第1章第21話「疑心の芽生え」


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PM.17:21 繁華街・路地裏


一菜は眼前で広がる光景に思わず生唾を飲み込む。そこには自分たちの知らない怪人と、今日友達になった
ばかりの転入生が変身し対峙していた。


転入生、八代棗が変身したのは本人もそう名乗っていることから仮面ライダーなのは確かだろう。亜麻色をした
流線型の装甲には至る所に螺旋を思わせるデザインのパーツがあり、そしてバックル自体も螺旋の形をしていた。
見た目からして回転を利用した力を宿しているのが分かる。

一方、怪人は“アンデッド”とも“オルフェノク”とも違う、群青の泡をその巨躯から放出する蛇人間だった。
こんな存在を一菜は勿論、いぬみやレオナ、そして始穂ですら知り得ていない。木場夕菜がこの町に謎の怪人の
出現や行方不明事件の多発などで警戒するよう言われていたが、この怪人もその一種なのかもしれない。
そして、棗はこの蛇怪人を“タンタロス”と呼んだ。


「お前が何を企んでいるかは知らないけど、“タンタロス”のいる所、必ず悪の気配がある!
 “正義のヒロイン”の私は、絶対に見逃さないよ!!」

息巻くライダー、スパイラルにスネークタンタロスは舌を出し入れし様子を窺う。両者の睨み合いは長く
続かなかった。先にスネークタンタロスが先手を打つべく、群青の泡を放出する右足を踏み出したのだ。
“タンタロス”の能力がどれほどかは一菜たちには計り知れないが、四人の戦士としての勘は“アンデッド”や
“オルフェノク”にも勝るとも劣らないと告げている。

「くるくるダーッシュ!!」
『!?』

しかし、スパイラルの動きはその上を行った。何の予備動作もなくその場で回転したかと思うと、自分自身が
小竜巻と化し瞬時にスネークタンタロスとの間合いを潰してしまう。

「うおりゃあっ!!」
『グギッ!』

出遅れたタンタロスの腹部にスパイラルの拳がめり込む。その拳自体も風を纏い竜巻を作り上げていた。
スパイラルの一撃はタンタロスを後退させ、さらに拳と同じように回転するキックが見舞われる。


これがスパイラルの戦いである。自身の身体能力に“回転”を加えることで、威力を何倍にも増幅できる。
ナツメは生まれ持ってこの力を宿しており、そこを“騎士団”にスカウトされた。彼女が何故この能力を身に
つけられたのかは彼女自身も知らない。だが、目的ははっきりしている。

それは“騎士団”の敵たる“タンタロス”を倒すことで世界に平和を齎し、“正義のヒロイン”となることだ。


「てやあっ!」
『グオッ!』

さらに回転を加えたアッパーカットが蛇の顎を捉える。脳を揺らすには十分な一撃にタンタロスの巨体が
よろめく。しかし、スネークタンタロスとていつまでもやられっ放しというつもりはない。追撃にと揮われた
回転する左拳を、両腕を交差し真っ向から受け止めた。その拍子に群青の泡が今まで以上に放出されたが、
スネークタンタロスは意に介した様子を見せない。

「この!」

苛立ちと焦り混じりの声を上げながら、スパイラルの旋風を纏った右拳がタンタロスの防御を突き崩そうと
放たれる。だが、その攻撃は今までのより大振りで、先の防御でスパイラルの攻撃のタイミングを把握していた
タンタロスにとって、避けるのはちょこまか逃げ回る鼠を仕留めることより遥かに楽な動作だった。体勢が
崩れた所にすかさずタンタロスの大木のような脚が見舞われる。蹴りは亜麻色の装甲にしっかりと直撃し、
今度はスパイラルが一菜たちのいる後方にまで吹っ飛ばされた。

「かはっ!」
「な、棗ちゃん!」

腹を抱え蹲るスパイラルへと一菜が狼狽しながら駆け寄る。いぬみたちも油断なく構えを取りつつスネーク
タンタロスの挙動を僅かでも逃さないように注視する。群青の泡を上げ続ける異形の強さは本物だった。
棗一人にだけ任せるのは危険と判断したか、一菜たちは誰が合図を送ったか、一斉に変身の体勢を取ろうとする。

「けほっ!けほっ!ま、待って・・・!私は・・・まだ諦めちゃいないよ・・・!!」
「棗ちゃん!?」

だが、それをスパイラルが咳きこみながらも制した。その声色や背中から発せられる気迫が、この亜麻色の
戦士がまだ勝負を捨てていない、勝利だけに突き進もうとしていると一菜たちに感じさせる。

