第1章第14話「正義のヒロイン」


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PM.15:10 ボード学園校舎内


始業式しか予定のない学校に残る生徒は、部活動に所属している者ぐらいである。
帰宅部や運よく部活の予定がない生徒たちは、既に帰路についているか繁華街で時間を潰すのが大半だろう。


なのに、八代みつるはいまだにボード学園に残っていた。転校初日から部活動に所属した訳でもない彼が残っている訳は、彼の正体
である“騎士団”の人間としての任務にある。このボード学園はただの学校ではない。スマートブレインの強大な後ろ盾を持った、
仮面ライダーを始めとする多くの異能力者を抱える、学校というよりはラボラトリーに近いかもしれない。
当然、そんな場所で怪しい動きでも見せようものなら即座にスマートブレインに疑われ、安息を脅かされることになる。それは八代とて
例外ではない。だから彼もまた表向きにはただの転校生を演じなければならないのだ。他に正体を隠している者たちと同様に。
だが、スマートブレインにばかり先んじられる訳にはいかない。“騎士団”はこの地でどうしても達成せねばならぬ使命がある。
その為ならあらゆる手段を用い、様々な情報を得なければならない。無論、それはこの学園で今も素性を直隠しする者たちも含んでいる。
現段階、八代が今後学生生活を送るA組の中だけでも目を光らせている者は多い。


まずは自分と同じ転校生の志熊京。
彼女がスマートブレイン傘下の時雨養護施設で、キール・B・時雨によって庇護されていることは調べがついてある。同時に、
“ある秘密”も突き止めているようだが、それは今回の作戦の指揮者しか知り得ておらず、下っ端である自分にはあまり関係ない情報だ。

奇妙なことに、彼女に対しては自分が直接手を下さなくてもよいらしい。
ただ同じ学生として過ごしていれば良いとのことだ。これも真意は八代に告げられていない。


次に同じ転校生の豊桜冥。
彼女についてはよく分からない。手続きについてもごく普通だったし、怪しむ点は現在の所は皆無である。
八代個人としては、あまり疑るような人間が増えても骨が折れるだけなので、できれば彼女は白であって欲しい。


最後の転校生の白鷺緋色。
彼はC組の白姫久遠の屋敷に住んでいるようだ。指揮者が気にかけているのはこの久遠の方らしい。聞くところによると、彼女は
“騎士団”のライダーシステムの情報を得ているそうだ。真実なら彼女は“騎士団”の秘密を知ったことになり、秘密保持の為に
討滅しなければならない。だが、“騎士団”の現ライダーシステムの開発者でもある指揮者は、それを無視した。
本人曰く、あれぐらいならどうとでもなる、とのことだ。

指揮者が何を理由に、組織に身を置く者としては些か不用心な発言をするのかは分からない。自分程度では計り知れないのだ。
ともかく、その久遠の屋敷からの転校生である以上、彼もまた警戒しておけとのお達しだった。
同様の理由で、同じく転校してきた彼の姉の白鷺葵にも目を光らせねばならないだろう。


次に在校生について。まずは護矢晃輝。
話してみた感じとしては明朗な性格そうで、これだけではとても不審な要素はないようでもある。だが、理由ははっきりとしないが
彼は普通ではないそうだ。それが何なのかは今もって不明だが、油断しない方がいいだろう。


同じ在校生の蒼崎シン。
彼は要注意だ。戸籍上はD組の蒼崎幹也の従兄弟らしい。幹也が“守護機関”の協力者であることから、
シンも、そしてC組に所属する幹也の姉、蒼崎志保も注意を払わねばならない。

とりわけ、シンは細心の注意を払う必要がある。彼の正体は不明であり、その目的もはっきりしない。分かっているのは彼が
ライダーであることぐらいである。無視する訳にもいかないが深く関わり過ぎてもいけない。爆弾でも扱うような用心深さである。


