第2章第16話「世界を蝕む病」


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AM.08:50 繁華街

早朝の繁華街は一瞬にして地獄へと変貌を遂げ、漆黒の異形は群れを成して際限なく押し寄せる。
さらにそれと戦い続ける三者の姿。

その光景を近すぎず、そして遠すぎない距離にあるビルの屋上から観察する女の姿があった。
その女の名はアリス。地面に達するほど長い金髪と漆黒の服装をした容姿端麗な美女だ。
しかしその表情は驚くほど冷たく、人間らしい温かみをまったく感じさせない。「氷のような」という表現がこれほど納得できるのも珍しい。
アリスの視線はただ一つ。漆黒の異形、キャンサーにのみ集中している。

キャンサーの行動は実にシンプルなものだった。
対象目掛けて前進、攻撃。これだけである。既に数え切れないほどのキャンサーが繁華街の通りを蠢いているが、その全てがこのパターンを繰り返している。
たった一匹の例外も無く、動きに乱れが無い。
その完璧なまでの動きは、どこか滑稽でもあり同時に不気味でもあった。

「こんな所で貴女に会えるなんて驚きですね、Dr.アリス」

後ろから声をかけられ、アリスは振り返る。しかし表情は無関心かつ無気力といった具合だ。
そんなアリスを見て、声の主の表情が逆に強張る。声の主は意外な人物だった。

ラビリンス首領。

早朝からある目的の為に外出していた彼女は、偶然にも刹那を見かけ、なおかつ今回の騒動に遭遇したのだ。
そして興味本位で刹那の跡を追い、これまた偶然にも戦況を見守るアリスを発見し声をかけた。という次第である。

「何でも屋さんが私に何の用かしら?」

アリスはやはり無関心そうな声でラビリンス首領に話しかける。彼女もラビリンスやラビリンス首領の事は知っていた。裏社会よりも深い部分、“闇社会”とでも言えばよいのか、そういった世界の住民は広く情報を収集しているものである。
尤も、情報を集めたのは彼女の配下である異能怪人たちで、アリス自身はラビリンスには微塵の興味も無い。ただ以前にラビリンスの技術を研究した事があり、その時に資料に眼を通した事があった。故にアリスはラビリンスを膨大な知識の片隅に置いているのだ。

ラビリンス首領からすれば、これは意外だったようだ。

「ふふふ…私共の組織をご存知とは光栄です。貴女のお噂もよく耳に入りますわ、Dr.アリス」
「…………」

ラビリンス首領の言葉にもアリスの関心は薄い。
アリスは本人の意思とは関係なく、闇の組織に広く知られていた。そのため様々な組織から協力や技術提供などの誘いを多く受けている。
当然、ラビリンスもアリスの力を手に入れたいと考えていた。

「貴女のそのお力、是非とも私達の組織にお貸しいただけないでしょうか?勿論、此方も協力は惜しみません」
「…お断りする。ラビリンスには私の求める技術も知識も無い。それに商売事にも興味は無い」

即答。

アリスはラビリンス首領の誘いを簡単に断った。
しかし、ラビリンス首領は断られたにも関わらず何故か苦笑い。

(噂どおり。いえ、噂以上の人物ね)

ラビリンス首領は内心、こんな事を考えていた。アリスが自身の誘いを断るなど初めから分かってはいたのだ。ただアリスが何の躊躇いもなく即答した事に対して少なからず驚いてはいたが。

狂気の魔女、アリスは如何なる組織にも媚びない、靡かない、属さない。

これは有名すぎる話だ。

過去にも多くの組織が彼女の力を欲し、勧誘目的で接触した。だが、アリスの答えは常にノーだ。
彼女は他の組織が持ちえない技術を多く持っていた。それこそ、その気になれば世界征服にも乗り出せる。僅かな配下たちだけでも。
しかし彼女はそれをしない。アリスの目的とは何なのか。その真意を知る者はいない。

「…それにしても、あれは一体何なのですか?」

これ以上粘っても良い返事は期待できない。そう考えたラビリンス首領は、先ほどから感じている疑問をアリスにぶつけた。
彼女の言う“あれ”とは“キャンサー”のことである。

