第2章第9話「静かな影、激しい闇」


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作:プラスマイナス

PM.12:40 ボード学園中等部3年A組前の廊下

「キャナ☆ちゃんこっち見てぇ!!」
「目線くださーい!!!」
「きゃー!!キャナ☆ちゃんと目が合っちゃった!!!」

ボード学園で一番の話題であるキャナ☆が在籍する中等部3年A組の前では、朝や授業の合間など僅かな時間でも人気アイドルのキャナ☆を見ようと、大勢の生徒たちが教室の前に押し寄せていた。
それが昼休みともなれば、より多くの生徒がやってくる。大勢の生徒が一ヶ所に集まれば、本人たちの意思とは関係なく、色々と危険な事故も起こるのだ。
実際に、下級生が人ごみの中で押し倒された挙句に怪我をしたとか、キャナ☆の写真を巡っての乱闘なども発生している。
そこで混乱する状況を打開しようと行動を起こした生徒が1人いた。

神宮寺 千夏

「鋼鉄の千夏」という異名を轟かす、ボード学園生徒会副会長。
制服の右袖には常に「ボード学園生徒会」の腕章を着けており、鉄の意志で生徒会活動をおこなう熱血(と言うと本人は怒るが…)少女であり、それが「鋼鉄」の由来でもある。
実際はそれだけが由来ではないが…

「みんな落ち着いて!!そこ!危ないでしょ!!そっちも!!」

千夏は昼休みなると、自分の昼食も食べぬまま真っ先にここへ駆けつけた。
理由はここでの騒ぎを少しでも鎮めようと考えたからだ。

「こら!!中学生が倒れてる!!みんな気を付けて!!…って気を付けろって言ってるだろうが!!」

しかし相手は人気アイドル。いくら支持率が高かろうが、一介の生徒会役員では突然こうなる。誰一人として千夏の話など聞いていない。
千夏は真面目な性格だが、先に述べたように鉄の意志から来る熱さを併せ持ち、徐々にヒートアップしてしまう悪い癖があった。

「ぐぬぬぬ…こうなったら!!!」

そう言うと、何を思ったのか。千夏は教室の前に集まる群集に突撃した。

「ちょっと!!道を開けて!!…ぐぎゃ!!…みぎゃ!!」

大勢の生徒たちに揉みくちゃにされながらも、一歩一歩前進していく。

「ちょっと…通して…」
「邪魔だよ!!」
「ぐぎゃ!!」

生徒たちを掻き分けて何とか3年A組へ向かおうとするが、行けども行けども距離的にはすぐ其処にある教室へ辿り着けない。
それどころか一歩進むよりも早く後ろへ押し返されるのだ。
千夏は同世代の少女に比べて長身ではあったが、これだけの人ごみの前ではそれはあまり意味をなさなかった。

「ぐむむむ…ぎゃ!!」

結局、千夏は人ごみに飲まれその姿を消してしまった。



PM.12:50 ボード学園校舎の屋上

「…………………」
「これまた随分と…お疲れ様」

惨劇から数分後、ボロボロにされた千夏は屋上にいた。その隣にいるのは裕輔である。
2人は屋上に置かれたベンチに腰掛けながら、遅めの昼食をとっているところだ。

「…………………」

千夏はずっとこのような感じである。不貞腐れたように黙ったままで一言も話さない。いや、実際に不貞腐れているのだが。
千夏はキャナ☆に直談判して騒ぎを鎮めてもらおうとしたのだが、結局肝心のキャナ☆に会うことが出来なかった。
そして人ごみの中で揉みくちゃにされていたところを裕輔が引っ張り出したのだ。
当然ながら裕輔も揉みくちゃにされたのだが、当の本人は何事もなかったかのように普通に食事をしていた。

「まぁ…彼女の人気を考えれば君じゃ太刀打ちできないよね」
「……うるさい」
「何をそんなに怒ってるのさ?」
「……うるさい」

「やれやれ…」といった感じで裕輔も呆れる。

(やれやれだね。彼女はどうも僕に対してライバル心を持っているようだし…)

「どうしたものかね…」

裕輔はそう言って立ち上がると、大きく伸びをした。

「んー身体が鈍る。そろそろ一暴れしたい頃だけど…」
「……うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさい!!!」
「おっと…」

千夏も叫びながら立ち上がると、間髪いれずに裕輔に拳を連続で繰り出す。
そのスピードはただの高校生が繰り出すパンチとは桁違いの速度であり、プロボクサー並みと言っても決して過ぎた表現ではない。
それを繰り出す千夏にも驚きだが、それを何の造作もなくかわす裕輔も驚くべき身体能力を見せている。

次第に千夏のパンチをかわすのが面倒になったのか、裕輔は千夏の全力パンチを造作もなく受け止める。
聞くだけでも痛そうな音が屋上に響き渡るが、裕輔自身は涼しげな表情をしており特に変化はない。むしろ痛みを堪える表情をしていたのは殴った千夏の方だった。