クラス委員にして生徒会長でもある草加雅菜。
彼女はスマートブレインのライダー、カイズィーでもある。敵に回せば厄介極まりないが、上手く立ち回れば
こちらの味方になってくれるかもしれない。その為には、自分の努力と指揮者の策を信じなくては。


最後に風瀬列。
彼に関しては完全に白だ。肉体的、精神的、あらゆる角度で分析してもこの男はどこにでもいる人間である。
となると、少なくとも八代にとって彼が普通の人間の友達第一号という訳だ。


(・・・友達?この道化に?それは彼にとっては不幸としか言いようがないな。)

八代みつるは何一つ真実のない人間である。様々な仮面を使い分けこの環境に適応しているだけの、哀れな道化だ。
今まで色んな人間を欺いて生きてきた。それは今も昔も変わらない。きっと誰も、素顔の自分を暴けやしない。
自分自身がどんな人間だったかですら曖昧なのだから。そんな自分が、まして友達など馬鹿馬鹿しい。
彼に関わる者は誰も彼も、巻き込まれたくもない不幸という蟻地獄に否応でも引きずり込まれる。そしてその者が
“騎士団”の敵と判断された場合、“騎士団”は一切の容赦なく殲滅を企てるだろう。

“多少の犠牲”は省みない。それで“騎士団”が理想とする秩序が守れるなら。

(・・・俺は誰かを巻き込みたくないのか?今更?)

何て偽善だろう。この胸中を“死霊使い”などが聞いたら、どれだけの罵倒が返ってくるやら。何も変わらない。そう、これも
今までの任務の延長線でしかない。自分がやるべきことはただ一つだけ。道化の仮面を被り、“騎士団”の秩序に貢献することだけだ。





PM.15:17 高等部二年A組教室


十分に学内の調査も済んだ。明日にでもここに“魔眼使い”は“眼”を設置する。そうなった時こそ、“人形使い”である
自分の戦いが始まる。欺くか欺かれるか、狩るか狩られるかの、命懸けと言っても過言ではない波乱の学生生活が。

「お?」

そろそろ帰り支度をしようと教室に戻った八代は、そこに彼以外の存在を認めた。黄金で編まれたかのような人目惹く美しさの金髪を
小さくポニーテールにした、高等部の生徒にしては小柄な少女。中等部にいた方がまだ自然だったろう。
少女は机の上に座り、足をぷらぷらさせつつ、入室してきた八代に視線を移す。

「・・・誰?」
「あー・・・俺はー・・・」
「思い出した。今日からの転入生だったっけ。」

少女の声色は平淡だった。歳も八代より幼そうだが、気遅れすることも遠慮することもない、どこか高圧的な態度である。
こんな少女がこの教室にいただろうか。八代は記憶を辿っていく内に、クラスメートから聞いたある少女の噂を思い出した。
このボード学園には僅か14にして既に大学へ進学できる才能を持ちながら、何故か高等部に留まっている変わり者の天才がいる。

その天才の名は、水野水美という。

「君は・・・水野さん、だよね?噂の天才少女。」
「あら?もう知ってたんだ。ちょっと感心しちゃった。」

水美はやや瞳孔が開いたが、すぐにシニカルな笑みを作る。噂通りだなと、八代は心中で溜息を吐いた。


彼女は自分が天才だと自覚し、それは当然であり他に並ぶ者などいないと思っている、早い話高慢ちきなのである。
その所為で彼女と関わろうとする者はあまりいないとか。


今の言葉一つとっても、彼女は自分の方が上と信じて疑っていないようである。八代としてはどうでもいいのだが。

「色々話聞いたからね。んで、君何してんの?帰らないの?」
「その言葉、そっくり返すわ。あんたは何でいるのよ?」
「質問に質問で・・・ま、いいか。単なる暇潰し。特にすることもないんでね。」
「ふ~ん・・・」

自分で聞いておきながらなんとも興味なさそうな返しである。
これは聞いていた以上だなと、八代は自分の認識を改める必要があった。

「じゃあ、君の番。なーんか、誰か待ってるような感じだけど。」
「・・・・・・私が?」
「いや、そうやって退屈そうにしてるとさ、待ってるように見えてもおかしくないよ。」