「オルフェノクでもアンデッドでもない。けど、人造生命体や改造生物にも見えない。うまくは説明できないけど…」

ラビリンス首領は少し考えこむ。自分でも何と言えば良いのか分からない、といった様子である。
そんなラビリンス首領をアリスは関心が無いように横目で見る。

「…作られた感じのしない、自然な感じ。だけど、妙な違和感が…なんでしょうか?」
「…あれは“キャンサー”。“無限”から生まれる意思なき怪物」
「えっ?」

アリスが突然語りだしたので、ラビリンス首領は呆気に取られてしまった。

「Dr.アリス、“無限”とは一体?」
「世界を蝕む深刻な病よ。貴女も今の世界で商売をするつもりなら“奴”には十分注意することね」

そう呟くと、アリスはその場を立ち去った。
ラビリンス首領は彼女の言葉の意味を聞きたかったが、それも叶わず、その背中を見送るしかなかった。


AM.08:50 繁華街

早朝の繁華街は、無限とも思える“キャンサー”に押し寄せられ地獄へと変貌していた。その“キャンサー”と戦う三者、仮面ライダーシキ、仮面ライダージン、サンダルフォン。しかしながら三者とも圧倒的な物量の前に劣勢を強いられていた。

シキが格闘で打ち倒しても、ジンが嵐の槍で薙ぎ払おうとも、サンダルフォンが豪腕で叩き潰しても、“キャンサー”はどこからか無尽蔵に出現するのだ。

「オカシイ。奴ラハ一体ドコカラコレダケ」

サンダルフォンは“キャンサー”と戦いながらも、密かに“キャンサー”を観察していた。
その身体は鋭角的かつ攻撃的なフォルムで、初めから他の生命体を殺戮する事を前提に生まれたとしか思えない。各個体を比較したが、どの個体も全く違いが無いのも疑問である。
しかしそれ以上に不明なのが、“キャンサー”が口から放つエネルギーである。

「未知ノエネルギー…コレハ…」


「ふっ!!」

仮面ライダーシキの鋭い一撃が“キャンサー”を捉える。しかし“キャンサー”は僅かに後退しただけでまるで効いていない。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

元々本調子でない上、これだけの大群の相手をしている。流石に息が荒い。
加えて、“キャンサー”以外の問題もあった。

「可愛い娘ちゃん大ピンチ!!そのピンチを救うのはこの私!!そして二人は…うふふふふ!!」

凶暴な“キャンサー”の群れもそっちのけ、可愛い女の子目指して驀進するもう1人の仮面ライダー、仮面ライダージン。この存在がシキを精神面で大きく疲労させていた。

「うるせぇ!!お前の力だけは借りねぇ!!」
(あいつの近くにいるくらいなら“キャンサー”の群れに飛び込んだほうがマシだっ!!)

そう思い満身創痍の身体に鞭打って構えるが、“キャンサー”の攻撃は容赦なかった。

『キシュゥゥゥ!!!』
「ちっ!」

五体の“キャンサー”がその醜悪な形をした口から邪悪な波動を放つ。その狙いは疲弊しきったシキだ。
シキは攻撃をかわそうとする。いつもならこの程度の攻撃を回避するなど造作もない。だが、今の満身創痍の身体はシキの意思どおりには動いてくれなかった。
わずか。ほんのわずか、シキの動きが鈍る。それが決定的なものになってしまった。

「しまっ…ぐわぁぁぁぁぁ!!」

“キャンサー”の放った波動すべてがクリーンヒットした。その衝撃でシキは大きく弾き飛ばされる。一瞬の動作の遅れで防御も受身も取れなかった。
そのままボロボロに朽ちたアスファルトに叩きつけられる。“誰か”のせいでアスファルトは、まるで凶器のように鋭利な状態になっており、それがシキの身体を傷付けた。

「ぐっ…あっ…」

今の衝撃で完全に傷口が開いたようだ。シキの脇腹から出血が始まる。ダメージで未だに立ち上がれないシキに“キャンサー”の大群が押し寄せる。このままでは無抵抗のままなぶり殺しにされるだろう。

「く…そが…」

薄れる視界に映るのはどこを見ても“キャンサー”。四方八方から“キャンサー”の大群が迫る。それでもシキは諦めない。いや、諦めたくなかった。

(くそが!!こんな所で、こんな所で死んでたまるかよ!!)

