第1章第8話「未知との遭遇」


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「じゃあ部長、また明日~。」

「ええ。今日はお疲れ様。あの二人が入部を決めたら、またお願いしましてよ。」
「はは・・・。はい。俺でよければ。」

桐島部長に手を振り、俺は新聞部室を後にする。




夏休みの明けた2学期、1日目。その放課後。

夏休み中、2学期は新しい何かが始まるって思ってたけど、本当に今日は色々な事が起こった。
俺のクラスには4人もの転校生。

それに・・・俺の部活にも新しい部員が増えそうな感じだ。


ユリウスくんに、イオちゃん。

部長、副部長である桐島先輩と町崎先輩から薦められ、体験入部した、2学期からの転入生である二人。
で、俺はその世話をすることになった。

日頃から下級生相手に活動内容を教えることの多い俺だからこそ選ばれたんだと思う。
俺としても新聞部に仲間が増えるのは大歓迎だ。


今回は体験入部という事で、俺は二人に部の活動内容、それに部員達の紹介、今まで作った新聞のバックナンバーを
読ませてあげたりして、新聞部を徹底的にアピールした。

      • 今新聞部の抱える問題については、あえて話さなかった。
あの副会長、予算、「今月の美少女」の記事の連載・・・。
そういう部分は、入部してからでいい。

二人が正式に入部してくれるかどうかは、今後の本人次第というところ。

俺や部長、副部長の熱意が、伝わったといいんだけど・・・。


そんな事を考えながら、俺はまだ日の高い午後5時の太陽の射す、学園の廊下を歩いた。





「れーつさんっ!!」
「うわああああああああっ!!?」

そのとき、廊下の影から人影が飛び出してきた。
メチャクチャびっくりした俺は思わず大きな声を上げてしまう・・・・。

「えへへ。驚きました?神歌、列さんの前にいきなり出て、びっくりさせたくって!」

それは、中等部の制服を着た女の子だった。
親しげに俺の名を呼び、屈託ない笑顔を向けるその少女は・・・。

「・・・神歌ちゃんかぁ。久しぶりなのに、脅かしっこなしだよ・・・。」

英琉 神歌(えいる みか)ちゃん。

妹の華枝の親友で、俺の幼馴染でもある。
俺たち3人は、小さな頃からのつきあいだった。

後に晃輝や命李ちゃんも加わって、 今でも5人での付き合いをしている。

「そうですよね!久しぶりです。久しぶりだから~・・・。」
「えいっ!」

ぎゅうっ!