八代はとぼけたような口調、態度を取りながら、しかしその眼は水美の内面を丸裸に観察しようとする。無論、決して悟られぬように。
そういえば、八代は水美に関する“ある噂”が流れていたのを思い出す。それで一つ鎌をかけてみようとした。

「なぁ、水野さん。俺さぁ、このクラスの人からちょっとした話を聞いてさぁ。」
「へぇ・・・」
「それがね、誰も寄せつけない天才少女は、ある男子生徒にだけは絡んでいく。その男子生徒ってのが・・・」

八代の眼は水美を、いや、彼女が先ほどから椅子代わりにしている机に向く。

「今日友達になった、君が今座っている机の持ち主の風瀬列君らしい。」

八代の言葉は完璧だった。彼の話は決して噂の域を出ておらず、その態度もこの学園に来たばかりの生徒の好奇心でしかない。
彼にしてみれば水美という人物がどのようなものかを謀っただけで、この話し振りも何もかも彼の道化の仮面の一つである。

「ぷ・・・はは・・・あはは・・・!」

水美が笑いだしたのには少し驚いた。これは吉か凶か。
てっきり、こいつは何を馬鹿げた噂に振り回されているのだろうと、水美が嘲り笑っているとばかり八代は思っていた。

「・・・・・・こっちが礼儀正しい大人の対応してればつけあがりやがって」
「・・・やば。」

道化を演じる男は珍しく“しまった”と後悔した。先の噂話は水美にとって禁句だったのは確定的に明らかだ。
湿原したばっかりに、こもままでは水美が完全な怒りになってしまう。

「天才の私に汚い噂話など持ちかける浅はかさは愚かしいお前はこのまま骨になる。」
(ちょとsYレならんしょこれは・・・?)
「マジで水属性の左をジョーにヒットさせんぞ60以上あるから強いこのパンチでボット学園の多くの凡人を殺してきた。」

想像を絶するトラブルが八代を襲った。この噂流したの絶対忍者だろ・・汚いなさすが忍者きたない、と八代は心の中で愚痴ったが
時既に時間切れ。水美はもう結構ウデとか血管血走ってるから騒ぐと危険、怒りのパワーの力とか全快になったからどう取り繕おうと
彼女には念仏状態。しかし諦めが鬼になる前に八代は見事なカウンターでも使わなければ病院で栄養食を食べることになる。

「失礼しました。ところでMizumiさん」
「何か用かしら?」
「飛び級凄いですね」
「それほどでもない」
「天才少女ってだけはあるなーできる人凄いなー憧れちゃうなー。」
「ほうあんたはなかなか分かっているようね命は助けてやる私は優しいからな他の凡人にも伝えてやるべき」
「やっと許しがでたか!」

さすがに天才少女は格が違った。


「・・・はぁ。何バカなことやってんだろ。あー、アホらし。帰ろ。」

やれやれと横に首を振り、水美は鞄を引っ提げると早々に机から降りる。八代が入って来た方とは反対側の出口から
帰ろうとしたところで、水美はブロンドのポニーテールを振りまきながら薄水色の髪の少年に振り返る。


「あんた、その態度ちょっと鼻につくのよね。何か試されてるみたいでさ。」


それだけ告げて、水美は教室を去って行った。残された八代は天才少女の足音が聞こえなくなったのを聞き届け、溜息を一つ吐く。
観察するつもりでこちらが見透かされたのか、それとも直感で言っただけなのか。
何れにせよ、彼女が道化の仮面の“一枚”を見破ったのは確かだ。

「・・・はぁ。明日からは結構本気で道化やんなきゃヤバいかねぇ。」

彼の言う道化を演じる、それは何重にも仮面を被り自分も相手も欺くこと。
誰にも素性を暴かれないように、仮面の下の愚かな素顔を覗かれないように、彼は道化を演じ続けねばならない。


