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また出会う


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また出会う

 

 

「佑ちゃん、ほら、挨拶なさい。こちら、いつもお世話になっている鷹取さんのご子息の修司君よ。」

 

いつもよりいい着物を着ている母親。

“きっと楽しいから着いてらっしゃい”と母親が言うので素直に着いてきた。

 

ぽん、と背中を押されて前に出ると、目の前にいるのは男の子にしては少し長めの黒髪に仏頂面を引っさげた、自分と同じ年頃の子。

この年頃でこのくらい落ち着いていられるところを見ると、きっと育ちのいい子なのだろう、と佑介は思う。そして母親がこれだけの猫なで声だということは、“鷹取さん”とはきっと偉い人なのだ。

 

「よろしく、修司君。」

 

笑顔で手を差し出す。

 

「よ・・・よろしく。えっと・・・。」

「佐々木佑介だよ。」

「・・・佑介くん。」

 

修司は仏頂面は崩さないままで、手を差し出した。

 

わぁわぁうるさい学校のやつらとは違う。

静かな雰囲気。何もしていなくても、いるだけで漂うどこか高貴な雰囲気。

 

医者や社長の息子というだけでそうじゃないやつらに威張り散らすやつら。

そういうやつらとは違う子だ。

 

「すみませんね、うちの修司は内気な子でして・・・。

でも決して嫌がっとるわけじゃあないんですよ。なぁ修司。」

 

修司の後ろに立つスーツ姿の男の人が、修司の頭をぐりぐりなでる。

修司は深く、深く頷いた。・・・あくまで仏頂面だったけれども。

 

「修ちゃんは佑ちゃんと同い年なんですってよ。偶然ねぇ、佑ちゃん。」

 

母親は修司を“修ちゃん”と呼ぶことに決めたらしい。

 

「なぁ、佑介くん。

おじさんこれから君のお母さんとちょっとお話しないといけないことがあってね、それまで修司と一緒に遊んでおいてくれるかな?」

 

どうやら修司の父親らしき人物は、ぐっと長身をかがめて佑介に目線を合わせる。

 

「はい、よろこんで。」

 

にこり、と微笑む。

 

「あ、そうだ。ねぇ修司君、僕も母さんみたいに修ちゃんって呼んでもいいかな?」

「・・・うん。いいよ。」

「僕のことも佑ちゃんって呼んでいいよ!いつもそう呼ばれてるから。」

 

そんなやりとりが大人2人にはほほえましく思えたのだろう。

 

「いいですわね、子どもってすぐに仲良くなってしまうんですもの。」

「本当ですな。いや、なにぶんうちの子は無口なもので佑介くんが馴染んでくれるか心配だったのですがね。大丈夫そうで何よりです。」

「じゃあ、こちらはこちらでお話を進めましょうか。」

「ですね。・・・じゃあこちらへ。」

 

佑介の母親と修司の父親は連れ立って別の場所へ行ってしまった。

 

 

「・・・じゃ、行こうか。」

 

今度は佑介が修司を連れ出す。

 

「・・・どこに行くの?僕東京分からないんだ。」

「さぁ。行きたいトコとかないの?」

 

さっきまでのにこやかな表情とは一変、佑介は拍子抜けするくらい淡泊になっていた。

その変貌ぶりに修司は少し目を丸くする。

 

「東京初めて?タワーとか行っとく?

・・・まぁ行っても展望台とお土産屋ぐらいしかないけど。」

「・・・動物園とか行きたい。」

「じゃあ上野行く?」

 

佑介は淡泊になっただけでなく妙にテキパキしていた。

修司は思った。“本当に同じ6歳なのかな?”と。

 

 

 

2人はそのまま上野へ行き、修司のリクエスト通り動物園へ。

お互いあまり言葉も交わさないまま、淡々と動物を眺めていく。

 

「・・・ねぇ、あんまり楽しくない?」

 

修司は表情こそ無表情だが、心から気遣うような声で佑介に尋ねた。

その言葉に、佑介は子どもらしからぬ感傷じみた表情をした。

 

「・・・君は正直楽しくないだろう。ぼくがこんなだから。」

「・・・いや。楽しい。初めて来たんだ・・・動物園。」

「そう。」

 

佑介はそう言うと目の前にあるライオンの檻へと歩き出す。

 

「ぼく知ってるんだ。これって大人で言う“せったい”ってやつなんだよな。

お互い大変だよな。親の商売に付き合わなきゃならないなんて。」

「せったい・・・」

「君、色々分りそうだから言うけど。別にいいんだよ?ぼくなんかに付き合わなくても。

うちの方が多分立場上下なんだから。」

 

修司は黙り込む。

佑介は眠ってばかりでちっとも動こうとしない百獣の王を眺めた。

 

「・・・・僕は、楽しかった。嘘じゃないよ。

家にずっといるよりもきっとずっとずっと楽しかったよ。動物もたくさん見れたし。

それに、佑ちゃんと会えてよかったよ。」

 

この修司という子はなんなのだろう。

静かかと思えばそうじゃない。

育ちがよさそうで、でも変に偉ぶったところがなくて。こういうやつは大抵、外は大人しくても中では周りを小馬鹿にしているやつらばかりだと思ってた。――――自分のように。

けれどこの子からはそんなものが感じられない。・・・初めての人種だ。

 

「・・・遊園地行こう。」

 

佑介は小さな声で言った。

・・・なぜだか、涙がこみ上げてきた。だめだ、泣いたら赤ん坊みたいでかっこ悪い。

 

「うん、行こう。」

 

修司は少し、本当にほんの少しだけ、仏頂面に笑顔を覗かせた。

 

 

―――・・・今までは会うやつ会うやつ見下してたんだ。

大人って分かってない。

周りはガキばっかりだ。

 

・・・でも違う。

この子はぼくよりずっと大人だ。こういうやつもいるんだ。

そう思うとなんだか心に光が射したような気がした。

 

 

数日後。

いつ撮られていたのか、写真が届いた。

少し得意げに写る自分が恥ずかしく思えた。

 

どういうわけか、その後はもう彼に会うことはなかったけれど。

 

 

***

 

11年後。11月。

 

横浜の、とある高校。

 

 

「なぁ、鷹取。お前会長に立候補しないか?」

 

白々しいほどの笑顔で、話しかけるその相手は同じクラスの鷹取修司。

佑介は既に副会長に立候補していた。

――――そして決めていた。会長はこいつだ、と。

 

落ち着き払っていて静かなのに、ただいるだけで漂う高貴な雰囲気。

こいつには素質がある。俺とは違う、地で人を引き付ける力があるやつ・・・―――――

 

 

 

 

The End

 

 

 

 

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