「なんで俺まで行かなきゃなんないんだ……」
「もう、カシス君! ぶつぶつ言ったって仕方ないってば!」
志熊 京とカシス・S・時雨の二人はボード学園の校門前に来ていた。
9月1日、今日から二人ともこの学園の生徒である。
京は高等部2年A組。カシスは高等部3年B組だ。
「あのな、俺は大学卒業してこっち来たんだぞ。何でいまさら……」
「でも、やってることは自宅警備じゃない!」
簡単に言うと、ニートということだ。
実際はキールの手伝いをしているが、手伝いなので仕事とは見なされない。
「わかったよ。やるだけやってみるさ」
「とりあえず、職員室まで行こっ!」
京は意気揚々とそう言うが、カシスは知っていた。
―空元気だな、あれは。
本当は不安だらけなのだろう。この学園に行くことが決まってから、
京はアルバイトをすると宣言して、あっという間に喫茶店のバイトを決めてきた。
だが京は、ある事情からあまり他人とは接していなかった。
そんな人間が学校で友人を作り、アルバイトで良好な関係を作れるのか?
―はっきり言おう。かなり難しい。
「そうか……」
カシスは木場社長が自分を一緒に編入させたかの理由をつかんだ。
―ひとりじゃない。頼れる人がいるほうが良いって事か。
「なら、その思惑に乗ってやる。あいつが人間的に成長するかどうかを、見届けてやるさ」
カシスはそうつぶやくと、京の後を追いかけた。
それと同じ頃―
(人間か……)
豊桜 冥ことソフォクレスは高等部2-A前で、残りの編入生を待っていた。
(くだらない……この世界の頂点にいるというのに、こいつらは世界を汚すゴミ達……)
彼女の細い目は人を軽視し、くだらないとはき捨てる。そんな目だった。
(しかし、それはまぁ置いといても……どういうこと……?)
彼女の興味は自分の横にいる生徒……八代 みつるに注がれていた。
(こんな奴から……力を感じるとは……)
彼女には相手の力量を量れる、「眼」を持っていた。
と言っても、相手がどれ位の力量を持っているかだけの判断しかできないが。
(一応、マークしておくか…………ん……!?)
その時、ある一人の男と眼が合った。
同じクラスになる予定の生徒だろうか?
(……私の正体を見透かされている? ……いや、こいつも……?)
「ここ、高等部2-Aですか?」
「え?」
いきなり話しかけられて、冥はやや戸惑う。
普通の相手なら驚くこともなく反応できるが……。
(シグマか……。彼女が……「鍵」だとエウリュディケは言っていたけど……)
「ええ、そうみたいね」
「そうみたいねってことは、あなたも2-A?」
「ええ。豊桜 冥よ、よろしくね」
「志熊 京です。よろしくお願いします」
ちょっと恥ずかしそうに京は手を差し出した。
一応礼儀に沿って握手する冥。
(……こんな子が……エウリュディケの一番気にするライダーなの?)
――冥も京も、まだ知らなかった。
この出会いがお互いの運命を狂わせた事に。
最終更新:2009年04月28日 22:03