「わあっ!?」
彼女はオレの腕にがっしとしがみつく。

「列さん分を補給です♪ぎゅ~・・・・。」
「み、神歌ちゃん・・・。」

嬉しいような、困ったような・・・・。
でも、どこか懐かしいような気持ちになっていく。

彼女は俺より年下だけど背は高く、オレの胸までしかない華枝に対して、神歌ちゃんは鼻まで身長がある。
その赤い髪から、いいにおいがする・・・。

「いや、と、とにかく離れてよ。」
ぐいっと引き離す。

「ぶ~・・・。」
不満そうな彼女。
いつもそうだけど、神歌ちゃんのスキンシップは度が過ぎるよな。
友達の兄貴に対する態度としては、ちょっとおかしいと思う・・・。


「部活終わったんですね!」
「あ、うん。」
「神歌ちゃんは、なんでここに?」

俺の顔を覗き込み、またにこりと笑む。

「神歌はー・・・列さんが部活終わるの、待ってました!」



「えぇ?!・・・だって、神歌ちゃん中等部で、俺よりも授業終わるの早いんでしょ?」
「それに部活だって、いつ終わるか分からなかったのに・・・。」

「えへへ~。列さんを待つことなんて、神歌にはなんでもないんです♪」

「はぁ・・・・。」

「列さんは、これからどうするんですか?」

「もう帰るよ。華枝がもし残っていれば、一緒に帰ろうって思うけど。」
「神歌ちゃんと華枝、同じ部活だよね?華枝、どうしたか知らない?」

「華枝・・・・。ですか。」
その名前に、神歌ちゃんは少し暗い表情に変わる。
「神歌ちゃん・・・・?」

「・・・華枝なら、もう帰りましたよ。」

「へ?」
「6時間目の授業が終わったら、すぐに帰っちゃったみたいです。」

「そう、なんだ・・・・。」
クラスメイトの神歌ちゃんが言うのなら、間違いないかな・・・。

「うー、じゃあ俺も帰ろうかな。」

ほんの少し落胆した気持ち。
兄の心、妹知らずか・・・。


「じゃあ、じゃあじゃあ、神歌と一緒に帰りませんか?」
「えぇ?」
思っても見ない申し出だった。
妹の友達の神歌ちゃんが、俺と帰りたいなんて・・・。


「神歌の最近見つけた、甘味処に寄って行きましょう!列さん♪」

神歌ちゃんの、寄り道へのお誘い。

「ねぇ。いいでしょう~?ねぇねぇねぇ。」
擦り寄ってくる神歌ちゃん。
…幸い廊下には、俺達以外誰もいない。

「あ、わ、わかったよ。」
「本当ですか?やったぁ~♪」
甘えてくる彼女にオレは降参する。
…兄貴体質というか、甘えられると弱い。

でも、いい気分転換になりそうだ。
神歌ちゃんと一緒に帰る・・・・それも悪くない。

「じゃ、いこうか?」
「はい!列さん、ありがとうございます!」

俺たちはそこから並んで歩き出す。

俺の事を慕ってくれる神歌ちゃんに、俺は悪い気はしていなかった。
…それゆえに、確かめなかった。

華枝の所属する演劇部を。
それに華枝の下駄箱を。

神歌ちゃんの、ほんの小さな「悪意」を・・・。





「今日は新聞部で何があったんですか?」

「ん?」
甘味処へ向かって町の中を歩いている途中、神歌ちゃんが話しかけてきた。
俺の顔を覗き込むように話す。

「今日は列さんの部活、集合がかかっていたでしょ?」
「何か特別な事があったのかなって。」

「ああ・・・。そういえば今朝のHRで言ってたよね。」

「はい!あ。今月の学園新聞見ましたよ!もちろん、列さんのコラムを真っ先です♪」
「おっ、ありがとう。でも、今月の分はあまり面白くなかったんじゃない?」

「転校生の話ですよね?神歌たちのクラスには転校生は来なかったから、来た所は羨ましいなって思いました。」
「うちのクラスはたくさん来たんだよ。それも4人。」

「4人ですか!?」

俺の話に大きく驚く神歌ちゃん。
すると次には、ちょっと目を細めて非難するような表情になる。
「女の子もいるんですよね。やっぱり。」

「いるよ。ええっと、志熊京さんと、豊桜冥さん。」
HRのときに紹介された女生徒二人の名前を思い出し、神歌ちゃんに伝える。

「志熊さんは体の小さい可愛らしい子で、豊桜さんは切れ目の美人さんだったなぁ。」
「今日なんてもう、人が集まって大変で・・・・。」


「うぅ~~~~・・・。列さん、なんでもう名前どころか特徴まで覚えてるんですか・・・。」

「え?そりゃ新しいクラスメイトなんだから、覚えてあげないとかわいそうじゃない?」
「それはそうですけど・・・。」

そうすねたように呟く神歌ちゃんは、不満そうだった。

「それはそうと・・・そう、今日の新聞部はどうだったんですか?」
「ああ、うん。来月の新聞の内容についての打ち合わせ・・・。ああ、そうだ。」

「そういえば、うちの部活にも、新しく転入してきた子が入部希望に来たよ。」

「ええええ!?や、やっぱり女の子ですか?!」
「あー、男の子と女の子が一緒に来たんだ。帰国子女らしくて、ユリウスくんとイオちゃんって言う。」

俺は神歌ちゃんにそう話すと、どこか小動物のようにおっかなびっくりでいた、アイスブルーの髪の男女の姿を思い出していた。

「・・・年下なんですね。その呼び方。」
「?よくわかったね。昔の華枝みたいにおどおどした子達だったから、入部したら優しく接してあげないとなぁ。」

「優しく・・・。うう~~。油断してたら取られちゃうかも・・・。」

「・・・神歌ちゃん?」
俺から顔を背け、何か唸るような声を出す神歌ちゃん。
何をぶつぶつ言ってるんだろう・・・?