“騎士団”のエージェントとしても、そして彼が彼である為にも。





PM.16:37 デパート“オレイサジョー”4F


陽は傾きつつあったが、まだまだ繁華街の喧騒は終わらない。繁華街の人口の大半は若年層であり、ボード学園や近隣の学校の
生徒と思われる。スマートブレイン本社を置く町の繁華街は相当な規模で、構える店も誰もが一度は耳にするものから新たに出店したもの、
さらに新たに見聞きするものまであって、群衆を飽きさせない。今日も人々は思い思いの目的に足を進め、自分たちの時間を消費していく。
一人で何気なく出歩く者、何人かと連れ添い飲食店やデパートなどに立ち寄る者たち。繁華街から人足はまだまだ途切れない。


「ねぇ、これ一菜に似合わない?」
「そ、そう?うーん・・・」

茶髪にツインテールの少女が手に持つやや水色がかったブラウスを、澄んだ青空にも似た青髪ショートカットの少女の服の上に宛がう。
一菜と呼ばれた青髪の少女の反応はいまいちのようだ。同じようなものを何着か持っているのだろう。


青髪の少女は剣崎一菜という。彼女はボード学園中等部の二年A組に所属し、同じくショッピングを楽しんでいる茶髪にツインテールの
乾いぬみという少女も彼女のクラスメートである。また、二人は心からの親友であり、普段はこうして一緒に遊ぶことが多い。


「いぬみ。一菜にはこういう方が似合う。」
「私も始穂ちゃんの意見に賛成です。」

やや抑揚を抑えた声で、いぬみと同じ髪型に髪色の少女が、薄く桜色がかったキャミソールを手にする。
始穂ちゃんと呼ばれた少女の隣にはアイボリーに近い髪色をしたショートカットの少女が寄り添う。


もう一人の茶髪にツインテールの少女が相川始穂。そして隣人が天川レオナ。彼女たちは一菜たちと同じ中等部の生徒だが、二人は
C組に属していた。この二人はクラスメイトなだけでなく、始穂が居候という形でレオナの住家である喫茶“ハカランダ”住んでいる
関係上、その仲は一菜といぬみにも負けていない。ただ、こちらはレオナが主に始穂へと懐いている形だったりする。


この四人は常日頃からの仲良しグループで、大体の時間はこうして四人で遊んでいることが多い。スマートブレイン傘下の
大型デパート“オレイサジョー”は四人がよく遊びに来る場所である。買い物も飲食もここだけで殆どこと足りるからである。


「いいや!私はこの赤がいいね!なんか正義って感じしない!?」

だが、今日は四人ではなかったりする。一菜でもいぬみでも、勿論始穂でもレオナでもない、無駄にやる気に溢れた声。
黒髪に凛と力ある瞳、そして何故か迷彩柄のバンダナを頭に巻いた奇抜な格好の少女。声の主は彼女らしい。
バンダナ少女は何の違和感もなく一菜たちの輪に混じっていた。

「あ、赤かぁ・・・私はあんまり着ないかなぁ・・・」
「そう?格好よくていいかなって思ったけど。」
「あのさ棗。女の子の服の基準が格好いいってどうよ。普通なら可愛らしさで選ばない?」

バンダナ少女のセンスに戸惑う一菜に助け舟と、いぬみは溜息混じりに意見を述べる。


新たに四人の仲に加わった少女の名は八代棗。彼女は今日から一菜やいぬみたちのA組に入って来た転校生である。どんな時も明るく
前向きな様子なのは自己紹介の時に十分知ることができた。何せ、臆面なく夢は“正義の味方”と言ってのける器なのだから。
最初は一菜も驚いたが(いぬみは若干引いていた)、実際話してみると素直な少女だとすぐ分かり、棗とはすぐに友達になれた。
同時にいぬみとも仲が良くなると、二人は自分たちの親友の始穂、レオナを紹介し、程なくしてこの二人とも親交を深めたのだった。


