらいの言葉もなしかよ。」
「ボク達に、何か用なの?」
二者二様の返事を返して魔女の部屋に姿を現す、二人の女の子。

「おぬしらに新しい仕事じゃ。先日ここを逃げ出したゼベイル・・・。奴を始末し、その屍をここに持ってくるのじゃ。」

「ゼベイル・・・?ああ、あの失敗作の「ハエ」か。」
「あれ?それって確か、「ミクエイア」が追っかけて始末しちゃったはずでしょ?」

首をかしげる、ボブカットの少女。
大きな瞳に細い体、肩を出した服装に、ミニスカート。
「ウルエイア。これは先ほどの、お前達より早く帰ったガブエイアの報告じゃ。奴は生きておる。しかも並々ならぬ力をも蓄えたようじゃ。」

「私の仕向けた他の組織の戦闘員数十体を、軽々と倒しているのよ。」
「私の、目の前で。」
ビアンコに続き、ガブエイアも口を開く。

「他の組織の戦闘員だぁ?そんなの、何の自慢にもなりゃしねぇ。」
「だらしねぇ人間の出来損ない程度、オレだったら3分で50匹は軽いぜ。」

ウルエイアとは対照的に、老婆に乱暴に言葉を投げかけるショートカットの少女。
長袖のシャツの上にタンクトップ、下には黒いスパッツと、活動しやすい服装。

「こと戦闘においては、お前にかなうものは居まいて・・・。だがラフエイアよ。奴は私の目的もやり口も熟知しておる。」
「加えて私への恨みも募っておる。」
「この様子では、町に忍び込ませた擬態ゴーレムも破壊されるやも知れん。」

「ケッ・・・・。人間の姿をした泥人形(ゴーレム)。そいつと町の人間を「すりかえ」、ババアがそれを使って改造実験体を作る。」
「こんなことに、何の意味があるってんだよ。」

「お前たち「4姉妹」の完成以来、その後の私の研究は遅々として進まぬ。もっと実験用の人間が必要なんじゃ。」

「何の研究だか・・・・。」
「キヒヒヒヒ・・・・。おぬしらが知る必要はない。」

しわがれた声で、細い肩をすくめ笑う老婆。
その姿に、二人は大きく息をついた。



「・・・では頼むぞ。ウルエイア。ラフエイア。」

「っ!おばあさま!私も、ぜひゼベイル討伐に同行を!」

「ガブエイアよ。お前はこの町に入り込んだ他の組織との交渉を進めておいておくれ。」
「私たちは技術こそあれ、その組織の大きさは連中とは比べ物にならぬ。」
「表立って事を構えれば数に劣る我らはひとたまりもあるまい。そのための交渉じゃ。よいな・・・?」

「っ!・・・それは、確かに私は、あの二人のように戦闘向きではありませんが・・・。」

「・・・・表立って動く必要はない。私たちは深く静かに、粛々と事を成せばよい・・・。」
「私の悲願の成否如何は、お前の働きにかかっておる。」
「頼りにしておるぞ・・・。」

「・・・は、はい。」
魔女の言葉に、ガブエイアはゆっくりとうなずいた。


「大丈夫だよ!こられないガブエイアの代わりに、ボクがあのハエを殺してあげるから♪」
「・・・そうだぜ。お前が来るまでもねぇ。」

「えぇ。・・・二人とも、ありがとう。」



「ウルエイア、ラフエイアよ。ゼベイル討伐の一助となるであろう。こいつを連れて行くがいい。」
ウィッチ・ビアンコはこの部屋の中央の手術台の上にかぶされていた、黒い布を剥ぎ取った。

「完壁とは言えぬが・・・。ゼベイルに匹敵する戦闘力を持つじゃろう。こやつをうまく使って、あの女を始末してきておくれ。」


それは、黒い蜘蛛のような姿をした人間・・・。
片腕は蜘蛛の持つそれと同じ形をしており、その顔には赤い昆虫のような目が八個。
下半身は蜘蛛の腹のように大きくせり出し、胸からは人間の足が左右対称に6本生えていた。