「・・・あぁ!列さん!」
「お?どうしたの?」

今度は突然、何かを思い出したように俺に明るい表情を向けてきた。
      • 今日の神歌ちゃんは、百面相だなぁ・・・。

「学園新聞は、ぐらびあもどきの特集やってますよね!「今月の美少女」っていう!」
「え?・・・ああ。うん。」

その単語を聞いて、なんとも複雑な気持ちになる。
あの企画、本当は・・・。

「先月号は中等部の、ええっと、「千守初花」さんと、高等部の「高耶晴海」さんの特集でしたね。」
「ああ、うん。高等部3年の先輩のものすごいプッシュがあってね。彼女達の特集を組んだんだ。」

夏休みの間、他の部員がずっと編集していたのも、彼女達の写真だった。
俺も見たかったけど・・・。

でも、学園新聞でぐらびあは、なぁ・・・。

「で、今日は今月分の打ち合わせだったんですよね。「今月の美少女」のモデル、決まったんですか?」
「いや、まだだけど・・・。」

そこで、俺ははっと気づく。
神歌ちゃんが期待に満ちた目で俺を見ていることを・・・。

「み、神歌ちゃん?」
「えいっ!」

がばっ!

「うわっ!?」
また俺の腕にしがみつく神歌ちゃん。
その妖しい視線に気を取られていた俺は、神歌ちゃんの抱き付きを許してしまう。

「・・・えへへ~。神歌、放課後いつも空いてますよ?ううん。列さんの為だったらどんな予定もキャンセルしちゃいます!」
「ほらほら。ここに、写真撮り頃お年頃の可愛らしい女の子がいますよ?」

「ちょ、神歌ちゃん!」

「でも神歌、どうせなら列さんに撮って欲しいなぁ・・・。そしたら神歌、どんなポーズもサービスしちゃいます♪」
「ねぇ、ねぇねぇ列さぁん♪」

猫撫で声で甘えてくる神歌ちゃん。
幸い周りに人はいないものの、外でこんな風に女の子とくっついているのは、あまりよろしくないと思うんだ!

「お、落ち着いて神歌ちゃんっ!俺はその、神歌ちゃんをそんな見世物になんてするつもりないから!」
「神歌はいいって言ってるんですよ?それに神歌、背も高いから普通に写真栄え、すると思うんです♪」