「君も随分と鈍ってるみたいだね」
「あんたほどじゃないわよ」

千夏は自嘲気味に言いながら、後片付けをすませて早々に屋上を後にした。
残された裕輔は、再びベンチに腰掛け空を見上げる。

「…ぬるい」

裕輔はただ一言、そう呟いた。


AM.08:45 繁華街

そこは既に殺戮の場へと変貌を遂げていた。

『キシュゥゥゥゥゥゥ!!!』

その身を漆黒に染め上げた異形“キャンサー”。
突如として現れたこの怪物は、平穏な街を恐怖のどん底へと叩き落し、人々はただただ逃げ惑うしかなかった。
しかし戦慄の殺戮者は、老若男女の僅かな例外をも許さず次から次へと生命を奪い去る。そして殺戮だけでは物足りず、車両や建物なども破壊されつくした。

「い、いや……」

いままた、新たな犠牲者が出ようとしている。若い女が恐怖から腰を抜かして動けずにいた。
キャンサーの赤い眼が獲物を捉える。
そして。

一瞬の出来事であった。

『キシュゥゥゥゥゥ!!!』

女の身体はキャンサーの鋭い尾に貫かれた。おそらく、女も自分の身に何が起こったのか、最後まで理解できていなかったであろう。女は即死だった。
キャンサーは、その強靭な尾で女の亡骸を持ち上げると、塵を掃うかのように無造作に放り投げる。物言わぬ亡骸は、強力な力で地面に叩きつけられ不快な音と共に見るも無残な形へと変貌を遂げた。

『キシュゥゥゥゥゥゥ!!!』

キャンサーは無残な姿となった女には目もくれず、新たな獲物を捜し求める。だが、その周囲には既に人の姿はなく、大方の人間は全て逃げてしまったようだ。
さらなる獲物を求め、キャンサーは移動を開始しようとした。しかし、目の前にこちらへ向かってくる人影が見える。
それは黒いスーツを着た女だった。長い黒髪を靡かせながら、キャンサーに向かって疾走してくる。その目には歓喜の、いや狂気の光が宿っており、とても正気とは思えなかった。

月宮 刹那

それが女の名前だった。

「はぁ…はぁ…はぁ…やっと!やっと見つけたぞ!!!」

その場へと駆けつけた刹那は、やや青い顔をしながらも異様な光を宿した瞳でキャンサーを睨み付ける。そして何が嬉しいのか、まるではしゃいでいるかのようにすら見える。
実際に刹那は高揚していた。待ちに待ったカンケルの手掛かりが目の前にいる。だがキャンサーは言葉を話すどころか人語を理解するほどの知性もない。
そんなことは刹那も分かっている。しかし、この際それはどうでも良い。

(こいつ等は“カンケル”から生まれる。つまり、こいつ等を潰していけば親元に辿り着ける!)

恐ろしく非効率的な考え。しかし刹那はそれが一番確実な方法であると知っている。“カンケル”は、如何なる方法を用いてもその存在を察知させなかった。過去に“カンケル”に迫ったときも、眷属たちの動きを逆算して居場所を突き止めたのだ。
その際はこちらの動きを察知されたのか、あるいは別の思想が働いたのか。結果的に“カンケル”を完全に捉えきる事が出来なかった。

「今度こそ…今度こそ!!“カンケル”の所まで連れて行ってもらうぞ!!」

無人の街に一際響き渡る叫び。

そこに宿る感情は一体何であったのだろう。

刹那は興奮を隠さず、戦闘態勢に入る。

「変身!!」

叫ぶと同時に刹那は駆け出す。そのまま刹那の身体は黒いオーラに包まれ、その中から漆黒の戦士が姿を見せる。

復讐の戦士。仮面ライダーシキ。

「ダークライト!!」

シキの叫びと共に、変身時に発生した黒いオーラが右腕に集中する。漆黒の気を纏った右腕は、一瞬にして漆黒のオーラ…“ダークライト”に包まれる。
シキはそのまま勢いを止めることなく、キャンサー目掛けて突っ走る。キャンサーが迎撃をとる前に、一気に勝負を仕掛けた。

「おぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

キャンサーの懐に飛び込んだ。それと同時に、ダークライトを纏った右拳がキャンサーのどてっ腹を貫いた。
シキの漆黒の一撃はキャンサーの外骨格を物ともせず、易々とその身体を貫通して見せる。

『キシュァァァァァァ!!!!』

身体に風穴を開けられたキャンサーは、断末魔の叫びと共に消滅した。カンケルの眷属は、その活動が停止したとき、自動的に消滅してしまう。
それゆえ死体を残さないので、今の今までその存在を知られなかったのだ。生きた眷属を見た者は十中八九殺されるので、結果的には存在を隠してきたというわけだ。

