プロローグ 指名された少年


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

指名された少年


 ありふれたパイプ椅子に腰掛けながら、このだだっぴろい体育館(もう大ホールといっていいかもしれない)で入学式の開会の時間を今か今かとまっている。


 周りも当然緊張しているだろうが、俺は仲のよかった友人と入学したわけではないので話相手もおらず、その点でも緊張している。

 ちなみに、このホール、新入生だけでざっと1500人いる。
 全校生徒と教員含めると6500人にもなる大人数だ。コンサート会場に出来る。

 では、これだけどでかい体育館を所有しているのはどんな学校か。

 実は大財閥の経営する私立の高校なのだ。(ちなみになぜかエスカレーターで大学が存在するが中等部がない。)

 いまや日本最大、そして世界でも5本の指にはいるといわれる風雲財閥。総資産は不明といわれ、日本経済の切り札とも囁かれている。

 財閥のトップは相当若いらしく、20代前半だか10代らしい。さすがに10代はないだろうから多分23くらいなのだろう。
 親の七光りのボンボンではなく、相当優秀らしく、彼が経営に参加するようになってから業績が急成長を遂げたといわれる。

 この学園を創設したのも、現会長だ。
 なんでも、自分のところで学校を持って優秀な人材を育てれば財閥にとって大きな強みになるからだそうだ。

 そのため、財閥傘下の企業への就職で優遇され(食品関係からアニメ関係まで本当になんでもある)、学費もタダなのである。
 ちなみに寮も用意してあり、こちらもタダである。家が貧乏なら奨学金まで出る。
 この社会への還元っぷり、政治家やら公務員にも見習ってもらいたい。

 一応、好意での寄付は受け取っているらしい。
 が、運営費の大部分は財閥経営の収益だとのことだから頭が下がる思いだ。

 入学試験の特徴は、全員に面接がある部分だが、なんでも面接7割の筆記3割だそうだ。
 そんなわけで俺でもどうにか入れた。

 なんでも会長も面接を担当しているとかで、判断基準が面白そうかどうか、らしい。
 俺は幸運だったわけだ。

 俺は募集定員1500に対し志願者約4500という関門を乗り越え見事合格し、入学式開会を待っているのである。

 カチ、カチ、と時計の針が段々開始時刻に迫ってくる。

 かつ、かつ、と靴音が静まり返ったホールに響く。

 男がマイクのスイッチを入れる。

 これより入学式を始めます―というありふれた言葉。所謂『儀式』の始まりだ。

 続きまして、校長祝辞です、との言葉が耳に入る。

「えー、本日はお日柄もよく―」

 ボンヤリと、校長の話って大抵長いよなー、などと考えていた。始めは。

―面倒な話はやめろ!

 そうだそうだ、と心の中で相槌を打ち、次の瞬間疑問を覚える。

 校長を止めるなんて誰が?

 どうやら皆同じらしい。周りの新入生も目をパチクリさせて呆然としている。

 壇上を見上げると美青年といって差し支えのない容姿の男が、校長からマイクをぶんどっていた。

 新入生が唖然とする中、マイクを奪った青年は、

「諸君!入学を祝福しよう!言うことは一つ、やりたいことを頑張れ!以上だ!」

 一部の女子が恍惚となっているほかはあっけにとられている。

 それもそのはず、白面赤眼(アルビノというやつだろうか)の美青年が傲岸不遜にしか見えない態度で壇上にいるのである。
 その彼が場内の空気を無視して席に戻ろうとした時、唐突にホールの扉が開いた。

 と、見る間に壇上に登り、白面の青年につめよって怒鳴り始める。

「僕の入学をなぜ認めてくれなかったんだ!こんなに優秀な僕を!」

 ―なんだ、ただの僻みやか、そう思った。

「全国模試で毎回1位だったんだぞ!」

 驚いた。3教科300点ってコイツだったのか。あんなもので満点取れるとか、俺からすれば狂人だ。

「フン、その眼が気に喰わんな。教科書どおりのことしか分からない目だ。勉強しすぎて馬鹿になった男の目だな。貴様はおとなしく東京大学にでも行くがいい」
「―な、なにを!折角僕が試験うけてやったのに・・・後悔するぞ!」
「それだから貴様を採用しなかったのだ。―貴様は確か、俺が面接の担当だったうちの一人だな。通りで死んだ魚みたいな目をしている。生きた人間の眼ではない」

 なにやら目の前で凄いことになってる。まぁ、テストはともかく、人間性が最悪なのは分かった。
 それでもそんな人間なら入学しているはずなんだが。普通は。

 さすがに基準が面白そうかそうでないか、ではどうしようもないだろう。

 ―待て、面接受けた本人はともかく、試験官だったあの男が覚えていられるのか、凄い記憶力だ。

 ―それに試験官?大人びて見えるには見えるけど、歳は実際にはそう違わないであろう、あの人が試験官?ってことは、あれが財閥会長なんだろうか。

 こちらの疑問などいざしらず、二人はまだ言い争っている。

「フン、全国模試毎回1位など、俺でも達成できたわ!俺はそのほかに財閥経営にたずさわりつつ、中学の総体でサッカーでレギュラー出場して、優勝してきたぞ!」
「なっ・・・」

 上級生はなれているのか何も驚いていないが、新入生はさすがに冗談だろう、という感じで見ている。

「更に言えばだ、芥川賞新人賞も受賞し、税論文でも金賞を取った。それだけではない!カードゲームの世界大会でも優勝したわ!」
「カードゲームがなんだ!」
「そのくらいマルチな才能が俺にはあるということだ!そして、貴様は教科書覚える以外は5流だ!」

 最早人間なんだろうか、あの財閥会長。

 ―おい、そこの新入生!

 あたりの視線が俺に集中する。俺のことか?
 気がつけば壇上から会長が俺のことを指差している。

「俺を人間かどうか疑ったな!」

 どうやら口に出ていたらしい。入学取り消しとかいやだぞ。

「面白い!貴様はこれより生徒会のメンバーだ!」

 どういう基準でそうなる。というかこの高校の生徒なのか?だとすると。

「言わずとも分かる。俺がなぜそのようなことを言うかだな?」

 心を見透かせるのか。この男。

「俺が生徒会長兼理事長だからだ!」

 あぁ、そうか、3年生やりながら財閥経営してるのか。凄いな。

「俺は2年だ!」

 待て、心の言葉に突っ込みを入れるな。

「貴様はこれより生徒会メンバーの席に座ることになる。名を名乗れ!」

 もはやどうあがこうと無駄だと悟った。ついでにいつのまにかあのエリート君は忘れられてる。どうでもいいけど。

「鵜飼護です」

 万雷の拍手とともに用意された席に移動する。正直恥ずかしい。

 視線が痛い。とりあえず俯いておくしかない。

 かくして俺の高校生活は始まった。

 誰か代わってくれ。