「だめだって!神歌ちゃんは華枝の大事な友達なんだから、そんな風にはしたくないんだよ!」

「華枝の・・・・・?」

「・・・・・・・。」





      • ふっ、と。



「あ・・・・あれ?」
神歌ちゃんから力が抜け、するりと俺の腕を放した。

「神歌ちゃん・・・?」

「・・・えへへ。ごめんなさい、変な事言って。ちょっと列さんを困らせてみたくなって。」
「本気にしないでくださいね?神歌、やっぱり見世物はイヤですから。」

急にしおらしくなった神歌ちゃん。
俺の顔を見て、先ほどよりもちょっとだけ控えめの笑顔を浮かべていた。


「神歌ちゃん、ええっと・・・。」
「はい?」

その急な態度の変化に戸惑ってしまう。
何か声をかけようと思ったが、うまい言葉が出てこない。

「んー・・・。あ!」
「え!?今度は何!?」



「ねこですよ!ねこ!」

「え?」

そういわれて後ろを振り返り、神歌ちゃんが指差した先には、ちょっと大きなトラ猫が塀の上からこちらを見ていた。

「こっちをじっと見てますよ?逃げないのかな?かわいい~・・・♪」
すると神歌ちゃんはうっとりした様子でそのトラ猫に近づいていく。

「あ・・・うん。そうだね。大人しくしてるなぁ・・・。」
俺も一緒に猫に近づく。

実は俺は、何を隠そう無類の猫好きだ。
猫とみればどんな奴でも、捕まえて抱っこして頭をなでてすりすりしたくなる衝動に駆られてしまうのだ。

「逃げないでね・・・。」
「そっと、そっと近づくんだよ・・・。」

俺はさっきまで考えていたことも忘れて、神歌ちゃんと一緒に猫に近づいていく・・・。



『ヴ・・・。』

「・・・?」

唸るような声がわずかに聞こえた。
近くに他に人はおらず、往来の途絶えた夕暮れ前の町の中。
俺と神歌ちゃんと、そのトラ猫しかいない。

俺は猫に視線を戻す。

猫の毛が逆立ったのが見て取れた。
その瞳孔が細く引き絞られるのが見えた。

猫が、一回り大きくなったように見えた。






『ヴミャアアアアアアアアアアアアアアアアアウッ!!!』


「危ないッ!!!!!」
「え!?」


バッ!!

次の瞬間、俺は神歌ちゃんを伏せさせようと飛びついた。
同時、そのトラ猫が神歌ちゃんの頭のあった場所に向かって鋭く跳んだのが分かった。

ドサッ!

「あうっ!」
「くっ・・・!」

神歌ちゃんをかばうように横向きに倒れこむ。
体が地面に付いたのを痛みで感じると、俺はすぐにその猫のほうに向き直った。


「・・・・・・・・・・・・!!」

次の瞬間には、俺は自分の目を疑っていた。


神歌ちゃんを襲おうとしたそのトラ猫は、額が大きく割れ、そこから新たな眼が2つ生えてきていた。
しかもその体はもう猫などという大きさではなく、喩えるなら豹や虎といった大型の猫科の動物並みの大きさに肥大化していた。

「列さん・・・・?」
「え、あ、あああああああああああっ!!!!?」

事態を把握できていなかった神歌ちゃんも、その体を起こすと何が起こったのかを目で見て感じ取る。
もう、それは異常事態だったのだ。


『ヴウウウウウウー・・・・・』

もはや虎と呼んでも差し支えないその猫は、低く唸りながらこちらの様子を伺っている。

「れ、列さん、一体何が!?なんで猫があんな・・・!」
「俺だって分からないよ・・・。アレじゃ、まるで怪物・・・・」

「・・・・・!」
そのとき、ぴんと頭で閃いたものがあった。

      • この街で多発する行方不明事件。
学園内でも有名な噂。
夜の街を怪人が跋扈するという都市伝説。


これが・・・「それ」だというのだろうか。
こいつがこうして人を襲って、そのせいで人が行方不明になっているのだとしたら。

だとしたら・・・
俺達は、もう・・・。





…ぎゅっ。


「!」
神歌ちゃんの手が、俺の袖を強く握った。

…そうか、そうだな。

俺も、さっき言ったばかりだった。

神歌ちゃんは華枝の大事な友達で、そして俺の大事な幼馴染で。


神歌ちゃんの袖を掴む手が、震えているのが分かった。

…俺が諦めたら、誰が神歌ちゃんを守る?




『ヴフウウウウウ・・・・!!!!』

怪物猫が身を低く構え始める。
逃げる様子を見せない俺達に対し、いよいよ攻撃を仕掛けようというのだろう。




…ああ。無茶だけどそうするしかないんだ。

「列・・・さん・・・?」


俺は立ち上がる。
神歌ちゃんをかばうように立ち上がる。

震える心を奮い立たせる。
幼い頃、華枝や神歌ちゃんをいじめっ子から守ってきたように。



「・・・大丈夫。俺が守ってあげるよ。」



だって俺は・・・二人のお兄ちゃんなんだから。

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