「・・・悪趣味なもんこしらえやがって。」
「名は・・・そうじゃな。蜘蛛型の眷属、「スパイダーファミリア」としよう。」
「では、頼んだぞ。私の可愛い娘たち・・・。」

「はい!分かりました。おばあさま。」
ウルエイアが、ウィッチ・ビアンコに頭を下げる。

「キヒヒヒ・・・。そのように呼んでくれるのは、お前とガブエイアだけじゃぞ。それに引き換え・・・。」
「ばかばかしい。行くぜ。ウルエイア。」
機嫌が悪そうにきびすを返し、部屋を去るラフエイア。
それに、「スパイダーファミリア」がついていく。
「あ!ラフエイアっ!」

それについてウルエイアも去っていく。


「では私も・・・我々との接触を図る組織との調整をしてまいります。」
ガブエイアもまた、部屋を出て行った。



「ふむ・・・さて・・・・。」

魔女の研究室に、一人残されるビアンコ。
つかつかと歩を進めると、壁際に据え付けられた、この研究室のあらゆる器具を操作するパネルの前に立った。

パチッ

魔女がそのパネルのボタンの一つを押すと、床の一部が丸く開き、そこから人間一人がすっぽりと収まるような巨大なシリンダーがゆっくりとせりあがってきた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・

重い稼動音とともに昇ってきたそのシリンダーは液体に満たされており、
そしてその中には丸くうずくまるような姿をした女性が一人、眠るように浮かんでいた。

その全身にはシリンダーの上下から幾つも伸びた生物的な管が繋がれており、特にその管が集中する背中の部分には、
青い色をした、千切れかかった大きな鳥のような翼があった。

青く長い髪を生やしたその女性は自分が呼び起こされた事に気がつくと、その体勢のまま白の魔女を見る。


「ミクエイアよ。傷の調子はどうじゃ?」
ミクエイアと呼ばれたシリンダーの中の女性は、魔女の言葉に僅かに頷いた。
『はい・・・ビアンコ様・・・・。回復には今しばらく、かかりそうです・・・。』
『私がゼベイルを仕留め切れなかったせいで、妹達に私の役割を押し付けてしまい・・・本当に申し訳ありません・・・。』

「急ぐ必要はない・・・。お前は私の大事な娘じゃ。」
「ゼベイル如きどうにでもなる。今はゆっくりと傷を癒すがよい・・・。」

『ありがとうございます、ビアンコ様・・・・。』

「ふむ・・・。ときに、今日は機嫌がいいようじゃな?」

魔女のその指摘に、ミクエイアはゆっくりと微笑んだ。
『私、夢を見たんです・・・。』

「夢・・・?」
『はい・・・。夢の中の小さな私は、とても幸せそうでした・・・。』

「そうか・・・・。」





ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・。

ミクエイアは再び眠りに就き、シリンダーは研究室の下へと戻っていく。

「夢・・・か。」
「初期の改造実験体であるあの娘には、まだ人間だった時の記憶が残っておるようじゃな・・・。」



「しかし・・・ゼベイルめ。まだ生きておってくれたとは・・・!」
「その身に抱えた貴重な試作品のデータ・・・かような形で手に入れることが出来ようとはなぁ!」

「キヒヒヒヒヒ・・・・!年甲斐もなく、ワクワクしてきおったわぃ・・・。」

「ゼベイルよ。私とガブエイアの敷いたこの囲いからは逃れる事など出来ぬぞ・・・。」
「周囲のすべてを敵に回したおまえに未来はない・・・!」

「貴様は所詮、私のモルモット・・・。試験管の中からは解き放たれる事など有り得んのじゃ。」



「キヒヒヒヒ・・・・キィーッヒッヒッヒッヒッヒッ!!!」



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