第2章第2話「騒々しすぎる朝」


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AM.08:35 ボード学園高等部2年D組・教室

今日もいつもどおり、朝のHRが行われている。
が、今朝は様子が違っていた。

「…というわけで…みんなも知っていると思うが…中等部に“キャナ☆”ちゃ…じゃなくて新浜 香奈さんが復学した」

どこか歯切れの悪い言い方をしながら、担任の教師がボード学園を揺るがす大事件の説明をしている。

国民的人気アイドル“キャナ☆”。突然の復学。

今や学園でそのニュースを知らぬ者はいない。

「…まぁ…その…なんだ…彼女は国民的な人気アイドルだが…今はただの学生だからな…必要以上に…騒ぎ立てたりしないように…」

だが、生徒の大半は担任の話など耳に入っていないだろう。うずうずと落ち着きの無い様子で、HRの終了を待っている。

「いいか!とにかく彼女の事で騒いだり騒動を起こしたりするんじゃないぞ!いいな!!」

担任は最後にそれだけ言うと、足早に教室を後にした。そしてそれと同時に大勢の生徒が教室を飛び出した。
目的は言わずもがな…

「…………………」

2年D組の生徒、白鷺 葵はキョトンとした様子で教室に取り残されていた。
一体何がどうしたのか?という様子だ。

「どうしたの?そんなおかしな顔して」

そんな葵の隣にやって来たのは一人の男子生徒。一之瀬 裕輔だった。

裕輔は唖然とした表情をした葵の顔を覗き込むと、少し楽しそうに尋ねる。
「おかしな顔」と言われ、葵も恥ずかしくなったのか少し赤面した。
それを見て裕輔はやはり楽しそうに微笑む。

「ふふふ…白鷺さんは本当に面白い人だよね。僕の周りにはいないタイプの人だから、見ていて楽しいよ」
「そ、そんな…面白いだなんて…からかわないでください…」

またもや赤面する葵。
すると、そこへ新たな生徒がやって来た。

「おっ!一之瀬、さっそく転校生を口説いてるのか?」
「うるさいなぁ。こういうのは早い者勝ち、先手必勝ってやつだよ」

やってきたのは、同じく2年D組の生徒である蒼崎 幹也だった。

ここからはごく普通の高校生たちの会話が始まる。
話題は当然、人気絶頂のアイドル“キャナ☆”だった。

まずは裕輔と幹也が話を始める。

「でもまさか、あの“キャナ☆”が復学するとはなぁ…」
「ホントホント。アイドル休業も突然だったけど、復学も突然だったな」

本日のボード学園で、おそらく最も生徒の口から出たであろう話題だ。
しかし、葵は少々首を傾げている。

「あの…“キャナ☆”さんって、そんなに有名な方なんですか?私、あんまりテレビを見ないのでよく知らないんですけど…」
「そこからか!!」

大げさにずっこける仕草をする裕輔。
それを見て幹也も葵も笑みを浮かべる。

それから授業が始まるまでの間、3人は談笑を続けた。
しかし裕輔がボード学園で偽りの学生生活を送っている間にも、街では新たな災厄がすでに活動を開始していた。


AM.08:40 繁華街・路地裏

ボード学園とは中心街を挟んで、ほぼ反対側に位置する場所で悲劇はまさに起こっていた。

『キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!』

甲殻類を思わせる外骨格に覆われた漆黒の身体。
真紅に染まり、狂気を含んだ禍々しい光を放つ凶眼。
両手の鉤爪は鮮血で染まっており、その足元には無残にもバラバラにされた死体。
出勤途中のサラリーマンだろうか。スーツは人体ごと切り裂かれ白いシャツも元の色が判らないほど真紅に染まっている。

『キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!』

しかし怪物の殺戮は終わったわけではない。
真紅の凶眼は新たな獲物を求める。その視線の先には路地裏の出口。
即ち、人通りの多い繁華街だ。

『キシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!』

怪物が一際大きく叫ぶ。そして一歩、また一歩と移動を開始した。
この怪物が街に出現すれば多くの人々が犠牲となるだろう。
しかし犠牲となる人間の多くはその存在すら知らない。自身に襲い掛かろうとする危険に気付かない。


AM.08:20 一ノ宮財閥傘下の病院

遡ること20分前。刹那の病室では、ちょっとした…というよりも大変な騒ぎが起こっていた。

「…………………」

呆然と立ち尽くす遥。
その視線の先にあるのは刹那が眠っていたベッド。
眠っていた。そう“過去形”である。

今現在、ベッドで寝ている人物はいない。
刹那がいないのだ。

「ああっ!!!!やばいよぉー!!!!!」

朝の静かな病院に遥の叫びが木霊する。
それは数分の出来事であった。

夜明け前。百合子が別件で数時間のみ監視の任務を離れることとなった。
日の出直後。代理となる実働部隊隊員が病院に到着。
そして遥が席を外した直後、刹那が目を覚まし脱走。

因みに監視をしていた隊員は全員殴り倒され、監視カメラもすべて壊されていた。
刹那は窓から脱出したらしく、その後の足取りは不明のまま。

「最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ…」

ついに遥はその場にへたり込み、頭を抱えだす。
これはかなりまずい状況だ。このまま刹那が見つからず、野垂れ死にでもしたら監視を命じられていた自分の責任ということになる。
最悪の場合は命を…

「冗談じゃないわよ!!!!なんとしてもあの女を探し出す!!!」

そう叫ぶと遥は電光石火の速さで病室を飛び出した。


AM.08:40 繁華街

「………………」

朝の雑踏の中を黒のスーツを着た女性が歩いている。
勿論、月宮 刹那である。

刹那は今、かなり不機嫌だった。
3日間も眠っていたというのが苛立ちの原因である。つまり“カンケル”を探す時間を3日分も無駄にしたことになる。
それが刹那を何よりも苛立たせているのだ。

(くそっ!!!!掠り傷程度で3日も寝ちまうなんて!!!)

一刻も早く“カンケル”を探し出して息の根を止める。
それが刹那の願い、悲願だが未だに“カンケル”を見つけ出せていない。
その事実が刹那にとっては何よりも気にいらない。そして自身への怒りへと繋がっている。

「ちっ!」

刹那は苦々しく舌打ちをした。
あれこれ考えていても無駄だ。とにかく行動あるのみ。
そう考え直し、“カンケル”を探すべく行動しようとする。

次の瞬間

轟音

「!!!」

刹那が今まさに向かおうとしていた方向から凄まじい爆音が響き渡る。
見れば黒煙が空高く上がっており、悲鳴と共に人々が逃げだしてくる。
ただならぬ事態が発生したと、誰の目から見ても明らかだ。

逃げ出してきた人々の顔は恐怖に染まっており、事態を把握できぬ人々の顔は混乱と不安が張り付いている。
しかし恐怖と混乱は恐ろしく高い伝染力を持つ。例え事態を理解できずとも、何が起こったのか分からずとも、パニックは確実に広がる。

多くの人々がパニックに陥り、早朝の街は阿鼻叫喚の地獄絵図に早変わりする。
そんな状況の中でもただ一人、刹那はこの状況を喜んでいた。

「はははっ!!!この感じ、“キャンサー”だな!?やっと、やっと見つけたぞ!!」

まるで想い人に出会ったかのように歓喜に震える刹那。
その姿はパニックに陥った群集の中でも一際異彩を放っており、それを感じてなのか、逃げ惑う人々も自然と刹那を避けていく。

「ちょうどいい…ぶっ潰してやる」

静かにそう呟くと、刹那は今も轟音が響き渡る方角へと歩を進め始める。

今まさに最悪と最凶が出会う。

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