「・・・ここで・・・こんな奴に負けてたらこれから先なんか絶対勝てっこない!“正義のヒロイン”はどんな敵にも
 果敢に立ち向かい、勝って、皆を守らなきゃいけないんだから!!」

スパイラルは蹴りの直撃で全身が痺れたような感覚に襲われていたが、それを感じさせないよう裂帛の気合と
共に再び戦闘態勢に戻る。

『シャーー!!』

スパイラルの気合をただの虚勢と見たか今度はタンタロスが間合いを詰め、泡立つ剛腕を振り上げた。蹴りが
効いたのを隠しきれず、スパイラルは回避行動を取れず両腕で受け止めるしかなかった。しかし、単純な力では
スネークタンタロスの方が上で、スパイラルの足が地面に沈んでいく。

「ぐ・・・くぅ・・・・・・!」
「棗ちゃん!」

一菜の絶叫が路地裏に木霊した。タンタロスの腕力は緩む所を知らず、どんどんスパイラルを地下に落とそうと
していく。窮地に立たされているのは間違いない。なのに、スパイラルの背中からは全く戦いを放棄するような
弱々しい気迫は感じられない。むしろ一回り大きく、逞しくすら思える。

「く・・・うぅ・・・・・・!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
『!?』

路地裏はおろか、天空を軽く突きぬけたのではというほどの雄叫びをスパイラルが上げる。タンタロスが慄く
間もなく異常に気づいたのはその時だった。最初は自分の腕がスパイラルの押し返す力と拮抗している所為で
筋肉が痙攣しているのだと思っていた。それが、瞬く間に全身の異様な痙攣が起こる。思考が混濁しきる寸前、
タンタロスは異常の原因に気づく。

群青の泡を湧き立たせる筋肉はただ痙攣していたのではなく、螺旋状に震動していたのだ。回りながらの攻撃、
螺旋、回転。そう、回転だ。このライダーは自分が回転するだけでなく、触れているものも回転させられるのだ。
今、自分は直に触れている。だから自分自身がどんどん回転していくのだろう。


そんなことを考えている内に、タンタロスは中空に浮かび上げられ泡を撒き散らす渦と化した。


「はぁっ!!」

スパイラルも跳躍しその後を追う。ただし、自身も車輪のように縦回転を始め、一気にタンタロスの頭上を
飛び越えていく。一瞬だけ回転を解き、右足を綺麗に伸ばす。そして先ほど以上の速さで高速回転する。
今や車輪と言うより丸鋸といった方が相応しいだろう。


「必殺!ソード・オブ・ヴァルキリーーーーーーーーーー!!」


空中で身動きの取れるものなど、翼でもない限り不可能というものだ。スネークタンタロスには当然だが翼など
なく、おまけにスパイラルの能力で自分が螺旋化し回り続けているのでは、足掻くことすらできなかった。

亜麻色の丸鋸が一瞬で群青の泡の渦を真っ二つに断ち切る。それが縦になのか横にだったのかはタンタロスが
両断されても回転し続けていたので、一菜たちには最後まで分からず終いだった。それが分かる前に、群青の
泡が一気に弾け飛び、タンタロスは泡沫の夢の如くこの世から消え去ってしまったからだ。


「ふぅ・・・」

あれだけ激しく回転していたとは思えないほどスパイラルは綺麗に着地した。呼吸を整えてから変身を解き、
棗はようやく一菜たちのことを思い出す。

一菜たちの表情は複雑な色を隠し通せていなかった。棗が変身したことや“タンタロス”のこと、聞くべき
ことはあってもどう切り出すべきかで悩んでいるようだった。その表情を棗は自分を心配しているものだと
勝手に誤解する。

「いえい!」

そして、力強くサムズアップを送り一菜たちをさらに当惑させるのだった。





PM.17:46 ハカランダ


喫茶店“ハカランダ”の外観は自己主張の激しくない落ち着きがあり、見る者の心に落ち着いた空気を感じ
させてくれた。外観のみならずその内装も木製のチェアやテーブル、カウンターなど、そこにいるだけで
満たされる感覚を覚えるだろう。当然、喫茶店として紅茶やコーヒー、軽食なども取り揃えている。

レオナはここの家人兼看板娘であり、“ハカランダ”の実質的な運営は栗原遥香によって任されていた。レオナは
彼女とは姪の関係であり、訳あってここに住んでいるのだ。また、始穂もここに住み込みで手伝いをしていて、
お陰で売り上げは黒字を保てている。また、ここには一菜やいぬみもよく訪れる。言うならば彼女たちの憩いの
場であり溜まり場であった。