「私は格好良い感じが好きだけどなー。なんかこう、正義のヒロインっぽくない?」
「またヒロイン?今更あんたの好みには突っ込まないけどさ・・・思うんだけど、ヒロインなら尚更可愛い衣装の方が良くない?」
「え・・・ん、んー・・・それは考えたことなかったかなー・・・」

いぬみの指摘に棗は言葉を詰まらせる。ヒロインとやらについてまだ具体像がないのだなと、いぬみは胸の内で溜息を吐く。

「ま、まぁ、ヒロイン像はまた今度考えよ。棗ちゃん。」
「うぬぬ・・・うん、そだね。今は買い物を楽しまないと。」

なんとか一菜が思考の海に陥りかけた棗を引きずり出し、この場を纏めることに成功する。棗はこの場の誰よりも満面の笑みだった。


ナツメは伝えていない。自分が“騎士団”のエージェント、“回転”ということを。これは口外してはならないと念を押されているし、
もしこの掟を違えれば自分はこの場にいることができない。

それは嫌だ。何故なら、一菜たちはナツメに初めてできた同年代の友達だから。こんなことで折角できた友達を失いたくない。
だからナツメは“騎士団”のエージェントではなく“八代棗”として戦っていかなければならない。どうして自分にそんな任務が
与えられたのかは分からない。だが、ナツメにはこの任務の先に理想とする“正義のヒロイン”になれる道が続いていると信じている。

ナツメの道は“棗”として、“正義のヒロイン”になれるようにボード学園で学生生活を送っていくことである。





PM.17:13 繁華街・街路


結局、一菜たちは手持ちが厳しいこともあり、衣服の購入を見送ることにした。
良さ気なのは何着かあったが、流石に女学生の財布では限度がある。

「あーあ、あのジーンズ欲しかったんだけどなぁ。今度までに残ってるかなぁ。」

“オレイサジョー”からの帰りでも、いぬみは狙い目だったジーンズへの未練をぶつぶつと愚痴っていた。

「お金が貯まったらまた買えばいい。」
「・・・わーってるわよー。」

相変わらず始穂の返しは本当に投げやりっぽいなといぬみは思う。ちゃんと返すようになっただけ、
成長したと言っていいだろう。最初の頃は誰も寄せつけようとしなかったのだから。

「ねぇ、始穂ちゃん。あのカップとソーサーのセット、綺麗でしたね。」
「うん。今度また一緒に来た時に良ければ買ってみよう。二人の分を合わせれば買えなくもないと思う。」

一方で、始穂はレオナ相手には口調も態度も穏やかになる。自分とのこの差は何なのだと、いぬみは少しだけ悲しくなった。あれだ、
始穂はレオナの家に居候しているのだから、接する時間が多い分レオナと親密になっているのだ。そう思い込まずにはやってられない。

「棗ちゃん。今日は楽しめた?学校は馴染めそう?」
「うん!皆がいるからこれから毎日が凄く楽しそう!」
「あはは。そう言ってもらえると嬉しいな。」

前方を歩いていた一菜と棗はどちらからともなく微笑み合う。いぬみは二人を遠巻きに眺めながら、棗は根が素直だから似たような
一菜とも気が合うのだろうなと思った。自分もそういう素直さは嫌いじゃない。今後顔を合わせては面倒な授業を一緒に受けたり、
くだらないことで会話を盛り上げたり、こうして一緒に出歩くのもいいのかもしれない。

今の率直な気持ちを口にするなら、いぬみはこう言うのだろうなと思う。“楽しくなりそう”、と。


「・・・・・・」
「始穂ちゃん?急に怖い顔をして、どうかしました・・・?」

レオナの声に反応し、前を行く一菜、棗、いぬみが振り返る。始穂は外れの狭い路地裏を睨んでいた。始穂は凛と力強い目つきを
しているが、今の彼女の眼はそれ以上にある感情に支配されている。棗を除く三人は、それが何を意味するかを直感で悟れた。

