第1章第25話「友人のために/名無き者はただ傍観して……」

(サイショ)

PM 17:45 町郊外

息が苦しかった。
呼吸が途切れそうになる、現に意識が一度飛んだのだ。

幸いにも相棒であるギルファリアスと呼ばれる精霊が体を動かしてその場から退避で来たわけだが。

「……はぁ……はぁ」
『おい、それ以上は危険だぞ』

呆れながらギルファリアスは主である晃輝を止めようとするが……それで止まるわけがなく晃輝はポッケから携帯を取り出した。

かけた番号はまずは妹である命李だが……応答がないので次にかける相手を選ぶ。
そして暫くした後彼は列へと電話をかけた。

『……はい、もしもしっ!?』
「はぁ……列……か? 済まんが命李を知らないか? 命李にも華枝にも連絡がつかなくて……な」

『っ……そんな、まさか命李ちゃんまでっ!?』

ギリリっと歯ぎしりをする音が携帯から聞こえる。
その事態を普通ではないと判断した晃輝は列から事情を聴くことにした。

「……どういうことだ?」
『実は……』


話すと内容はこうなる。
帰ってると思った華枝がいなくて連絡がつかない。以上だ。

「……列、お前は馬鹿か? 帰っているかいないか普通下駄箱を確認するだろうが、少なくとも俺や妹はそうしてるぞ?」
『い、いや……神歌ちゃんが先に帰ったって言ってたからついてっきり……』

それを聞き晃輝は少し携帯を遠ざけた、できれば今から呟く愚痴は列に聞いてほしくなかったからだ。

「優しいは優しいが独占欲が強いのが玉に瑕ってところか……たく」

今更の事だが、出来れば改善してほしいと思う晃輝だった。

『え? なんかいったか?』
「いや、恐らく下駄箱を間違えたんだろう。ってそんな事よりも今は探すのが先決だ。
列お前は学園付近を、俺は森側を探してくる。もしかしたら命李がいた工場にいるかもしれないからな」

『わかった、それじゃ。また何か分かったら連絡をくれ!』

ソレだけを言うと列は電話を切る。
晃輝も携帯を閉じてポッケにしまい……空を見上げた。

「序曲にしちゃいくらなんでも過激すぎるだろ……おい」
『それもまた運命の悪戯……我らはただ流れに少し逆らい未来を変えていくことしかできない存在だ』

小さすぎるだろ、そう呟き晃輝は森側。誰も滅多に通らない森へと足を進めていく。



PM18:30 中央公園

今ここでは一人の少女がぐっすりとイス……ではなく巨大なバイクに乗りながら死んだように眠っていた。
突然の出来事、そして戦い。それはまだ幼い少女をこのような眠りに誘うには余りにも十分すぎた。

「すぅ……ん……華枝…ちゃん。私……が」

だがそれでも友人である華枝の事を彼女は忘れなかった。
それを見ながらネクシアスは優しく命李の頭を撫で申し訳なさそうにうつむく。

『寝ている……無理もないですね、本来ならあと二日は休ませるべきですが……それでも彼女の頼み、華枝さんを探さなければ……少なくともこの公園にはいたようですけど……』

そう言いながら今度は目をつむり精神を集中、そこに浮かびあがるのは……一つの工場……
だが次に浮かんだのは戦っている誰かだった、姿はボケて見えないが戦っている事は明白だった。

『戦っている……今の命李ちゃんではそんなのいくらなんでも酷過ぎる……』

もし今の状態で戦えばただでは済まない。だが教えれば彼女は無理をしてでも華枝の下に行くだろう。
そして自分も戦っている者を見殺しにはできない。だから彼女は、あることへと考えが至った。

『……もう少し休憩して命李ちゃんの体力を回復させる。時間はかかるけど……これが一番確実ね』

彼女には悪いけど、心苦しそうに呟きネクシアスは空を見上げる。
そして聞こえる声は世界に対する疑問、同時に自分では何もできないという悔しさを込めた思いがあった。

『……どうして、世界はいつも弱者に厳しいでしょう』

その呟きは……誰にも聞こえる事は無かった。



PM:18:46 工場団地 華枝達が見える工場の屋根

戦いを見届けている二つの影があった。
一人は炎のような赤い服を着た見るからに土方工事をしていそうな肌が焼けている中年の男性。
一人は黒いコートを纏いその右腕に剣のような鎖を身につけている紅い瞳の青年、さらにその右手で黒い槍を握っているのでどう見ても普通の人間とは言い難かった。

「おうおう、始まってるねぇ……どうするブレイダー。テメェの指図さえあるならこの『烈焔将』事『ファルグニア』があの嬢ちゃんを助けてやっても……」
「無用だ、あのライダーは己の意思で孤独に闘っている。それにあのライダーと共に戦うのは恐らく我々ではない。
それよりも貴様、その姿の時は『炎矢 驚(えんや きょう)』じゃなかったのか?」

