EPISODE6「誤解」

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 二人は上谷空に彼女の家までの道を聞いていた。  すでに電灯が輝いている。いくつかの民家からは笑い声も聞こえてきた。空に雲はなく、月とともに星が地上を照らしている。 「えっとね、こっちを右に曲がって・・・で、ここを真っ直ぐ」 「そうか」  やがて一軒の民家が見えた。緒川空が「ここか?」と聞くと、道を教えていた少女は首を縦に振った。  少女が「ただいま」と言いながら扉を開けると、中から男と女が一人ずつ顔を見せた。  二人とも「お帰り」と言った直後に、彼女の後ろにいる人影を認めた。  そこまでは同じだったがその後の反応が違った。 「・・・貴様・・・今朝あんなボケをかましておきながら・・・まさかもう手を出してくれたとはな」  凄い形相で緒川空をにらんでいるのが帰宅した少女の兄、雄介。 「んっと・・・こっちかしらね、同じ名前で隣の席の子ってのは。んー、確かに中々いい男じゃない」  などと顔について感想を述べたのはその恋人の光。  その2人のリアクションが終わったころに、今度は上谷空の両親が顔を見せた。 「おうおう、空。気が早いな。なんつー速さで彼氏連れてくるんだ。っつうかどっちだ?」  細身で無精ひげが似合う男性がとぼけた風にいう。どことなくイタリア人のような格好よさを持っていた。 「おやおや、まさか昨日今日で彼氏作っちゃうなんて。それでそれで、どっちかしら?」  まだ30代―見方によっては20代にも見える細身の女性も同じように聞いた。 「だから違うって。緒川君のお姉さんのお見舞いに行ったら遅くなっちゃったから、襲われないように送ってもらったんだって」 「待て待て、なぜ見舞いにいくことになったんだ」 「緒川君のお姉さんがシャトーのシュークリームすきだって聞いたから」  それでも心配なのか、「遠ざけなければ、遠ざけなければ」とうわごとのように呟いている雄介を見て、光はそばから、「まあまあ、そんな急に襲いそうじゃないでしょ?  大丈夫、大丈夫」とうち笑っていた。  ちなみに彼女の両親はというと、「あっちが彼氏か」「そのようね」「あれなら嫁にやっても大丈夫だな」などと飛躍した会話をしている。  緒川空は、星空を眺め、その友人は「俺はアウト・オブ・眼中かよ」とふてくされていた。  両親の飛躍した会話を聞いた娘は、最早呆れきっている。  うわごとを終えた雄介は、(脳内で勝手にそうなった)妹の彼氏のほうを向いて、「ゼン パ ボド ゾ ギデリソ・・・ゴセ グ ボソギデジャス!」と叫んだ。  言われた側は、当然理解できない。頭に疑問符を浮かべつつ、「なんの言葉だ?」と聞いた。  隣にいた友人もポカンとしている。それを無視して、雄介の妹は同じ言葉で話し始めた。  読者の皆さんは前回と同じように字幕付です。 「ギビバシバンデ ボド ゾ ギデデギス!」 (いきなりなんてこと言い出すのよ!) 「ザラセ!ボセ ロ ゴラゲ ン ガンゼン ン ダレザ!」 (黙ってろ!これもお前の安全のためだ!)  そこに、光も入ってきた。両親は、会話の内容は理解しているようだが、口を出さずに見守っている。 「ラダダブ、ゴボ ギグボン ゾ ゾグビバギソ!」   (全く、そのシスコンっぷりをどうにかしなさい!) 「ギバギ、リスバサ ビ グゲダ ゲロボ ン ジョグゼザバギガ!」 (しかし、見るからに飢えた獣のようじゃないか!) 「ゴセ グ ゴラゲ ン シュバン グ ゴゴギ ビ ザギデデギス!」 (それはお兄ちゃんの主観が入りまくりじゃない!)  ここでさすがに、外野となっていた二人は、同時に聞いた。 