話がそれたので本編へ戻る。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

見事な一撃でキャンサーを葬ったシキであったが、その息は荒く妙に疲弊しているように見える。
実は彼女の怪我は完治しているわけではないのだ。それなのに散々歩き回ったあげく、全開での一撃。傷口が開きかけているのは、ある意味当然である。

だが、まさに傷口に塩を塗るといった状況になっていく。

『キシュゥゥゥゥゥ』

新たなキャンサーがシキの前に現れる。それも1匹や2匹ではない。
6匹…7匹…8匹…9匹…いや、10匹はいるだろう。
これがキャンサーと呼ばれる眷属の特徴だ。決して単独で行動するなどありえない。
常に、如何なる状況においても集団で行動する。そしてどんな敵でも数で圧倒する。典型的な人海戦術を仕掛けてくる。
5匹で足りなければ10匹で、10匹で足りなければ20匹で、それでも足りなければそれ以上の数で。
キャンサーは“カンケル”が存在する限り無限に増え続ける。このまま行けば、世界はいずれキャンサーに埋め尽くされ全ての生命はキャンサーに踏み潰されるだろう。
しかし、それすら“カンケル”がもたらす最悪の1つに過ぎない。

そしてシキ…月宮 刹那は、その中で最も過酷な地獄を見た。
それが刹那の力の源であり、崩壊寸前の心を繋ぎ止める唯一の支え。

「くくくっ…いいぞ、どんどん来い。お前ら全部潰せば、いずれアイツに辿り着ける。“カンケル”をこの手で殺すまで…私は絶対に死なない!!!」

死に物狂いの叫びと共に、シキはキャンサーの群れへと飛び込む。

『キシュゥゥゥゥゥゥゥ!!!』

キャンサーたちも戦闘態勢に突入している。
二十の真っ赤な瞳がシキを捉えた。そして各々がシキを抹殺するために行動を起こす。

『キシュゥゥゥゥゥゥゥ!!!』

シキに最も近い1匹が素早く行動に出た。不気味な形状をした口の内部から、不可解な光が漏れ出す。

『キシュゥゥゥゥゥゥゥ!!!!』

そして次の瞬間、その光は邪悪な光弾となってシキに放たれる。

「くっ!」

それは正確にシキを目掛けて発射されたが、シキはギリギリまで引き付けて攻撃をかわした。

標的を外した光弾は、近くにあった車を直撃した。そして次の瞬間、車はまるで初めから其処になかったかのように消滅してしまった。

続けて他のキャンサーたちも、次々と光弾を放つが、シキもそれら猛攻を紙一重でかわしていく。

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

シキの孤独な戦いはさらなる熾烈を極めていく…かに見えた。

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!可愛い娘がいるぅぅぅぅぅ!!!」
「あぁ!?」

突如響き渡る、戦場には不似合いの黄色い悲鳴。
シキが声のした方を見ると、そこにはやたらと背の高い女の姿が。

(あぁ?なんかどっかで見たような…)

シキはデジャブのような感覚に陥るが、実際に3日前にボード学園で出会っている。しかし、あの時はまったく眼中になかったので記憶にないのだ。

一方で、“歩く完全女の子図鑑”である“槍使い”は当然ながらシキこと月宮 刹那のことを記憶していた。

「あの娘はあの時の!?くぅぅぅぅぅ…また会えるなんて!これって運命!?日頃の行いが良い私への神様からのご褒美!?」

普段の彼女を知る人間が聞けば「そんなバカな!?」と叫んだだろうが、不幸にもそんなツッコミを入れる人間はいなかった。

『キシュゥゥゥゥゥゥ!!!』

キャンサーは新たな標的を睨み付けるが、“槍使い”は全く別の事を考えていた。

(なんかよく分かんない奴らがいるけど…ざっと10匹か。って言うことはあれ全部倒せば10人も。うへへへへへ…)

涎まで垂らしての怪しい笑み。何かろくでもないことを考えているのが丸分かりだ。


(なんだアイツは?身のこなしといい、雰囲気といい、普通の奴じゃねぇことは分かるが)

シキはキャンサーの攻撃をかわしつつも、突然現れた“槍使い”について思考を巡らせていた。
幼い頃から荒れ狂った日々を生き抜いてきた刹那は、第6感ともいえる直感で“槍使い”が只者ではないと見抜いた。
だが無視する。

どうでもいい。何でもいい。邪魔なら倒す。

そこへさらなる参入者が現れる。

「ちっ!」

思わず舌打ち。

現れたのは黒いコートの大男だった。空から現れたようにも見えたが…

「次から次へと…しかもデケェ奴ばっか…」

何の因果か、やってくる者は揃って背丈が高い。
だが無視する。

もう何がやってきても無視だ。無視しろ。
刹那はそう自分に言い聞かせた。

「よーし!!明るい未来を目指してレッツゴー!!!」

『…駆除…開始』

「うぜぇ」

三者三様の思想を抱え、3人はキャンサーに挑む。

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