黒いコートを羽織った青年は呆れながら驚と呼ばれた男性を睨む。
が、男性は何が楽しいのかただ爆笑するだけだった。

「まっ、そうだね。んじゃ俺らはこのまま見学? それとも……まったどこかに行ったお嬢でも探すのかい?」
「当然後者……と言いたいが私は残る。貴様だけで探しに行け」

「ちょ、そりゃねぇだろ…。 …はいはい、わかりましたよ行きますよ……たく」

声を上げ反論しようとしたが、その前に青年が槍を握っているほうとは違う手で腰につけている刀を鞘から抜こうとしている事に気づき、不満を垂らしながら驚は屋根から消えた。
それを見ても慌てることなく青年は戦っている少女を見続ける。

「闇に恐怖する故にもう一人の己が出る……自己防衛手段としてはまぁ良いほうか……」

そう呟き黒い槍を少女へと向ける。

「しかし……なぜあのような若いものばかりが巻き込まれるのか……これもまた運命か」

ふぅ、と息を吐き少女へと向けた黒い槍を突き刺し空を見上げる。
その顔は楽しそうで笑っていた。

「だが……我らネームレスにとってはそれもまたよし。人と人。いがみ合えばいがみ合うほど劇場は歪になる」


一息をついて屋根に座り再び少女の戦いを見る。


「それで……いつかは変わるはずだ」


どこか申し訳なさそうに呟いて……。




PM:18:50 工場団地へと続く道。

其処には二人の影がいた。
一人は鎖などを見つけている少女、一人は大人の魅力を出している女性。

「……」

そしてそんな二人の下に……先ほどまで青年と一緒にいた男性……驚が歩いてきた。

「おう、嬢ちゃん。そこにいたか、悪いが帰るぞ」

少女を見つけたからだろう、驚は手を差し伸べるが、少女はそれを取らないでただ首を横に振るだけだった。

「……」
「いやだそうですよ。烈焔将」

そう言うと女性……メッセンジャーは前に立つ。そこには華枝と話していた時の優しさは無く、ただ冷徹な瞳が驚へ向けられるだけだった。
だが驚もその程度で動く男ではない。逆に見る者を震え上がらせるような笑みを浮かべメッセンジャーへ指を向ける。

「ほぉ、この烈焔将へ歯向かうというのかメッセンジャー如きが」
「えぇ、シンガーの命令あれば……ね」

その瞬間風は止まった。少女は誰にも聞こえない声を…いや声ですらなくただ口を動かす。
それを見たメッセンジャーと呼ばれた女性は……人間ではありえないスピードで驚へ突撃する。

「……面白い。ならばその命、灰塵も残さず消えろ」

驚もまたその速さに驚かずにその姿を異型へと変える、まるで恐竜が人になった姿……本来の己『ファルグニア』へと。

『主思いもまた良いが、歯向かう相手を間違えたなぁっ!』
「何か勘違いをしていませんか? 私は別にあなたと戦うつもりはない……出番です『ベルフェゴール』」

焔を纏った爪をメッセンジャーへ叩きつけようとした瞬間、彼女がその名を呟くと彼女の影から長い手を持った化け物が飛び出てきた。
ネームレス・ベルフェゴール。彼女、メッセンジャーの主であるシンガーを守る剣の一つにして、闘うためのもう一人の彼女。

『……ほう……そういえば嬢ちゃんには剣がついていたな……そいつは『全てを砕く剣』か?』

面白そうに呟くファルグニアを他所に、ベルフェゴールは己の影からズタボロになってどう見ても斬ることなどできない大剣を抜く。

「ベルフェゴールの刃……重さだけは一流ですからね」

クスリと笑いメッセンジャーはベルフェゴールに命令を与える。六将に加減などできるわけがない。
・・・即ち。

「ベルフェゴール『叩き潰しなさい』」

次の瞬間生き物とも取れぬ声と共にベルフェゴールはファルグニアへ刃を振り下ろした。
最もその程度で倒れる彼ではなく、逆にベルフェゴールの大剣を肩爪で受け止め、ベルフェゴールの大剣は紅く燃え溶けようとしていた。

『甘いな……六将の一人である俺を、このような玩具でどうにかできるとでも……』
「思っていません、所詮時間つぶしですから。それに私の得意分野は補助……つまり」

メッセンジャーが全てを言おうとするその前に鎖が何処からともなく現れファルグニアを縛りつける、無論これもすぐに溶け始めるが……。
全てが溶けきる前にファルグニアそしてメッセンジャー達の足もとに丸い象形文字でできた丸い陣が浮かび上がった。
解読などできるわけがない陣だがRPGをやったものなら誰でもわかるだろう、これは魔法陣だと。

『まさか……テメェ最初からっ!?』
「はい、では適当にランダムでクスクス笑ってGOGOと行きましょう」
『まて、テメェの容姿でそれを言うと俺があぶねぇっ! カニバリズム的な意味で……っ!!』

逃げ出そうとするファルグニアだったが、間に合わずにどこかへと飛ばされた。

後に残るのはそれを呆然と見届けた少女だけ……。
だが少女はすぐに興味がなくなったのかまた再び前を……町へ向かうための道を見る……その顔は表情が無い為分からないが……。

どこか嬉しそうにも見えた。

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最終更新:2009年06月28日 06:20
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