「はいどうぞ。」
「わ、ありがとーございまーす♪」

“ハカランダ”の女店主、栗原遥香が人数分のアイスティーをテーブルに並べた。よく冷えたアイスティーの
もてなしに、一菜たちの輪へと新たに加わった棗が満面の笑みで喜びを表現する。遥香は微笑を作り会釈して、
カウンターへと戻って行った。

「そんで・・・あの怪物・・・なんてったっけ?」
「ん?あー、“タンタロス”ね。」

いぬみの疑問に棗はアイスティーをストローで口の中へ運びながら答える。

「“タンタロス”ってのは見てたから分かると思うけど、体中からいーっぱい泡を出してるのが特徴なの。
 人間を襲ってはその魂を食べちゃうの。そうしないと自分の体を維持できないんだって。」

明日の天気でも話すような気楽さで語るには、棗の話はあまり聞いていて気持ちの良いものではなかった。
彼女の話し振りから“タンタロス”はかなりの数がいて、見境なく人間を襲っているということになる。そして、
棗はどれほど前からかはともかく、“タンタロス”と戦い続けてきたということだ。

「なるほどね。言いたいことは分かったわ。」
「さっすがいぬみちゃん!」

棗の拳が堅く握られ歓喜の震えを生じさせていた。

「このまま“タンタロス”を放っておいたら、どんどん犠牲者が増えるだけだからね!私はそんなのまっぴら
 ゴメンなの!だから私は“タンタロス”と戦い、皆を守る“正義のヒロイン”になりたいんだ!」

息巻く棗には自分の鼻息が荒いことも気にする余裕はなく、鼻息も荒いままその手をいぬみへと差し出す。
それが何を意味するかは確認するまでもない。


「私と一緒に“タンタロス”と戦って!一緒に“正義のヒロイン”として頑張っていこうよ!」


棗の笑顔は実直さだけで表現されたような、ひたすら輝かしい煌きがあった。彼女のこの満面の笑みを見て
魅力的や可愛らしさといった好意的な意見が出ないはずがない。そんな笑顔と一緒に差し出された右手は、
反射的に握り返したくなるような気にさせた。

しばしの間の後、いぬみも右手を差し出す。それを好意的な意味で受け取り、ますます頬を緩ませながら棗は
その手を握ろうとする。だが、指先が触れるか触れないかのタイミングで、いぬみは自分の手を引っ込めた。

「え・・・?」

棗は右手を伸ばし、笑顔のまま固まっていた。対照的に、いぬみの表情はひたすら不機嫌さを表にしている。

「やなこった。あんたには疑わしい点がありすぎんのよ。」
「い・・・いぬみ・・・ちゃん・・・?」

頬杖を突くいぬみの棗を見る目は、非難の色一色に彩られている。

「“タンタロス”ってのが危険なのは分かるけど、私からすればあんたも十分危険よ。あんたあの時、私たちを
 逃がさずそのまま変身して戦ったでしょ?」
「う、うん・・・」
「普通なら一緒に逃げるとかして、あんなのの相手はしないようにするでしょ。でもあんたは戦った。それは
 自信があったのもあるだろうけど、もう一つに“私たちに正体がバレてもいい”ってのがあったはずよ。」

言われて棗もようやくいぬみの言わんとする所を理解した。少なくともあの時点で、誰も棗の正体をライダーと
気づいていない。ならばそれを隠し通しておいた方が棗にも“騎士団”にとっても都合が良い。

しかし、“タンタロス”を倒すことしか頭になかった彼女は、迷わず変身してしまった。最低でもあそこでは一菜
たちを逃がし、人目が完全に絶えてからする必要があったのに、それすらもしていない。棗や“騎士団”には
マイナス要素として残ったに違いない。

「あんた、私たちが仮面ライダーだって知ってて変身したんでしょ?問題は・・・“どこでそれを知ったか”よ!」
「!!」

いぬみの剣幕が一層険しさを増す。その勢いに一菜もレオナも庇い立てしようと口を挟むことは躊躇われた。
それに、二人も頭の中では認めていたのだ。彼女がただの仮面ライダーではなく、何か背後関係があって動いて
いるのだと。そしてその背後にいるものは、自分たちの正体を調べ上げるほどの強大さがある。危険な存在だ。

「そういや、あんた兄がいたよね。そいつも何か関係あんの!?」
「ち、違うよ!お兄ちゃんは・・・何も関係・・・ない・・・・・・」
「・・・そう。」

言葉に詰まる棗を見て、いぬみにはこれ以上糾弾するつもりはなかった。あるいは必要を感じなくなったのかも
しれない。疲れを一気に溜めこんだ大きな息を一つ吐き、席を立ちあがった。