“敵意”だ。それも生半可なものではない。

「・・・そこに何かいる。人じゃない。」
「え・・・!?」

短い悲鳴にも似た声は誰のものだったか。三人は始穂の言葉を疑わなかった。それは“相川始穂”がそう言うからである。
彼女は人間ではない。太古より生き続ける不死の生物“アンデッド”、中でも最凶と恐れられる殺戮マシーン“ジョーカー”なのである。
人間より遥かに優れた感覚を持つ彼女が言うのだ。そこの路地裏にいるのだろう。“何か”が。

「確かめてみる。」
「あ、始穂ちゃん!」
「わ、私も!」
「あーもー・・・面倒ごとはゴメンだからね。」
「?」

臆さず始穂が我先に路地裏へと歩を進め、その後をレオナ、一菜、いぬみと続く。
棗はあまり理解してないようだったが、置いて行かれる訳にもいかないので、四人に同行する。



街の賑やかさは路地裏には無縁なものだった。人が地面を無数に踏み締める音も、雑多な会話も一切入ってこない。
ここだけ外界から遮断されているのかと思うほどだ。異質な空間となりつつある路地裏を五人は始穂を先頭に進んでいく。
一歩ごとに変な汗が顔を伝う。ここまでくれば始穂でなくとも気づく。間違いなく何かがいる。それもとびきり異常なものが。

「あ、あれ!」

行き止まりに差しかかろうとした時、一菜はそこに異常の原因を見出し思わず声を張り上げる。


原因は始穂の言うとおり人ではない。人間よりも大きく、そしておぞましい体躯の何かがそこにいた。
とりわけ頭部は大蛇の頭をそのまま乗っけたようなアンバランスさをしていた。
人間でないのは一目瞭然だ。しかしこれは一菜たちの知る“アンデッド”でも、まして“オルフェノク”でもない。全く未知の生物だ。
大蛇の怪物の巨躯からは群青の泡が体から絶えず漏れては弾けを繰り返す。それを見て、棗の眼の色が変わる。

「お前・・・“タンタロス”だね!」
「な、棗ちゃん!?」

最前に躍り出た棗に一菜は驚きの声を上げるので精一杯だった。何故彼女はあの“タンタロス”という怪物を知っているのだろう。
それは一菜だけでなく他の三人も同様だったが、棗はそれに答えず大蛇の“タンタロス”とじっと睨み合う。

『シー・・・』

舌をチロリと出し入れし、このスネークタンタロスとすべき怪物は棗を威嚇する。
全身の筋肉を緊張させ、今にも攻撃に移ろうとしていた。


「この世に“タンタロス”ある限り、誰も安心して暮らせない・・・だから!私は戦う!!
 “正義のヒロイン”はお前たちのような悪を倒し、皆を守るのが使命なんだから!!」


しかし、強烈な敵意を放ってくる“タンタロス”と相対してなお、棗は全く怯まない。力強く右腕を天に振り上げ握り拳を堅く作ると、
彼女の闘志に応えるかのように、腰にベルトが巻かれる。そのバックルには小竜巻を模したような、緑に輝く螺旋が配置されていた。


「変身!!」


左拳を引き腰に当て、右腕は綺麗に左上へと伸ばし、ゆっくりと頭上へと動かす。そこで握り拳を作り、一気に胸前へと引く。
一連の動作を終えると、緑の螺旋がさらに回転しだし、発生した渦はベルトで処理できる限界を超え、棗自身も飲み込んでしまう。
その渦も瞬く間に弾け飛び、そこから出てきたのはバンダナ少女ではなく、亜麻色を基調とした身軽で頑強そうな装甲に
全身が覆われた戦士が佇んでいた。そのプロテクターもバックルと同じように、至る所に螺旋のデザインをしてある。

「な、棗ちゃん・・・あなた、一体・・・」

一菜はようやく声を絞り出す。本当はこの異常な現実を、彼女は、いや彼女たちは経験から知っている。
しかし、それでも聞かずにはいられない。これは偶然なのか。今日友達になったばかりの転校生が、自分たちと“同じ存在”など。