「とりあえず、分かるようにしてくれ」  慌てて会話していたほうの空が、呟くように「分からなくていいよ」と言った。  が、空気の読めない兄貴である。「フン、教えてやろう。俺は貴様が飢えた獣のようだといったのだ!」などと胸を張って言い放った。 「失敬な。飢えた獣だなどと。食事はきちんと3食とっているぞ。人肉を喰らったりするほど飢えてはいない」  答えるほうもどこかずれていた。涼治はじめ、聞き手は心の中で「いや、論点そこじゃないだろ」と突っ込んでいたが、届くはずもない。 「その手のボケには騙されんぞ・・・俺の可愛い妹に手を出しやがって!お前なんて俺のチェイサーで帰宅中に後ろから轢いてやる!」 「待て、そこのバイクで轢かれるようなことをした覚えはない。それに、手を出してなんぞいないぞ」  会話が見事にかみ合っていない。そのことを指摘しようかしまいか思考している間に、雄介も段々狂ってきた。 「ええもう!そんな詭弁はいいんだよ!お前が妹に惚れて!そして妹に告白して!妹も告白を受け入れ―」  バシッ!  雄介は妹に孫の手で頭を叩かれていた。 「・・・ッ!なんだ、痛いぞ!空、今重要な―」  ベシッ!  なみだ目になって頭をさすっている兄に、「告白なんかされてないし、手も出されてないよ!全く、どこまで勝手に頭の中で話進めているの!いい?それに昔から―」 「あー、はいはい。空ちゃん。その先は長くなるからねー。おしまいー」  とりあえずどうすればいいか、と悩んでいる空と涼治の前で、雄介は妹に「それが本当だとすると・・・俺の勘違いか?」と訊ねた。  今更何を、である。案の定、「最初からそういってたじゃない」といわれ、恋人には「この馬鹿」と小突かれ、両親からは「お前らしいなあ」と笑われていた。  全く、いい笑いものである。  その状況を打開するため、雄介は「大体、オヤジとお袋だって、こいつのこと―」と言おうとしたが、その両親に笑顔で「何?」と圧力をかけられ沈黙した。  ようやく事態が一段落したのを見て、上谷家の大人二人は自己紹介した。 「おっと坊主、まだ名乗ってなかったな。俺が上谷薫で、こいつが女房の」 「上谷由希よ。よろしくね」  握手を求められたので、断る理由もなく握手した後に、空と涼治も自己紹介した。  最も、空のほうはほとんど自己紹介する必要がなかったが。  二人の少年を見て、上谷空の両親は満足げに、「いや、頼もしい男の子だわ」「おう、緒川君や成川君なら空が後で彼氏にしてここにつれてきてもあれこれ悩まずに済むな」と、気の早いことをいっていた。  涼治は「いやー、そうなると嬉しいっす」などと笑い、空は無言のまま心の中で「今日、これでこんなこといわれたのは何度目だ?」と考え込んでいた。  ちなみに、当の娘―空はそこまで悪い選択とも考えていないのか、「それはそれでいいかもねー」などと冗談めいて言った。  それを耳に挟んで、再び敵意をむき出しにした人物がいた。いわずもがな、雄介だ。  が、今度は何か言う前に、光にしばき倒されていた。  頭をさすっていたところをもう一度叩かれる。彼が薄れる意識の中で今日最後に聞いた言葉は、「しばらく寝てなさい」だった。  光は二人のほうへ向き直ると、何事もなかったかのようにして「さて、雄介が迷惑かけたのは私から謝るわ。ま、悪いやつじゃないから、そこのところはよろしくね」と、  言った。  流石に空も、いつまでも腹を立てているほど幼稚ではない(先ほど光が雄介をしばき倒した光景も頭に残っていた)ので、「分かった」と軽く頷いた。 「んじゃあ、坊主ども。今日はもう遅いからな。もう帰るといい。護衛ご苦労様」  薫はそういって二人を家路に向かわせた。

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