「あたし帰るわ。明日会う時までにはハッキリさせときたいわね。あんたが敵かどうかって。」

誰もいぬみを止めることができず、そのまま彼女は“ハカランダ”を後にしてしまう。空しくドアの閉じる音
だけが店内を支配する。しばしの静寂が棗を中心に渦巻いていたが、意外にも開口したのは始穂だった。

「私はお前が何者なのかなんて興味ない。ただ、これだけは忘れるな。」

始穂の声色は思わず息を飲んでしまうほど機械的で、冷たい印象しか抱けない。だが、何より棗の背筋を
震わせたのは彼女のその瞳だ。まるで猛獣が獲物を前に敵対心剥き出しで睨むかのようである。


「もしも一菜やレオナちゃんを傷つけるような真似をしたら、私は容赦なくお前をぶちのめす。」


宣戦布告とも取れそうな言葉を残し、始穂も棗たちから離れていく。

「棗ちゃん・・・」

レオナは正直、何と声をかけるべきかで悩んでいた。気にしないでと言いたい所だが、残念なことに自分も、
おそらく一菜も彼女のことを信じきれていない。それはいぬみが言い放ったことに全て集約している。棗の
正体は不明であり、その背後にあるものも謎だ。歩く監視カメラがそこにあるようなものだろうか。
まだ信頼を寄せることはできない。だけど、無碍に接して彼女を傷つけることもしたくない。どっちつかずな
ジレンマへと陥りそうだった。

「・・・そうだよね。いきなり一緒に戦ってなんて、無理な話だよね。」
「え・・・?」
「あーあ!私、何早とちりしちゃったんだろ。なんだかバカみたいだね。」

棗が今まで沈黙を貫いていたのは、いぬみと始穂の辛辣な言葉が堪えたからだと一菜は思っていた。しかし、
今の彼女は信じられないくらい呆気らかんとしている。

「おっと、もうこんな時間か。じゃあお兄ちゃんやお姉ちゃんも心配してるだろうから、そろそろ帰るね。」

二人が止める暇もなかった。棗は携帯で時間の確認を手短に済ませると、するりと玄関口まで移動してしまう。
慌てて一菜たちもそこへ至った時には、棗はもう扉を開けて体の半分ほどを外へと晒していた。

「あ、あの、棗ちゃん!よかったら途中まで・・・」
「大丈夫、大丈夫!こんなことでヘコむようじゃ“正義のヒロイン”は務まらないよ!」
「でも・・・」

棗は力瘤を作って見せ、なんでもないとアピールする。それは一菜たちには精一杯の虚勢にしか見えなかった。

「じゃあ、また明日学校で!ばいばーい!」
「あ・・・・・・」

棗は手を振りながら、颯爽と夜の闇の中を走り抜けていく。遠巻きに見ると青春の光景のような、どこまでも
真っすぐで輝かしく見える迷彩バンダナをした少女の姿に、だからこそ一菜とレオナは物悲しい心持になった。





走って走って、走り続けて、バンダナ少女は人通りの絶えた公園の抜け道で立ち尽くしていた。者は誰もいない
この公園で佇む少女は世界中から孤立させられ、ここに追いやられたように見える。

「・・・こんなことで・・・・・・“正義のヒロイン”は挫けたりしないもん・・・・・・」

明らかに自分に言い聞かせる為の言葉は、微妙に掠れ気味だった。そしてもしも、この人間と断絶されたような
空間に誰かがいたならば。

「・・・・・・“正義のヒロイン”に・・・苦難は付きもの・・・だも・・・ん・・・・・・」

震える唇を必死に噤み、溜まった涙を溢さぬよう堅く握った拳で目元を拭う、“正義のヒロイン”の顔を見られた
であろう。





PM.22:48 鉄道の整備所


夜半の路線内のある地点では、何本もの列車が整備・点検の為にその車体を休める場所がある。多くの車両が
次の運行に向けて万全の状態とすべく、しばしの間の休息を許される場所。緑の車体に上手く自分の体を隠す
“暗殺者”は、先ほどからある一点から視線を外そうとしなかった。

その先にいたのは、群青の泡を湧き立たせ続ける蝙蝠人間のようなものだった。頭部や背から生える逞しい翼
などは紛れもなく蝙蝠のものに違いないが、脚や胴体などといった部分は人間に近いものがある。“暗殺者”は
特徴からこの蝙蝠人間を瞬時に“タンタロス”と見抜き、その動向を一切見逃さぬよう見張り続けていた。

「さて・・・まずはあいつの目的くらいは見定めたいわね。」

“暗殺者”に氷の微笑が浮かぶ。宿敵とされる異能を目前にしながら油断の欠片も一切見せず、しかしその
笑みはどう苛め抜こうかと楽しげに考える、サディスティックさに満ち満ちていた。



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