一菜たちの動揺を他所に、亜麻色の螺旋装甲をした戦士は堂々と名乗り上げる。

「人の未来を踏み躙る“タンタロス”を許しておけない!私の正義の螺旋はお前のような悪を見逃さない!
 そう、私こそ全ての悪を飲み込む打ち破る正義の螺旋!仮面ライダースパイラル!!」





PM.16:37 ボード学園校庭


月宮刹那が変身したシキとプテラが対峙する一方、“槍使い”とオカルトが憑依したギャレンもまた激しく火花を散らしていた。
この一触即発の状態は決して長くは保たないだろう。どちらかと言えば“槍使い”の方が今にも飛びかかりそうである。

「男の分際で女の子の体を乗っ取ろうなんて、なんて羨ま・・・おほん、卑劣な!お前なんか五秒でのして、
 そしてその娘と私はめくるめくストロヴェリ~な空間で体と心が一つに交わるのよ!!」

全くもって意味不明で、オカルトは“槍使い”の言葉の十分の一も理解できていないだろう。もっとも理解するつもりもなく、
彼の頭にはこの障害を早々に除去することしかない。オカルトはギャレンの体を操り、その右手が右腰のホルスターに伸びる。
憑依されているとは思えないほど滑らかな動きでギャレンラウザーを構え、照準が狂いなく“槍使い”に合わせられる。

「ほっほう。男がこの私に盾突こうとはね・・・思い知りなさい!私の力を!」

銃口を向けられても全く臆さず、“槍使い”は首にしてある槍型のネックレスを握りしめる。


「変身!!」


このネックレスこそ“槍使い”の変身デバイスであり、使用することで彼女は仮面ライダーへと変身できる。
193センチの長身に“騎士団”の技術の粋を集めた装甲が覆っていく。

はずだったが、何十秒と経っても一向に“槍使い”の姿は変わらない。

「・・・あれ?ど、どうしたの!?へ、変身!!・・・・変身って言ってるでしょ!!」
『・・・・・・』

怒鳴っても変身を連呼しても、やはり“槍使い”が変身する様子はない。

「まさか・・・整備サボったから故障した!?そんな、ちょっと放っといただけじゃないのー!」

そうは言うが、“騎士団”のライダーシステムは非常にデリケートな代物である。強力な力を内包している代わりに、その扱いは細心の
注意を払わなければいけない。本来なら定期的にメンテナンスをしなければならないのだが、“槍使い”は日頃から女の子を追うことに
夢中になり過ぎて、そのことをすっかり頭の中から抜かしてしまったのだった。要は自業自得である。

『お前の事情など知らんが、こちらにとっては好都合だ。ここで死ぬがいい。』

聞く者の耳に不快さを残すノイズ混じりのさくらの声が、ギャレンから発せられる。その言葉を口にしている合間にも
ラウザーのオープントレイから、“アンデッド”の力を内包したラウズカードが一枚引き抜かれる。

『RAPID』

ラウズしたのはギャレンラウザーの連射性能を高めるカードだった。変身できない人間相手にはお釣りが返ってくるほど十分だ。

「ゲッ!ヤバッ!!」

“槍使い”が珍しく危機感を露わにした刹那、ギャレンラウザーが火を噴く。その連射、速射性能は本来のギャレンよりも高い。

「ぎゃーーー!!あぶなっ!ひえええええええ!!!」

跳ねたり走り回ったりして“槍使い”はどうにか当たらないように努力する。
一方、オカルトが憑依するギャレンはトリガーを絞る速度をますます上げていく。

『どうした?お前の力を我に見せてくれるのではないのか?』
「こんの~!男のクセに調子に乗って~!!うわ!うひ!?」

逃げてはその先に銃弾を雨霰のように見舞い、それでも“槍使い”は必至の身のこなしで当たらないよう逃げ続けた。

なんとも無様である。



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