しかしその意思に反するように身体は動いてくれない。
絶体絶命と思われた、そのときだった。

「!?」

突然、シキの身体が本人の意思と関係なく、宙に舞った。いや、正しくは誰かがシキを抱きかかえ宙へ飛んだのだ。
驚きで薄れていた意識が一気に回復した。シキは自分を抱える存在を慌てて見た。

それは黒いコートを纏った大男、サンダルフォンだった。

「大丈夫カ?」
「お前…何で?」

そのままサンダルフォンは“キャンサー”の比較的少ない場所へと着地した。
それと同時に豪腕を振るい、群がる“キャンサー”を牽制する。

「オ前ニハ、マダ聞キタイコトガアル。答エロ、アノ怪物ノ放ツ攻撃…アレハ“消滅波動”カ?」
「あぁ?まぁ、確かにそんな名前だったような。それがどうかしたのか?」
「イヤ、ソレダケ分カレバ十分ダ」

シキからすれば奇妙なやり取りだった。この男は一体何故“キャンサー”の攻撃などに疑問を感じているのか。その理由が分からない。

しかしシキが深く考える間もなく、この地獄に怒声が響き渡った。

「この変態男ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!可愛い娘ちゃんに触るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ム?」
「あぁ~くそっ、今聞きたくねぇ声が…」

重装甲の戦士、仮面ライダージンが“キャンサー”を物ともせず、シキを抱きかかえるサンダルフォン目掛けて猛スピードで突っ込んできた。その暴走を止める手立ては無く、“キャンサー”は次々と宙へ放り出されると同時に消滅していった。

「こんのぉぉぉぉぉぉぉぉド変態!!!このまま死んじゃぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

そう叫ぶとジンは拳を構えた体制のまま突っ込んでくる。どうやら勢いに身を任せ、そのままサンダルフォンを殴るつもりらしい。
が、サンダルフォンもそのまま殴られるつもりは無く、シキを適当な場所へ下ろすとジンの拳を造作もなく受け止める。

「クッ!!」
「ちっ!!」

豪腕と豪腕の激突。
その衝撃は凄まじく、余波だけで周囲にいた“キャンサー”が全て吹き飛ばされるほどの力の衝撃波が巻き起こる。

「…………………………」
「ふぎぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

ジンは拳を受け止められても、攻撃を押し切ろうと躍起になる。対してサンダルフォンは、然したる反応もないまま、この状況をどうするべきかと考えていた。

そして満身創痍のシキは。

「こいつ等、一体何が目的なんだ?」

自分にもよく分からないが、自分を巡って始まった意味不明の戦いを呆然と見ていた。
思えばこの街に来てから“カンケル”を探していると実に妙な連中にばかり遭遇する。“異能怪人”、馬鹿でかい女、馬鹿でかい男。
自分はただ“カンケル”を探し出し、そして殺す。それだけを考えて生きてきた。それなのに未だに“カンケル”にすら辿り着けていない。

こんな連中に関わっている場合ではない。シキは気持ちを切り替え、戦いを続けることにした。

「ダークライト」

そう呟くと右の掌が白いオーラに包まれる。そしてそのまま右の掌を傷口に押し付けた。

「うぐっ!!!」

シキは苦痛に呻くが、その間に傷口が塞がっていくのが見て取れる。その内、完全に傷口が塞がった。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

しかし傷口が塞がったといっても体力まで回復したわけではない。むしろ体力は消耗したといえる。


シキが体力を大幅に消耗し、ジンとサンダルフォンが不毛な争いを繰り広げている間に、“キャンサー”を超える脅威が出現していたのだ。

『…………………』

シキたちがいる場所から少し離れた路上。
そこにはある意味、“キャンサー”が埋め尽くすよりも過酷な地獄があった。

路上を埋め尽くすのは“キャンサー”ではなく“死体”。
老若男女問わず、圧倒的な数の死体で周囲が埋め尽くされていたのだ。

『…………………』

その場に立つ唯一の存在。それは赤と黒の体色をしており、複眼のような眼はエメラルドグリーンに輝いている。

それは“仮面ライダー”に似ていた。というよりも、“仮面ライダー”そのものに見えた。
この“仮面ライダー”がこの惨劇を引き起こしたのだ。

そう、何も知らぬ者がこの光景を目の当たりにすれば、“仮面ライダー”が大虐殺を行ったと考えるだろう。
事実、逃げ延びた者たちはすでにそう考えながら逃げたのだ。

しかし事実は異なる。これは“仮面ライダー”ではない。
その名は“カルキノス”。“キャンサー”と同じく“カンケル”の眷属である。

『…………………』

“カルキノス”は沈黙したまま、ただ腕を振るった。それだけ。ただそれだけの動作。
それだけで無数にあった死体が一瞬の内に消えてしまった。

『…………………』

そのまま“カルキノス”は移動を始める。新たな獲物を求めて。
その歩の先にはシキやジン、サンダルフォンがいたが、彼女たちはまだ新たな脅威が迫っていることなど知りえないのだった。
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